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[GC 2008#05]業界26年の大ベテラン,デイビッド・ペリー氏が語る「ゲームの未来」
最近では,Atariで制作した「ENTER THE MATRIX」(2003)や「Matrix: Path of Neo」(2005)が,ミリオンヒットを記録したにも関わらず巨額のライセンス料や開発費による負担に太刀打ちできず,ペリー氏が責任を取る形で去っている。しかし,独り身になってゲームコンサルタントとして活躍する傍ら,韓国のGameHiが制作した「DEKARON」を,Acclaim Gamesで北米向けにチューニングして無料MMORPGを浸透させるために投入するなど,その活動範囲はさらに広がっている様子だ。今年になって,母国であるイギリスのクイーンズ大学から,その功績を認められて名誉教授の資格を与えられてもいる。
ペリー氏が,業界20年の進化を説明するレクチャーの中で利用した「ファイナルファンタジーXIII」とオリジナル作品の比較 |
Acclaim Gamesでペリー氏が手掛けているのが,韓国産の無料MMORPG「DEKARON」を北米向けに調整した「2 Moon」だ。すでに700万人規模のアカウントを獲得しているという |
そんなペリー氏が,GCDCの基調講演「Preparing for the Future」(未来に向けての準備)で話題にしたのが,ニューヨークタイムズ誌のインタビューで,「ゲームのグラフィックスは,果たして映画『シュレック』のようなリアリティを持つことができますか」というような質問を受けたことだ。彼は,それを一笑する形で「『ファイナルファンタジーXIII』はシュレックよりも人間的な表現に果敢に挑戦しており,ゲーム業界が永遠に映画のグラフィックス技術に追いつけないかのような先入観は愚かだ」と話す。そのうえで,「今年で21年目になるファイナルファンタジーが,最初のドット絵からどれほどの進歩を見せてきたか。次の20年なんて誰にも想像することはできないだろう」と語った。
技術的には,中国や韓国のゲーム開発者は荒削りなところも多いが,その分さまざまなゲームデザインに挑戦し,無料MMORPGのような新たな市場を開拓する意欲があると評価する。「宮本茂さんや小島秀夫さんのような,名前だけでファンを魅了できる“独創的なクリエイター”は,中国や韓国から出てくることは未来永劫ないだろう」と言いつつも,新たなゲーム市場の開拓に燃える彼らの野心は,今後既存のマーケットにも大きな影響を与えていくだろうというのがペリー氏の予想だ。
実際,Electronic Artsは,数年前から「FIFA Online」をアジア向けに投入しており,その可能性を探ってきたのだから,西洋のゲーム企業も関心を寄せているのは事実であろう。ペリー氏も,Electronic Artsが発売を予定している「Battlefield Heroes」には期待しているらしく,「アメリカやヨーロッパにおける無料ゲームの波が,本格的に訪れることになるかもしれない。もし,誰かがHaloやStarCraft級のゲームの無料公開に踏み切った場合,既存の商売で太刀打ちできるだろうか。大きなパラダイムシフトが起きるに違いない」と語った。
ペリー氏自身も,6万人の参加者が一つのゲームを作っていくという「Project Top Secret」というプロジェクトを進めているのは,以前「こちら」で紹介したとおりである。最近になって,これまで献身的にプロジェクトに関わってきたイギリスの若者をリードデザイナーに抜擢している。「プロであれ,アマチュアであれ,今後のゲーム産業を引っ張っていくのはパッション(情熱)だ。私はこの年で恐竜のような古株になってしまったが,会場の皆さんも未来を見据えて突き進んでいってほしい」と,今回の基調講演を大きな拍手を浴びながら締めくくった。
「Project Top Secret」は,ゲームを作りたいと熱望した人が,それぞれの得意分野を発揮して一つのゲームを作り上げていこうという野心的なプロジェクトである |
ペリー氏は,業界で働く人々のために数々の個人プロジェクトを動かしているが,この業界マップも,彼が制作して無料公開しているものの一つ。1万を超える世界の企業やフリーランサーの場所が網羅されている。マップはGCDC会場のライプツィヒ近辺 |
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