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Access Accepted第793回:2020年に始まったEpic Games VS. Apple / Googleの現在地
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印刷2024/05/13 14:30

業界動向

Access Accepted第793回:2020年に始まったEpic Games VS. Apple / Googleの現在地

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 Epic Gamesが「App Storeでの独占的な地位を利用して競争を不当に妨げている」とAppleとGoogleを訴えてから,すでに4年近くが経過する。2021年の判決では事実上Appleの勝利となり,2023年にはGoogleが敗訴するというなんとも煮え切らない判決が出ている。今回は,やがては最高裁まで持ち込まれるであろう本件について,その経緯と現状をまとめておきたい。


Appleには負けてGoogleに勝ったEpic Games


 「フォートナイト」で知られるEpic Gamesが,AppleとGoogleを相手に訴えを起こした問題については,当連載「第657回:Apple対Epic Games:「フォートナイト」のプレイヤーを巻き込んだ戦いの幕開け」でも詳しく紹介したとおりだ。

 事の発端は,2020年8月13日にEpic Gamesが独自の課金システム「Epic ダイレクトペイメント」を開始したことに対し,「App Store」と「Google Play」から「フォートナイト」が削除されたことだ。

 訴えた内容は,「App Store」や「Google Play」が築き上げた独占的な地位を利用し,独自のペイメントシステムやオンラインマーケットプレイスのサービスを活用した自由な商行為が阻害されている,といったものになるが,Epic Gamesも即日,両者を相手に訴訟を起こしているあたり,この流れはEpic Gamesにとって想定済みの話ではあったようだ。

 この訴訟でよく取り上げられる例として,ユーザーがゲームを製作し,それを販売する「Roblox」があるが,“Robloxはゲームではなく体験型プラットフォーム”と規定されており,「フォートナイト」とはまったく異なるものであると,Appleは強調して反論してきた。

「フォートナイト」は,もはやゲームではなく“メタバース”としてEpic Gamesには定義されている。スマートフォンのユーザーが,再び同作に入り浸れる日は年内中に来るのだろうか
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 結果として,2021年9月10日の米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所は,裁判に提出された10項目のうちの9項目でAppleに非がないという判決を下しており,Epic Gamesのティム・スウィーニー(Tim Sweeney)氏は「この判決は,デベロッパにとっても消費者にとっても勝利とは言い難い。Epicは10億人の消費者のため,アプリ内決済やストア間の公正な競争のために戦う」とコメントを残している。

 なお,残りの1項目は,「App Store内で異なるペイメントシステムの参入を妨げている」というカリフォルニア州のCalifornia Unfair Competition Lawへの違反行為であり,Appleはこの部分での改善を求められた。双方ともに判決に対して不服の申し立てを行ったが,どちらも門前払いされている。

膨大な資料と共に,連邦地方裁判所での公聴会に挑むEpic Gamesのティム・スウィーニー氏(画像はThe New York Timesより転載)
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 こうした流れを受け,2022年1月にはMicrosoftやElectronic Frontier Foundation,そして35州の代表者がEpic Gamesを支持し,第9巡回区控訴裁判所にて2022年11月14日から審問が始まっている。

 2023年4月には地方裁判所での先の判決の一時停止が決定したが,まだ最終的な判断は行われていない。また,Epic GamesとGoogleの裁判については,2023年12月にGoogleの反トラスト法違反をカリフォルニア州の地裁で認定されているが,こちらもGoogleが上訴している状態にあり完全に決着してはいない。

Appleが2020年11月に発表した中小のアプリデベロッパ向けのパートナープログラム「App Store Small Business Program」は,販売手数料が30%から15%に引き下げられるというもの。大きな流れのなかでの歩み寄りも見せている
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裁判の現状とEpic Gamesの目的は?


 2024年に入ってからもAppleとEpic Gamesの係争に動きがあり,Appleはデベロッパガイドラインの改定を行い,アメリカでの取引限定ながらもApp Store内でのダイレクトペイメントの利用をサードパーティに認めることになった。

 しかし,これは実質的には形だけのものでダイレクトペイメントのトランザクションには27%の手数料が課せられるという。そのため,3月14日にEpic Gamesは「サードパーティのダイレクトペイメントを認めるという2021年の判決をApple側が順守していない」と糾弾している。

 そして,その1か月ほど前の2月17日にEpic Gamesは,iOS版「フォートナイト」の販売を欧州で再開することと,それをEpic Games Storeがサポートすることを公式Xでアナウンスしている。

 これは,Epic Gamesのスウェーデン支社となるEpic Games Sweden ABのデベロッパアカウントがAppleに認可されたことによる発表だったが,3月6日になってAppleが認可を取り消してしまう。

 Epic Gamesは,このAppleの心変わりを欧州委員会が制定するDigital Markets Act違反であると公式ニュースで訴え,8日までにはその判断を覆した。

 このようにEpic GamesとAppleの確執は悪化の一途をたどっているが,Game Developers Conference 2024に合わせて3月20日に開催された「State of Unreal」でEpic Gamesは,「2024年中にはiOSとAndroidでフォートナイトの販売が再開されるとともに,Epic Games Storeがサービスインする」とあらためてアナウンス(関連記事)している。

「Epic Games Storeが年内にもiOSとAndroidに来る」と明言したEpic Gamesだが,アプリとして登場するのか,「GeForce Now」のようにブラウザ対応するのか。Epic Games対Apple/Googleの裁判所における係争の行方は,デベロッパや消費者にとっても大きな意味を持つ
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 State of Unrealでは,すべてのデベロッパがプラットフォームでの販売に自由に参加できることは公言されたものの,現時点では欧州圏のみで展開するのか,どれほどの規模になるのかといった詳細は公表されていない。

 Epic Games Storeの「30%よりも12%の手数料」という謳い文句は,アプリのデベロッパにとっては大きなアピールとなるだろうが,Googleとの係争に関する公聴会は5月23日に始まる予定となっており,Epic Gamesが事前に大口を叩いたのは,かなり挑発的な発表であると見ることもできる。

 こうなると「Epic Gamesは,やがてはゲーム市場の本丸であるSony Interactive Entertainmentや任天堂,Microsoftを訴え始めるのではないか」と思う人もいるかもしれない。

 しかし少し古い話ではあるが,2021年のForbes誌の記事によると,2018年から2020年の3年間で「フォートナイト」が獲得した収益の実に46.8%がPlayStation 4によるもので,iOSは7%でしかなかった。また,そうした蜜月の関係はソニーがEpic Gamesの株式5.4%を保有する大口株主であることからも分かるはずで,20年にもわたる持ちつ持たれつの信頼関係はそう簡単には破られないだろう。

 コンシューマプラットフォームを除くと,Epic GamesのライバルになるのはSteamを運営するValveだが,年間7億ドルもの資金を使って無料ゲームを配布したり,エクスクルーシブタイトルを獲得したりしてEpic Games Storeの利用者数を徐々に伸ばし,2023年12月時点でSteamの1億3200万に対して,Epic Games Storeも7500万人ものアクティブユーザー数を獲得している。ただし,ユーザビリティの観点ではまだまだPCゲーマーの評価は高くないというのが現状だろう。

 そのために,App StoreやGoogle Playに風穴を開けることで新天地を切り開こうというEpic Gamesの思惑も見え隠れするが,ゲーム開発者や消費者が最大の利益になるのは何なのかを,我々もしっかりと考えていきたいところだ。

GDC 2024におけるEpic Gamesのブースにて。「フォートナイト」のマスコットキャラである“リャマ・ピニャータ”の巨大レゴが展示され,集まった開発者たちにも人気だった
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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