インタビュー
[E3 2011]ゲームの基本はシンプルなインプットに対して,ゴージャスなアウトプットが返ってくること――板垣伴信氏が語るゲームの根底にある面白さとは
あれから1年。なかなか新たな情報が出てこなかった本作だが,つい先日,E3の直前に「タレントのレイザーラモンHGさんが,ヴァルハラゲームスタジオを訪問する」という奇抜な内容のプロモーションムービーを公開。「なんだこれは?」という反応も含めて,プレイヤーの間で話題になったのは記憶に新しい。
今回4Gamerでは,板垣氏にインタビューする機会を得て,「Devil's Third」のことを皮切りに,氏のゲーム制作に対する考え方やポリシーについて,さまざまな角度から話を聞いてみた。
これまでに数多くのアクションゲームを制作し,世界中で人気を博してきた板垣氏の作品だが,なぜ彼のゲームは人種を問わず多くの人間に受け入れられてきたのだろうか?
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「ヴァルハラゲームスタジオ」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
こちらこそよろしく。
4Gamer:
まずは昨年のE3以降,なかなか新たな情報や素材が出てこない「Devil's Third」の,開発状況についてお聞きできればと思います。
板垣氏:
いくつかのことを同時にやっていたんだけど,ようやく開発環境が完全に整ったという段階。まぁいろんなエンジンを検証してたんだけど,ミドルウェアはどれ使うかとか,あるいはパイプラインをどうするか,ゲームデザインとか含めて,どういう遊びにするかっていうのは大分まとまったところです。
4Gamer:
前に公開された映像のバージョンから,何か大きく変わった部分というのはありますか。
板垣氏:
実際にゲーム自体もかなり動いているんだけど,操作系とかはだいぶ変わりましたね。ゲームシステムもかなり変わっています。そのあたりについては,今度の東京ゲームショウで,きっとクローズドって形になるとは思うけど,僕が実際にプレイして,皆さんに見てもらおうと思ってますよ。
4Gamer:
すでにゲーム自体は結構動いているんですね。
板垣氏:
はい。
4Gamer:
「Devil's Third」は,近接戦闘とシューティングの要素を融合させた作品とのことですけど,他の作品……例えば「Gears of War」や「Call of Duty」などと比べると,端的にどういう部分が異なるのでしょうか?
板垣氏:
まず「違い」って部分で言うとしたら,既存のシューターっていうのは,クロスコンバットが“極めて不自然”だよね。そこが不満。例えば,敵が至近距離にいても,ひたすら銃を打ち合ってるじゃない。シンプルなところでいえば,それだけで滑稽なんだよね。
4Gamer:
確かに。
板垣氏:
だって実際の兵士は,軍用の格闘技や剣術を知ってるわけでしょう? だから,もっとリアルに。人と人との命の取り合いというところを描きたいね,っていうのが根本だよね。
4Gamer:
それはゲームのシステムでいえば,例えば「距離によって発動するアクションが柔軟に変わる」とか,そういうシステムで表現されるって意味ですか?
板垣氏:
変わるというか,変える。自分のとりたい行動が普通にゲームでやれるってだけなんだけど,ベーシックなシューティングゲームよりも,出来ることが山ほど多いよ。
そもそもよくあるFPSとかって,鉄砲撃って,あるいはグレネード投げるだけじゃない。あとは武器の種類を選ぶくらい。
もちろん,シンプルだからこそ良いってところはあるわけだけど,やっぱり現実世界での,人と人との命の取り合いっていうことに照らし合わせて考えると,それはちょっとゲームゲームしすぎてるかなって感じがあるんだよね。
4Gamer:
それはつまり,いわゆる既存のFPSとかTPSなんかとは,プレイフィールがぜんぜん違うというイメージでいいんでしょうか。
板垣氏:
うん。ただし基本的には,あくまでも「シューター」です。ただ,例えば「バーチャファイター」と「DEAD OR ALIVE」ってぜんぜん違う感覚のゲームでしょう。だけど,バーチャファイターのプレイ感覚で遊んでも,一応は楽しく遊べるように作ったわけです。
そういう意味では,今までのシューターのセオリーもちゃんと通用するように作ってあります。だけど,Devil's Thirdで上手くなる,あるいは勝ちたかったら,やれることはもっといっぱいあるわけだ。選択できる戦術が非常に幅広いんですよ。
4Gamer:
それは,トレイラームービーで見せていた「壁を走る」みたいな部分も含めて?
板垣氏:
そういう要素も作っているね。
4Gamer:
「勝つには」というお話がありましたが,本作のマルチプレイでは,なにか変わったモードとかシステム搭載する予定はあるんですか?
板垣氏:
ああ,ありますよ。
というか,結局マルチプレイヤーのルールっていうのは,ゲームのメカニズムに依存するわけじゃないですか。言ってしまえば「こういうゲームだから,こういうルールが作れます」って話だよね。
その意味では,Devil's Thirdもシューターなので,当然ながら既存のシューターにあるようなルール……例えば「Kill&Death」とか「Capture The Flag」とか,ああいうのはいくらでも入れられますね。実際,入れるつもりですし。
4Gamer:
なるほど。
板垣氏:
だけど,Devil's ThirdにはDevil's Thirdにしかないフィーチャーってのがあるわけでしょ。だから,そういうルールも当然たくさん入ってきますよね。
4Gamer:
今の段階で,「例えばこういうルール!」と具体的に言えるものってありますか?
板垣氏:
うーん,そうだな。この間,社内で大会を開いたんだけど,回し蹴りだけで全員殺した奴がいたんだよね。例えばだけど,そういうミッションを作ってもいいじゃない。それが面白いかどうかは別にして。
ただそこで重要なのは,それは「回し蹴りが気持ちいいから,そういうルールが成り立つ」ってところなわけです。
4Gamer:
ああ,なるほど。
板垣氏:
まず「回し蹴り」というものがゲームにあって。俺達は,モーションやアニメーションのプロだから,「気持ちのいい回し蹴り」を作れる。だから面白いんですよ。
それが凄いショボイ蹴りモーションだったら,蹴りたくもないし,ましてや全員を倒せとか言われても,それはゲームにならないでしょ(笑)。
4Gamer:
確かに。アクションゲームにおいて,そのシンプルな快感こそが大事という話ですよね。
板垣氏:
そうそう。要するに,そのゲーム独特のメカニズムとか,コンテンツの素晴らしさや美しさというものがあれば,それだけルール(遊び)というものはいくらでも作れるわけです。
4Gamer:
少しDevil's Thirdからは話が逸れるんですが,板垣さんは,NINJA GAIDENとかDEAD OR ALIVEとか,アクションゲームいろいろと作られてきたじゃないですか。今回のDevil's Thirdとも共通する,板垣さんがアクションゲームに対して求める面白さというのは,どのような部分なんでしょうか。
板垣氏:
共通するというか,ゲームの根底というのは,「シンプルなインプットに対して,ゴージャスなアウトプットが返ってくる」って部分。これが基本だよね。
4Gamer:
“ゴージャスなアウトプット”っていうのは,モーションとか打撃音の気持ち良さとか,そういうシンプルな意味での気持ち良さのことを指しています?
板垣氏:
そうそう。演出も含めてね。あと大事なのは応答性。応答性が悪いとさ,これは,俺のスタッフならみんなが知っている言葉だけど,「指が“癌”になっちゃう」んですよ。
4Gamer:
といいますと?
板垣氏:
気持ち悪くて,もう指が癌になる。ボタン押してるのに入力が飲まれるとか。押したつもりがないのに動くとか。うーん,例えばパンチ4発のコンボを出そうと,お客さんが5回パンチボタンを押しちゃったとしたら,それは4発のコンボが終わった時点で止めてあげなきゃだめなわけ。それがそうならずに,コンボが終わってニュートラルに戻った後に,余計なパンチが出たりしたら気持ち悪いわけですよ。だから応答性といったって,ただ直結させりゃいいってわけじゃない。お客さんの操作の意図をくみ取ってあげないといけないわけ。逆もしかりですよ。例えばこうやって押している(実際にコントローラーを触りながら)のに,開発者の勝手な都合で,そこの入力受け付けてなかったりするのは気落ち悪いでしょ。
パンチとかはコントローラーを押す音と,ゲーム側のヒット音が同じタイミングで鳴るくらいでなければならないのだけれど,ここにタイムラグがあったり,あるいは戻りの合間にボタンを押しても反応がありませんとかさ。そういうゲームは,俺はやらないし作らない。ベースはそこだよ。
4Gamer:
うーん,説得力あるなぁ(笑)。
板垣氏:
でも,そういうゲームも多いよね(苦笑)。
板垣氏が考える「世界で受け入れられるゲーム」
4Gamer:
これは,板垣さんに一度聞いてみたいなと思っていたんですけど,ずばり,板垣さんが考える「世界で受け入れられるゲーム」っていうのはどういうゲームなんでしょう?
板垣氏:
世界で受け入れられるゲームを作るってみんな言うんだけど,そもそもそれ以前の問題として,例えば今このE3会場を歩いていても,まず「E3会場にいる人たちに受け入れられる開発者」であってほしいよね。文化が違うんだから,アメリカにはアメリカのソーシャルスキルがあるわけですよ。
4Gamer:
ふむふむ。
板垣氏:
日本語だと「社会技能」っていうかな。要するに挨拶の仕方から,たたずまい,礼儀作法,ジョークのセンスとか。異国の文化への対応力がまったく無いもの(笑)。
4Gamer:
うう,耳が痛い(苦笑)。
こうやって騒ぎにきている場で,パーティとかでもさ,日本人はつまらなそうにしているじゃないですか。アメリカに来ていても,日本人同士だけで寄り集まっていたり。すぐに「日本バリア」を張る。そういう人達が,自分がその場で,やればできることもできないのに,どうやって文化や感覚がまったく違う国のオーディエンス(観客)に喜んでもらえるものを創りえるのかって話なんだよね。普通に考えて,そこには巨大な疑問があるよね。
4Gamer:
確かにE3やGDCなどを見る限りでは,そういう傾向は否定できないかもしれません……。
板垣氏:
でしょう?
例えばインタビューにしたってさ。あなたが「今回の売りは」とか聞くとさ,「何とかシステムと何とかシステムと何とかシステムです!」しか言わない奴がいたりするでしょ? 「いい加減にしろよお前ら!」っていう話なんだよ(苦笑)。そんなことじゃないんだ。
4Gamer:
す,すいません。
板垣氏:
いやいや,あなたが謝ることじゃないですよ。開発者のソーシャルスキルの話をしてるんだから。たとえば今は,あなたとこうやって話しているけど,僕はあなたとのこの時間っていうものを大事にしているわけ。僕が何とかシステムの話しかしなかったら,いろんなメディアの記事がみんな同じになっちゃうでしょ。そしたら,あなたもあなたの読者も困っちゃうでしょ?それこそ記憶媒体の無駄遣いですよ(笑)
ここはアメリカで,いつもとちょっと違う空間で話をしているけど,どういう場にあったって,相手をAttract(惹きつける)しようって思うんだよ。多くの人は,そういう人をAttractしようっていう気持ちが枯れているんじゃないかな。
4Gamer:
ふーむ。
板垣氏:
まぁ日本オンリーだったら,別にそれでいいんだけどね。日本には日本人が誇る日本のメンタリティがあるんだから。ただ,アメリカっていうか,要するに「日本じゃない場所」……例えば,ジンバブエでもいいんだよ。あるいは,ロシアでもいい。そういう国境を越えたエンタメをお客さんと共有したいんだったら,もっと自己変革してもらわないといけない。
会社に何やら妙なルールを作ってみたり,どんな技術入れたって駄目なんだよ。そんなものでは変わらないですよ。だいたいよく日本の企業の採用面接で「コミュニケーション能力」とかいう評価軸があるけど,超ナンセンスだね。そんなのはソーシャルスキルのごく一部分の範疇でしかないわけ。そういう狭い視野で人を評価しようってんだから,そりゃ日本に閉じた会社ばかりになるわけだ(笑)。言ってしまえばそういうことですよ。
4Gamer:
ではその意味でも聞きたいのですが,板垣さんがゲームを作るときは,どういったところからインスピレーションを得るんですか?
まさに「人」ですよ。人と話したり,人と接したり。
例えばだけど,(カメラマンのカメラを指さして)そのレンズはCanonの「24-70」でしょ? ボディは,2桁くらいの奴か。……みたいな部分を,あなたと話しながら同時に見てたりする。別に俺が,ただカメラが好きだからじゃないんだよ。俺は何かをやるとなったら,徹底的にやるから。自分がカメラマンとして仕事をするからには徹底的にやる。だから見ればすぐにわかる。
そうすると,そこからいろいろとインスパイアされるのね。没入するから。……言っておくけど,俺は本当に没入しちゃうんですよ。会社に来なくなるくらいに(笑)。
4Gamer:
ちなみに,板垣さんが最近ハマっていることなんなんですか?
板垣氏:
んー,ちょっと前の話だけどブラウザゲームにハマってたね。
4Gamer:
え,それはなんだか意外なんですけど。ちなみにタイトルはなんですか?
板垣氏:
いや,俺がタイトルの名前を出しちゃうと,その会社に迷惑かける可能性あるから(苦笑)。
4Gamer:
気になります(笑)。
板垣氏:
というわけで,コメント差し控えておくけど,随分やったね。それこそ「課金王」とか呼ばれたくらい(笑)。
4Gamer:
おーっ!(笑)。
板垣氏:
昔,俺のことを金の亡者とか言った人がいたけど,勘違いも甚だしいね(笑)。俺ほど金の手離れのいい奴はあんまりいないよ(笑)。むしろ俺は自分の時間にケチなわけ。自分の時間を他人に勝手に使われるほど嫌なことはない。だから時間を金で買うわけです。イコール課金になるよね。あのゲームは面白かったなあ。……でも結局。時間も相当使ったよ。そこの岡本が「いい加減にしろ!」って俺の家まで来て,引きずりだされたし(笑)。
4Gamer:
ブラウザゲームを遊んでみてどうでしたか?
板垣氏:
うん。ブラウザゲームは,とても勉強になったよ。「ああ,こんな簡単なことでお客さんは喜ぶんだ」とか,逆に「ああ,こんな簡単なことでやめてしまうのか」とか。この間まで凄く楽しそうにしていたあの小学生がいなくなっちゃったな,みたいな体験とかね。ほら,ブラゲーにはブラゲーのソーシャルスキルってのがあるから(笑)。すぐ仲良くなっちゃうんだよね。
4Gamer:
最近はゲームの遊び方も,何時間もかけてガッツリ遊ぶというよりは,5分ごととか,細切れで遊ぶスタイルがかなり広まっていますよね。
板垣氏:
そうだね。日本人は忙しすぎるからね。
4Gamer:
そういう風潮に対して何か思うところとかはありますか?
板垣氏:
それは結局,いわゆる団塊世代の責任でしょ。細かい話は置いとくけど,要するに戦後に団塊の人たちがやってきたことが積み重なって,今の風潮を生み出したとしか言えないね。で,結果として,とにかく今はみんなが忙しくなりすぎているんだよね。
小さなことをやっているのに,世界がばっと変わる
4Gamer:
なんだかもう,Devil's Thirdからは大分話が逸れてしまっていますが,もう少し質問させてください。先程の話と少しかぶるかもしれないのですが,ゲームを作るうえでの,板垣さんの「原体験」的なものって何かあるんですか?
板垣氏:
どうだろう。ゲームはさ,好きだから勝手に作ってたんだよね。それこそ一番最初に作ったのは中学の時かな。親父が会社から持ってきた600万ぐらいするオフィスコンピューターがウチにあって,それでシューティング作ってて。当時,親父がそれを会社に持っていったら,「息子さんは天才ですね!」なんていうおべんちゃらを言われてたりして(笑)。
4Gamer:
それは普通に凄いですね。
板垣氏:
もう団塊の話はどうでもいいんだけど,そういえば,親父におべんちゃらを言った親父の部下は間違いなく団塊世代だろうね。そういう意味じゃ団塊の方々のおかげで俺はゲームを作り始めたと言うこともできるか……。じゃあ一応はお礼も言っとかないといけないね(笑)。まあ何にしてもオフコン(オフィスコンピュータ)がそこにあったからやった,って感じだね。中村光一さん(現:チュンソフトの代表取締役)たちと一緒ですよ。
4Gamer:
なんというか,ゲームクリエイターの方って,いくつかの世代があるじゃないですか。
板垣氏:
うん,そうだね。
4Gamer:
最近,いろんな方の話を聞いて思うんですけれど,ファミコン,あるいはその以前からゲームを作っている方々っていうのは,「入力に対して反応がある」みたいな,物凄くシンプルなところで感動を覚えた世代なんだなって感じるんですよ。例えば,昔は絵が動くどころか,画面から反応があるってだけで面白かったわけですよ。
板垣氏:
そう! だから先ほどの話,ゲームの根底とは「インプットに対して,豪華なアウトプット」って部分に繋がるんですよ。あなたは,お子さんいます?
4Gamer:
いいえ。
板垣氏:
いつか,赤ちゃんが出来たらぜひ実験してほしいんだけど,赤ちゃんを部屋の電気のスイッチの前に連れて行くとさ,それはもう喜んでずっとパチパチやってるわけですよ。それって要するに,「小さなことをやっているのに,世界がばっと変わる」わけじゃん。真っ暗から,明るく。明るくから,真っ暗。
4Gamer:
あー,なるほど,なるほど。
板垣氏:
人間って,そういうことが大好きなんだよね。基本的に。だから,僕も中学時代にコンピュータを使って,プログラムを打つと画面をパパパって切り替わる。それに対して「なんじゃこりゃ」って思うわけなんだよな。
4Gamer:
分かります。
板垣氏:
電気パチパチで赤ちゃんが感じるであろう感動と,同じくらいの感動が当時の僕にはあったわけ。だって,マイコンとかの時代だもん。パソコンもなかった時代だから。僕の原体験は,そんな感じ。
だから出てる他のゲームを見て,それに感動してゲーム業界に入ったって感じではないね。俺は基本的に,ゲームを見てゲームを作らないからさ。さっきも言ったように,全然関係ない他のところからインスピレーションを持ってくるから。
4Gamer:
大分,板垣さんというクリエイターの人物像が見えてきました。
板垣氏:
あと,大学を出たときに思った。俺は,大学に七年間行ったんだけど(笑)。とにかく自分の好きなことしかやらないから,「好きなことじゃないと,絶対会社に行かないな」と思って。それでゲーム業界に入ったんですよ。
今は作っててとても楽しい
4Gamer:
すいません,そろそろお時間なので,まとめに入ります。
独立系のデベロッパとして活動してみて思ったこと,あるいはTHQなど,海外の企業と一緒に活動してみて,日本の企業とは違うなと感じた部分はありますか?
板垣氏:
全然違うよね。日本だと,お金の話とゲームの面白さの話がごちゃごちゃになっているんだけど,海外の企業はちゃんと別々だなと。ちゃんとゲームを知っている人がトップにいる会社が多い印象がある。
それはつまり,その人が「この面白さを作るには,これだけのお金がかかるよね」ってことが分かるわけ。だから,「じゃあお金はこういう風に使っていこうぜ」とか,「面白さはこういう風に作っていこうぜ」って話が,ちゃんと合理的にリンクしているしフィットしている。
4Gamer:
ふーむ。
板垣氏:
失礼だけど,日本のゲームパブリッシャーのトップに立っている人で,自分でゲームをゼロから作れる人,映画を撮れる人,ほかの様々なエンターテイメントを作れる人って少ないでしょ?
4Gamer:
日本だと,任天堂の岩田社長やレベルファイブの日野社長あたりでしょうか?
板垣氏:
要するに日本だと,「はい,お金はこれだけ」「これでいつまでに作りなさい」とか,そういうオーダーになっちゃうから。だから,お金の話とゲームの話がごっちゃごちゃ。
THQのダニエル・ビルソンさんって人は,さっき言ったような,映画も撮れるし,テレビ番組も作れるし,小説だって書けるし,ゲームだって作れる。エンタメを細胞レベルで熟知してる。そして当然,ビジネスもできるっていう人。そんな人がパートナーだと,みんな合理的。なんというか,今は作っててとても楽しいよ。
4Gamer:
楽しみながらゲームが作れているんですね。
板垣氏:
そりゃそうだよ。だってそのために独立したんだもん。お金の不条理に付き合っていられないってのがあってね。金というか,資本の不条理だな。
娯楽の制作コストが計算できない人に,「これだけのお金でいつまでにいくら売れるものを作れ」って言われたってさ,そりゃ雇われだったらある程度は付き合うけど,基本的に不条理だよそれは。
そういう人にさ,いきなり予定外の会議に呼ばれて「今日の株価を知っているのか」とか言われたりするとさ。「じゃあおまえは1Byteが何bitか知っているのか」って,逆に聞いてやりたくなるよ。さすがに頭にくるからね。そいつが1Wordが何bitかまで正確に答えられたら,この発言は謝罪付きで撤回してもいい。まあどうせ無理だから(笑)。要するにゲーム作れもしないのに,知ったかで「自分はゲームが大好きなんだオーラ」をぷんぷん演出してる人には気をつけたいね。
4Gamer:
そういえば,先日発表された「Wii U」や「Playstation Vita」について,何か思ったことはありますか。あるいは今は言えないかもしれませんが,Devil's ThirdはVitaに対応するのでしょうか?
板垣氏:
Wii Uの開発キットはもう来るよ。VitaはマシンパワーもPlayStation 3やXbox 360に比べて遜色なさそうだから,いろいろと可能性を感じる。
Wii Uのマシンパワーもいい。ハードコアゲーマーがWii Uに対してどう反応をするか,顧客層がどういう風に形成されるか,そこには凄く興味がありますね。
あと日本は,地震と原発の問題があるけれど。Wii Uが市場に投入される時期までには,日本が良い状況になるといいなとも思ってます。
4Gamer:
では,最後に。板垣さんの最新作であるDevil's Thirdが遊べるのはいつ頃になりそうですか?
板垣氏:
来年度以降になっちゃうかな。
4Gamer:
あと,ファンに向けて一言お願いします。
板垣氏:
相変わらずこんな感じでやっていますけど,僕らヴァルハラゲームスタジオを応援してくれる人には,ぜひ近々公開されるプロモーション映像(先日公開された映像の“完全版”らしい)を見てもらいたいですね。それを見れば,どういう会社かよく分かると思うのね。20分くらいの長いムービーなんですけど,ぜひ見てみてください。
4Gamer:
え,20分もあるんですか。
板垣氏:
みんな「これはネタだろ!」って思う人もいるかもしれないけど,割とほぼ事実に近いので。僕らが自由に,楽しくやっているってことは,即ち「良いものができる」ってことだからさ。ちょっと長いけど,見てみてください。
4Gamer:
分かりました。本日はありがとうございました。
正味30分程度の若干短い取材となった今回のインタビューだが,板垣氏のアクションゲーム,ひいてはゲームそのものに対する考え方は,実に興味深い話であった。
昨今,とかく「世界で売れるゲームを!」と叫ばれる日本のゲーム業界ではあるが,世界に受け入れられるゲームというものを考えたとき,より根源的な面白さ,人間の持つ本能だったり,五感そのもので感じる楽しさというのが,最も重要な部分になるのかもしれない。そして,板垣氏の作るゲームがなぜ多くの人に受け入れられるのか。今回のインタビューでは,その理由の一端が垣間見えたような気がした。
そんな氏の最新作であるDevil's Thirdも,一体どんなゲームに仕上がってくるのか。まだ発売は先になるとのことだが,ひとまずは新たな情報が得られるという東京ゲームショウを楽しみにしたいところだ。
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