業界動向
Access Accepted第684回:地の底から這い上がってきたゲーム。開発者の愛とファンの期待
成功したゲームが必ずしも初めからファンに受け入れられていたわけではない。ローンチ時の出来の悪さにファンからは酷評を受けたが,その後も開発が続けられ,最終的にファンに受け入れられる作品にまで成長したようなケースも,珍しいことではなくなってきている。今回は,2020年に発売され今なおその渦中にある「サイバーパンク 2077」や「Marvel's Avengers」,そして過去に大どんでん返しに成功した,いくつかの作品を辿りつつ,努力を続ける開発者へのエールを込めてまとめておきたい。
ローンチにつまずいた2020年の大作タイトル
2020年12月,鳴り物入りで登場したCD PROJEKT REDの新作「サイバーパンク2077」(PC / PS4 / Xbox One)だが,そのPlayStation 4版ではゲームを強制終了させるバグなどが確認され,さらにはグラフィックスやパフォーマンスの最適化が十分に行われていないのではないか,と話題になった。発売から1週間後の12月18日,ソニー・インタラクティブエンタテインメントは,購入代金の全額返金とPlayStation Storeでの販売を一時中止することを発表した(関連記事)。
4か月以上前の出来事だが,そこからCD PROJEKT REDは細かいアップデートを繰り返し,ゲーム体験をより良いものにするべく改良を続けているが,未だにPlayStation 4版のデジタル販売は再開されていない状況だ。
最近でも警察との乱戦中に,後ろを振り返るとさっきまでいなかったはずの警官がポップしているというバグが修正されるなど,精力的に改善の努力が続けられている。そもそもあってはいけないものではあるのだが,起きてしまったものに対する努力には筆者も「尊敬の念を抱く」というのは言い過ぎとしても,応援したくなる情も湧いてくるというものだ。
「サイバーパンク2077」が抱えるやっかいな問題の多くは前世代機では簡単に克服できないのかもしれない。もし,ある時点で「次世代機専用(とPC)ゲームにします」と発表していれば,コミュニティからの批判を浴びることもなかったのではないかと,今さらながらに考える。とはいえ,その場合は,すでに予約されていた800万本をどうするのか,投資家たちをどのように説得するかなど,そこに至るまでのさまざまな問題があるし,そのハードルを越える時間も与えられることはなかっただろう。
もう1つ,同じように期待されながらも評価が芳しくなかったタイトルにCrystal Dynamicsが開発した「Marvel's Avengers」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One)がある。最近,クリエイティブ・ディレクターとして陣頭指揮を執ったショーン・エスケイグ氏(Shaun Escayg)が同社を離れ,古巣のNaughty Dogに戻ったというニュースが報じられた。
2020年9月に発売された本作は,致命的な技術問題こそなかったものの,プログレッションシステムやエンドゲームのコンテンツが単調すぎるという評価で,Metacriticでは100点中60点代後半(関連リンク)というものになっている。年末が近づくにつれて販売数やプレイヤー数が減少し,パブリッシャであるスクウェア・エニックスの業績にも少なからず悪影響を与えた。
もちろん,Crystal Dynamicsは非常に意欲的に改良を続けており,2021年3月18日にはPlayStation 5とXbox Series Xにも対応した。2021年夏にはDLC第3弾としてブラックパンサーにフォーカスする「Operation: Black Panther - War for Wakanda」もリリースされる予定だ。PlayStationプラットフォーム専用としてアナウンスされているスパイダーマンの導入は2021年のロードマップ(関連リンク)にもなく,保留されている状態だが,それはつまり新しいコンテンツがまだまだ導入されていくということを意味しているのではないだろうか。
長期間アップデートを続け,生まれ変わったゲーム
実際,これまでにもローンチ当初の批判を真摯に受け止め,ゲームコミュニティの意見をくみ取りながらゲームのアップデートを続け,多くのファンに支持されるようなゲームになった例はたくさんある。Bethesda Softwarksの「Fallout 76」や,Digital Extremesの「Warframe」,ちょっとアップデートとは規模が違うものの,スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV」もその範疇に含めていいかもしれない。
Rareが開発した「Sea of Thieves」は,Microsoftの傘下のゲームスタジオということもあり,Xbox Game Passに含まれているというある種の恩恵を受けているが,継続的なアップデートで3年前のローンチから大きく改善し,2021年の英国アカデミー賞(BAFTA)において,「Best Evolving Game」(成長を続けるゲーム)というカテゴリーで受賞をするに至った。
もう1つ,忘れてはならない作品がHello Gamesの「No Man's Sky」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One)だろう。前述した英国アカデミー賞のBest Evolving Gameに3年連続でノミネートされながらも,未だ受賞を受けておらず,これはむしろ3年間変わり続けているという証拠と言えるかもしれない。
「No Man's Sky」といえば,ローンチ直後の大炎上を克服し,いかにしてカムバックしてきたかの顛末がGDC 2019で語られた。詳細については取材記事を見てほしいが,これほどまでに自分の作品と真摯に向き合い,その向上に努めてきた例も珍しいだろう。
個人的には2019年8月にリリースされた,Version2.0アップデート「BEYOND」で“禊”はもう終わらせたのではないかと思うが,それから2年たった今もなお,アップデートが続けられている。感動を通り越して「次の作品を見せてよ」とさえ思ってしまうものの,クリエイターとして自分の作品に愛を注ぎ,その情熱をファンたちが受け止めている良い例であろう。
最近のゲーム業界のトレンドに「Game as a Service」(GaaS/サービスとしてのゲーム)というものがある。発売した時点で開発は終了という形ではなく,DLCやマイクロトランザクションにより,ゲームの生産性を長期的に保っていくための販売手法の1つなのだが,ルートボックス/ガチャ問題とも密接に関わってきた事情で,あまり聞き心地の良くない言葉と感じている人も少なくないだろう。
しかしながら,「マインクラフト」「オーバーウォッチ」「フォートナイト」,そして最近では「Among Us」のようなゲームジャンルの作品が大ヒットして長寿化していく傾向にある。無料でアップデートを続けていくことも“サービスの一環”であることに変わりない。
逆に「リリース時に完成度の高いゲームが少なくなった」という意見もときおり見かけるが,光ファイバーや5Gといった高速通信網が整備され,日常へと浸透していくにつれて,発売後も時間をかけてゲームを熟成させていくことに違和感を覚えなくなっているゲーマーは筆者だけではないだろう。そういったゲームの進化の過程を,我々は「Fallout 76」や「Sea of Thieves」,そして「No Man's Sky」といったゲームで実際に体験してきているのだ。
アップデートを繰り返しながら完成度を高めていくという手法は,デベロッパの開発力だけでなく,経済的な体力も必要だし,何よりもファンの信頼のもと「完成させることの大義」を勝ち取ることも必要だ。「サイバーパンク 2077」や「Marvel's Avengers」のようなタイトルは,長い目で見ていくことが必要であり,他のゲームをプレイしながらも,ときおり,時間を見つけてはプレイしてみたいと思わせるものがあると筆者は考える。1年後,2年後にどのような作品に成長しているのか,楽しみにしたいところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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