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[インタビュー]ボードゲームをどうやって漫画に? コミック版「ボルカルス」が“タイムリープもの”になった理由を作者の二人に聞いてみた
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印刷2024/07/26 10:00

インタビュー

[インタビュー]ボードゲームをどうやって漫画に? コミック版「ボルカルス」が“タイムリープもの”になった理由を作者の二人に聞いてみた

コミック版「ボルカルス」第1巻(リンクはAmazonアソシエイト)
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 2019年に発売されたボードゲーム「ボルカルス」を原作とした同名コミック「ボルカルス」の第2巻が,2024年8月8日に発売される。また既刊である第1巻は,全国の書店にて880円(税込)で購入可能となっている。

 小学館のWeb漫画サイト「サンデーうぇぶり」で連載中の同作は,突如として東京に出現した溶岩怪獣“ボルカルス”が引き起こした大災害と,それに巻き込まれた人間達の奮闘を描くコミカライズ作品だ。
 漫画原作を担当するのは,「ボルカルス」を第1弾とするボードゲームシリーズ「Kaiju on the Earth」のディレクションを担うドロッセルマイヤーズの渡辺範明氏。そしてアニメ化もされたボードゲーム漫画「放課後さいころ倶楽部」中道裕大氏が作画を手がけている。

 コミカライズの布陣としてはこれ以上ない組み合わせではあるが,では一体どんな作品なのだろうか。そもそもデジタルゲーム原作のコミカライズは数あれど,ボードゲームが原作というのはかなり珍しい。その狙いはいったい何なのか。中道氏の仕事場にて,両者に話を聞いてみた。

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 なおコミック版「ボルカルス」は,サンデーうぇぶりにて第1話から第3話まで無料公開されている。本稿の内容は基本的に既読者向けとなっているので,まだ読んでいない人は無料分だけでも先に読んでおくことをオススメする。

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 アークライトとドロッセルマイヤーズの共同制作による連作ボードゲームプロジェクト「Kaiju on the Earth」シリーズの第1弾「ボルカルス」が発表された。本稿においては,そのゲーム内容を紹介しつつ,実際に遊んでみてのプレイレポートをお届けする。

[2019/10/21 18:00]

サンデーうぇぶり「ボルカルス」配信ページ

Kaiju on the Earth「ボルカルス」公式サイト



奇跡のタッグから紡がれるコミック版「ボルカルス」


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。コミック版「ボルカルス」を読ませていただきましたが,まさかタイムリープものとは驚きました。

渡辺範明氏(以下,渡辺氏):
 漫画化に向けていくつか案があったのですが,その中でもトリッキーというか,濃い味付けのものを採用したのは確かです。ほかの案には,もっと“らしい”ものもあって,当初はそちらを軸とした企画だったんですが……。

中道裕大氏(以下,中道氏):
 まさに,「シン・ゴジラ」みたいな感じでしたね(笑)。主人公が最初から官房長官で,ゲームをそのままストーリーに落とし込んだような展開だったと思います。確か,第3話くらいまではこの設定で描いていて,それはそれで面白かったんですが……それなら「シン・ゴジラ」でいいんじゃないか,という話になり。

中道裕大氏
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渡辺氏:
 平成ガメラや「シン・ゴジラ」をボードゲームで再現した「ボルカルス」は,ボードゲームとしてはかなり個性的なものになったと思っています。でも,それをまた物語に変換したら,元になった作品の再生産になってしまいます。

4Gamer:
 確かにそうですね。そもそもなんですが,コミック版「ボルカルス」の連載がスタートした経緯はどういったものだったんですか。

渡辺氏:
 ボードゲームの「Kaiju on the Earth」シリーズを始めたとき,僕は3つの目標を立てていました。一つが「日本を代表するボードゲームシリーズを作る」ということ,二つ目が「海外展開を狙っていこう」ということ,そして三つ目が「メディアミックス展開を行う」ことです。

4Gamer:
 つまりコミック版は,その三つ目にあたるわけですね。

渡辺氏:
 そうです。漫画やアニメを原作としたボードゲームというのは少なくありませんが,その反対――ボードゲームから生まれたIPというのは非常に少ない。コミック版「ボルカルス」は,そうした道を切り拓きたいと思い,企画したものになります。

4Gamer:
 そこで中道先生に白羽の矢を立てられた?

渡辺氏:
 白羽の矢というか,最初は相談だったんです。「コミック化したいけど,どうしたらいいと思います?」というような。時期的には,「放課後さいころ倶楽部」の連載が終了した直後くらいで……。

渡辺範明氏
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中道氏:
 どちらかというと,僕の方から「やらせてください!」ってお願いした感じでしたね。そのときは,まだ描き手が決まっていなかったので。

4Gamer:
 では,交流は以前からあったんですね。

中道氏:
 最初にお会いしたのは10年ほど前,すごろくやさんのボドゲ会だったかな。それからゲーム会や飲み会でご一緒する機会があって,「放課後さいころ倶楽部」では作中ゲームの監修をお願いしたこともありました。

渡辺氏:
 なので,相談しやすい環境ではあったんですよ。

4Gamer:
 では,中道先生が手を挙げる形で企画がスタートしたわけですね。

渡辺氏:
 それが,実は紆余曲折ありまして。当初は僕が原案で,中道さんが原作,作画は別の方に担当してもらう予定だったんです。というのも,中道さんは「漫画原作をやりたい」というようなことを以前からおっしゃっていたので。

中道氏:
 最初はそうだったですよね。作画担当を探しながら,同時並行でプロットを詰めていったんですけど……かなり細かな部分まで詰めてしまったので,もういっそ自分で描いたほうがいいんじゃないかって(笑)。

4Gamer:
 愛着が出てしまった?

中道氏:
 むしろ,「これをほかの人にわたすのは怖い」って思っちゃったんです。一つ一つのシーンの意味付けであったり,構想であったりが頭の中にでき上がってしまっていたので,誰に描いてもらっても,絶対に不満に感じるだろうなって。

渡辺氏:
 僕としては嬉しかったですけど,「本当にいいんですか!?」って感じでしたね。中道さんのキャリアプランを歪めてしまうんじゃないかって。いまさらですけど,本当に良かったんですか?

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中道氏:
 漫画原作の面白さと難しさを,ちょうど実感している時期だったんですよ。原作と作画が分かれているということは,原作である自分の想像以上のものができあがる可能性もあれば,反対に意図がうまく伝わらないこともある。
 「ボルカルス」の場合,1話を下書きしていた段階で「これは面白くなるぞ!」という予感がありましたし,シンプルに自分で描きたくなっちゃったというのも大きいですね。

4Gamer:
 それで渡辺さんが原作,中道先生が作画という今の体制になったと。現在はどんな制作フローになっているのですか?

渡辺氏:
 僕が書いたテキストの脚本を元に中道さんがネームを起こし,それを見てまたセリフのニュアンスや配置を調整する形ですね。絵の部分には極力に口出しをしない方針で,矛盾や行き違いが生じたときのみ修正をお願いすることにしています。

4Gamer:
 プロットの方向性でぶつかったりはしないんですか? なんとなく,お二人とも作劇へのこだわりが強そうな印象ですけど。

中道氏:
 最初のうちは,お互いにセリフを直しまくって無限ループしてましたね(笑)。もう,まったく終わりが見えないくらい。その結果として落ち着いたのが,互いが互いの領分で最終決定権を持つ,今のスタイルです。

4Gamer:
 絵は中道先生,シナリオは渡辺さんということですね。

中道氏:
 そうですね。この物語をずっと温めてきたのは渡辺さんなんだから,この人の中にあるものを漫画にしたほうが,きっと面白くなる。もちろん意見は出し合いますけど。結果として,かなり良い分業スタイルになったんじゃないかな。

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怪獣×ボドゲ×タイムリープの化学反応から生まれる物語


4Gamer:
 作品の中身についてもう少し聞かせてください。先ほどは「シン・ゴジラ」的なものを避けた結果として今の形になったとのお話でしたが,タイムリープものを選んだのはどうしてだったのでしょうか。

渡辺氏:
 ループものって,その構造自体がゲームとの親和性が高いですし,そのほうがボードゲーム原作らしい企画になると思ったのが一つ。あとは作品の発表形態によるところも大きいですね。

4Gamer:
 発表形態ですか。

渡辺氏:
 ええ。当初はクラウドファンディングで資金を集めて,完全書き下ろしの単行本として発表しようと考えていたんです。僕はゲーム作りの経験はあっても漫画の制作経験はなかったので,ゲームの作り方をそのまま漫画に適用しようとしていたわけです。

4Gamer:
 それはつまり,いわゆるアメコミのような?

渡辺氏:
 そうですね。この作り方であれば,短い尺でもまとまりやすい映画的な作劇のほうが適しています。しかし連載でやるなら,もう少し話を展開させやすい,意外性ある話のほうがいい。

4Gamer:
 なるほど。連載形式になったのはどうしてなんでしょう。中道先生からサンデー編集部に話を持ちかけられたとか?

中道氏:
 そうです。編集部に企画を説明したら興味を持ってくれて。そこで形になるかどうかはさておき,連載で企画を進めてみようという話になりました。渡辺さんとは反対に,自分は連載形式の方が慣れていましたから,ありがたかったですね。

渡辺氏:
 結果的には,僕も連載になってよかったと思っています。途中で打ち切りになってしまったら,ボードゲームにもネガティブなイメージがついてしまいかねない,なんて考えていたんですけど。

4Gamer:
 そういうことだったんですね……確かにゲームが持つリプレイ性は,ループものに通じるところがあります。しかし「ボルカルス」のループは,それとも少し違いませんか。

中道氏:
 それは僕も驚いたところです。普通は何度も失敗しながら,ループしてボルカルスに挑む話だと思いますよね。でも漫画の中で描かれるのは,最後のループだけという(笑)。

渡辺氏:
 タイムリープをやるなら,その中でも新しいことがやりたいと思いましたし,それにループものが一番盛り上がるのって,やっぱり「これが最後のループだ!」ってときじゃないですか。なら最初と最後だけに絞ってしまおうかと。

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4Gamer:
 ああ,序盤がちょっと巻き気味なのは,それが理由ですか。

渡辺氏:
 そうですね。あれはけっこう意識的にやっています。従来の怪獣モノって,映画の尺に合わせて作られているから,怪獣が現れるまでの“予兆”の部分が長いんですよ。映画館ならそれでいいですが,漫画でそれをやると1話に怪獣が出せない。

中道氏:
 だから最初に怪獣が出てきて,あっという間に30年戻るんです。

渡辺氏:
 あとは新しい人物が登場するごとに,タイムリープ前にどういう死に方をしたのかを描くことで,怪獣の存在感をアピールできます。これも作劇上の作戦の一つです。

4Gamer:
 なるほど。今のところ,読者の反応はいかがですか?

渡辺氏:
 Xなどで原作ボードゲームを知らない方の感想を見かけると,「純粋に漫画として楽しんでくれている!」って嬉しくなりますね。一方で,ボードゲーム勢はさりげない原作要素にも細かく気づいたり考察してくれたりして,さすが解像度が高いです。

中道氏:
 あと,ちょっとしたボードゲーム要素を物語と結びつけて読む人が出てくるのは,完全に予想外でした。

渡辺氏:
 そうそう。第1話で主人公達がボードゲームを作っている描写があるじゃないですか。あれが何か,大きな伏線だと受け取った人が多いみたいで。

4Gamer:
 えっ,あれは伏線じゃないんですか?

渡辺氏:
 まったく無意味でもないんですが,ボードゲームである必然性はそんなにないというか。そもそもあれ,最初はボードゲームじゃなくて野球だったんですよね。

中道氏:
 そうしたら僕らが野球の解像度が低すぎて,編集部から総ツッコミが入っちゃったという。サンデー編集部の野球愛は,本当にエグいくらいなので(笑)。

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渡辺氏:
 編集さんから「そもそも二人が詳しいもののほうがいいんじゃないですか?」と言われて,じゃあボードゲームかってなったという(笑)。ただ,せっかく注目されて印象に残るシーンになったのだから,伏線としてもう少しきちんと活かしたいと思っています。

4Gamer:
 連載だからこそできる変化ですね。ちなみに,先の展開はどこまで決まっているのですか。

渡辺氏:
 編集部に相談した時点で「全何話で,各話はこういう話」という全体構想を用意していましたが,今はそこからも外れつつあるんですよね。そういう意味では,決まっているのは大筋だけとも言えます。

中道氏:
 連載中に細部が変わっていくのはよくあることですから,むしろ普通だと思います。

4Gamer:
 渡辺さんとしては,連載形式のどんなところにメリットを感じていますか。

渡辺氏:
 実際に経験してみると,漫画を面白くする「連載の力学」のようなものがあるな,と思いました。次回へのプレッシャーとか読者とのコミュニケーションが良い方向に作用すると,自然とお話の質が上がっていくんですよね。事前に考えた全体プロットは,1話単位で見るともっとアッサリしてたので,そこに面白さを盛って密度を上げていく過程を味わっています。
 一方で,連載は各話ごとに見せ場を作る必要があるわけで,そこは映画のような「最初から最後まで一気に味わう」形式の物語とは根本的に違います。これは中道さん達からすれば常識だと思いますが,僕には大きな学びでした。

4Gamer:
 ボードゲームの「Kaiju on the Earth」には,「ボルカルス」のほかにもシリーズ作品がありますが,世界観は統一されています。ボルカルス以外の怪獣がコミック版に登場する可能性はありますか。

渡辺氏:
 もちろん,「レヴィアス」「ユグドラサス」を登場させたい気持ちはあります。ありますが,時系列的に出せないんですよね。今のところ,ボードゲームの説明書にある年表に沿って話が進んでいるので。

中道氏:
 こっそり出してもいいのでは? カメオ出演的に。

渡辺氏:
 ループによる世界戦の揺らぎはあるにせよ,あまり大きく崩すことはしたくないんですよね。だから,もし“続き”があるならば,といったところでしょうか。今のところは。

4Gamer:
 ボードゲーム版を持っている人は,年表と見比べてみたら面白いかもしれませんね。

渡辺氏:
 万堂の人体発火能力なんかも「急に異能力バトルになった!?」と言われましたが,実はボードゲーム版の説明書の時点で決めてあった設定なんですよね。ぜひ確認してみてください。

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漫画家・中道裕大のルーツを紐解く


4Gamer:
 ここからは中道先生ご自身にスポットを当ててうかがっていきたいのですが,確か漫画家を目指したきっかけがテレビ版の「新世紀エヴァンゲリオン」なのですよね。

中道氏:
 そうです。見たらもう,ショックを受けちゃって。当時はモテたい一心でサッカーやってた高校生だったんですが,「こんなものが作れるなら,一生モテなくていいんじゃないか」って思っちゃいました。それで今までの自分の浅はかさを後悔し,サッカーを辞めて美大を目指したくらいです。

4Gamer:
 まさに直撃世代ですね。それ以前から絵は描かれていたんですか。

中道氏:
 読むのは好きでしたが,それほど絵がうまいわけではありませんでした。だから美大を目指したといっても,今思えばやる気だけだったんですよね。いきなり美術室にこもって,デッサンしながら漫画を描いたりしてました(笑)。

渡辺氏:
 極端だなあ(笑)。

中道氏:
 でもそれくらい,エヴァは人生の転換点だったんです。作家としての原体験なので,僕が描くボルカルスはちょっと初号機に似てると思います。

渡辺氏:
 言われてみれば確かに。そう考えるとエヴァの学園ものの要素が「放課後さいころ倶楽部」になり,特撮ものの要素が「ボルカルス」になった,とも言えるのか。

中道氏:
 漫画家として幸せな話です(笑)。ただ「放課後さいころ倶楽部」は,アニメの「けいおん!」の影響が大きいですね。ちょうどハマっていた時期だったので。

4Gamer:
 一方で,漫画としてはバトルものがお好きとのことですが,自分で描こうとは思わないのでしょうか。

中道氏:
 バトルものは好きなジャンルであると同時に,自分の才能のなさを痛感させられるジャンルでもあるんです。例えば冨樫義博先生が描くキャラクターやバトルのアイデアを,自分が思いつけるかと考えると,到底無理だと感じるんです。好きだからこそ,足りていないことが分かってしまう。何度もトライはしているんですが,難しいですね。「好き」と「描ける」は,また違うところにあるんだと思います。

渡辺氏:
 そこは中道さんのプロらしい部分ですよね。僕は漫画は素人なので,中道さんがバトルものが好きだっていうなら,「じゃあそれを出しましょうよ」って言ちゃうんですけど。

中道氏:
 そう簡単じゃないんですよ(笑)。

4Gamer:
 「ボルカルス」と「放課後さいころ倶楽部」では,かなり作風が違うなあと思っていたのですが,作家としての中道先生のルーツはどちらとも違うんですね。

中道氏:
 そうですね。「放課後さいころ倶楽部」のように女の子がたくさん出てくるものは,自分としては珍しいと思います。もちろん描いてるときは楽しいんですけど。それはそれとして,反動としてオッサンばかり描きたくなる。だから「ボルカルス」を描いてるときは,古巣に帰ってきたみたいでありがたいです(笑)。

4Gamer:
 「ボルカルス」の登場人物は,中道先生がデザインしているんですか。

コミック版「ボルカルス」第2巻(リンクはAmazonアソシエイト)
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中道氏:
 デザインは自分ですが,完成までには渡辺さんの修正がかなり入っています。とくにイチロとカナタのデザインは別人ってくらい変わりましたね。最初は髪の毛がツンツンしてる,今よりずっとチンピラっぽいデザインでした。

渡辺氏:
 「龍が如く7」の春日一番みたいなイメージでしたね。

中道氏:
 当初は「青年誌っぽいリアルなテイストにしたい」「なんならホラー作品を描くつもりで」って話だったので,かなり濃い目のデザインだったんですよね。意図的に線を増やして,リアリティラインもかなり高めの設定でした。

4Gamer:
 なるほど。一方で「ボルカルス」を描いていて難しいのはどんなところですか。

中道氏:
 やっぱりボルカルスの巨大感や恐怖感の表現ですね。そこはまさに,エヴァやそのほかの参考作品を見返したりして,勉強しながら描いています。だから奴が出現するとどうしても作画に時間がかかりますし,そのたびに「こうじゃなかったかも」「もっとできたかも」って思い悩んでいます。

渡辺氏:
 いやでも,中道さんの描くボルカルスはめちゃめちゃカッコイイですよ。ボルカルスって描く人によって少しずつ顔が違うんですが,中道さんのものは元のデザインに凄く忠実なんです。「放課後さいころ倶楽部」の頃はイメージもしませんでしたが,ほんとうに素晴らしいと思います。

4Gamer:
 中道先生の漫画家としてのルーツは,少し分かってきた気がします。一方で,ボードゲームとの出会いはどんなきっかけだったんでしょうか。

中道氏:
 最初に遊んだのは「ごきぶりポーカー」ですね。伊集院 光さんのラジオで紹介されたときだと思いますが,これが本当に衝撃的で。なにせ相手を騙したほうが偉いって価値観のゲームなので,実際に遊んだときは「こんなことしていいの?」って恐怖を感じたくらいです。

4Gamer:
 その経験が,後の「放課後さいころ倶楽部」につながった?

中道氏:
 そうですね。当時は次に描く作品に悩んでいて,ネタを探している時期でもあったので。だから最初は漫画のためにゲームを遊んでたんですが,今ではすっかり趣味になってます。

4Gamer:
 ゲーム自体は元よりお好きだったんですか。ボードゲームに限らず,アナログゲーム全般や,デジタルゲームも含めて。

中道氏:
 ボードゲームだと,それ以前はせいぜい人生ゲームくらいでしたね。デジタルを含めると,世代的に全盛期だった格闘ゲームを当時はよく遊んでいました。でも,それも大学に入るくらいで離れてしまい。

4Gamer:
 では,「ごきぶりポーカー」までずいぶん期間が空いたんですね。

中道氏:
 ええ。その“断食”の期間が長かったので,デジタルゲームのほうでも大変なショックを受けました。「放課後さいころ倶楽部」の連載中はデジタルまで手を広げられなかったんですが,最近になって「スプラトゥーン」にどハマりしてます。もう面白くて(笑)。

4Gamer:
 それはそれは(笑)。ボードゲームのほうも,今もよく遊ぶのでしょうか。

中道氏:
 遊びますよ。知り合いのバーを貸し切りにして,月イチくらいのペースでボドゲ会を開いています。

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4Gamer:
 お気に入りのゲームやジャンルはありますか。

中道氏:
 うーん……テキストの多いカードゲームやデッキ構築系がやや苦手で,好きなのは4人で卓を囲む協力プレイゲームでしょうか。ただ唯一,「カルカソンヌ」だけはかなりやり込んでいます。もう対面だと誰も対戦してくれないので,スマホアプリで黙々と。

4Gamer:
 それはすごい。競技カルカソンヌは,日本勢がかなり強いと聞きますね。

中道氏:
 ええ。「日本一になったらドイツに行ける」と聞いて,大会に出たこともあります。予選に出るために木更津まで行って,小学生の女の子に負けそうに負けそうになったり。最終的には,50人中25位くらいでしたけど(笑)。

4Gamer:
 協力プレイゲームがお好きでしたら,「ボルカルス」はピッタリだったのでは?

中道氏:
 もちろん,始めて遊んだのは発売前でしたが,めちゃくちゃ面白かったですよ。そのときは,まさか自分が漫画化することになるとは思ってもみませんでしたけど(笑)。

4Gamer:
 「ボルカルス」の話に戻って来たところで,「Kaiju on the Earth」シリーズの今後の展開などもうかがいたいのですが,まず現状の手応えはいかがですか。

渡辺氏:
 最初に挙げた3つの目標のうち,「日本を代表するボードゲームシリーズを作る」はある程度達成され,「メディアミックス展開を行う」は今回のコミック化で歩み始めることができました。あとは海外展開だけがまったく手つかずの状態なので,なんとかしたいですね。実は数年前に「あとは契約するだけ」の段階まで進んだお話があったんですが,コロナ禍でリセットされたまま,今に至っています。

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4Gamer:
 コロナ禍も落ち着いて来ましたし,今なら海外展開の可能性もあるのでは?

渡辺氏:
 怪獣映画はヨーロッパよりアメリカや中国での人気のほうが高いので,まずはそちらから展開していきたいですね。ただ,もちろん僕だけで決められる話ではないので,各方面と相談のうえでになります。

4Gamer:
 「Kaiju on the Earth」ではシーズン2の第1弾として「クアント」がリリースされましたが,これに続くシリーズ作品の状況も気になります。

渡辺氏:
 次のタイトルは,ゲームデザインがほぼ完成し,アートワークなどを進めている状態です。なんと「フォグサイト」で知られるSoLunerGamesの明地 宙さんと,「ボルカルス」を手がけたI was gameの上杉真人さんの合作で,怪獣もそれに合わせて2体登場! という意欲作です。具体的な発売時期などは,やはり各方面と調整中ですので,もう暫くお待ちください。

4Gamer:
 「ボルカルス」の拡張セットはいかがですか。せっかくコミック版がスタートしたのですから,コミック版の要素を取り入れた拡張があれば,ファンは喜ぶのではないかと。

渡辺氏:
 今,せっかくコミック版が連載中なのにボードゲームが品薄状態なのは本当にもったいないので,何らかの形で再販を急がなければと思っています。スピード重視でこれまでと同じ仕様でいくか,新要素を取り入れたリニューアル版を作るかは迷うところですね。これも各方面と調整中ということで!

4Gamer:
 分かりました。最後に,4Gamer読者に向けたメッセージをいただけますか。

渡辺氏:
 僕自身,ゲームプロデューサーとしてはもう20年以上やってきて,ゲームのストーリーや世界観を作る仕事は何度もありましたが,漫画原作は今回が初挑戦になります。そんな中,プロデューサーとしての自分が“新人漫画原作者としての自分”に出した指示は,「素人が上手にまとめようとするな」「やりたい事は全部詰め込め」「子供が考えたような話を照れずにやれ」でした。それを中道さんがプロの技術で受け止めてくれた結果,こういう変わった漫画になっています。

中道氏:
 今後も予想外の展開が待っていますので,楽しんでもらえたら嬉しいです。なにせ作画担当の自分が,渡辺さんの話を聞いているだけでワクワクするくらいですから。今から期待のハードルをあげておいても,「こんなことになるの!?」って驚くと思います。第2巻以降もぜひお付き合いください。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

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サンデーうぇぶり「ボルカルス」配信ページ

Kaiju on the Earth「ボルカルス」公式サイト

  • 関連タイトル:

    Kaiju on the Earth(第1弾)ボルカルス

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