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ポーランドのゲーム業界向けイベント“Digital Dragons 2023”開催。ゲームアワードでは「Dying Light 2 Stay Human」が大賞を受賞
センターのあるクラクフは,スロバキアとの国境にほど近いポーランド南部にある,マウォポルスカ県の県都だ。交易の町として1000年以上の歴史を持つ古都でもあり,第二次世界大戦期にはナチス・ドイツに占領され,ユダヤ人街を形成していた多くの人々が近隣のアウシュビッツ収容所に送られたという悲しい歴史も体験している。今では,文化都市というだけでなく,人口80万人を擁してポーランド第2の都市となっている。
マウォポルスカ県が,Małopolska InnovativeというIT産業の育成を目的にした政策を行い,クラクフ市と複数の大学が株主になる形で運営企業Krakowski Park Technologiczny(クラクフ・テクノロジーパーク。以下,KPT)が設立されたのは1997年のことだ。カナダやフランスの成功例をベースにした税の減免などの施策によって,現時点では1万5000人ぶんの雇用がIT産業で生み出されており,クラクフは“ポーランドのシリコンバレー”と形容されることもあるようだ。
現在,クラクフでゲーム開発に従事しているのは2000人ほどとのことだが,この街を代表するゲーム企業としては,「Layers of Fear」のBloober Teamや,「Shadow Warrior 3」「Trek to Yomi」のFlying Wild Hog(現PLAION傘下),そして年内リリースが予定されている「The Invincible」に期待がかかるStarward Industriesなど,名前を挙げればキリがないが,440社ほどの登録企業がポーランドにあるという。
さらに,近年では「コール・オブ・デューティ」シリーズで知られるInfinity Wardが,2017年にグラフィックスのR&D部門の新スタジオをクラクフに設立するなど,ゲーム産業における1つのハブが形成され始めているのは間違いない。
ポーランドでは,このほかにも「ダイイングライト」シリーズのTechland,「ザ・ウィッチャー」シリーズや「サイバーパンク 2077」のCD Projekt REDという,旧ソビエト体制が崩壊してから間もないころに誕生し,今も精力的に活動を続ける2つの古豪を中心に,これまで多くのゲーム企業がその名を轟かせてきた。ゲーム産業の規模は5億7900万ドル(2020年度)と,日本の30分の1ほどの大きさではあるものの,先進的な開発能力やアイデアにおいては,この数年で世界のトップレベルにまで達している国と言っても過言ではないはずだ。
今年のDigital Dragons 2023への参加者は,過去最高の2300人が見込まれているとのことだったが,それでも“地元の仲間たち”という感覚が強いようで,上記したような有名なゲーム企業の面々が,それぞれお揃いのTシャツやパーカーを着て,連れだって歩いている様子は,どこか学園祭を連想させる。昔の同僚が,抱擁し合ったり,ジョークを飛ばしたりしながら談笑しているし,レクチャーが終わればほかの開発者会議よりも大きく長い拍手を送り合うなど,高い仲間意識を共有しているような独特な雰囲気をDigital Dragons 2023で感じられた。
実際には,Digital Dragons 2023だけでも48か国700社という多様なバックグラウンドを持つ業界関係者が参加しているとのことなので,レクチャーはすべて英語で行われている。5月15日・16日の両日で行われた100種のレクチャーや,展示されていたインディゲームの中で興味深いものについては,後日紹介していくことにしよう。
ポーランド2022年の最高作品は,やはり“あのアクションゲーム”に
初日の夜には「Digital Dragons Awards」という,参加者たちの投票で選ばれるゲーム賞の授賞式も行われた。前年度にリリースされた作品の中から“ポーランド最高のゲーム”が選ばれるのに合わせて,ポーランド国外最高のゲームである「Best Foreign Games」と,ゲーム業界で大きな役割を果たした人物を称える「Special Recognition Award」が発表される。地元の政府要人が参加したり,バンドが生演奏をしたりするなど,Centrum Kongresowe ICE Krakówのコンサートホールを利用した本格的なイベントとなっていた。
「Digital Dragons Awards」には,ポーランドのタイトルでは,Flying Wild Hogの「Trek to Yomi」,Afterburnの「Railbound」,そしてTate Multimediaの「Kao the Kangaroo」といったモバイルプラットフォームを主軸とするゲームが複数の部門でノミネートされてたが,惜しくも受賞を逃している。ただ,「Best Polish Game Art」賞には,アートに落書き(グラフィティ)のインスピレーションを得たというDraw Distanceの「Serial Cleaners」が,そして「Best Polish Game Audio」にはスラブ的な民族音楽にリアルな環境音を取り入れた「Blacktail」が選ばれている。
また,ローンチ当初の批判を改善しながら,期待どおりの名作に仕上げたCD Projekt REDの「サイバーパンク 2077」が,MMOやモバイルゲームを抑えて「Ongoing Polish Game」を受賞。そしてポーランド国外のゲームの最優秀賞には,「ゴッド・オブ・ウォー: ラグナロク」「Horizon Forbidden West」「Stray」,そして「Return to Monkey Island」を抑えて,フロム・ソフトウェアの「ELDEN RING」が選出されていることは特筆したい。感謝のビデオレターなどがなかったわりに割れるような拍手が起こっていたが,ポーランドのメーカーの中にはフロム・ソフトウェアの作品に大きくインスパイアされた作品が散見できるのも,そうしたリスペクトがあるからなのかもしれない。
4GamerにAnshar Studiosの名が登場したのは,2017年にリリースされたVRゲーム「Detached」のころからだと思うが,2021年にリリースされ一定の評価を収めたオリジナルIPの「Gamedec」は,今後の同社で自主開発も盛んに行われていくことを予感させる。ゲーム業界で20年近くにわたって活動してきたハキュラ氏は,「この賞に選ばれて本当に驚いています。この10年間だけでも7〜8回は倒産させそうになったからね」と笑いを取りつつも,「今後もポーランドのゲーム開発の拡大に貢献していきたいと思っています。」と述べていた。
今回のゲーム大賞である「Best Polish Game」賞を受賞したのは,Techlandの「Dying Light 2 Stay Human」だった。アットホームな企業文化と,自社開発のゲームエンジンにこだわるTechlandの姿勢については,本誌連載の「奥谷海人の第627回:ポーランドのゲーム業界事情を現地の開発者たちに聞いてみた」で紹介したこともあるが,一人称視点で素早いパルクール移動を繰り返しながらゾンビと戦い,そのストーリーを堪能できる「Dying Light 2 Stay Human」は,何度かの発売延期を行うなど妥協のない調整をリリース当日まで行ったことでも知られている。今回のイベントでは,「Best Polish Game Design」賞も受賞して二冠となっており,多くの参加者にとって異存のない選出だったと思われる。
Digital Dragons Award受賞作品
・Best Polish Game: 「Dying Light 2 Stay Human」
・Best Polish Game Art: 「Serial Cleaners」
・Best Polish Game Design: 「Dying Light 2 Stay Human」
・Best Polish Game Audio: 「Blacktail」
・Ongoing Polish Game: 「Cyberpunk 2077」
・Foreign Game: 「ELDEN RING」
・Special Recognition Award: ルカシュ・ハクラ(Lukasz Hacura)氏
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Dying Light 2 (C)Techland S.A. Published and developed by Techland S.A. All other trademarks,copyrights and logos are property of their respective owners. All rights reserved.
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