［TGS 2019］ゲーマー向けPCでは放熱，アップグレード，拡張性を重視。Dell上級副社長Ray Wah氏にALIENWAREが重視することを聞いてみた

Ray Wah氏（Senior Vice President，Consumer Product Group，Dell Technologies）

　既報のとおり，Dellは，TGS 2019に合わせてゲーマー向け製品ブランド「ALIENWARE」および「Dell G」のPCおよび周辺機器多数を発表した。
　4Gamerでは，TGS 2019での発表イベント後に，Dellにて一般消費者向けビジネスを統括する上級副社長兼ジェネラルマネージャーのRay Wah（レイ・ワー）氏にインタビューをする機会を得た。そこで，ALIENWAREが注力する「Legendデザイン」の話題など，さまざまな話を聞くことができたので紹介しよう。
　なお，発表となった新製品については，以下の記事を参照してほしい。


4Gamer：
　9月12日は，ずいぶんたくさんの製品が発表となったので，ちょっと驚きました。新しい「ALIENWARE AURORA R9」（以下，AURORA R9）が出てくるのは予想していたのですが，55インチの有機ELディスプレイ「AW5520QF」を日本市場に投入するとは予想外でした。あれは欲しいですね(笑)。

Ray Wah：
　ありがとうございます(笑)。

AW5520QF

4Gamer：
　答えにくい質問かもしれませんが，まず初めにお聞きしたいことがあります。Alienware共同創業者であったFrank Azor氏がAMDに移籍したニュースには，非常に驚きました。ALIENWAREとDell Gにとって彼の役割は非常に大きかったと思うからです。
　彼が担当していたゲーマー向け製品ビジネスでの役割は，今，誰が担当しているのでしょうか。

Ray Wah：

Frank Azor氏（Chief architect，Gaming Solution，AMD）。写真は氏の移籍を報じたAMDのCEOであるLisa Su氏のツイートより引用

　Frankから移籍の相談を受けたとき，「ずいぶんと若い頃からALIENWAREでキャリアを積み重ねて，かなり年月も経ったので，そろそろ新しいことに挑戦してみたい」と述べていました。彼が新しい職務で成功していくことを願っています。

　さて，私は，Dellの一般消費者向けビジネス，つまりXPSやDell Gaming，そしてALIENWAREを網羅しています。Frankは，私の部下というポジションで，ゲーマー向け製品（ALIENWAREとDell G）を担当していたわけです。
　我々は，Frankだけでなく，優れた人材を集めた強力なチームを持っていますので，さまざまな人が集まって，ゲーム関連の計画や企画の策定をしています。ゲーム業界において著名なALIENWAREというブランドには，さまざまなイノベーションや新たなアイデアを投入し，そして，さらに顧客体験も向上していかなくてはなりません。

Area-51m。CPUとGPUを交換可能な大型ノートPCで，Legendデザインを初めて採用したPCでもある

　Dellは，イノベーションを追求してきた企業であり，そのために最新の技術を投入して，さまざまなアイデアを業界にもたらす企業です。たとえば，私共だけが，55インチでリフレッシュレート120Hzの有機ELディスプレイを提供していますし，CES 2019では「ALIENWARE Area-51m」（以下，Area-51m）を発表しました。これは最強のノートPCであると自負しています。
　彼が担当していた職務は，誰もがやってみたいと思うような魅力ある仕事ですので，さまざまな人が立候補していまして，面談も積極的に行っています。

4Gamer：
　なるほど，そのArea-51mもそうですが，Legendデザインの導入など，最近のALIENWAREは，今までと違った方向性をアピールするようになってきました。黒くて四角くて宇宙船のようなALIENWARE製品のイメージから脱却を目指しているように思います。なぜ従来のイメージとは大きく異なるデザインを採用しようと決めたのでしょうか。今までのファンから反発を受けるかもしれない，リスクのある決断のように思えますが。

Area-51mの背面

Ray Wah：
　いい質問です。ALIENWAREの歴史に立ち戻っていただく必要がありますね。ALIENWAREというブランドは，その名に合ったデザインを作り上げていくブランドの良い事例です。ALIENWAREはこれまでに，SFや宇宙船，エイリアンといった魅力的な要素をデザインに落とし込んだ，さまざまな機器を開発してきました。
　これまでのデザインは，ご指摘のように角張ったデザインで，LEDイルミネーションを付けて，色もかなり暗めの色を選択していました。我々のデザインに関する方針は，非常に成功してゲームコミュニティの中に受け入れられました。SFやエイリアンとはまるで関係のないブランドまで，我々の真似をし始めたこともありました。
　そんなこともあり，我々は社内のデザインチームに対して，「業界のトップを走るものとして，今までと同じことを続けるのではなく，別のことを考えたほうがいいのではないか」という問いを与えたのです。

　だからといって，我々が今までに作り上げたアイコンや性質，設計における一貫性をなくそうというつもりはありません。そのために，デザインチームから選りすぐりのメンバー20名ほどを集めて，彼らが1万7000時間以上を費やして，1100を超えるデザインのインプレッションを作成しました。（ALIENWAREのオフィスには）私たちがデザインルームと呼んでいる広い部屋があるのですが，その壁4面すべてにさまざまなデザインを貼り付けて，再デザインの考察をしたわけです。

　そうした試みの結果，SF的という切り口は残したまま，より清潔感に溢れ，より理路整然とした方向性をデザインしました。3本のラインによるLEDから，楕円のようなLEDのラインに変えたのもその一例です。しかし，我々が持っているアイコンと呼べる一貫性は失わないようにしています。

Legendデザインの特徴である楕円形のLEDラインは，PCだけでなくディスプレイにも取り入れられている。左はAURORA R9，右はAW5520QF

Area-51mの底面には，六角形を並べたような吸気孔がある

　今までの物とは，かなり違う印象を持つデザインかもしれませんが，一方でよく見ていただきますと，放熱孔部分の六角形などは，従来のデザインから継承したものです。このデザインをCES 2019で発表して以降，多くのお客様から好評を得ました。

　もう1つ，デザインに関する用件として，たとえばPCをかなり離れたところから見たとしても，「あれはALIENWAREだ」と絶対に間違えないような見た目にするという点は変わっていません。ポルシェのスポーツカーは，少し離れたところから見ても他社の車と見間違えませんよね。
　誰にでも区別が付くデザインというのを私たちは重視しており，この難しい課題を成し遂げたデザインチームを私は誇りに思っています。

4Gamer：
　たしかに，Legendデザインの製品は，ほかの何にも似ていない。他社の製品と見間違えることのない個性的なもので，とても良いデザインだと思います。

Ray Wah：
　ありがとうございます(笑)。

4Gamer：
　Dellのゲーマー向けデスクトップPCは，比較的サイズの大きい製品が多く，たとえばキューブ形状のPCや，かつてのMac ProのようにコンパクトなゲームPCはラインナップにありません。小型のゲームPCを展開する可能性はありませんか。

Ray Wah：
　Area-51mは小さいPCですよ(笑)。なので，ラインナップにないわけではないですし，小さいPCでもデスクトップPC並みの性能を有しています。

　しかし，PCでそれなりの性能を得るためには，高い電力と電源ユニットが必要になります。そのためのアクティブな冷却システムも必要で，きちんとした放熱対策をしなくてはなりません。ゲーマーにとって，ゲームが盛り上がっているときには一瞬たりとも性能が落ちることは許されないことです。
　いろいろなお客様から言われ続けていますが，ゲームPCにとって最も重要なことは3つあります。すなわち熱対策，アップグレード性，拡張性です。この3要件を適切に組み合わせることで，最良のゲームPCができあがると思います。

4Gamer：
　発表会での質疑応答でも，DellのPCはユーザーによるアップグレードを重視していることを述べていらっしゃいましたが，それが理由なのですね。

Ray Wah：
　そうです。たとえば新しいゲームや，ゲームの新バージョンが出てきたときに，必要なグラフィックス性能が変わることがあります。そうなると，ユーザーはGPUを増強する必要に迫られますね。DellのデスクトップPCであれば，アップグレードの能力がありますので，ゲームの要求に合わせてアップグレードできます。

4Gamer：
　ノートPCについてもお聞きしたいことが。ALIENWAREは，ノートPCで有機ELパネルを採用することに積極的です。しかし，業界の競合を見渡してみますと，有機ELパネルをゲーマー向けノートPCで採用するベンダーは，あまり多くありません。Dellは，なぜALIENWAREで有機ELパネルを採用し続けるのでしょうか。

Ray Wah：

「ALIENWARE m15」は，ディスプレイに有機ELパネルを選択できる

　お客様にとって良い選択肢を提供するためです。たとえば，私共はリフレッシュレート240Hzの液晶ディスプレイもラインナップしております。しかし，お客様の中には別の観点，たとえば，より良いコントラスト比であったり，鮮明な色表現だったりを求める人もいます。そういった方に向けて，有機ELパネルを採用することはとても重要です。
　ほかにも，「60Hzで問題ないけど，それよりも動画視聴時の体験が良くなってほしい」とか，コンテンツ制作用途に使うので，グラフィックス表現に重きを置いた仕様を求めるお客様もいます。こうした要望は，私共が有機EL搭載製品開発のモチベーションになるのです。実際，有機ELパネル対応ノートPCにおける装着率（※BTOで有機ELパネルを選択するユーザーの割合）は，とてもいいという事実もあり，それが採用する理由です。

4Gamer：
　Dellは，ゲーマー向けデスクトップPCではRyzenプロセッサ搭載モデルをラインナップしていますが，ゲーマー向けノートPCではなかったと思います。ノートPCでRyzenを採用するプランはありませんか。

Ray Wah：
　ゲーマー向けでなければ，Ryzen搭載のノートPCもありますよ。
　私共は，常に新しい技術やイノベーションへの評価を続けています。実際にどのような製品がロードマップにあるのかをお伝えすることはできませんが，主要なパートナーの新規技術は常に評価したうえで，お客様に最良の体験をしてもらえるものを，という観点で選んでいます。

4Gamer：
　国内ではRyzen搭載のゲームPCがラインナップにないので，ぜひ日本でも販売してほしいですね。

Ray Wah：
　なるほど。

4Gamer：
　ところで，今回発表となった「Dell G5 Gaming Desktop」は，Amazon.co.jpでも販売（※リンクはAmazonアソシエイトリンク）していますが，今後もAmazonで扱うラインナップを増やす考えはありますか。

Dell Japan
　今，Amazon様ではゲーマー向け製品に非常に注目されており，期待される領域になっています。一方，以前からDellは，Amazon様と協業させていただいており，ゲーマー向けだけではなく売れ筋の製品を展開しています。ですので，ゲーマー向け製品の売れ行きがこのまま良ければ，さらに拡大することも考えられるのではないかと思います。
　今までも（Amazonで）販売はしていましたが，今回はDellでの発売と同時にということもあって，ちょっと目立っているかもしれません。

Ray Wah：
　北米でも，以前からAmazonとパートナーシップを組んでいますよ。

4Gamer：
　ありがとうございます。次の大きな発表があるとしたら，2020年1月のCES 2020でしょうか。楽しみにしています。

ALIENWARE 公式Webサイト

4Gamerの東京ゲームショウ2019特設サイト