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印刷2019/07/01 00:00

業界動向

Access Accepted第616回:E3 2019で見えたゲーム業界のトレンド

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 月が替わってずいぶん昔の話のように感じられるが,今週は,ゲーム業界にとって最も重要なイベントであるE3 2019の余韻が残る中,見えてきたトレンドのようなものを考えてみたい。現世代のコンシューマ機では最高峰とも呼べる卓越したゲームが注目されたが,最新技術やビジネス面では,新たな世代のコンシューマ機に次第に移行していく様子が窺えた。


依然として圧倒的な存在感を示すE3というイベント


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 ソニー・インタラクティブエンタテインメントが参加していなかったので,今回は割と時間に余裕があるだろうと思っていた2019年のE3だったが,フタを開けてみれば面白そうな新作ゲームが多く,また,ソニーがいないぶん「今年はビッグに出します」とラインナップを揃えてきたメーカーも多くて忙しかった。海外ゲームを中心に担当する筆者だが,取材スケジュールはぎっしり詰まっており,一般来場者がプレイアブルデモを楽しんだり,大画面でトレイラーを鑑賞したりできるイベントフロアには,そこでアポイントでもない限り,あまり足を運べなかった。
 「もう1日あれば,もっと取材できるのになあ」とはいつも感じることで,今年もそれは同じだ。しかし,3日めともなると,ゲームを説明する開発者が声を涸らせていたりして,同じ話を3日間繰り返すのもさすがに大変だろうと思ってしまった。

 先週の本連載「ゲーム業界の最重要イベント,『E3 2019』を振り返る」では,「エキスポフロアには閑古鳥が鳴いていた」と書いたが,E3を主催するESA(Electronic Software Association)やスポンサー企業のサポートは不十分で,一般来場者が楽しめるイベントとしてE3が成功しているとは言い難い。アメリカのゲーマーの間では,「E3はネットでチェックするイベント。PAXは遊びに出かけるイベント」という“常識”ができあがりつつあるようで,なんらかのテコ入れをしない限り,一般来場者の足は遠のくと思われる。

エキスポフロアで最もファンが集まっていた場所の1つが,「ボーダーランズ 3」の試遊台を所狭しと並べていた2Kブースだ
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 とはいえ,新作タイトルをチェックしたり,ゲーム業界の動向を知るうえで,E3の存在感は依然として絶対的だろう。各パブリッシャが2019年後半から翌年にかけて発売するタイトルをまとめて紹介するわけだから,そのトレンドがよく分かる。シリーズ作品やリメイク作品,既存作品のフォロワーなどを中心に,ずらりと並んだ作品からは,「ゲーマーが求めているもの」が見えてくるのだ。
 というわけで今回のE3,欧米ゲーム市場のトレンドとして筆者の目に映ったものを紹介していきたい。


レイトレーシングが大型タイトルのスタンダードに


 「Battlefield V」「メトロ エクソダス」「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」など,2018年末にNVIDIAの最新グラフィックスカード「GeForce RTX」シリーズが発売されて以降,レイトレーシングに対応するためのパッチ配信が増えてきた。
 E3 2019では,「Wolfenstein: Youngblood」「ウォッチドッグス レギオン」,さらに「Call of Duty: Modern Warfare」「サイバーパンク 2077」でもレイトレーシングのサポートが発表されており,いわゆるAAAタイトルでは今後,デフォルトのグラフィックス技術となりそうな気配だ。Microsoftの次世代機「Project Scarlett」でも対応が発表されているほか,SIEの次世代機でもサポートされるという予想も多くある。とはいえ,レイトレーシングに対応するグラフィックスカードの値段を見る限り,新型コンシューマ機の価格帯がちょっと気になったりもする。

 筆者は,「サイバーパンク 2077」のライブデモを専用ブースで視聴する機会を得たが,このデモはレイトレーシングで描画されており,「Ray Traced Ambient Occlusion」「Diffused Illumination」など,ゲーム開発者会議でNVIDIAがさかんに紹介していたテクニックが活用されているとのこと。ネオンサインが濡れた路面に反射したり,異なる色の光が混じり合ったりする情景が美しく表現されており,感動的だった。

NVIDIAの協力を得たレイトレーシング技術を活用したという「サイバーパンク 2077」のライブデモが,E3 2019で公開されていた。照明の反射や,ポスターに注目してほしい
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性的・人種的表現への批判


 5年以上前から欧米ゲーム業界の懸案になっていたのが,人種差別や性的マイノリティ,フェミニズムなどへの対応だ。E3 2019でそうした問題のやり玉に挙がってしまったのが,上記の「サイバーパンク 2077」。上に掲載した画像の真ん中のポスターには,人体改造技術によって両性具有となったモデルが描かれており,それに対して「トランスジェンダーに対する侮辱」という声があがったのだ。トランスジェンダーをゲームに出すのは悪いことではないという意見もあったが,CD Projekt REDは他意はなかったと釈明することになった。

 さらに,ハイチ系移民が貧しい人々として描かれ,そのあとに登場したライバルギャングに黒人が多かったことから,このステレオタイプな表現が一部の海外メディアに指摘された。しかし,ベースとなったボードゲームのデザイナーで,本作にも深く関わるマイク・ポンスミス(Mike Pondsmith)氏自身がアフリカ系アメリカ人であることから,この件については「この作品の黒人の描かれ方に対して,黒人のオレがどのように怒るべきか説教しているのか?」と一蹴している。

「サイバーパンク 2077」に登場するハイチ系移民。そのステレオタイプの表現がネットで批判される一方,ハイチ系アメリカ人ジャーナリストが「オーマイゴッド! ようやくオレ達がゲームでしっかり表現されているよ!」と興奮状態でインタビューする動画も公開されている
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 また,11月に発売される予定の「ポケットモンスター ソードシールド」に登場する浅黒い肌のジムリーダー,ルリナ(英語版ではNessa)のファンアートでも問題が起きた。肌をわずかに白く描いたルリナのイラストをSNSで公開したアーティストに対して,人種差別であるという批判が飛び出し,擁護する人達との間で激しい議論が繰り広げられたのだ。
 テニスプレイヤーの大坂なおみさんのアニメ広告が,「肌が白過ぎる」と海外で批判されたことは記憶に新しいが,こうした行為は,「ホワイトウォッシング」という差別行為として受け取られる可能性がある。しかし,その一方,黒くし過ぎると今度は「ブラックフェイス」などと非難されることがあり,線引きは難しい。日本人がルリナのファンアートを見ても「褐色の健康的な人」程度の印象しか抱かないだろうし,「サイバーパンク 2077」にゲイシャやサムライといったステレオタイプの日本要素が登場しても,それを差別と捉える人は少ないと思うのだが。

 もちろん,差別は許されないが,欧米では人種や性表現に敏感な人が多く,そうした自分の基準を相手に押し付ける,行き過ぎた“ポリティカル・コレクトネス”が増えたように筆者には感じられる。E3 2019では,そんな印象を強くするエピソードがまたいくつか起きたわけだ。


コンシューマ機は健在。クラウドゲームの“雲”行きは?


 クラウドは,ゲーム産業の未来にとっても重要な技術だ。ネット環境とディスプレイ,そしてコントローラさえあれば,どんなハードウェアでもプレイできるし,グラフィックスカードを交換したりHDDの容量を心配する必要もなくなる。グラフィックスオプションは常に最高で,誰でも同じ条件でプレイできるうえ,サーバーにハッキングでもしない限り,チート行為も不可能だ。

 しかし,GoogleがE3 2019に先立ってアナウンスした「Stadia」が,月額課金でありながらも多くの作品を別途購入しなければならないというビジネスモデルを採用したことに期待外れ感を覚えるゲーマーは少なくなかったようだ。月9.99ドルは,年額約120ドル,コンシューマ機の寿命を5年とすると,Stadiaの利用だけで総額約600ドル(約6万5000円)かかり,金銭面での魅力は微妙だ。

 しかも,E3 2019期間中の6月10日に掲載した記事でも指摘したとおり,4K解像度のゲームを60fpsで遊んだ場合,アメリカの一般的なインターネットプロバイダの利用上限である1TBに65時間ほどで達してしまう。現実には家族全員で映画の配信を楽しんだり,ショッピングに使用したりしているわけで,ゲームに使える時間はさらに少なくなるだろう。

Microsoftが「2020年のホリデーシーズンに発売」とアナウンスした「Project Scarlett」。これにより,E3 2020が大きく盛り上がることは間違いなしだ。果たしてソニーは,どのような手を打ってくるのだろうか
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 Microsoftは,60もの新作がアナウンスされたプレスカンファレンスの中でクラウドサービスクラウドサービス「xCloud」の発表を行ったが(関連記事),世界の注目はやはり次世代機である「Project Scarlett」に集まった。また,Bethesda Softworksは「DOOM Eternal」のStadiaデモを,Microsoftは「Forza Motorsport 4」「Halo 5: Guardians」を使ったxCloudデモを公開したが,話題を独占するというほどではなかった。
 筆者は,これまでずっとクラウドゲームの未来を語ってきたし,今でもそのメインストリーム化を信じて止まないのだが,E3 2019で見聞した限り,ドラスティックな変革が2020年に起きることはないと感じられた。しばらくは“サービスの1つ”として運用が続けられることになるだろう。


すでに終わっているプレスカンファレンスの意義


 「E3は開始前に終わる」とはよく言われること……というか筆者がよく言っていることだが,実際にイベント前に大手パブリッシャが行うプレスカンファレンスで,ゲーマーが注目する新作ソフトはだいたい発表されてしまう。しかも,ほぼすべてのイベントがストリーミング配信されることもあって,実際にカンファレンスに参加する我々が現地で行うべきことはあまりない。ゲームをプレイしたり開発者にインタビューできたりする場合もあるが,近頃は正直,カンファレンスに参加すると損した気分にさえなってくる。

 客観的に見て,メーカーにとって我々ジャーナリストは面倒くさい存在だろう。プレスカンファレンスで新作ゲームが発表されても,歓声を上げたり手を叩いて喜んだりはしない。消費者を代表して発表を見聞しているという大義に基づいて,どのメーカーのどのタイトルも平等に扱うべきであり,そのへんのファンボーイのように振舞うわけにはいかない,という気どった自負心も垣間見える。どんな新作を見せても訳知り顔でうなずくだけだったり,会場の内外にいる仲間とスマホで連絡を取っているジャーナリストは主催側にとってうざったいだけで,丁寧に扱ってもメリットは乏しい。

 しかし,最近のプレスカンファレンスがやたらとショーの性格を強くしていることについて,筆者は不満を持っている。ご存じの人もいると思うが,多くの場合,ライブストリーミングなどで映し出される前方の席に座っているのは身内の人達で,彼らが大騒ぎすることで,会場が盛り上がっている雰囲気を映して伝える。これは,多かれ少なかれどこでもやっていることだろう。

Microsoftのメディアブリーフィングでのキアヌ・リーブスさんの登場に際しては,おそらくE3のカンファレンスで唯一と思われるリアルな歓声が起きた
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 確かに,新作タイトルを紹介するトレイラーが流れた直後,開発者が会場の拍手に迎えられてステージに立つという演出は理解できる。しかし,開発者がゲームを説明する大事なところで奇声が上がり,口笛が響き渡る意味はどこにあるのか。
 “テレビ映え”として,そうした演出は不可欠なのかも知れないが,興奮状態の人々の背後に押しやられている我々としては,その過剰な反応に苦笑するしかない。配信を視聴する側にとっては,たとえ演出でも盛り上がっている会場のほうが見ていて面白いだろうし,メーカーがどのようなことをしようと,それはメーカーの自由なのだが,例えば任天堂が長らく新作を紹介する映像配信のみを行い,ソニーが今年,プレスカンファレンスを取りやめたのは,単なるショーになってしまったイベントの無意味さを感じているからかもしれないのだ。

 プレスカンファレンスのパロディで始まったDevolver Digitalの配信は年々エスカレートしており,今年はさらに前衛的な内容になっていた。いっそここまでやってくれると面白い。

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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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