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[gamescom]Quantic DreamのPlayStation 4向けリアルタイムデモ,「The Dark Sorcerer」が本当にリアルタイムで動いていた!
ケイジ氏の率いるQuantic Dreamといえば,これまでもPlayStationプラットフォーム向けのテクノロジーデモを開発してきたことで知られるメーカーだ。2006年の「The Casting」ではバーチャルな俳優がカメラに向かって涙を流し,2012年の「KARA」では商品として開発されたアンドロイドが自我を持つといったように,バーチャルキャラクターという特性を活かした,非常に知的で衝撃的な映像を次々と輩出している。
そんな彼らが新たに作り出したのが,6月に開催されたE3 2013において公開された,PlayStation 4用のテクノロジーデモ「The Dark Sorcerer」だ。その詳細については,E3で詳しくレポートしているように,これは「BEYOND: Two Souls」で培ったテクノロジーやゲームエンジンに,PlayStation 4のパワーとDirectX 11世代のレンダリング技術を加味して作られたものとなる。
今回のセッションでは,「シネマティックアドベンチャー」の制作風景を紹介しつつ,「BEYOND: Two Souls」(以下,BEYOND)や「The Dark Sorcerer」で得た,シネマ(映画)では見られない開発風景やノウハウを伝授するという講義が行われた。
■BEYOND: Two Souls
もちろん,BEYONDに“出演”したエレン・ペイジさんやウィレム・デフォーさんらハリウッド俳優にとってもパフォーマンス・キャプチャーは初めての経験であり,撮影初日は「要するに,カメラの視線は64か所あると意識すれば良いの?」「360度客に取り囲まれた演劇場みたいなものかな」などと,頭で理解しつつも,かなり混乱する様子が見られたという。
もっとも,さすがに何本もの撮影現場を潜り抜けてきた俳優達だけに,間もなくその撮影手法にも慣れたとのこと。ケイジ氏自身も彼らの演劇論に学ぶところは多かったという。
そんな俳優が舌を巻いたのが,2000ページにもおよぶ,ゲームならではの膨大な脚本だ。
映画同様,撮影はシーンごとに行われるため,俳優達はキャラクターの個性や心理状況,さらには環境までを事前に把握している必要がある。ケイジ氏は「ゲーム開発現場は資金が豊富と思われているのか,先に撮影料の話をしてくる人も少なくない。しかし,ゲームでのシネマティックスや脚本の内容に興味を持ってくれる人じゃないとやっていけない」と,ペイジさんやデフォーさんら役者陣の心構えを褒めていた。
実際,映画とゲームのシネマティックスが大きく異なるのは,ゲームは映画に比べ,細切れに撮影しなければならないシーンが圧倒的に多いということだ。一般的な映画やテレビドラマであれば,同じシーンをカメラの位置を変えて何度か撮影し,それを編集時に組み合わせることで1つの流れを作る。しかし,ゲームでは「インタラクティブ性」という映画にはない特性上,プレイヤーの操作で考えられる動作,例えばドアの開け閉めや,状況によって異なる銃の構え方など,2〜3秒のクリップをいくつも積み立てていかなければならず,実際に15時間ほどのゲームプレイが想定されるBEYONDのシネマティックスの撮影には1年を要したという。プロダクションコストの面では,非常に不効率であると言えるだろう。
■The Dark Sorcerer
一方のThe Dark Sorcererは,「The Casting」や「KARA」のシリアス路線とはガラリと雰囲気が変わったコメディタッチのダークファンタジーである。初老の役者がゲーム世界の主役に抜擢されたものの,そのクレイジーさについていけずに撮影を投げ出してしまい,残された監督と下僕のゴブリンが,撮影済みのクリップを利用して無理やり1本の映画を作ってしまうという12分ほどの内容になっている。
ソーサラー役には60代の俳優デイビッド・ガントさん,ゴブリン役にはカール・ペインさんという,映画やテレビでは脇役を演じている,それほど有名でない俳優達が出演している。ただし,二人ともBEYONDの名優らに勝るとも劣らない演技力と情熱,そして好奇心を持っていたという。
E3 2013で公開されたその12分余りのデモは,当記事にも掲載しておくのでじっくりと見てほしいのだが,リアリティがBEYOND以上なのは明らかで,PlayStation 4のマシンパワーの恩恵を受けていることが分かるはずだ。ただ,「CG映画」という認識は持てても,これがゲーム機上でリアルタイムで動作しているという実感が湧く人は少ないのではないだろうか。
CG映画は,事前に画像処理をする「プリレンダリング」という手法により,高画質なコンピュータグラフィックスを実現しているのだが,E3 2013で発表されたThe Dark Sorcererデモは,リアルタイムで出力されたものをムービーにしたものである。
そのため,この映像が本当にリアルタイムで動くのかを疑問に持った人も少なくなかったようで,今回のセッションでは,ケイジ氏が実際にPlayStation 4のコントローラーで動かしてみるという実演が行われた。
キャラクターにカメラを近付けてみたり,ワイヤーフレームにしたものをグリグリと動かしているのを見ると,このThe Dark Sorcererの持つ実力と意味を,改めて理解できる。
PlayStation 4を使ったThe Dark Sorcererのリアルタイムデモが披露され,カメラの自由な移動になるキャラクターのクローズアップも紹介された |
スクリーンが不鮮明だったので分かりづらいが,ワイヤーフレームで表示されたもの。こうして初めて,このデモがゲームなのだと思い知らされる |
また,今回のセッションでは,社外初公開となるQuantic Dreamの開発したツール「MovieMaker」が紹介された。これは,見た目は動画編集ソフトのようなものだが,照明の位置や強弱,方向といったことはもちろん,キャラクターや小道具の場所,アニメーションやボイスの再生速度,さらにキャラクターやオブジェクトのサイズ,「デプス・オブ・フィールド」(被写界深度)のようなレンズ効果までを,細かく調整できるというツールである。カメラの動きはパンやティルト,移動などすべてシミュレート可能で,ハンドヘルドカメラのような手ぶれを起こして,本来なら存在しないカメラマンを見る人に意識させるような動きまでできるようになっていた。
このように,BEYONDやThe Dark Sorcererは,パフォーマンスキャプチャーという新しい技術を活用することで,ゲームのシネマティックスを劇的に向上させている。ケイジ氏自身は,まだ「これらの作品はフォトリアリスティックとは呼べない」としながらも,次世代のゲームプラットフォームでは,もはやゲームとフィルム映画の差はなくなるだろうと予想している。その上で,今後はゲーム業界に「撮影監督」という新たな職種が加わることを予測するとともに,将来的には監督の立場を思考ルーチンで補うような変化が訪れるかもしれないと語っていた。
「BEYOND: Two Souls」公式サイト
- 関連タイトル:
The Dark Sorcerer
- 関連タイトル:
BEYOND: Two Souls
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