業界動向
【切込隊長】ゲーム業界,使えない人サバイバル(後編)
切込隊長 / アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家
切込隊長:茹で蛙たちの最後の晩餐 |
またまたこんにちは。切込隊長こと山本一郎でございます。
前回に引き続き,「ゲーム業界,使えない人サバイバル」というテーマで本稿もお送りしたいと考えております。4Gamer読者の皆様,宜しくお願いします。
さて,本文に入る前に軽く触れておきますと,実は今回の一連の記事は,「ええ? これ,載せるんですか?」とかいう担当編集との長いやり取りを経て,ようやく掲載へ……という運びとなっております。まぁ実際,この手の話題がなかなかに難しい問題なのは確かでありまして,4Gamerさん側もなにやらセンシティブになっているようです。
まぁとはいえ,いいんじゃないですか大切なことだし目を背けてるわけにもいかないし業界のためでもありますよたぶん――というわけで,以下,本文へと続くのであります。
【切込隊長】ゲーム業界,使えない人サバイバル(前編)
大手メーカーから出てきた開発者は使えないという現実
もちろん,人によって使える使えないは異なるのですが,転職してから数年居残れている,使える人材は例外のようなので,敢えて「大手メーカーOBはあまり使えない」という過激な前提で語ります。ご容赦ください。
昨今のゲーム業界では何千万ドルも使って開発をするプロジェクト自体,数が減りました。年間で走ってるタイトル数で単純に考えても,以前の半分ぐらいあればいいんじゃないでしょうか。映像系も,映画会社などとフルセットで制作する機会が増え,昔のように大CG部隊が賃料の高いオフィスに居すわって,ずっとムービーを作ってるとかいうアホな制作方法は採らない(はずな)ので,この手のマネージメントに従事していたディレクターは「映像制作会社にでも逝けよ」という話になります。まあ,給料は半分になるけど。
4年ほど前,某日本のゲーム会社が西海岸でスタジオを作ろうとした際,オープニングの採用で相場の倍ぐらいの値段でディレクターを採用しようとしたため,相場が荒れて大変なことになっていたりしました。正直,空気を読んでほしいと思います。
映像に限らず,プログラマーも企画も,日本人を雇用するとコストはえらい高いため,日本国内にプロデューサーだけ置いて,残りは全部外注で済ませようという話も出るわけですが,今度は外注管理という社内制作とはまったく違うスキルが必要となります。
下請け管理は大変ですよ。何しろ,進捗中の制作物を,マイルストーンで納品されて確認してから品質が悪いことがようやく分かった,ということがザラですからね。毎週プロジェクト会議で顔を合わせているのに,期日通りにモノが上がってこないことが分かって青くなった,それも,仕様が全部入ってなかった,という経験者は多いのではないでしょうか。週単位の進捗確認ではなく,文字通り一時間単位でチェンジドの内容を把握するぐらいの進め方でないと,国内でも海外でも開発外注は怖くて使えません。
さらに,日本国内開発も海外の開発会社も,似たようなゲームエンジンで同じような工数で作る場合に,制作単価の違いで利益に雲泥の差が出るというのが当たり前になってきました。今期,300万本以上のセールスを出したタイトルの下請けはルーマニアですし,同じく250万本ほど売ろうかというタイトルは,スウェーデンやインドで基礎的な開発をしています。
AIはインド,映像や基本的なプログラミングは東欧,ゲームデザインはドイツなど,各国の制作技法に強い弱いが明確に出ている昨今,日本国内にHQ(headquarters :本社/司令部)を置いて各国の開発会社の進捗状況を確認し,期日通りにプロジェクトを着地させるノウハウのあるパブリッシャーはなかなか見当たりません。中国や東南アジアに開発拠点を作りに行って,玉砕している日本メーカーもままある状況です。
制作は要だから,海外に拠点を出す以上子会社化して,全部自分とこの資本でやりたい……という気持ちは分かるんだけれども,その拠点を維持するために売れない企画も採用して,走ってるプロジェクト数を維持するという本末転倒な事態がしょっちゅう起きます。
いくつか軽量級タイトルを任せてみながら,開発体制の刷り合わせや先方と潤滑にプロジェクトを進めるノウハウを獲得する,というスタイルが一番望ましいのですが,どうしても日本の会社はやりたがらないんですよね。だから,安いからといっていきなり大きいタイトルを海外のスタジオに振って,思ったようなクオリティで制作物が上がってこず,検収で問題になる,だから国内開発でやろう,でも国内開発は高いからな,じゃあ海外で制作だ,の無限ループを毎月繰り返していることになります。プロジェクトが立ち上がってしまえば私どもは見ているだけになるからいいけど,この手の話はかなり初期のころから迷走が起きるのが通例なんですよね。
だいたい,英語もろくすっぽできない奴がプロデューサーやるから揉めるんだよ,これが。
ゼロ戦の作り方とアメリカ的作戦機のドクトリンの違い
日本のゲームが尊敬されるのは,独特の世界観とゲーム内のバランスが非常に取れていることにありまして,日本でなかなかウケないタイトルでも,しっかり作られていることが評価されて,海外で売れるという事例は最近増えてきました。
とはいえ,例えばマーベラスが出した「王様物語」などは,非常にしっかりできているということで,ベストゲームに選ばれてはいるけど,制作期間が長すぎたためにビジネス的に見ると厳しい状況だったり,なかなかうまくいかないなというのが正直なところでしょうか。
一般論としては,日本人の作り手は大手メーカーの組織の中で専門化され,指示の出され方も「お前はこれを作っておれ」というような上意下達の方法論が取られており,作業の標準化という点ではなかなか海外のスタジオに理解されない場合が多く残っております。
なにしろ,大手の作り方で専門化されてしまっているので,じゃあお前明日からiPhone向けで何か作ってみろよと言われると,やたら豪勢な企画案持ってきて,どう考えても10万ドル以上制作費がかかります本当にありがとうございました,というような話ばかりになります。ちゃちいのでいいから,2万ドルぐらいのコストで毎月コンスタントに面白いものを作るという技法は,日本の会社ではなかなか育たない部分でもあります。
最たるものは,オンラインゲームに大手メーカーがシフトしたとき,うまくいくケースといかないケースが結構はっきりしている例でしょうか。大手メーカーでもメガドライブやPCエンジンなど,それほど開発期間の長くない制作方法を叩き込まれている古強者や,ケータイ向けの事業部で移植だけでなく外注も使いながらケータイ向けの独自コンテンツを担当していた人々とか,この辺が活躍してますね,オンゲ業界では。
オンゲは仕様の着脱が自在のように見えるため,あれもこれもとコンテンツに内容を押し込む傾向になるのですが,メーカーは「その仕様を入れることで,どのくらいプレイ時間が伸ばせるか?」と「プレイ時間あたり,ユーザーの何%ぐらいが課金してくれるか?」という判断が必要になります。いうなれば,コース定食が従来の制作技法で,オンゲはバイキング(ブッフェ)スタイルということになります。そして日本の会社のほとんどは,バイキングを作ったことがないわけで,この違いは厳しい。
遅れ馳せながら,オンラインゲーム会社を新規で立ち上げるとか,いま伸びているブラウザゲームにタイトル数を大量投下するとか,ようやっと身動きが取れ始めたかなというところもあるのですが,制作単価は低く,必要とされる人材は少なく収まります。
結果として,大手ゲームメーカーがその存在を維持するために必要な大規模な売り上げという観点からはまったく遠く,必然的にどこの会社でも制作サイドに大量の余剰人員を抱え,今後もそれらの余剰人員を有効に使えるだけの市場の急拡大は見込めないわけですから,リストラを進めていこうというのが流れになります。で,リストラされる人に限って大規模コンテンツに従事していて,次も大規模コンテンツを作りたがるんですけど,こっちからしますと「そんなプロジェクトなどないわ!!」ということで……。
そうした方々は,プロジェクトの新規立ち上げの経験も乏しいということで,新しいゲーム会社やソフトハウスを設立されるということもあまり耳にせず,国内では他業界からゲーム業界へ参入するという話も聴かない状況でありまして,さてこれはどうしたものかなと思うわけでありますが,本年もよろしくお願い申し上げます。
■■切込隊長■■ 言わずと知れたアルファブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。年末は相当忙しかったという切込隊長だが,久しぶりに最近遊んだゲームを聞いてみたところ,「Shattered Galaxy」に復帰してみたり,オンラインで「モノポリー」を遊んでいるのだとか。……流行りもののゲームをもっと遊びましょうよ。 |
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