業界動向
【山本一郎】ソシャゲのガチャで,本当にヤバい問題はどこなのか
ちょうど1か月ほど前に,2016年年末年始に行われたCygamesの大ヒットコンテンツ「グランブルーファンタジー」のテレビ広告やガチャについての騒動と,消費者行政方面の見通しについて議論を整理した記事を書きました。
【山本一郎】グラブルの消費者問題に寄せて――スマホゲーム業界全体に漂う問題を軽くまとめてみる
いままでも,ガンホーの「パズル&ドラゴンズ」やスクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」などを筆頭に,いくつかの著名アプリで断続的に返金騒動などがありましたが,今回の件については,ついに具体的な対策が検討されそうだという流れになってきた次第です。
なお,現状でも多くのグラブルファンの方から「ゲームは面白いしやめるつもりはないけど,広告に釣られて10万円以上ガチャを引いたけど出なかった。お金を返してもらえる方法はないんでしょうか」といった声も多数寄せられており,もしかしてこの状況は,私が当局の皆さんから話を聞いて記事を書くだけでは「問題の本質」に迫れないのではないか? という気がしてきました。
ということで,消費者問題における有識者中の有識者であられます,全国地域婦人団体連絡協議会(全地婦連)の事務局長,長田三紀女史にお話を伺ってまいりました。長田さんは適格消費者団体消費者機構日本の理事でもあり,内閣府・消費者委員会委員でもありますが,今回は全地婦連としてのお立場で所見をいただく形になっております。
では本編。
そもそもガチャって大丈夫なんですか
山本一郎(以下,山本):
消費者庁の徳島移転問題でお忙しいところすいません。
あれはねえ……本当にどうなるんですかねえ。大問題だと思ってます。
山本:
省庁ごと遠くに飛び立つなんて,感無量です。
ところで,ここ数か月でたくさん出てきているソーシャルゲーム問題なんですが,ここにきて,また具体的な問題が出てきました。年末年始に,Cygamesの「グランブルーファンタジー」で,目玉商品として大々的に広告されていたキャラクターについて「供出割合がアップされる」と告知しながらも,外側からは確率が良く分からず,大金をガチャに突っ込んだのに出ないという“爆死報告”が続出し,騒ぎになりました。
長田氏:
私たちのような母親,おばちゃんの立場からするとですね,良く分からない世界なんですよ。「グラブル? なぁに,これ?」みたいな。テレビでたくさんコマーシャルやってらっしゃるでしょう。
山本:
そうですね。相当な広告投下量だったと聞いています。
長田氏:
大晦日やお正月にテレビをつけると,知らない広告がたくさんあって,なんだろうと思ったらゲームの広告だったんですね。それで,消費者行政に詳しい人たちも集まって,調査を開始しようとしていたので詳しく聞くと,そのゲームの消費者トラブルに関してだったんですよね。
山本:
子供たちのお年玉やゲーム愛好家の社会人のボーナス狙いで,この時期は刈り取りのタイミングだとも言えるんですよね。
長田氏:
でも海外の消費者団体の方とお話することがありまして,そこでですね,日本ではなぜ,ガチャが認められているんですか,不公平じゃないですか,って指摘されることがあるんです。
山本:
海外製のアプリでも,日本のソシャゲ成功事例をまねてガチャを導入している作品がありますが,基本的には賭博に該当する可能性があるのでNGだと判断するメーカーは多いようですね。
長田氏:
ほかにも,「お金を出せば有利にゲームを進められる」とか「ほかの人に勝つためには課金が必要だ」というゲームを出しているのなら,それは“無料で遊べる”と表記してはいけないのではないかとか,お金を出した人が有利なゲームは不公平のはずなのに,日本ではそれが認められているのはどうしてなのか,といったご指摘を頂戴します。
山本:
海外における「公平」の考え方と,日本のそれは異なりますよね。しかし,そういう話で言うならば,PCのオンラインゲームでは2000年代からやっていた「ゲームプレイ基本無料」って表記がそもそもマズいと思っていたんですよね。
【切込隊長】そろそろ「無料」と銘打つのはやめにしないか,オンラインゲーム業界は
長田氏:
ガチャの問題は,無料で遊べると銘打っておいて,お金をかけないと楽しくない,欲しいキャラクターがどのくらいのお金をかければ確実に手に入るのか分からない,というところにあると思うのです。これはどうなんでしょうか。
グラブルの件では,目玉商品となっているキャラクターの供出割合がそもそも0.3%ぐらいだったのではないか,と疑われているんですよね。でもこれは,消費者が有志で調べても良く分からないところです。
仮にそれくらいの確率だったとして,広告で「確率アップ」と宣伝されても,確かに実際に数字上は確率がアップしたかもしれないけど,どちらにせよ限りなく小さい割合でしか出てこないことになります。
長田氏:
でもそれは,ほとんど「確率ゼロ」じゃないですか。多くの人が大量にガチャを回せば,合計で何十枚かが提供されるとしても,確率アップと広告してガチャを回してお金を払ってもらうことそのものが,この問題最大の懸念なのかしら,と。
山本:
彼らは「確率アップ自体は嘘ではない」と主張していると思うのですが,元の確率が極めて低いのであれば,それを広告の具にして消費者を煽るのは欺瞞じゃないかと思いますね。
長田氏:
だから私は,同じゲームだといっても,PlayStationやWii,Xboxなどのゲーム機で,最後まで遊べるデータも入って5000円,6000円という値段をつけて売られているゲームと,ソーシャルゲームのように後からいろいろ出てくるゲームとで,同じ仕組みや法律で判断されるのはおかしいのかなぁ,と思うんです。もともと同じ「ゲーム」でも,それはもう違うものじゃないのかしら,と。
山本:
なるほど。
長田氏:
だから,コンプガチャの絵合わせ(やまもと註:景表法上のカード合わせ)のときに,とりあえずガイドラインで「そういう商売の仕方は駄目ですよ」と伝えたつもりだったのに,結局ほかの方法を編み出して,ある種消費者を騙すような方法が出てきてしまったというのは,行政もどうにかしないといけないし,業界も低きに流れないようにしてほしいと思うんです。
2012年のコンプガチャ問題は
「その場しのぎ」で考え出したものだった
山本:
コンプガチャ問題は,当時とにかくGREEやDeNAといった日本のプラットフォーム事業者が変な荒稼ぎをしていると問題になってから,ガイドラインが出るまで半年かからなかったというスピード展開でしたね。
長田氏:
はい。あのときも,消費生活センターへの相談が急増したり,お子様が親御さん名義の携帯電話で多額のアイテム購入をして費消してしまったなどで,各所で大変な議論になりました。
山本:
幸いにして,当時の消費者庁長官だった松原 仁さんがその方面に理解があって,たまたま課長でいらしたKさんも優秀な方でした。
長田氏:
ただあれは,ソーシャルゲームというモノがまだ良く分からないときに,突然消費者問題が起きてしまったので,あり合わせの方法で何とか防げないかと知恵を絞った結果が「カード合わせでやろう」という話だったんですよね。逆に言うと,既存の法律では制限をかけようがないということです。
山本:
当時は警察庁の一部からも,風俗営業法の改正で旧8号営業に“無店舗型ゲームセンター”としてソーシャルゲームを規制職種の範囲に加えるとか,いま思い返しても消費者行政の枠内で何とかやったほうが良かったんじゃないかと思うような議論がたくさん出てましたからね。
それに,消費者行政の側も,必ずしもソーシャルゲームに詳しい人たちが多いわけではありませんからね。職員が勉強のために自腹でゲームしてたり(笑)。
山本:
仕事のために課金兵になるわけですか(笑)。
長田氏:
でも彼らも面白いことを言うんです。最初に数百円を払うのに物凄い抵抗があって,ここでお金を使っちゃいけないんじゃないか,ハマったら大変なことになるんじゃないかと思うらしいのですが,一度課金してみると,次から躊躇しなくなるようなのです(笑)。
山本:
良くご存知で(笑)。ソシャゲ運営会社はそれを良く分かっているので,最初は100円で結構おいしいアイテムを売ったり,低価格で高額ガチャを回せたりする仕組みを用意して,課金やガチャに対する抵抗感を下げるのです。定期的に,割引でガチャを引けるキャンペーンをやったりして,課金率を維持する仕組みをあれこれ運営で考えるのが「腕」だと思われている節がありますね。
長田氏:
まあ(笑)。
山本:
なのでソシャゲ全体でいうなら,コンプガチャ問題で業界全体のトラブルになったあと,ガチャでの供出割合を下げた目玉キャラクターやアイテムでガチャを回させようとする,誇大広告やおとり広告を前提とした優良誤認を促す仕組みが一般化したように思うのです。
長田氏:
出る確率がほぼゼロなのに,出るまでガチャを回させたいという仕組みですね。
山本:
警察庁がソシャゲ方面に関心を持つ理由も,これって「射幸心を煽るビジネス」だと思ったからだと思います。
長田氏:
パチンコ的な。
山本:
広く一般化してしまったので建前と実情が乖離しているのが問題ですが,裏を返せば,ソシャゲで出るキャラやアイテムもパチンコの店舗における景品と変わらない以上,射幸性を抑えてほしいという話になれば風営法で,という議論になります。
※「パチンコの玉を景品と交換する」(ホール),「景品と現金を交換する」(換金所),「換金所から景品を買い取ってホールに卸す」(問屋)という“独立した”3つの店が行うパチンコ独自の営業形態。
長田氏:
どうやったら問題が解決できるのか,法律論はずいぶん前から議論し,検討を重ねてきました。いまある法律やガイドラインの変更で消費者の被害が収まらないならば,法律の改正やソーシャルゲーム新法も必要になるんじゃないか,という主張は当然ありますね。
意外と気づかない「消費者被害」と対処策とは
山本:
はい。そのためにはまずプレイヤーが,「こういう変な運営をゲーム会社にされた」という報告をしっかり消費者窓口にすることが必要なんじゃないかと思うんですよ。
長田氏:
そうなんですよね。法律改正も含めた調査や検討は,消費生活センターなどへの相談件数など,具体的な数字が増えれば優先順位が上がることが多くあります。
山本:
やはりそういう感じですか。
長田氏:
はい。なので,お近くの消費生活センターに連絡をいただいて,お困りの状況や,ゲームのタイトル名,会社名だけでも伝えていただければ,いきなりは返金に結びつかずとも,解決の道筋は見つけられると思います。そのまま電話で「188」(いやや)に連絡いただければ,各都道府県のセンターに直接つながる仕組みになっています。
山本:
なんで関西弁なんですか(笑)。
長田氏:
私も不思議なんですけどね(笑)。ちなみに児童虐待のホットラインは「189」で「いちはやく」です。
山本:
まあ児童虐待は早々に通報しないと取り返しがつきませんからね……。
で,当局ともいろいろ話をしてて,ゲームプレイヤーって意外とゲーム会社の運営に好き勝手やられてもそれが「消費者被害だ」と思わないでいる場合が多いよね,という話になるんです。
長田氏:
皆さん,良く我慢されていますよね。
山本:
以前の記事でも書いたんですが,いまあるゲームをプレイするのに,お目当ての魅力的で強いキャラクターに興味を持ってガチャを回して,運良く出たとします。しばらくそれで満足するんですが,後になって新しいイベントが出てきたときに,もっと強いキャラクターが出てきて射幸心を煽る広告が出るじゃないですか。インフレすると,それまで強いと思っていたキャラがゲーム運営側の都合で劣化させられてしまうのです。
長田氏:
「こういう強いキャラですよ」と言われて,それならばと言われてお金を出して買ってみるのは自然なことですよね。でも,その後でもっと強いキャラを出されたら,そのキャラの価値が半減したりしてしまいますから,消費者からすると本来は「騙された」と声を上げるべきものなんですけどね。
山本:
はい。これがゴルフクラブや釣竿のように実物があるならば「もっと飛ぶクラブ」「凄くしなる釣竿」が出ても手元にブツは残りますが,ソーシャルゲームではインフレで能力を下げられたカードやキャラは基本的に使い物にならなくなっていきます。
ゲーム業界では当たり前のようにやっているわけなんですが,ゲームを進めるごとに能力や価値が勝手に減価してしまうのって,ゲームがオンラインである以上仕方がないと言いつつも,実はとっても問題なんじゃないかと思うわけです。
長田氏:
ほんと我慢強いと思います。あるいは,ゲームとはそういうものだ,と思い込まされているのでしょうか。
山本:
また,お目当てのキャラやカードがガチャではゼロに近い確率でしか出ないとなれば,当然確率論として,数千円で排出される人もいれば,極端な話100万円近く突っ込んでも出ないということがあり得るわけです。
長田氏:
おそらく,業界に改善を求めないといけない部分があるとすると,まさにそこですね。魅力のあるキャラクターで広告するのは良いとして,いったいいくら出せばそれが手に入るのかが明示されていなければ,人によって価格が大きく異なってしまうわけです。
山本:
ガチャだから良いのだ,ということなんでしょうか。
長田氏:
なし崩し的ですが,事実上日本市場でしか許されていない手法ですね。海外では,アンフェアだとされてしまいます。
山本:
論点はたくさんありますが,整理すると大きな問題は「特定のキャラやアイテムが出る確率が第三者からはっきり分からないこと」と「その特定のキャラやアイテムを直接買える方法がないこと」で,ユーザーは目隠ししたまま,欲しいカードの排出確率も知らない状態で高額のガチャを回し続けることになります。
長田氏:
そのキャラやアイテムが,例えば5万円,場合によっては50万円ですよ,と明示されていれば,それを買う人はご自由に,ということになります。そのうえで,もっと安く手に入れる手段として,確率が明示されているガチャがあります。とても低い確率かもしれないけど,ロマンを求める人はそこにチャンスがありますよ,というのならば分かります。
山本:
各会社の運営に,当局から調査やヒアリングが入り始めている状況なんですが,一部の運営会社から出ている購買情報を見ると,キャンペーンごとに,7割近くの人がお目当てのカードが欲しくてガチャを回すけど,予算の都合などもあって途中で諦めているんです。これは,欲しいものがあってお金を出したけど手に入らなかったという,れっきとした消費者トラブルであり,依存にもつながりかねない部分です。
長田氏:
ソーシャルゲーム業界の収益の根源は,ガチャで出なくて諦め切れなくて,出るまで回そうとする人なんですよね。
山本:
射幸心を煽っていると警察庁が問題視した点も,このへんだろうと思います。
業界が,そういうやり方で消費者を食い物にして本当に良いのでしょうかね。それでは長くは続かないと思いますし,結局は自分たちのビジネスが短命に終わってしまう理由になるだけではないかと感じるのですが。
山本:
もしかしたら,いま儲かればそれで良いと考える業界の風土があるのかもしれません。なのでヒットコンテンツが出たら,ゲームプレイヤーに「札束で殴り合わせる」ようにして対戦をヒートアップさせようと仕向けるわけですね。
長田氏:
札束で殴り合うって凄い表現ですね(笑)。
山本:
先日,当局の方々に「3000円払えば,無料で10連ガチャが回せます」という表現を懇切丁寧に説明したところ爆笑されてしまいました。まあ,それだけ加熱していると理性が飛んでしまって,何を見返りにガチャを回しているのかさえ分からなくなってしまうのかと。
長田氏:
そういう状態で消費者の側も熱くなっていると,それが消費者被害に結びついているのだと気づかないのかもしれませんね。
山本:
好きなゲームにお金を突っ込んでいるのだから,と自分で自分を説得することになるのでしょう。
長田氏:
でもゲームに飽きてしまったり,突然ゲームの運営が終了してしまうと,何も残らないわけじゃないですか。ソーシャルゲーム業界関連の議論では「お金を出して食事をしても何も残らないし,それと同じです」と言われるのですが,私は違うと思います。
山本:
食事は実際に血肉になっているでしょうし,そもそも食品や外食の業界には食品衛生法から産地明示に関する条例まで,さまざまな形で安心して食事ができるよう業界関連の法整備が行き届いています。対価に見合う食品であると証明できる方法が揃っているわけですよね。対応する法律も満足にないソシャゲとはさすがにレベルが違いますね。
長田氏:
娯楽とはそういうものだとしても,消費者に対して適切な価格が明確に提示できていないというのは問題じゃないかと思うのです。ゲームに飽きた後,何も手元に残らない……というのはねえ。
山本:
各種調査も進んでいますが,PGF生命(プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命保険)が先日発表した,娯楽への可処分所得費消に関するデータでは,1位が圧倒的に「ゲーム」,2位以降は「SNS」「アイドル」という結果になっていて,ほかのレジャー関連の調査でも1位が「ゲーム」,2位以下が「パチンコ・パチスロ」「アイドル」「SNS」の順になっていて,プレイしている人たちも薄々「ハマりすぎるとヤバい」と思っているんですよねきっと。
ヤフーニュース:「ハマりすぎるとヤバイ」自覚されている趣味のトップはゲーム
長田氏:
射幸性ですね。
山本:
射幸性です。
長田氏:
やはり適切な形で消費者行政が対応できる仕組みは必要なのではないかと思います。
山本:
差しあたり,これは不適切な運営ではないかと思ったら,消費生活センターに連絡することは重要かもしれませんね。
長田氏:
もう少し状況が鮮明になってくれば,私たちのような適格消費者団体もお役に立てることがあるかもしれません。もう少し調べて,しっかりとした対策が考えられるようにしたいと思っていますが。
山本:
それはもうぜひに。
最近になって公正取引委員会も,ソーシャルゲームを含めたスマートフォン上のコンテンツ配信で,現状ではApple,Googleで事実上の寡占状態になっているアプリマーケットに関するヒアリングを開始する手筈になっていますし。
公正取引委員会:(平成28年2月10日)オンライン関連事業に関する共同ヒアリング調査について
時事ドットコム(時事通信):デジタル取引の実態調査=ゲーム・音楽など−公取委・経産省
長田氏:
青少年保護ももちろん大事ですが,業界全体がしっかり向き合って解決しないと,消費者金融や食品偽装みたいな問題になったとき大騒動になってしまいますね。
山本:
その意味では,割と大きな問題が年初に起きたのは画期的だったと思いますね。
長田氏:
状況とても良く分かりました。またいろいろご一緒しましょう。
山本:
こちらこそ,お付き合いいただきありがとうございました。
――2016年2月12日収録
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