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「とりあえずやってみる中国」と「分からないからやらない日本」。先が見えなくても,新しいことへの挑戦は欠かさない―――日本進出を果たしたSnail Gamesの今後
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印刷2017/09/08 11:30

インタビュー

「とりあえずやってみる中国」と「分からないからやらない日本」。先が見えなくても,新しいことへの挑戦は欠かさない―――日本進出を果たしたSnail Gamesの今後

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2017年の7月27日から30日まで,上海で行われた「ChinaJoy 2017」の話題の中心は,昨年に引き続きスマホとVR。コンシューマも順当に台数を伸ばし,まさに花開こうかというタイミングではあるが,まだまだ(中国内では)マーケットとしては小さく,ChinaJoyで大きな存在感を示すほどではない。

昨年も書いたことだが,中国という国のゲームエンターテイメントの成長カーブは半端ない。例えばスマホゲームがメインである超大手「テンセント」の2017年1Qの売上は約7930億円で,純利益が約2315億円という規模感である。もう何がなにやら(年度ではなく四半期だ!)。
 中国は,すでに世界のモバイルゲームの市場規模の3分の1を持っていると言われており,しかもその拡大は,いまのところは留まるところを知らない。コンシューマ機もVRも,これからだ。やや成長曲線に鈍化が見られるとはいえ,類を見ない速度でまだまだ上がっていくのだろう。

そんなわけで昨年に引き続き,中国ゲームマーケットについて何人かと話をしてみよう。政府のお役人でもなく,プラットフォーマーでもなく,現場でゲームを開発して運営/経営している人達だ。彼らは肌感として,数字として,熱量として,マーケットに対峙しているのだから。

いまなお伸びていくモバイルゲームの会社達は,現状と未来をどのように見ているのだろうか。それを知りたくて,何社かの会社にインタビューの打診をしてみた。昨年とはちょっと毛色を変えて,日本ではまず知られていない,社長が若い会社をメインに“生の声”を聞いてみたので,そのインタビューの模様をお伝えしよう。


日本のスマホゲームは運営に人を使いすぎ。もっと効率化するために,中国の“ゲームエンジン”を使うべきではないのか―――飽和状態の日本のスマホゲームマーケットに,中国のデベロッパが提唱?

日本と中国は,お互いの長所を合わせていいゲームを作ればいい―――Shandaから独立した若き女性社長の会社GameMoonは,常にグローバルを見据えて動く

挑戦を恐れる企業の未来は,困難になるだけ。「持続可能なIP」を持っていないからこそ,成長し続けなければいけない―――NetEase Gamesの若き本部長が語る,中国業界事情



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 2017年7月27〜30日まで行われていたChinaJoyで,何社かに送ったインタビュー依頼を受けてくれた一社が,4Gamerとはだいぶ古い付き合いになる「Snail Games」だ。
 Snailと聞いて「あー,あそこか」と思いつく人はそこまで多くないと思うが,古いオンラインゲーマーであれば「航海世紀」(ボヤージュ センチュリー オンライン)というタイトルに聞き覚えがあるかもしれない。

 上海から若干距離を置いた蘇州にその本社を置き,画家出身のこだわりの社長が率いる「ゲーム開発会社」として10年前から注目してはいたのだが,いっとき日本進出にチャレンジして,その後音沙汰がなくなってしまい,それからずいぶん時間が経った。
 それが昨年,突如として日本オフィスを設立し,また大きな動きをしそうな雰囲気を漂わせていたので,今回ChinaJoyで,久しぶりに時間を取ってもらった次第だ。

 あれから10年。ゲーム開発会社として「リネージュII」のスマホ版を手がけたりして(いま日本でサービスされている「リネージュ2:レボリューション」とは別なものだ)着々と実績を積み重ねているのはもちろん,一方でSIM販売事業などにも手を広げ,昔とは少し違う雰囲気を出している。このあとのSnailがどうなっていくのか,海外マーケティング事業部責任者に時間をもらうことができたので,話を聞いてみよう。
 なお今回は,日本支社のCEOである後藤智子氏にも同席してもらうことができたので,本社と日本支社,双方の立場からの話を聞けた。合わせてお伝えしよう。

「Snail」公式サイト


銭曦(Alfie Qian)氏(写真:左)
イギリスの由緒ある国立大学であるサウサンプトン大学(University of Southampton)を卒業後,故郷である蘇州に本社を構えるSnail Gamesに2010年に入社。PCゲーム,Webゲーム,スマホゲームと時代に合わせ,今日までゲーム事業全般に携わる。現在は,Global Publishing事業部の事業部長として,拠点間管理のほか,その他海外事業全般を管轄。

後藤智子氏(写真:右)
國學院大学を2008年に卒業し,光通信グループへ新卒で入社。当時のトレンドであるソーシャルゲーム事業に携わり,中国からゲームの買い付けを開始すると同時にGWCの発起にも従事。2009年からは北京へ1年駐在し,その後光通信を退社。そののちも中国に留まり,知人とゲーム会社(Sleetgames)を起業し,スマホゲーム初期より本格的に業界に携わる。2014年に帰国後,株式会社アドウェイズへ入社,アジア圏のインバウンド広告事業を担当する。2016年4月,正式にSnail Games Japanを設立し,現在に至る。
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4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。私がこうしてSnail Gamesにインタビューさせていただくのは,10年ほど前に社長からお話を伺って以来のことなので,すごく久しぶりです。日本支社の設立はむろん聞いていますが,最近はどういう部分に注力しているのでしょうか。

銭曦氏(Alfie Qian:以下,Qian氏):
 10年前とはまたずいぶん昔ですね(笑)。時代に応じて,あれからずいぶん変わりました。
 当時はPCゲームの開発や運営,ゲームエンジンの開発が主業務でしたが,最近はスマホゲームやコンソールゲームのエンジン開発,VRゲームの開発などにも力を入れています。また,アメリカ,日本,韓国に拠点を置いており,自社のゲームの海外展開にも力を入れています。またゲームだけに留まらず,ほかの分野にも業務拡大を行っています。

4Gamer:
 ほかの分野,とは?

Qian氏:
 我々は中国のキャリアライセンスを持っているので,自社のSIMカード販売や国際ローミングの運用,Android向けのストアなども運営しているんです。

後藤智子氏(以下,後藤氏):
 やはりこの10年で,世の中に出ているプラットフォームの開発について,ほぼできるようになっているのが大きな進歩だと思います。マーケティング面で言うなら,10年前にはゲームの開発会社でしかなかったSnailが海外に拠点を置けるようになり,パブリッシャとして力を注げるようにもなりました。

4Gamer:
 キャリアライセンスまで持ってるとは思いませんでした。そういえば昨年のChinaJoyでは,ジョイスティックの付いたAndroid端末を展示してましたね。

後藤氏:
 Snail Mobileという別法人を立ち上げて,MVNO事業のSIMカード販売など,ゲーム以外の業務を行うようになったんです。浦東(プードン)空港と虹橋(ホンチャオ)空港に行くと自動販売機が置いてあって,結構好評らしいです。価格も,海外で発売されているSIMカードに比べて安く,国によっては,どうせ大して使えないLTEを入れずに3Gでいいというときもあるので,需要があるみたいです。

Qian氏:
 Android向けのストアについては,「免商店」というものを展開しています。メインはSnailが提供しているゲームなんですが,参加したいデベロッパさんには,APIを開示してプラットフォームとして成長しています。

4Gamer:
 ホントにいろいろやってるんですねえ。

Qian氏:
 そうですね(笑)。近年は,ゲームを作ること以外にもいろいろな挑戦をしています。あと,先ほどちょっと触れていましたけどスマートデバイスもリリースしていて,今日は「摩奇i7」という新しい製品が発表になります。

4Gamer:
 昨年のやつから続いてるシリーズものですか?

Qian氏:
 見ればすぐ分かりますが,あれのブラッシュアップ版です。

4Gamer:
 なんていうか,あの「Vita型」のAndroid,ちょっと欲しいです……。

これがインタビューで触れているAndroid端末「摩奇i7」。会場では,「もう一つのリネージュIIスマホ版」である「天堂2:血盟」がグリグリ動いていた
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根付きさえすれば,中国のコンソールゲーム市場は順当に発展する―――重要なのは,規制を緩和してファミリー層を取り込むこと


4Gamer:
 先ほどコンソールもVRも手掛けておられるとおっしゃってましたが,中国のコンソール市場はこれからどれぐらい成長していくと思われますか?

Qian氏:
 政府が今までとってきた政策の影響もあって,中国のコンソール市場はそこまで大きくないというのが現状です。ただ,今後はコンソール市場も順調に発展していくのではないかと思います。

4Gamer:
 それに向けて何かすでに動きを?

Qian氏:
 もちろんです。PS4の中国発売と同時に1本リリースしていますし,PS VRについてもSIEと深く提携していきたいと考えています。Xbox Oneについても同様にMicrosoftと提携できるように話を進めています。

Snail GamesのPS4タイトル「King of Wushu
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後藤氏:
 ちょっと補足なんですが,Snailの考え方としては,いったん世界に目を向けて,中国ユーザーのモラルやマナーが上がってきたときに中国市場に戻ろうという戦略をとっているんです。

4Gamer:
 それはコンソールゲームでの話ですよね?

後藤氏:
 そうですね。中国の市場だけ見てコンソールゲームを作ったとしても,SIEもMicrosoftも「(ローカルすぎて)それはないよね」という話になるんです。彼らは中国マーケットだけを見ているわけではないですからね。なので,世界で通用するものを先に作って認知度を上げようという戦略をとっています。
 中国国内の市場については,中国でコンソールに対する環境が徐々に整備され,正規版がちゃんと売れるようになったら,おのずと結果はついてくると思います。

4Gamer:
 なるほど。では中国のコンソール市場の発展に,今一番不足しているものは何だと思いますか。

Qian氏:
 まず1つは,コンソールゲームを遊ぶ習慣だと思います。先ほどの繰り返しですが,政府の規制が原因で中国のコンソール市場はそこまで大きくありません。これから発展していくには,規制を緩和して,ファミリー層など幅広いユーザーを取り込むことが必要だと思っています。

4Gamer:
 なるほど。まず根付かせないといけない,と。

Qian氏:
 おととい,SIEによる新タイトルの発表会があったんですが,その中には「新大众高尔夫」(New みんなのGOLF)という子供からお年寄りといった幅広い年齢層が遊べるゲームもありました。こういったゲームをプレイしてもらい,リビングでコンソールゲームを遊ぶ習慣を育てることが大切だと思っています。あと,中国産の優秀なローカルIPを作り出すことも必要だと思います。

4Gamer:
 でもその風潮を作るには,結構時間がかかりませんか?

Qian氏:
 そうかもしれませんね。
 昔,中国でコンソールゲームが流行らなかった理由の1つとして,当時の中国人がゲームに対して抱いていたイメージが悪かったことがあると思います。とくにコンソールゲームはテレビを占拠してリビングで遊ぶものなので,子供が親から「時間の無駄だから勉強しなさい」としつこく言われていたものです。

4Gamer:
 そのへんは日本とあんまり変わらないんですね。

Qian氏:
 これからは「親と子供が一緒に楽しめるのがコンソールゲームだ」というイメージを広げていく必要があると思いますね。

4Gamer:
 はじめに無料ダウンロードできるPCオンラインゲームで火が付いて,次にスマホゲームのFree to Playで火が付いて……という発展を遂げてきた中国で,コンソールゲームが売れるわけがないと思っている人も多いと思います。
 日本円にして3万円以上する本体に加えて,8000円もするソフトを買わないといけないわけですから,「ただでゲームを遊ぶ」ことに慣れている中国のユーザーにとっては厳しいのでは? と思ったりもするんですが。

Qian氏:
 確かにそれも1つの原因ではあると思います。ただご存じのように,そもそも昔は規制によって正規版のコンソールゲームが販売されておらず,普通は手に入りませんでした。海外で購入する人も中にはいましたが,中国人の収入は当時それほど高くありませんでしたし。

4Gamer:
 だから……というのも変ですが,だから海賊版がはやった?

Qian氏:
 確かに以前は,海賊版だろうが何だろうが安く遊べればそれでいいという人も多かったと思います。しかし現在は中国のマーケットも変わってきており,海外の有名なコンソールゲームは正規版が発売されていますし,国をあげて知的権利に対する意識も高まってきているので,むしろ,ちゃんとお金を出して正規版を買いたいという人が多いんです。

PS4はそれなりの普及を見せており,ゲームショップはどこでもPS4ゲームの中文版が置いてある。ひとたび火が付いたら数百万台など軽く見込めるマーケットなだけに,SIEも本腰を入れている
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4Gamer:
 なるほど。

後藤氏:
 確かにコンソールゲームに対する感覚が大きく変化しているのは感じます。
 日本もそうですが,中国でもここ最近ではスマホゲームにおける課金がヒートアップしすぎていて,かなりカオスな状況になりつつあります。無料でゲームを始めても,その後に200万円,500万円とお金をつぎ込んでいくのなら,最初からお金を出してコンソールゲームをプレイした方がいいということに,気づき始めたんではないでしょうか。

4Gamer:
 逆に日本人はちょっとコンソール離れの傾向があるんですよね。

Qian氏:
 最近はNintendo Switchが発売されて,プレイしていている大人たちも多いんじゃないかと私は思ってたんですが。

後藤氏:
 彼もNintendo Switch持ってるんですよ。

4Gamer:
 なんでこっちの人はみんな持ってるんだろう……(笑)。

後藤氏:
 いまゼルダを一緒にプレイしていて,前回の出張でもその話ばかりしてました(笑)。

4Gamer:
 さっきインタビューした人も「最近はずっとスプラトゥーン2をやってる」って言ってました。日本はまだ品薄なのに……(編注:インタビュー日は2017年7月27日)。

Qian氏:
 そうなんですか?

4Gamer:
 でも確かにさっき上海市内の店を見て回ったら,在庫がどの店にも大量にあるんですよね。一体あれは……。

上海の電脳ビルに行ってみたら,どのゲームショップにもNintendo Switchが山積み(持ち帰りできると言われたので在庫もあるのだろう)。本体が2680元だったので,約4万3000円。いわゆる“ヤフオクプライス”とあまり変わらない。余談だが,PS VRもどの店にも在庫があった
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今後VRがどこへ向かうのかは誰にも分からない―――「走りながら考える」ことをしないと,周りから出遅れてしまう


4Gamer:
 コンソールの話を続けるんですが,日本のメーカーから見ると,中国にコンソール進出しようと思ったときの最大のネックは「政府の許可」なんです。あれはどうにもならないんでしょうか。4か月待ちとか6か月待ちとか言われても,さすがにみんな途方に暮れると思うんです。

Qian氏:
 そうですね……。でもその点については,中国の企業も同じなんです。
 しかし,これから市場の規制も変わっていくと思います。例えば,以前アメリカのハリウッド映画は,年間に輸入できる本数が決まっていましたが,現在はその規制もなくなりました。私たちが素晴らしいゲームを作り続ければ,ユーザーも早く新作を買って遊びたいと思うはずですし,そうやって市場の声が高まれば,中国政府も徐々に規制を緩和していくのではないでしょうか。

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4Gamer:
 なるほど。知り合いの日本人投資家が上海に住んでるんですが,彼は「中国はとても素晴らしい国だ」と言ってました。「政府がすべてのルールを決めて,しかもそれが時代に応じて柔軟に変わって,国民全員がそれに従う。こんなに素晴らしい国はない」って。確かに中国って,昔のイメージがまだちょっと強いですけど,実際に来てみると全然違うんですよね。

Qian氏:
 国を管理するためには,経済の発展を一番メインに考えなければいけないことなので,市場の変化には柔軟に従うしかないんですよ。

4Gamer:
 市場の変化つながりでVRについて聞かせてください。
 昨年ChinaJoyに来たときは,ゲーム業界の誰もが「今VRゲームを作れば,中国ではいくらでもお金が出てくるよ」と言っていて,実際に誰もがVRゲームを作っていました。今年は,中国でもブームはちょっと落ち着いたかな?と思ったらそうでもなくて,キチンと1年分の発展をした状態で大きくなっている気がします。

Qian氏:
 確かにそうかもしれませんね。

4Gamer:
 日本でももちろんVRは立ち上がりつつありますが,VRのマーケットそのものはどこに向かって進んでいるのかちょっと分からなくて,着地するポイントもまだ見えていないのが実情だと思っています。このまま失速しちゃうとイヤだなぁ,と思っていますが,中国でのVRはどういう形で花開いていくと思っていますか?

Qian氏:
 それは……非常に面白い質問だと思います。
 実は中国のメーカーや開発者も,中国市場でVRがどう発展していくかは,具体的に分かっていません。方向性を模索しながら開発を進めている感じです。ただご存じのように中国は,資金調達が非常にしやすい環境でして,優れたアイデアを持っている人が起業すれば,それを良さそうだと思った人達が次から次へと投資してくれるんです。もちろんそれらのすべてが成功するわけではないですが,そういった土壌があって,挑戦するベンチャー企業がたくさん出来てきているのは良いことだと思います。

4Gamer:
 ということは,VRの行く末についてはSnailもちょっと迷っている?

Qian氏:
 はい。私たちSnail Gamesも,VRの方向性ははっきり分かっていません(笑)。
 一番難しいのは,B to B(Business to Business)ではなくてB to C(Business to Consumer/Customer)の部分なわけで,今のマーケットにVRがどう着地するかは分かりませんが,これからも模索しながらやっていきたいと思います。市場の方向が決まっていない状態であっても,ハイクオリティのものでなければ売れないと思いますので,技術開発などにも力を入れて取り組んでいます。

Snail Gamesが2017年内にリリース予定のVRゲーム「ARK Park」PC/PS4
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4Gamer:
 なるほど。中国らしい見解です。

Qian氏:
 逆に,4Gamerさんは日本でVRはどうなると思っているんですか?

4Gamer:
 うーん……いまのままでは微妙かな,と。
 テクノロジーが遅れているとか,日本人に合わないとか,こんなもの一過性の流行りだ,とかそういう浅い話ではなくて,まず気持ちの問題が大きい気がしています。日本の企業で「今後どうなるか分からないからこそ今やっておこう」と思える会社がどれくらいいるのかなぁ……と。

Qian氏:
 それはよく聞きますね。国民性の問題なんでしょうか。

後藤氏:
 「とりあえずやってみる中国」と「分からないからやらない日本」という国民性の問題もあると思います。中国人は「悩むぐらいだったら,とりあえずやってみよう」となる傾向があるんですよね。

4Gamer:
 それは端々で感じますね。

Qian氏:
 あと,中国は援助・投資を受けるにしても,日本より圧倒的に夢が持てる環境なんですよ。ものすごいアイデアを持った18歳の天才少年が「VRゲームを作りたいんです!」と仮に日本でスピーチしても,そこに手を挙げる人って何人いるんだろうという。中国なら500人ぐらいは手を挙げると思いますし,下手をすると「2億円投資します」「なら僕は3億円」という風に競りが始まることもあります。新しいものを作る挑戦に対してお金が集まりやすいという点は,中国の方が圧倒的に優れていますね。

4Gamer:
 まったくですね。

後藤氏:
 先が分からないということに関してはSnail Gamesも変わらないんですが,もう走り出しちゃったので,どうせだから高いクオリティのものを目指しています。砕け散るにしても,綺麗に砕け散りたいですし(笑)。

4Gamer:
 VRの先行きが同じように分かっていないということを聞いて,少しホッとしました。

後藤氏:
 恐らく,B to Cに関しては誰もまだ答えを出せていない状況だと思います。それは開発している私たちが作り上げるのか,ハードウェアを提供しているメーカーが作り上げるのか,時代の流れでユーザーが求めるようになるのか,そこからしてまだ分かりませんね。

4Gamer:
 でも,走りながら考えるというのがやっぱり中国らしいですね。


日本の優秀なIPを求める動きは,あと2,3年で終わるのかもしれません―――IPを獲得するために他社と競争する時代は終わる


4Gamer:
 さて,VRやコンソールなど各方面に手を伸ばしているSnail Gamesですが,最近ようやく日本のオフィスが立ち上がりました。10年前に社長に聞いた時は「いつか作る」とおっしゃってましたが,本当に出来ました。Snail本社としては,日本に何を求めているんでしょうか。

2017年8月9日に日本でリリースされた「ドラゴンレボルト」iOS/Android
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Qian氏:
 自社のスマホゲームを,日本のマーケットに進出させることですね。日本での展開をするには,ゲームのデザインやローカライズ,ローンチ時のプロモーションなどが必要になってきます。自分たちのオフィスがない場合,そのときにどこか現地の会社と協力する必要がありますよね。そうなると費用の問題が出てきますし,自分達の思う通りに協力会社が動いてくれない可能性もあると思うんです。
 そこで日本にオフィスを立ち上げて,自分達のチームを持つことにしました。今後は日本の優秀なIPを使ったゲームを作ったり,いろんな分野に拡大できるんじゃないかと思います。

4Gamer:
 それで……日本のチームは思い通りに動いてくれていますか?(笑)

Qian氏:
 キチンとやってくれています(笑)。
 日本オフィスを作る前に,Snail Gamesが作ったゲームを日本で1年間運営してみたんですが,ほかの国のようにはセールスランキングが上がりませんでした。やはり,日本の文化やマーケットの特徴に合わせて展開していく必要があることを実感したので,今後は日本オフィスを通して,現地に合わせたマーケティングをしていきたいと思っています。

4Gamer:
 その作業を日本人目線で行うのが,Snailの日本オフィス?

Qian氏:
 ええ。今まで運営してきたゲームで日本市場に合わなかった部分はどこか,ということを本社の人間にはっきり見せる狙いもあります。現地スタッフの声がないと,本社から見た日本市場という想像で,マーケティングをしていかなければならないわけですし。

後藤氏:
 私が個人的に「駄目だ」と思っている案件でも,いける可能性は0%ではないわけですし,逆も真なり,なんです。ただ,皆が納得する理由と,客観的な事実を議論の場に持っていく必要はあると考えて動いていたのがこの1年でした。

4Gamer:
 せっかく日本オフィスができたのに,この1年間はあまり大きな動きを見せていないな……というのが印象としてあります。このあとは,どのように日本進出をしていくんでしょうか。

Qian氏:
 この1年間の経験で,日本に進出するにはマーケットにふさわしいシステムを作る必要があると改めて分かりました。最初にリリースしたゲームはまったく日本を意識しておらず,日本向けの要素が何も入っていないものでした。2年めから立ち上がったプロジェクトは,日本のマーケットにふさわしい要素を入れながら作っていこうと思っています。

後藤氏:
 そういう意味では,2017年からようやくスタートラインに立てたかなという感じですね。

4Gamer:
 さきほど日本のIPを使ってゲームを作りたいとおっしゃってましたが,そういう中国の会社は山ほどあります。その中でSnail Gamesが選ばれるアピールポイントはどこにあると思いますか。

Qian氏:
 もちろんクオリティに自信はありますが……でも日本の優秀なIPを求めるという動きも,あと2,3年後には終わるのかもしれません。今や中国の開発レベルは上昇してますし,3,4年後には中国の開発会社が自分たちの独自IPを確立できるようになるんじゃないでしょうか。
 よその会社が,自分のIPを弊社に任せるケースも増えてきました。昨年リリースした「天堂2:血盟」は,かなり高いクオリティに仕上がっていますし,日本の会社からSnail Gamesで作ってほしいという話も来ています。

「天堂2:血盟」iOS/Android
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後藤氏:
 他社と競争して,どうやってIPを勝ち取るかという意識はあまりないですね。中国のデベロッパたちが狙っているビッグIPって,おそらく15タイトルぐらいしかないんです。そのIPを使ったゲームで同じようなものが2,3タイトル出ている状況で,ユーザーも混乱しているんですよね。
 この状態が継続していくとマーケットが疲弊するだけですし,その間に中国の会社が独自のIPを作ってしまうと思います。Snail Gamesとしても同じ考えで,常にIPを取りに行かなければいけないという他力本願な考えはありませんし,下手に出る必要もないと思っています。

4Gamer:
 そうですね。5年くらい前だと,中国は開発力こそありましたが,自分たちでIPを生み出す力がありませんでした。その時点では,日本のIPを使ったゲームを中国の開発力で作るのがベストアンサーだったはずです。ですが,ここ2,3年のChinaJoyを見る限り,IPを作る力まで中国の会社が身につけてきたように思います。

Qian氏:
 既にご存知かと思うんですが,中国のセールスランキングでは「ONE PIECE」などの大きなIPを獲得してもトップ10には入れません。トップ10は,基本的にIPタイトルでないんです。
 ……IPを獲得するために他社と競争する時代は,終わりつつあるのかもしれませんね。遊び方だったり,ゲーム性というところをユーザーは評価するようになっているというのを,ランキングが物語っていると思います。

4Gamer:
 そこは日本も同じですね。超強力IPでも,トップを取り続けることはなかなか難しいです。
 ではSnail Games Japanとしては,今までの方向を修正して,より強く日本マーケットに向けてアクションを起こしていくということでしょうか。

後藤氏:
 そうですね。ここ1年間は,中国の本社と認識を揃えることが必要だったので,いよいよ歩き出せると思います。本社と認識を共有して,常にアンテナを張りながら,より臨機応変に動けるような体制で挑みたいと思います。

4Gamer:
 では,期待して新作のリリースをお待ちしています。

後藤氏:
 失敗したら居留守使うので連絡しても無駄ですよ(笑)。


Dark and Lightは「いつか必ず日本に来ます」―――自分達の思い描く世界観に近づけるために,今後も改修を続けていきます


4Gamer:
 そして,最後にこれだけは聞いておきたいのですが……。

Qian氏:
 なんでしょう?

4Gamer:
 4Gamerは,出自が海外ゲームだったりMMORPGだったりするので,いまでも結構コアなゲーマーが読んでくれているメディアです。そんな中,Snail Games Japanが本気でやるとなると,一番気になっているのは「Dark and Light」だと思うんです。これ,日本でのサービス予定はあるんでしょうか?

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Qian氏:
 やはりそこを聞かれますか(笑)。
 ご存じのように,現在Steamでオープンベータ版を公開しているんですが,日本語版はありませんし,まだバグもあるので完成には至っていません。今の段階では,欧米マーケットのみを視野に入れていますが,いずれ日本語版も発売されると思います。今はオープンベータの結果などを受けて不具合を改修している段階で,日本語版のリリースはその後になりますね。

後藤氏:
 補足ですが,いったんまずは英語圏や中国圏で開示して,オープンベータをプレイしたユーザーの皆さんから,不具合報告や意見をもらいながら最低限の形まで持っていこうとしています。問題が発覚しても改修までの期間が予測できなかったりするので,まずはそれにしっかり対応してから,他言語への展開を進めていきたいと思っています。
 日本に来るかどうか……という質問については「いつか必ず日本に来ます」と断言できます。

4Gamer:
 おお,ちょっと嬉しい情報が。

後藤氏:
 日本でも反響が大きければ,リリースするタイミングも早まるかもしれませんが,現状では恐らく半年から1年ほどリリースが遅れると思います。「ちょっと気難しいエリア」だということも,みんな認識してると思いますし(笑)。

Qian氏:
 Dark and Lightは,もともとフランスの会社から開発を引き継いだという経緯があるので,世の中にある程度認知はされていたタイトルなんですよね。今回Steamでオープンベータ版を公開したときにも,広告はほとんど打っていないのにトップセールス3位ぐらいにずっと入っていました。もしかしたら初日は1位だったかもしれません。

4Gamer:
 そこまでいったんですね。

Qian氏:
 日本人が作っているチャットルームもあったんですが,世界規模で見ると日本人のSteamユーザーってまだまだ少ないんですよね。なので,日本は高ARPUではあるかもしれませんが,優先順位からすると少し落ちてしまうことは否定できません。
 もう少し日本のSteamユーザーが増えていくと,今後オープンベータ版を公開するときに,あらかじめ日本語版を入れたりと優先順位が上がる可能性はありますよ。

4Gamer:
 しかし,あんなに膨大な時間をかけて中止になったプロジェクトを引き継いで,さらに時間をかけて完成させるというのは,なんというか「すごくSnail Gamesっぽい」ですよね……。

Qian氏:
 「十数年寝かせているタイトル」が謳い文句なんですが(笑),実際問題としてSnail Gamesが,1つのタイトルに10年もかけられるかというと,そんなことはできません。
 これもフランスの会社から引き継いだときに,全体のステージ設計だったりシステムの問題に対する解決方法がまったく見つからずに,2,3年の間,時間だけが経ってたこともありました。

4Gamer:
 それはどんなきっかけで解消されたんですか?

Qian氏:
 Unityです。近年になってようやくUnityを使うことで答えを見つけることができて,突破口が見えてきたんです。そこから試行錯誤を重ねて,今回のオープンベータ版のリリースに至ったんですが,もちろんこれが最終版とはまったく思っていません。自分達の思い描く世界観に近づけるために,今後も改修を続けていきたいと思っています。

4Gamer:
 Snail Games Japanの今後の新しい動きと共に,とても楽しみにしています。ありがとうございました。

―――2017年7月27日収録
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