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ハロー!Steam広場 第319回:国庫に余裕のない王国で困窮する民を選別するアドベンチャーゲーム「Yes, Your Grace」
「すちーむ」ってなぁに?というよい子のみんな集まれー! 「ハロー! Steam広場」は,PCゲームのダウンロード販売サイトSteamで公開されている気になるタイトルを,筆者が独断と偏見でピックアップして紹介する,とっても有意義なコーナーだ。毎週欠かさずチェックすれば,ナチスのゾンビを見ると無性に股間を撃ち抜きたくなる上級Steamerにジョブチェンジできるかも。
ハロー!Steam広場 第319回は,デイバーンと呼ばれる小国の国王となり,国家を運営していくアドベンチャーゲーム「Yes, Your Grace」を紹介する。やることの大部分は“請願者に手をさしのべるかどうか”を決めるだけだが,すべてを救うほど国庫に余裕はなく,誰を救って誰を切り捨てるかを選ばなければならない。
国庫に余裕のない王国で困窮する民を選別するアドベンチャーゲーム「Yes, Your Grace」
今日も玉座の前には民が並ぶ。飢える者,病める者,蛮族に襲われた者……きっとそれぞれの事情があるのだろう。この国を統べる王として,困った国民を助けるのが使命である。そうと分かっていても,この城には金も,資源も,兵士すらロクにいない。ほぼ空っぽの国庫の前では,慈悲の心など何の役にも立たない。例え逆立ちしても,ない袖は振れないのだから……。
今回紹介する「Yes, Your Grace」は,イギリスのデベロッパBrave At Nightが手がけるアドベンチャーゲームだ。プレイヤーはデイバーンと呼ばれる小国の国王となり,国家を運営していくことになる。
と言っても,本作は経営シミュレーションではないため,やることの大部分は“請願者に手をさしのべるかどうか”を決定するだけだ。請願者は朝から玉座の前にぞろぞろ並ぶので,好きな順番で話を聞いていき,全員の話を聞き終えると1ターン(=1週間)を進められる。ターンの最後には収支報告が表示され,また次の週には同じ事を繰り返す……という流れだ。
請願者への対応は大まかに,「金を与える」「資源を与える」「家臣(将軍や魔女)を派遣する」の3種類。請願内容によって選べるものが違うが,金と資源は国庫にその分の備蓄がないと与えられないし,家臣を派遣すると,戻ってくるまではほかの仕事を割り振れなくなってしまう。
請願者の境遇は,「近所の店がゴミをちゃんと片付けないので,臭くてしょうがない」といったご近所トラブルのたぐいから,村が災害に遭った,盗賊の襲撃を受けた,子供が森で行方不明,大事なご神体が危機に陥ってる,といった深刻なものまでさまざまだ。相談を聞いて助けるべきだと思えば手をさしのべて,望みのものを与えればいい。
ただし,請願に来た者を全員助けるのはほぼ不可能だ。デイバーンはかなりの小国で,“こんなに貧乏で国が成り立つのか?”と不思議に思うほど備蓄がなく,毎週入る収入も雀の涙。おまけに城の一部や街の施設などが破損していると,放っておくだけでキツいペナルティが発生するので,これも備蓄を使って直す必要がある。
したがって国王であるプレイヤーは,「誰を助けて,誰を切り捨てるか」を見極めて決定し続ける必要がある。また仮に助けたくても,国庫にその分の備蓄がなければ助けようがないので,泣く泣く帰ってもらう場合もある。「あえてしばらく誰も助けず,備蓄に努めればいいのでは?」と思うかも知れないが,請願を断ると国民の満足度が低下し,税収が減ってしまう。つまり“助けても,助けなくても,国庫は貧しくなる”という仕組みで,このジレンマがとても歯がゆい。
おまけに請願者の中には,嘘八百で金や資源をせしめるだけが目的の連中が度々入り込み,騙されればただでさえ貧しい国がさらにピンチに陥る。
これだけでもピンチなデイバーンだが,更なる問題も抱えている。ある事情により,戦争が間近に迫っているのだ。防衛するには兵士が必要だが,当然ながら防衛力もギリギリ。まともに他国とやりあえるほどの兵力はなく,だからと言って座して待っているだけでは破滅の未来しかない。
したがってプレイヤーは,国民の嘆願を捌くと同時に,各地の有力者に伝書鳩を飛ばし,協力を取り付けなくてはいけない。もちろん“頼むだけで手を貸してくれる”なんて気前のいい人間はほとんどおらず,大概は何かの条件を出してくる。手持ちのアイテムを渡すだけで協力してくれればいいが,「敵対する有力者を排除しろ」とか「お前の娘を嫁によこせ」などと言い出してくるところもあるので,国王はここでも“選択”を迫られることになる。
選んだその道が正しかったかどうかが分かるのは,しばらく後になってからだ。
さらに国王を悩ませるのが“ひとりの家長としてどうするか”という選択だ。前述のように「娘を政略結婚に利用するのか」というのはその最たるものだが,それ以外にも親として子供たちにどう接するのか,行事に妻(王妃)の意見を取り入れるかどうかなど,父や夫として決定しなくてはいけないことも多い。国王であると同時に,家族を持つひとりの人間としてどう選択するのか,物語も十分楽しめる出来になっている印象だ。
ゲーム全体としてはリソース管理がメインではあるのだが,基本的に“爪に火をともす”ような状態がひたすら続くため,爽快感といったものはほとんどない。操作するのは国王であるにもかかわらず,「貧乏じゃなければアレができるのに……」と思いつつ,何とかその日暮らしを続けていくのが精一杯になりがちだ。物語も「一難が去ると,三難がやってくる」という感じで,国王だけでなく見ているこっちも胃が痛くなりそうである。
とはいえ何とかやりくりして困った国民を助けられたときは嬉しいし,うまく選択してゆっくりだが少しずつでも国庫が潤った状態になっていくのは達成感がある。選んだ結果が次にどう出るか気になるので,ついついプレイターンを重ねてしまうし,物語の展開もツボを押さえつつ適度なサプライズが用意されていて,飽きないものに仕上がっている。
取捨選択の判断には相手の要求を理解することが重要だが,以前は英語のみだったので相応に人を選んだ。ただ,現在は日本語にも対応しており,翻訳の質もしっかりしているので,興味があればぜひプレイしてみてほしい。
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