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「ファイナルファンタジーXI」の20年を振り返る。初めてMMORPGに触れる人達に“絆”の大切さを広く知らしめた,オンラインゲーム史に残る金字塔
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印刷2022/05/16 08:00

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「ファイナルファンタジーXI」の20年を振り返る。初めてMMORPGに触れる人達に“絆”の大切さを広く知らしめた,オンラインゲーム史に残る金字塔

画像集#001のサムネイル/「ファイナルファンタジーXI」の20年を振り返る。初めてMMORPGに触れる人達に“絆”の大切さを広く知らしめた,オンラインゲーム史に残る金字塔
 スクウェア・エニックスのMMORPG「ファイナルファンタジーXI」(以下,FFXI)は,本日(2022年5月16日),サービス開始から20周年を迎えた。

 FFXIは,家庭用ゲーム機向けとして初めて登場したMMORPGであり,当時の国内のゲームシーンに多大な影響を与えている。また,その後にMMORPGの競合作も多数登場するなか,20年もの長きにわたって人気を博してきたのだ。

 今回は,FFXIがMMORPGとしていかに画期的で,当時のプレイヤーにどういった衝撃を与えたのかを中心に,あらためてこの偉業を振り返ってみたい。筆者が公私共に深く関わったタイトルであるために主観が混じっていることは否定できないが,これを読んだ読者の皆さんが,FFXIについて今一度考えるきっかけにしてもらえれば幸いである。


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家庭用ゲーム機向けとして初めて登場したMMORPG


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 日本においてMMORPGは今でこそ当たり前だが,FFXIが登場する前は,一部の洋ゲー好きのゲーマーだけが集まっているジャンルだった。当時の一般家庭におけるインフラ環境は,モデムによるナローバンドが主流で,ADSLによるブロードバンドはまだ普及していない。しかもFFXIが最初に対応したプラットフォームのPlayStation 2は,初期状態ではインターネット接続すら行えず,遊ぶためにはFFXIのパッケージや月額料金のほか,別売のPlayStation BB Unit(1万2800円)も必要としていた。

 このような状況の中,FFXIは泣く子も黙るIPである「ファイナルファンタジー」の最新ナンバリング作として登場した。その高いネームバリューも相まって,MMORPGを知らない家庭用ゲーム機のプレイヤーが,「インターネット接続の仕方」が特集されている雑誌や書籍を片手に殺到したのだ。

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 今回,改めてFFXIを振り返ってみて特にすごいなと思ったのは,当時の開発者はプレイヤーがオンラインゲームに不慣れであることを知りながら,あえてゲーム内でもハードルを設けたことである。

 FFXIにおけるメインコンテンツは,基本的に6人によるパーティプレイ向けに設計されている。そのうえ経験値稼ぎのキャンプを行うときも,メンバー募集やキャンプポイントまでの移動を含めると,トータルで2〜4時間以上かかることもザラだ。それどころかサポートジョブの取得クエストや,首都エリアへの移動といった,ゲーム開始後のかなり早い段階から,何かにつけて協力プレイが求められていた。

 初期にFFXIをプレイしていた人のなかには,外部キーボードを持っておらずソフトウェアキーボードでチャットを行っている人も珍しくなかった(なにせPS2だ)。こういった人達に初めてのMMORPGを展開するのなら,せめてゲーム内のハードルは高くし過ぎないよう配慮するのが自然……であるように思う。

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仲間と共にハードルを超える面白さを追及


 しかしFFXIは安易な道を選ばなかった。なぜかというと,当時海外のPCオンラインゲームを席巻していた,MMORPG「EverQuest」(1999年3月発売。以下,EQ)が,仲間と共に高いハードルを乗り越えるプレイスタイルを重視しており,その可能性をスクウェア(当時)の主要クリエイターらが確信したからこそ,FFXIのプロジェクトが立ち上がったからである。ある程度のハードルの高さは,FFXIにおいて欠かせない要素だったのだ。

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 当時のスクウェアは飛ぶ鳥をも落とす勢いだったこともあり,単独でもRPGのビッグタイトルを開発できるチームを複数投入し,オンラインゲームのサービスに必要なネットワーク環境すらゼロから構築し,国内では前人未踏のMMORPGを作り上げてしまった。あの頃のスクウェアはFFXIの他にも,ゲームのみならず音楽,コミック,ニュースといった多方面のコンテンツをひとつのポータルに集める「プレイオンライン構想」を立ち上げたり,世界初となる3DCG映画を制作したりと,色々な意味で常軌を逸していたように思える。

※EQからの影響に関しては,田中弘道氏/石井浩一氏/松井聡彦氏をはじめ,多くの関係者が口を揃えて述べている。FFXIの20周年記念特設サイト「WE ARE VANA’DIEL」内のインタビュー記事でも言及されているので,もし興味を持ったら「こちら」の記事にも目を通してほしい。

3D MMORPGを世界中のコアゲーマーに広く知らしめた「EverQuest」
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 しかし個人的には,そうやってスクウェアが常軌を逸していたことに対し,非常にワクワクさせられていた。筆者は,FFXIを始める直前までEQの廃人プレイヤーで,Raidの合間にネットゲーム専門誌でEQの攻略記事を執筆していたような人間だったので,あの人生を踏み外しかねない面白さに,頭のてっぺんから足のつま先までドップリと浸かりきっていたのだ。
 また同時に,ああいったハードコアなゲームが日本で受け入れられるとは思えないし,仮にMMORPGのブームが来たとしても,そのときはEQよりもカジュアルなゲーム内容になるだろうと考えていた。それだけに,スクウェアが“あの”醍醐味を尊重していたのが嬉しかったし,FFXIにも当然のごとくハマった。それはもう,再び人生を踏み外す寸前まで。

 ……話を戻すと当時のFFXIは,不慣れな仲間と一緒に,ハードル高めの冒険に挑むMMORPGとして登場したわけだ。MMORPGが初めてのプレイヤーにとって,何から何まで手探りのゲームプレイだっただろうが,目的を達成したときの喜びは,これまでのシングルプレイRPGとは次元が違っていたことは言うまでもない。ほかのプレイヤーと否応なく接することで,きっと色々なことを考えさせられただろうし,それに伴う喜怒哀楽のエピソードのひとつひとつが,強烈な体験として心に刻み込まれていったのだ。

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独自かつ意欲的な試みが盛りだくさんの各種システム


 EQの発売後,このタイトルに影響を受けて作られたMMORPGが乱立し,ときには「EQクローン」と揶揄されるようなこともあった。そういったなかでもFFXIは,チームワークを重視するコンセプトこそEQを踏襲しつつも,独自かつ意欲的なシステムが盛りだくさんであった。

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 FFXIのバトルシステムは,オートアタックによる直接攻撃を主軸に,各種アビリティやウェポンスキルを任意で繰り出すというものである。当時のほかのMMORPGよりも緩慢だったが,このテンポ感だったからこそ,チームワークに意識を向けやすい余裕が生まれていたのも事実だ。複数人がウェポンスキルをつなげる連携や,それに続く形で精霊魔法を叩き込むマジックバーストといったシステムにより,MMORPGにおけるチームワークの面白さを見事に体現していたのだ。

 また,FFシリーズの伝統であるジョブチェンジシステムに,サポートジョブを組み合わせることで,プレイヤーキャラの膨大なカスタマイズ幅を実現していた。これはMMORPGのゲーム寿命という観点でも,助けられた部分が大きかったように思う。

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 バトルコンテンツにおける豊富なギミックや,難度と報酬のバランスは,ほかのMMORPGの追従を許さない域に達していた。新機軸のバトルコンテンツを実装することにも積極的で,しまいにはEQの専売特許ともいえたRaidコンテンツすら,デュナミスをはじめいくつも実装したのである。FFXIの画面解像度は512×512ピクセル(PlayStation 2版)で,ナローバンドもサポートしており,競合のMMORPGと比較すると大きな足枷があったはずなのに。

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綿密に造り込まれた仮想世界の“ヴァナ・ディール”


 FFXIのゲーム内世界“ヴァナ・ディール”の圧倒的な作り込みも特筆すべき点だろう。まず,プレイヤーキャラの視点でメインストーリーを辿るミッションは,FFシリーズらしいドラマチックなやりとりをMMORPG上で楽しむことができ,その後の多くのMMORPGが摸倣する一種の発明とさえいえるものだ。

 また,ミッション以外にも膨大なクエストが用意されており,これらをこなすことで報酬を得られるだけでなく,世界設定やNPC同士のつながりが少しづつ明らかになっていく。たとえゲームの進行上,必須のクエストではなかったとしても,造り込まれた世界への理解を深めること自体が,多くの人にとってのモチベーションとなっていた。

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 MMORPGにおいてプレイヤーの多様性は大切な要素だが,プレイヤーキャラの出身国が3か国に分かれていたFFXIでは,その部分も自然にうまく機能していた。それぞれの国で異なる文化圏が形成されており,普通にクエストや冒険を行うだけで,その国ならではのバックボーンが身につく。そうやって各国から旅立ったプレイヤーキャラ達がやがて相見えることで,新鮮な出会いが演出されていたのだ。

 そのほかにも,合成時に必要とする材料からは各地の生態系すら想像させられたし,世界設定のひとつひとつから揺るぎない説得力が感じられた。逆に,強引な後付け設定や,過去シリーズ作品からの安易なパクリといった,一瞬で興醒めしてしまう要素なんかはどこにもなかった。大人でも楽しめるファンタジー世界だと思えたし,こういった仮想世界をプレイヤーの意思で,かつ仲間と共に冒険するのは,かつてない体験でもあったのだ。

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毎日が“祭り”といっても過言ではなかったコミュニティ


 FFXIは多くの人にMMORPGの面白さを知らしめ,そのハードルの高さ故にプレイヤーに強烈な体験を与えた。それだけに,FFXIのプレイヤー間のコミュニティにおける盛り上がりはとんでもない規模で,かつ,まるで予想がつかないものだった。

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 当時はSNSが浸透しておらず,最大のコミュニティは匿名掲示板であったが,たとえば公式/非公式を問わず何かしらの大きな動きがあった次の瞬間には,打てば響くような勢いで“何か”が起こっていた(それがどの方向へ進むのかは別問題だが)。パロディやネットミームの類においても,これほど多く誕生したオンラインゲームはあるまい。それどころか完全に定着してしまい,今となってはFFXIが出自であることを知らずに使われているケースも,稀にだがよくあるらしい。
 ちなみにどうでもいい話だが,個人的にはFFXIからいったん離れた後も,あのコミュニティからはどうしても抜け出すことができなかった。

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 これはFFXIに限った話ではないが,黎明期のMMORPGは,たとえゲームコンテンツが不足していても,積極的に遊び方を模索するプレイヤーが多かった。見方によっては,コンテンツよりもコミュニティがゲームを支えていたといえるが,その点においても当時のFFXIのコミュニティは“祭り”も日常茶飯事で,実に刺激的なものであった。

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あの時代だからこそ実現できたMMORPG


 サービス開始後のFFXIは,海外プレイヤーの同一ワールド内での受け入れ,プロマシアミッションのバランス崩壊,後継タイトルの立ち上げ失敗,社内リソースの大幅削減,PlayStation 2版のサービス終了,Nexon Koreaと共同開発を行うスマホ版FFXIの開発中止など,大小さまざまな危機,あるいは物議を醸しつつも,基本的には人気を維持し20年ものあいだサービスを続けてきている。

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 FFXIがここまで長く続いた要因はいくつもあるだろうが,個人的には高いクオリティのサービスを,他社に先駆けていちはやく開始し,FFシリーズのファンのみならず新しいモノ好きのゲーマーを囲い込めたのが大きいのではと感じている。なにせFFXIがPS2向けに発売されたとき,家庭用ゲーム機におけるMMORPGの競合作は存在していなかったのである。また,じきに海外からPC向けMMORPGが続々とローカライズされるようになるが,その頃には既にFFXIにどっぷりとハマっていたため,見向きもしないという人も多かった。

 当時のスクウェアは常軌を逸していたと最初のほうで述べたが,常識にとらわれなかったからこそ,あれほどまでの開発リソースを未知の分野に投入できた。これはむしろ先見の明と言うべきだろう。

 そして,初期のFFXIがもうひとつ常軌を逸していた,MMORPGの未経験者に向けてハードルを設けたことに関してだが,こちらはどのように解釈すればいいのか非常に悩ましい。現在のMMORPGのトレンドを見ても分かるように,ハードルの高さや“絆”といった開発当初のFFXIが重視していたコンセプトは,2022年の現在においては,昔ほど求められていないのである。

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 現在のMMORPGはカジュアルに遊べるジャンルで,それによりプレイヤーの裾野は大きく広がっている。ストレスを感じたり人生を踏み外したりする危険性も比較的少ないし,昔と比べると“健全な”ゲームといえるだろう。
 他方,カジュアルに遊べることで,誰がプレイしても似たようなゲーム体験となっている。偶発的に起こる一期一会のドラマを経験したり,プレイヤー同士で深い“絆”が育まれたりする機会も大幅に減っているだろう。もちろん,ゼロだと言うつもりはないが。

 ジャンルの表記としては同じMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game,大規模多人数同時参加型オンラインRPG)でも,現在の本ジャンルにおける面白さの本質は,昔のFFXIやEQの頃からは不可逆的に変化してしまったとすら感じている。

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 だからこそ,あの時代を体験したFFXIプレイヤーの一人として,当時のことを懐かしまずにはいられない。

 あの頃のFFXIでは,他のプレイヤーと否応なく接して色々と考えさせられた結果,リアルとは違ったもうひとつの人格が,仮想空間のプレイヤーキャラとして形成されていたように思える。また逆に,あの仮想空間における体験が,リアルの人格に影響を及ぼした部分もあった。そう考えると,人生の一部といっても決して過言ではない。

 当時のMMORPGを知らない人からすると,「たかがゲームで何言ってんの」と思うかもしれない。しかし,比較的分かりやすい例を挙げるならば,FFXIで出会った人と結婚したようなカップルの数は,ワールド全体で考えると,おそらく100組や200組どころの騒ぎではないのである。それくらい影響力のあるゲームだったし,FFXIで過ごした時間を大切なものとして,いまも胸の奥底にしまっている人は想像以上に多いだろう。

 個人的には,「Ultima Online」やEQ,そしてFFXIを通じて(あの頃の)MMORPGの可能性を信じ,それをいちプレイヤーとして遊ぶだけでなく,幸運なことに記者としても追うことができた。MMORPGを主戦場とするフリーライターは,実装当時のレリックウェポンを鍛えるくらいにはしんどい生業だと思うのだが,そういった苦労など吹き飛んでしまうくらいに楽しかった。

 今回,FFXIはめでたく20周年を迎えることができたが,筆者はこのさき30年,40年が経過し,万が一いつかサービスが終了したとしても,折に触れてFFXIのことを思い出し,ヴァナ・ディールを駆けた日々を懐かしむだろう。あのときにしか実現できないMMORPGのために全力を注いだ関係者と,様々な経験をさせてもらったプレイヤーの一人一人に対して,深く感謝している。

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 ……とまぁ,まるでサービスが終わってしまうかのような原稿になっているが,現在のFFXIは,単にサービスが続いているだけでなく,いつでも復帰できるように各種ゲームシステムが整備されている。人生を踏み外す心配をすることなく,それでいてしっかりとFFXIらしさを楽しめるように,さまざまな変化を遂げているのだ。

 というわけで,10年ぶりにFFXIに本格復帰して半年間プレイしている筆者による,「復帰者向けプレイガイド(2022年版)」を近日掲載する予定だ。長期のブランクがある人にとって,現在のヴァナ・ディールはそれはもう驚きに満ちた世界となっているので,こちらもぜひお楽しみに!


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