連載
【山本一郎】コンシューマゲーム開発部隊がスマホアプリやソーシャルに何故適応できないか(メモ)
山本一郎 / アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家
山本一郎:茹で蛙たちの最後の晩餐 |
4Gamer読者の皆さま,ご無沙汰しております。何となくゲームレビューに向いた作品を最近プレイしておらず,かといって直近の業界事情をまとめようにもあまりにも流動的であって,理由をつべこべ述べておりますが,まぁ原稿を書くのが面倒くさかったんだよ。
かれこれ一年半ぐらいのご無沙汰になっておりますが,一時期はゲーマーがこぞって「もしもし」などと馬鹿にし続けてきたソーシャルゲームが,ついに大ブレイク。世界市場を狙って,噂のベンチャーも名の轟く大企業も,こぞって競争の真っ直中に躍り出る様相になってまいりまして,この成長市場に参入しない奴はクズだぐらいの勢いになってきました。
あんだけ華々しく夢だ独立だと騒いでいた経営者も,業界のルール変更を突きつけられて右往左往しているというのが現実なわけですねえ。そういうなかで,お前はクビだと肩を叩かれるゲーム業界人が一昨年ぐらいから急増してきたのは本連載でも書いてきましたが,どうやら本格的に,私たちの知るゲーム業界は急速にその装いを変え,従来の慣れ親しんだ据え置き型をワンオブゼムの下のほうへ,ゲーム専用携帯機は無用の長物へ。よりオープンで,すぐに楽しめ親しめる作品へと豪快にシフトし続けております。
しかし市場環境に振り回される作り手はとても大変。そういう連中を統制する私も大変。ということで,連載復活一発目は,ゲーム業界涙目の制作者あるある話でお茶を濁したいと思います。よろしくお願いします。
ちなみに。記事を寄稿していない一年半の間に,次男は生まれるわ取引先に「で,切込隊長って結局なんなわけ?」ってマジ顔で聞かれるわ白髪が増えてどんどん老けるわ,もういい加減「切込隊長」とか名乗らなくていいだろということで,寄稿の際のライター名を本名の「山本一郎」に戻させて頂きましたが私って綺麗?
まあ,定番の話も多いんですけど,ソーシャル大バブル大会の波に乗り遅れるな! というのが一番大事なところであります。いやほんと。
その中でも,まずは作り手側の問題点から書き連ねてみたいと思います。「そんなの当たり前だ」とか言ってる,そこのお前。……はい,その通りです。でも,まずは当然のところから始め,一枚一枚努力を重ねていって,富士山を越える高みまで到達してやろうじゃありませんか。
1.そもそもケータイでゲームする習慣がない
彼ら,全然ケータイやスマホでゲームしないんです。興味ないんでしょうね。電車の中や,寝る前のちょっとした時間に遊ぶんです,といくら使用シーンを説明しても,ワンマッチ20分ぐらいを最小単位にしたゲームを企画してきます。つき返してもつき返しても直らない。しまいには,やり込み要素とか言い始める始末。
そういうことをすると,DeNAとかGREEとかのコンサルタントから「難しすぎます」っていうコメントを返されるわけですね。いや,本当に稼げるコンテンツに仕上げていくにはやり込み要素は大事なんでしょうが,それはKPIツール(※)を見ながらおカネを使ってくれそうなお客さんがいることを,指差し確認してからにしましょう。
※KPI(重要業績評価指標)を計測するツール。オンラインゲームの場合でいえば,どんなアイテムがどのくらい売れただとか,売上やプレイヤーの動向を指標とする
2.素材に懲りすぎる
ぶっちゃけ,絵素材とかに懲りすぎです。割に合わないとかじゃなくて,古い機種を使っているとか,そもそも性能的にそんなもの表示できない端末で遊んでいる客が多いってことを忘れるのが困り者で,何よりも「表示が遅い」のはライトユーザーが止めてしまう原因になります。地下鉄でちょっとした停車時間にロードが完了するぐらいのデータ量でないといけないんじゃないでしょうか。
ライフ制でもエナジー制でも構いませんので,4〜5分のプレイが終わったら,ゲームの側が「お前,ゲーム終わったよ」と教えてあげる仕組みがないとダメです。そこで「もっと続けて遊びたかったら課金してね」とやるのがいいわけで。はい。
3.リリースしたら仕事が終わったと感じてしまう
ソーシャルゲームに限らず,オンラインゲームはリリースした後が勝負なのですが,リリースするまでに完成したゲームとして提供しようという意識が強すぎて,いつまで経ってもモノが完成しません。
むしろ,オンラインゲーム界隈では,リリースしてから離脱率を計算したり,ARPUが高くなるような商品構成を考えたり,客の導線を最適化していくための修正や改善が行われるのが「常識」なので,文化が違うというレベルじゃないぐらいに仕事で齟齬をきたします。むしろ,リリースした状態からどこまでお客様を掴めるか,KPIツールとの睨めっこが続くわけです。
もちろん,お客様を統計として把握し,数字で見ているわけですが,その数字の一つひとつにお客様の顔があり,遊んでいる姿があることを忘れてはいけません。
4.開発費と広告宣伝費のバランスが悪い
コンシューマですと,例えば10億円かけてゲームを制作する場合は,だいたい1億強ぐらいが広告宣伝費の予算に充てられるケースが多かったんですが,ソーシャルゲームの開発は,外部委託に出さない場合でも3000万円弱の制作費,それと同額かそれに近い金額の広告宣伝費を,リリース時ではなくむしろリリースしてチューニングが終わったあたりにどかどか投下する,というモデルです。
なので,たいして仕上がっているわけでもないソーシャルを「ついに登場!」とか大々的に広告宣伝しても,まだその時点ではクソゲーなので,客が一気にきて一気にいなくなるという事例になるわけです。
ですから,チューニングする前に広告宣伝費をかけていいのはGREEとかDeNAみたいなプラットフォーマー,あとは大手だけです。スマホ向けゲームでは,無料ランキング圏外でもじわ売れ拡大で月商1000万円の壁を越えることはかなりあります。諦めちゃダメ,なのではなくて,やり方を考えましょう。
5.バックヤードの意識が薄い
これはブラウザゲームやオンラインゲームなどでも言えることですけど,バックヤードがゲームシステムそのものよりも大事です。KPIツール一つをとっても,最初の工数に入ってないとか論外なプロジェクトが突然降ってくることがあって,愕然としたりするわけで。なんといいますか,何を売るかハッキリしないうちから,コンテンツ企画を立てたり収支計画をこしらえてはいけません。
バックヤードが充実してないオンラインコンテンツは,POSシステムのないコンビニのようなもんです。そういう作品は個人の趣味でやって欲しい。ただ,本当にフェチで突き抜けた作品が,結構な利益を出してたりするのが馬鹿にならないんですが。
6.企画費を取ろうとする
3000万円とか5000万円のオーダーで,クリエーターが企画費やプロデューサーフィーを一割取ったら採算合わないに決まってるだろ。せめてロイヤリティかレベニューシェアにしろ。
7.いきなりでっかいサーバーを調達する
リアクション/レスポンスが速くないといけないという意味で,サーバーはとても大事ですけれども,客が来ること前提で高価なサーバーをいきなりどーんと仕立てる会社さんが多いです。そんなのお客さんが増えそうだという確信が持てて,広告宣伝費を投入するタイミングで調達すればそれでいいと思います。
当たり外れでいうと,ある程度は当てるためのゴールデンルールが仕上がってる業者でも,リリースの4割程度は採算分岐点に乗らない状態になるようですので,スモールスタートでいいんじゃない? とか思うわけです。
8.メジャーなバージョンアップ計画を立てていない
大規模アップデートやメジャーバージョンアップを考えない人達がとっても多いです。これもサービスが投下されたらそれで終わり,って感覚からくるんでしょうかね。むしろ,リリースして更新し続けて継続して遊んでもらえることが確認され,コミュニティが充実しない限り,オンラインゲームってなかなか利益率が上がってくれないと思うんですが。
対戦部分の盛り込みや,新しいクランシステムや集団戦のフィーチャーなど,初動のコンテンツ消化率や消化予定時間から逆算したメジャーバージョンアップ計画は,当初から企画に入れ込み用意しておいたほうがいいんじゃないかと。
9.コンテンツのモジュールなど共通化に関心がない
Unityに関する議論は盛り上がるものの,社内ツールや過去資産のプラットフォームに無関心な会社が多いです。なので,過去作品の派生でアプリを作ろうとして,過去に制作したデータを引っ張り出そうとすると,バージョン違いや変な拡張子のお陰で死ぬ苦しみを味わうことになります。せめて,自社製品やIPについては,専任者を置くなどしてデータは管理しておいたほうが生産効率は上がります。
……ああ,よく考えたら弊社はそういう案件ばっかりだった。誰か助けて。
10.稼ぐことに躊躇する
よくプラットフォーマーと制作側で揉めるのが,「ガチャ」など定番の回収モデルに対する拒否感が先にたって,理性的な判断ができなくなっているというケースです。無料でまず遊んでもらって,そこから6%なり9%なり課金してくれるユーザーに払ってもらうための仕組みがおざなりだと,絶対にそのプロジェクトは失敗に終わるわけですから,やっぱりそこは考えてもらわないと。
こんな課金の仕方が許されるのか? と躊躇する人,でもあなた,前職でオタク相手の商売で限定版一万円とかそういう商売してたじゃないですか。お客様が欲しいと思うものを考え,しっかりと有償で提供していきましょう。それがコンテンツを長生きさせ,活気あるコミュニティを維持する源泉になるのです。
で,最近はスマホ向けコンテンツの大バブル発生の陰で,「これは外れそうにない」と思われた大型版権(アニメやゲームなど)のソーシャル化を進めていたところ,壮大な爆死に見舞われる事例が増えてまいりました。
ざまあみろ……ではなく,ある意味,ソーシャルゲームは簡便な時間の投射であり,通常よりも速い消費サイクルの中にあることを念頭に置いて企画を立てなければいけません。よって大型版権の広大な世界観や美麗なキャラクターにグラフィックスは,「通勤途上の5分間」のゲームタイム(プレイスタイル)には向かないのは,プレイヤーの動態から考えれば自明のことだったりするわけで。
スマホならばガラケーよりも表現力が豊かだから,大型版権も好まれるはずだ,と仮説を立てた素晴らしいチャレンジャーな大手企業の若手経営者が突き進んで,地雷を踏んだ経緯を傍で見ていて思ったのですが,やはりユーザー評価からすると「効果で動画は要らない」とか「読み込みが遅い」とかいう書き込みがたくさん出てきます。もうね,2Dのシンプルな画像一枚がFlashか何かで動いてるだけでいいんですよ。
通勤電車でスマホを皆が使ってる状況中で,データが落ちてくると思いますか? で,少し待ってやることといえば,画面を一回か二回タップするだけですから,画像も軽く,テキストも短く,紙芝居というよりは幼児向けの絵本を作るような感じで,簡単に自分が勝ったか負けたか分かればそれでいい,という方向性を突き詰めればいいんです。
もちろん,海外に出ていこうと考えるのであれば,根底からゲームの企画を考え直さなければなりません。日本でとても流行した某コンテンツの場合,海外展開は初速もさっぱり,チューニングを繰り返しても生体反応がピクリともしませんでした。
日本の会社だけが苦戦しているのかといえばそういうわけでもなく,中国系の会社もタイトルあたりの売上の伸び悩みが見え始め,Zyngaに至っては,ほんと来年どうするんだろうと無関係の私でさえ心配してしまうようなありさまです。
ともあれ,気付いたらもう年の瀬ですが,年末あたりにはもう少し詳しくプロジェクトの状態とかを書けるようになるといいな,と淡い期待を抱きつつ,今回はこのへんで。
ってか,忙しいっつーの!
■■山本一郎■■ 言わずと知れたアルファブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。さて,前回のコラム掲載から数えてはや一年半。「いったいいつ寄稿して頂けるのか」と思いながら,涙に暮れる日々を送っておりましたが,ようやく……ようやく原稿を送って頂くことが叶いました。本当にありがとうございます。まぁ,「忙しい忙しい」と日々口にしている割には,くだらないメールには速攻で返事が返って来るだとか,気が付くとバカみたいに長い記事をBlogにアップしているとか,いまいちその生態は謎が多いとかなんて思ってないし,全然気にしていなかったんだからねっ! |
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