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Access Accepted第762回:強気の買収攻勢をかけていたEmbracer Groupが大規模なリストラプログラムを発表
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印刷2023/07/03 11:00

業界動向

Access Accepted第762回:強気の買収攻勢をかけていたEmbracer Groupが大規模なリストラプログラムを発表

画像集 No.009のサムネイル画像 / Access Accepted第762回:強気の買収攻勢をかけていたEmbracer Groupが大規模なリストラプログラムを発表

 さまざまなゲーム企業やスタジオを子会社に抱えるEmbracer Groupが,大規模なリストラの実施を発表した。ここ5年ほどの間に,Gearbox SoftwareやMiddle-Earth Enterprisesなどを傘下に収めてきたが,今後はスリム化を進めながら,プロジェクトの量より質を重視せざるを得ない状況にあるようだ。


買収を繰り返して急成長したEmbracer Group


 スウェーデンのカールスタードに本社を置くEmbracer Groupは,ゲーム業界の大手パブリッシャの1つに数えられる。同社については「第678回:姿を消していく欧米の中堅デベロッパ」などで紹介しているが,現在のCEOであるラース・ヴィンゲフォシュ(Lars Wingefors)氏によって2008年に創設されたNordic Gamesを前身とする。
 Nordic GamesはオーストリアのJoWooD Entertainmentや,カナダのDreamCatcher Interactiveなど,経営破綻した中小ゲーム企業の資産を買い取ることでゲームIPを増やし,ホールディングカンパニー(持ち株企業)として急成長を果たした。

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 また,2012年にアメリカのTHQが事実上の倒産に陥った際には,「THQ」の登録商標を取得し,2016年には消費者へのブランド浸透を狙って「THQ Nordic」へと社名を変更した。同年,Nasdaq First Northに上場し,2018年2月には旧THQから「セインツロウ」などのIPを取得して成長を遂げていた,Deep Silverブランドで知られるKoch Media(現PLAION)を買収している。
 これにより,Ubisoft Entertainmentに次ぐヨーロッパ第2位のパブリッシャとしての地位を築いたことは,「第565回:THQ NordicがDeep Silverを買収して欧州最大級のパブリッシャに」でも述べている。
 さらに2018年8月には,ゲームビジネスへの投資のノウハウを得るためにGoodbye Kansas Game Invest(現Amplifier Game Invest)を買収し,11月には「Goat Simulator」で一世を風靡したCoffee Stain Studiosを傘下に収めることに成功した。企業買収によって大きく成長して,2019年9月にはグループを統括するホールディングカンパニーとしてEmbracer Groupが誕生した。

 その後もEmbracer Groupはさまざまな買収攻勢をかけ,THQ NordicとPLAIONをはじめ,買収調査や研究開発を目的とする企業を抱えるAmplifier Game Invest,インディーゲームの発掘を行うCoffee Stain Studios,元id Softwareのティム・ウィリッツ(Tim Willits)氏をスタジオディレクターとして招聘していたSaber Interactive(2020年2月に買収),F2Pやモバイルゲーム部門であるDECA Games(2020年8月に買収)という6つのレーベルによる運営体制を確立している。
 例えば,「メトロ エクソダス」の4A Games(2020年8月に買収)はSaber Interactiveに,「Shadow Warrior」シリーズのFlying Wild Hog(2020年11月に買収)はKoch Mediaに帰属させている。

Embracer Groupという企業名はそれほど浸透しているとは言えないものの,THQ NordicやPLAION,Gearbox Softwareといったブランド名はご存じだろう
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止まらない肥大化。現在は138のプロジェクトが進行中?


 Embracer Groupによる買収攻勢はさらに続き,2021年2月に複数の買収合意が明らかにされている(関連記事)。当時の目玉だったGearbox Softwareは独立した第7レーベルに,またモバイル向けパズルゲームの開発チームであるEasybrainが第8レーベルとなった。同時期には,Macへの移植で有名なAspyr Mediaも傘下に加わり,Saber Interactiveの一部門として収まっている。

 2021年12月には,ボードゲーム市場に進出すべく,第9のレーベルとしてAsmodeeを買収し,中国資本だったPerfect World EntertainmentをGearbox Softwareの傘下に加えた。そのうえ,「ヘルボーイ」などの数々のコミックスで知られるDark Horse Media(2022年3月に買収)を第10レーベルにすると,2022年5月にもスクウェア・エニックスのヨーロッパ開発支部だったSquare Enix Europeを取得。「トゥームレイダー」や「Deus Ex」などの資産は,新たに設立された第11レーベルのCDE Entertainmentが管理することとなった。
 そして2022年8月,J.R.R.トールキンの「指輪物語」の資産を保有するMiddle-Earth Enterprisesを買収したことで,運営グループであるFreemodeを設立。ここに現在の12レーベルによる運営体制が完成した。

ここにスクウェア・エニックスから買収した旧Eidos InteractiveやCrystal Dynamicの資産を担うCDE Entertainmentを加えた,12レーベルによる運営体制になっている
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 このほかにも,「Arizona Sunshine」などのVRゲームで知られるVertigo Games(2020年9月に買収),「Duke Nukem」の3D Realms(2021年8月に買収),日本の企業であるTATSUJIN(2022年8月に買収),そして「Killing Floor」のTripwire Interactive(2022年8月に買収)など,Embracer Groupに吸収されたゲーム企業を挙げていくとキリがない。
 現在は世界40か国に,138のパブリッシャや開発スタジオを保有し,従業員は約1万6600人にのぼる。獲得したIPは850と言われ,まだアナウンスされていないプロジェクトも含めると138のゲームを開発しているという。Gearbox Softwareの買収がアナウンスされた2021年春の公開情報では,59の傘下企業,5500人の従業員だったので,2年で3倍の企業規模に成長したことになる。

「指輪物語」の資産がEmbracer Groupに帰属していることに驚く人も多いだろう。ボードゲームのAsmodeeや,コミックス出版のDark Horse Mediaなど,ゲーム事業だけに留まらない事業展開が期待されている
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 しかし,余りにも拡大の速度が急すぎたのか,12レーベルや傘下スタジオの代表作を見ても,その保有資産がうまく生かされているとは言い難い。最近,目立ったところでは,今年4月にリリースされたPLAIONの「Dead Island 2」がグループ史上最大のヒット作になったことくらいだろうか。
 この1年の間にリリースされたタイトルとしては,Deep Silverの「セインツロウ」,THQ Nordicの「Destroy All Humans! 2: Reprobed」,Saber Interactiveの「Evil Dead: The Game」「Gloomhaven」,Coffee Stain Studiosの「Goat Simulator 3」が思い浮かぶのだが。

Embracer Groupは倒産した企業からIPを買収するだけでなく,開発チームごと買い取るような温情のある買収も多い。オリジナルチームであるVolitionが開発を担当した「セインツロウ」(2022年)もそんな作品の1つだ
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 Embracer Groupの公式資料(※リンク)では,「買収によって有能なタレントやIPを確保し,長期的にIPを育ててキャッシュフローを増やしていく」という企業戦略が紹介されているが,現時点では後半部分に追いついておらず,開発費や人件費がかさんでいるようだ。
 2022〜23年度(2022年4月〜2023年3月)の収益は決して悪くはなく,376億クローナ(約5018億円)の売上となっているものの,買収費用(約148億クローナ),セールスや広報を含む運営費(約87億クローナ),そして人件費(約125億クローナ)などの出費は多く,金利税引前利益(EBIT)は当初の予想から約1/3に縮小された。


今後は拡大ではなく縮小,量より質へ


 Embracer GroupのCEO ヴィンゲフォシュ氏は2023年6月13日,全社員に宛てたメールを送信し,それを公式サイトでも公開している(※リンク)。「CEOによるリストラプログラムに関する公開書簡」(OPEN LETTER BY EMBRACER GROUP CEO ON RESTRUCTURING PROGRAM)と題した文書では,「本日紹介するプログラムは,今年の当社を多額の投資モードからキャッシュフローを生み出すビジネスに転換するもの」とし,2024年3月までに数々のコスト削減,資本配分の調整,効率性の向上,そして統合などを,3つのフェーズにわたって行う予定を伝えている。
 その中には,「適正なレビュープロセスを経た上での」プロジェクトの中止や無期限停止,そして人員削減やスタジオの閉鎖も含まれているとのこと。大規模なリストラは避けられない模様だ。

大胆なリストラ計画を公表したEmbracer GroupのCEO,ラース・ヴィンゲフォシュ氏
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 Embracer Groupは数年間にわたり,高額な「ショッピングモード」を繰り返してきたが,利益を得るために買収を行う自転車操業で急激に成長してしまった。海外メディアのVariety(※リンク)が報じているように,Middle-Earth Enterprisesの買収に3億9500万ドル(約570億円)を費やしたことも,業績の低迷につながったのは確かだろう。

 一方,海外メディアのAxios Gaming(※リンク)は大幅な方向転換の要因として,Savvy Games Groupからの20億ドルに及ぶ追加投資の交渉が決裂してしまったことを挙げている。「第754回:油田からゲームへ。次世代ゲームハブへと転身を図るサウジアラビア」でも紹介しているが,サウジアラビアの公共投資基金(PIF)のバックアップを受けたSavvy Games Groupは,「サウジ・ビジョン 2030」の実現に向けてゲーム産業に巨額投資を続けており,Embracer Groupにも10億ドルの投資を行い,8.1%の株式を保有している。

1年ほど前のRedditユーザーが掲載した表(※リンク)。Embracer Groupの傘下企業や開発スタジオの数が際立っている
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 この6週間ほどで株価が約45%の落ち込みとなったEmbracer Groupだが,「Remnant II」「Warhammer 40,000: Space Marine 2」「PAYDAY 3」「Hot Wheels Unleashed 2 - Turbocharged」「Arizona Sunshine 2」,そして「Alone in the Dark」「Homeworld 3」「Jagged Alliance 3」といった,現在進行中のプロジェクトに影響はほぼないとしている。
 しかし,プロジェクトの遅延が相次ぎ,開発費や人件費の高騰,さらにトランスメディア化でもうまくシナジー効果を発揮できていない様子。今後は企業グループとしてのスリム化を進めながら,プロジェクトの量より質を重視せざるを得ない状況だろう。結果として生じるスタジオ閉鎖やプロジェクトの凍結なども含め,同社のリストラプログラムの行く末は注視しておきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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