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「あの」Elonaのモバイル版もついにサービスイン。コアゲームばかりを選んでローンチするライトニングゲームスは,どういう会社なのか
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印刷2019/09/06 17:45

インタビュー

「あの」Elonaのモバイル版もついにサービスイン。コアゲームばかりを選んでローンチするライトニングゲームスは,どういう会社なのか

elonaモバイル(公式サイト)。ちなみに,オリジナル版は頭が大文字の「Elona」だが,モバイル版では頭が小文字の「elona」となる
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 「Elona」というWindows用フリーウェアを知っているだろうか。

 ローグライクゲームの1種……と言ってしまえばそれまでだが,その圧倒的な自由度の高さ(この言葉はElonaのためにある!)が特徴で,最初は本当に何をしていいのかまったく分からないが,慣れてしまえばとても面白く,長く遊べる作品だ。2011年3月をもって,オリジナルの作者からの更新無期限中止が発表され,ソースコードの配布が行われた。その後は,さまざなヴァリアント(派生作品)が登場し,いまなお多くの人を楽しませている。

 そしてWebの記事などで見たことがある人もいるかもしれないが,中国ではそのElonaがモバイル版として開発されていたのだ。2018年2月に中国の開発会社が制作を発表,その後の紆余曲折を経て,ついに中国国内でCBTが始まった(8月29日にはオープンテストも始まった)。

灼熱のChinaJoy期間中に行われたインタビュー。ちなみに写真は入場待ちの列だ
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 Elonaのモバイル版なんて,そんな酔狂なものをローンチしようとする中国の会社はどんなところだろう……と調べたら,ほかにもコアなゲームばかりを出していて,いわゆる「いまどきのスマホゲー」の色があまりない会社だった。
 ChinaJoy期間中の8月2日には,サイバーパンクSRPG作品である「ボーダーレイン -君臨ノ境界」のテスター募集を開始するなど,日本支社が出来てからの動きも早い。この面白そうな会社(Shenzhen Leiting Games,英字表記がLeiting なので戸惑うが,日本支社と同様,本社も「ライトニング」ゲームスである)の中国本社CEOに話を聞くことができたので,どんな会社なのかお伝えしよう。

「elonaモバイル」公式サイト(※中国語)

深圳雷霆信息技術有限公司(Shenzhen Leiting Games)公式サイト

ライトニングゲームス(日本支社)公式サイト


深圳雷霆信息技術有限公司(ライトニングゲームス)CEO
James Zhai
画像集 No.003のサムネイル画像 / 「あの」Elonaのモバイル版もついにサービスイン。コアゲームばかりを選んでローンチするライトニングゲームスは,どういう会社なのか

4Gamer:
 初めまして,ですよね。今日はお時間とっていただきありがとうございます。

深圳雷霆信息技術有限公司(ライトニングゲームス)CEO James Zhai氏(以下,Zhai氏):
 こちらこそお呼びいただきありがとうございます。

4Gamer:
 お会いしてみたいと思ったそもそもの発端は,elonaモバイルなんです。
 「あの」Elonaのモバイル版を作っているのが中国の会社だということにまず驚きましたけど,会社のことを調べてみたら,これがまたコアゲームばかりしか出してない謎な会社でして……。


Zhai氏:
 ははは(笑)。確かに今のラインアップを見ると,コアなゲームが多いですね。ローグライクとか。でも実は,弊社としてはそういったゲーム性にこだわっているわけではないんです。接しているデベロッパーさんのラインナップの中にコアゲームが多いので,たまたまそうなっている感じです。

4Gamer:
 「たまたま」でなってる雰囲気はあんまりないんですけど(笑)。

Zhai氏:
 いえいえ(笑)。これからもラインナップは充実させていきますし,もっともっとバラエティに富んだ製品リストになると思いますよ。二次元のキャラゲーやジャパニーズスタイルのゲームも去年から出し始めていますし。

4Gamer:
 なるほど。
 ……でもそうはおっしゃっても,このご時世に,わざわざソーシャルゲームじゃないゲームを会社としてそんなにたくさん売ること自体が,レアケースですよね。面倒くさいし売り上げはソーシャルゲームほどじゃないでしょうし。そういうことを続けている以上は,たぶん会社のポリシーか,Zhaiさんのポリシーか,何かそういうものがあると思うんですが。

Zhai氏:
 そうですね……。弊社としては,そういったコアゲームにこそ多くのユーザーが埋もれていると思っています。とくに宣伝やプロモーションを行わなくても,好きなプレーヤーがある程度集まってくれるでしょうから。

4Gamer:
 なるほど確かに。

Zhai氏:
 それから,コアゲームでゲーム性と収益性が両立できないことはないと思います。実際に弊社はある程度両立できている……というかけっこう良い収益性です。この手のゲームを扱っている中では,弊社は今,中国で一番実績を出している会社だと思います。
 このままの勢いでコアユーザーの皆さんをどんどん集めて,さらにユーザーベースを拡大していきたいですね。

名作「Elona」。本家の更新はされていないが,ヴァリアントはいまでも更新がされ続けており,十二分に楽しめる
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4Gamer:
 elonaモバイルもその一環である,と。

*Elonaとは,言わずと知れた日本発のフリーウェアのローグライクゲーム。正式には「Eternal League of Nefia」という名前だが,通常Elonaと呼ばれる。イルヴァと呼ばれる島で生活する,驚異的な自由度を誇る作品。詳しくはWikipediaや有志のWikiなどをぜひチェックして,一度遊んでみてほしい。4Gamerでも10年以上前に紹介記事を掲載している(関連記事

Zhai氏:
 そうです。弊社もいろいろなローグライクタイトルを扱っていて,それぞれでかなりいい実績を出しています。Elonaは,ローグライクゲームの中ではもはやすごく古いほうではありますが,知っている人ならよくお分かりのとおり,とてもゲーム性が高いゲームです。

4Gamer:
 モバイル版は中国開発なのが意外だったんですが,中国でも有名なんですか?

Zhai氏:
 いいえ,さすがに中国のユーザーで接した人は少ないです。なので逆に,あんなに面白いElonaを,もっと多くの中国のユーザーにプレイしてほしいと思っているんです。

楽しげなelonaモバイル。早く遊ばせて……
(左)キャラの装備画面 (右)タスクを受けるところ
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4Gamer:
 ファンとしてはとても嬉しいんですが,いまどきだと日本のユーザーでもElonaを知らない気がしますね……。一体これを,御社の中で誰が見つけてきて,誰がプロジェクトを起こしたんですか(笑)。

Zhai氏:
 実は今Elonaのモバイル版を作っている開発者は,もともと弊社のスタッフで独立して起業した人なんです。

4Gamer:
 え?

Zhai氏:
 彼はすごくElonaが好きで,一人のファンとして「中国でモバイル化してみんなに遊んでほしい!」という強い思いから,このプロジェクトを立ち上げたんです。

4Gamer:
 そうだったんですか。でも,ほとんど知られてない状態で,プロジェクトとして成立できるものなんですか。

Zhai氏:
 繰り返しですが,確かに中国でElonaを知っている人はすごく少ないと思います。でも弊社の考え方は,どんなゲームも「知られる前には知られていない状態」ということで,一番大事なことは,どれくらい知られていてどれくらいの数のファンがいるか……ではなく,どれくらいゲーム性が高いのか,だと考えています。

4Gamer:
 シリーズものと続編ばかり出す風潮も強いですしねえ。

Zhai氏:
 elonaモバイルの事前登録とテストを行っているんですが(編注:インタビューはChinaJoy期間中なので8月頭のこと),2か月ぐらいですでに20万人のユーザーが登録してくれました。もらっているフィードバックを見ると,一部の人は確かに以前からElonaのファンですが,ほとんどの人はElonaを遊んだことがなく,聞いたこともなかったようです。

*本インタビュー掲載前の2019年8月29日に,中国でiOS版のオープンテスト開始。開始するなり中国のApp StoreとTapTapでランキング1位に躍り出た。

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4Gamer:
 そういう人からの評価はどんな感じなんですか?

Zhai氏:
 フィードバックを見ても,すごく面白いという評価を頂いています。とくに好評なのは,Elonaの売りともいえる「自由度の高さ」です。やはりゲームは,ゲーム性が一番なのです。

4Gamer:
 おっしゃることは確かに正論なんですが,例えば日本国内で,日本でまったく知られていないIPを持ってきて「これの日本語版を作りたい!」と言ったところで,おそらくほとんどの会社は通してくれないんじゃないですかね(笑)。

Zhai氏:
 まぁそうでしょうね(笑)。

4Gamer:
 だからそこは素直に凄いな,と思いました。

Zhai氏:
 先ほど申し上げたように,IPがIPとして認められる前に,誰にも知られていないのはすべてのゲームで一緒だと思います。弊社は大型IPを使ってゲームを作ったりはしませんし,やはり面白いオリジナルゲームをIPとして育てていきたいという考えが強いんです。

4Gamer:
 なるほど。……でも親会社(G-Bits)もゲーム会社ですよね(外部リンク)。

Zhai氏:
 はい。

4Gamer:
 G-Bitsは,ちょっと調べてみたら武侠モノを作ってましたね。となると,御社との棲み分けだったり,与えられるミッションだったり,そういうものがちょっと気になってしまうんですが。親会社の部署にせず,わざわざ会社を分けているわけですし。

Zhai氏:
 考えとしては2点ありまして,一つはブランド意識です。我々と親会社は緊密なやり取りをしているので,実のところ,本当に部署みたいな感じですけど,G-bitsのほうが開発ブランドで,ライトニングゲームスはパブリッシングブランドという位置付けです。

4Gamer:
 パブリッシングブランド?

Zhai氏:
 ユーザーからすると「G-bits」という名前が結構覚えにくいようで(笑)。ライトニングゲームスという社名は中国のユーザーにとっては覚えやすいし,「いいゲームを出し続けるパブリッシング会社です」というブランドを立てていきたいという考えがあります。それが一つめの「ブランド意識」です。
 
4Gamer:
 なるほど。

Zhai氏:
 もう一つは,会社の体制としては社員の一人一人に自発的にプロジェクトを立ち上げてもらいたくて,スタッフの起業を応援しているということです。

4Gamer:
 それはG-bitsが?

Zhai氏:
 そうです。そういう理念があるので,ライトニングゲームスを設立したわけです(笑)。

4Gamer:
 あぁ社長自身が……(笑)。

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中国と日本のゲームユーザーは今後,同じ方向に向かっていくだろう


4Gamer:
 そんなライトニングゲームスが日本で事業をしようと思ったきっかけは何ですか? いや中国の会社は皆さん,特に最近は「日本に出たい」「日本でローンチしたい」とおっしゃいますが,現実問題としていろんな壁があるわけでして,こんなにスパーンと来るのは珍しいといいますか。

Zhai氏:
 大きく言うと3つの要因があります。
 弊社は,2015年からグローバルでのパブリッシング事業を始めました。ただ,その時はまだ実績があまりよくなかったのです。2017年,18年ぐらいからどんどん実績を上げてきましたが,一番数字が出ているのは欧米や台湾,香港,マカオ,それから韓国です。日本市場は,まだそこまでよくないのです。日本はとても大事な市場だと考えていますし,進出は欠かせないと考えています。まずこれが1つです。

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4Gamer:
 重要なのでやるしかない,と。

Zhai氏:
 2つめとしては,やはり日本はかなり独自性が強い市場だと考えております。ユーザーの好みという意味でも,ゲームカルチャー的なものでも。ローカライズ面においてもすごく難しい特殊な市場と考えています。日本市場に合うゲームを提供できるように,日本支社であったり,日本に詳しい人材が必要だと考えていました。

4Gamer:
 2020年近くなっても,やっぱりまだ日本は特殊な市場なんですね……。

Zhai氏:
 そうだと思いますよ(笑)。そうでなければ外国のゲーム会社がこんなに苦労しないでしょう。
 そして3つめの理由として,ユーザー目線があります。タイトルがどういう姿でそのエリアのユーザーに受け入れられるのかが気になるので,できるだけ完璧な状態でローンチしたいと思っています。そういう考えである以上,やはり日本の方に実際に動いてもらわないとなかなか難しいと思っています。
 以上の理由で日本支社を作る必要があったので,がんばりました。スパーンと作ったように見えるかもしれませんが,長いこと計画をしていてようやく作れたんですよ(笑)。

4Gamer:
 日本のパブリッシャーに任せるという選択肢はなかったんですか?

Zhai氏:
 確かにそういう選択肢もありましたけど,現時点で弊社がパブリッシングしている作品は,他社様のタイトルを運営させていただいていることが多いんです。グローバルでの運営許諾をいただいて,その一環として日本市場に出したりとか。

4Gamer:
 なるほど。じゃあ孫請けみたいな感じで他人任せにもするわけにもいきませんね。

Zhai氏:
 そうなんです。でも,グローバルパブリッシングで活躍したいなら,日本市場での経験は必ず積まなければならないと考えていますから。
 また日本支社は「かけ橋」としての役割もありまして,単に弊社の作品を日本の会社にパブリッシングしてもらうことだけではなく,日本のデベロッパ様と協力して……。

4Gamer:
 中国でパブリッシュ?

Zhai氏:
 ええ。日本のゲームを中国に持ってくるのもまた,とても大事なことですから。
 日本のデベロッパさん2,3社と,中国またはグローバルでパブリッシュする契約を結んでますよ。

4Gamer:
 たとえば名前まで聞けたりしますか?

Zhai氏:
 Pocket Pair様の「Overdungeon」なんかは,グローバルパブリッシングの契約を結んでます。

4Gamer:
 おお,なんかライトニングゲームスらしいコアな感じが……。売ったり買ったり,項さん(編注:ライトニングゲームス日本支社の社長)頑張りますねえ。

Zhai氏:
 いや本当に(笑)。

4Gamer:
 Overdungeonなんかは分かりやすいですが,日本のものだとどんなタイトルが欲しいですか?

Zhai氏:
 今一番欲しいのは……やはり特色が強くてゲーム性も高いものですね。

4Gamer:
 めちゃくちゃワガママです(笑)。

Zhai氏:
 そうですね(笑)。
 今までいろんなゲームのテストプレイをしましたが,そのほとんどは中小のゲーム会社さんかインディー系でした。でも最近では,日本の大手会社さんとも打ち合わせしたりしてまして,今までのような「アクの強い」「ゲーム性が高い」作品だけではなく,大きなタイトルやIPタイトルもチェックしてますよ。

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4Gamer:
 日本で売れに売れているスマホゲームも,中国ではとんと成功できない例がたくさんあるんですが,Zhaiさんは何が不足しているんだと思いますか?

Zhai氏:
 原因は2つあると考えてます。まず1つめは,日本のゲームの設計と中国のユーザーの好みが合わないところ,でしょうか。中国のユーザーにとって「失われた15年」は大きいのです。

4Gamer:
 やはりゲーム文化そのものが影響しているんですね。

Zhai氏:
 そうです。日本ですでに定着したコンソールライクなゲームのプレイ方法なんかは,中国のユーザーにとっては受け入れにくいところがあります。

4Gamer:
 最近はちょっと変わったりしていませんか?

Zhai氏:
 そうですね,確かにそうかもしれません。とくにコアユーザーは,これからの時代で少しずつ変化がみられると思います。中国と日本のユーザー……とくに若いユーザー達は,これからはどんどん同じ方向に向かっていくんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 そうですね。何事もすごい勢いで追いついてきますしこの国は。
 
Zhai氏:
 2つめは,コンテンツや課金システムのデザイン,でしょうか。やはり中国と日本では,いろいろと違う部分があると思います。とはいえ,今までに中国でサービスを失敗したメーカーは確かに少なくないですが,全部が全部失敗したわけではないですし,最近ではかなりいいパフォーマンスを見せているタイトルもありますしね。特に二次元のゲームとか。
 
4Gamer:
 「FGO」ですね。
 
Zhai氏:
 あとやはり,中国市場に進出する時にもローカライズが凄く大事だと思います。どの国のユーザーでも,プレイヤーがゲームをする目的はみんな同じで「ゲームの面白さを体験したい」のだと思います。
 でもその「面白さ」に対する認識がくせ者で,日本ユーザーが考えている“面白い”と,中国ユーザーが考えている“面白い”は,違うものだと思うんです。そういったところをちゃんと捉えていかないと,日本で成功しても中国のユーザーが面白くないと感じちゃうかもしれません。それはもうパブリッシャの腕によりますね。
 
4Gamer:
 確かにそうですねえ。味覚みたいなものでしょうし。


自由度の高さはElonaの一番の特徴なので,そのエッセンスはちゃんと残しておきたいと思っています


4Gamer:
 しかし,そこまできちんと違いを把握しているライトニングゲームスとしては,elonaモバイルをどういう形で中国ローンチさせようと思っているんですか?

Zhai氏:
 それは,「あの」Elonaをどのような形でモバイルにしているのか,というのと同義の質問ですか?

4Gamer:
 はい,そう思っていただけて問題ありません。
 僕も当然Elonaは遊んでいて,あれがそのままモバイル版になるわけはないだろうな,と思っているわけです。システムもルールも,あまりにも重すぎると思います。

Zhai氏:
 おっしゃるとおりですね。

4Gamer:
 だからきっと,リファインだったり軽量化だったりシンプル化だったり,なんらかの変更がかかった状態で「モバイルゲームらしいElona」になって出てくるんだと思うのですが,それはどういうところに気を付けて,どういうところを重視してやっているのかな,というのが気になっているんです。
 
Zhai氏:
 確かに日本の方からするとelonaモバイルのことは気になるでしょうから,ちゃんとお答えします。2つの側面から述べさせていただきますが,1つはゲームの設計に関することで,もう1つはプロモーションの位置付けの話になります。

4Gamer:
 ぜひお願いします。

Zhai氏:
 ではまずゲームの設計からです。とはいえ私もこういう役職(社長)ですので,具体的に細かいところまで全部把握しているわけではありません。そこは予めご了承ください。
 しかし方向性はキチンと理解しておりまして,やはりスマホゲームらしく,暇な時間や細かい隙間時間を利用できるようなゲームとして作りたいと思っています。先ほどおっしゃった通り,ゲームが「重すぎる」と,スマホゲームとしては厳しい結果になるでしょうし。

もちろん資源の採集もできる。このあたりの要素に抜かりはない
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4Gamer:
 あぁちょっと安心しました。確かにElonaをスマホで遊びたいとは思いますが,「あの」Elonaを遊びたいのかと聞かれると,ちょっとどうなんだろうと自分でも思ってましたし……。

Zhai氏:
 ですよね(笑)。なので,いつでも始められていつでもやめられるようなデザインにしています。放置という要素もちゃんと入れつつ,そこまでがっつりとユーザーの時間を奪わないように調整を進めています。ゲームのバランスだって,ちゃんといじってますよ。

4Gamer:
 では2つめのプロモーションというのは?

Zhai氏:
 やはりElonaを知っている方は年齢層が高めですが,弊社としては,若い世代も重要なターゲットとして考えています。たとえElonaを知らないとしても,若いプレイヤー達は,受け入れる能力がとても高いですから。elonaモバイルを,「若者達が初めて遊ぶ,自由度が高くて面白いローグライクゲーム」にしたいのです。

4Gamer:
 もともとのElonaが持っているあの……なんて言えばいいでしょうか,凄まじく,そして変ちくりんな自由度のエッセンスは,キチンと残ってそうな感じがしますね。
 
Zhai氏:
 もちろんです。自由度の高さはElonaの一番の特徴なので,そのエッセンスはちゃんと残しておきたいと思っています。たとえばそれぞれのNPCとインタラクションを持てたり,爆弾で城を破壊したりNPCを殺したり,そういうことはたぶん多くのユーザーにとっては新鮮なところだと思うので,ちゃんと残しておきたいですね。

4Gamer:
 いまとなっては「ちょっとな……」と思う部分についてはどうするんですか? そもそもオリジナルのElonaは結構厳しいゲームですし。

Zhai氏:
 はい。オリジナルのElonaをそのままモバイルに移植するのは当然ダメだと思ってます。今話題に出たのは,おそらくプレイヤーキャラクターが餓死する部分とかの話だと思うんですが……。

4Gamer:
 はい,おっしゃるとおりです。

Zhai氏:
 そういう部分は少しだけカジュアル化してあって,スマホゲームに向くようにしています。食料については,なくなるけどまた探せばよい……という風にしました。そのあたりはうまくバランスをとりながら,エッセンスを残して,スマホユーザーにもっと合うゲームデザインを構築します。
 
4Gamer:
 もともとのElonaってとにかく自由度が高くてなんでもできて,それがゆえに最初に遊んだときにほとんどの人は面食らうと思うんですよね。何していいか分からないゲームですし。
 でも今の話を総合すると,それをよりコンパクトにして,スマホ化にあたって削ぎ落とすべきところは落として,Elonaらしい自由度の高さはそのまま残して,以前よりさらにローグライクな感じのゲームに再設計されて……?
 
Zhai氏:
 はい,合ってます。基本のゲーム設計に関してはまさにそうなると思いますが,プロモーション的にはやはり,Elonaを知らないユーザーに対してのアプローチがすごく大切だと考えてます。
 
(左)リンゴ狩り (右)ピアノを弾いたら下手すぎて観客に石を投げつけられて死亡……(クラス:ピアニスト は難度が高いので初心者はやめておきましょう)
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4Gamer:
 それは,チュートリアルとかそういう?
 
Zhai氏:
 そうです。とくにスマホゲームのユーザーにとって一番重要なのはチュートリアルで,最初の2,30分でelonaモバイルがどんなゲームか,どんな遊び方をするのか,どういう面白さがあるのか,そういうことをちゃんと体験してもらわないといけないわけです。そこが,elonaモバイルを開発するときの最大の難関ですね。実際にやってみて分かったんですが,Elonaがどういうゲームなのかを人に教えるのはとても難しいです……。

4Gamer:
 メディアの僕らも,すんなり伝えるのは難しいような気がします。

Zhai氏:
 あともう一つ重要なことなんですが,自由度の高さを売りにしているゲームには目標やゴールがあまりないというところは,なかなか中国のユーザーが慣れていないところだと思います。

4Gamer:
 まだ受け入れられませんか?

Zhai氏:
 そこまで多くの人がゲームプレイに成熟しているわけではない……と思っています。それを解決するために,限られた形でのゴールをユーザーに提供します。普通のゲームはたくさんのクエストやミッションを出しますが,elonaモバイルは限られた「ゴール」を与えます。それをある程度積み重ねることで遊び方を体験してもらって,そこから自由度の高さを味わってもらう感じです。
 
4Gamer:
 聞いてる感じでは,やらなくてもゲームは進みます?
 
Zhai氏:
 ある程度チュートリアルに近い感じなんですが,全部は見せません。例えばゲーム内に100ぐらいのクエストがあるとしたら,そのうちユーザーに見せるのは5個くらいで,残り95個は自力で発見してもらう感じになっています。その5個で,NPCとのインタラクションとか,そういうものを理解していただけるような。

4Gamer:
 オリジナルのElonaにもメインストーリーはありますが,普通のRPGみたいに,メインストーリーのクエストをクリアしないとゲームが進まない……とかそういうシステムじゃなくてよかったです。
 
Zhai氏:
 さすがにそういうものはないですよ(笑)。
 
4Gamer:
 よかったです。

Zhai氏:
 そういう強制されるストーリーを導入したなら,自由度が完全に失われますしね。


マネタイズはPay-to-Winにあらず。ゲームのプレイ時間を短縮するだけ……なので課金率の低さが悩み?


4Gamer:
 しかし聞けば聞くほどマネタイズが気になるんですが,どんな感じですか?
 
Zhai氏:
 ユーザーさんに,時間をかけてもらうのか,お金をかけてもらうのか……というチョイスです。時間が十分あるユーザーさんであれば,ゆっくりちゃんと時間をかけてアイテムのコレクションとかをしてもらう感じです。時間がなくて進めたい人は,お金で解決してもらう,と。
 
4Gamer:
 課金をすることで……素材を買うとかそういうイメージですか。
 
Zhai氏:
 素材もありますが,ゲームのプレイ時間を短縮する権利みたいな感じです。素材をより早く獲得できるバフみたいな。

4Gamer:
 それって,プレイにおいて明確な差が生まれますか?

Zhai氏:
 もちろん時間は短縮できますよ。そのための課金ですし。しかし最終的には,時間をかける人もお金をかける人も,同じ楽しみ方ができます。

4Gamer:
 あぁそこは確かにそうかもしれません。僕がちょっと気になっているのは,お金を払うことによって,キャラクターが持てるアイテムの重量が倍になったり,そういう感じで「進めやすさに直結する」感じなのかどうかということなんです。

Zhai氏:
 なるほど。
 そういう意味でしたら,ちょっとした影響はあるけど,格段に上がることはありません,というのが答えです。もし格段に上がってしまったら,Elonaの持ち味と面白さがなくなってしまいますから,ユーザーさんがelonaモバイルを遊ぶ意味すらなくなってしまいます。つまりそれでは,結局弊社もこのゲームで利益をあげられなくなります(笑)。なのでそういう課金設計はしませんよ。

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4Gamer:
 ちょっと安心しました。
 でもお金を払ったら,払っただけのメリットがあるべきだとも思うし,そこは難しい問題ですよね。Pay-to-Winというシステムであっても,そのシステム「そのもの」は悪くないわけですし。

Zhai氏:
 確かにそこは,一番大きな課題で難しいところです。実際に中国でCBTをやってみてその結果を見る限りは,お金をかけるより長いプレイ時間をかけて遊んでいるユーザーさんのほうが多いんですよ。とにかく課金率が低いんです(笑)。
 とはいえCBTはゲームバランス的な意味合いでも,とても参考になったので,課金のシステムに関わりなく,職業バランスとか素材コレクションの流れとか,そういう部分も念入りに調整しています。
 
4Gamer:
 「課金率が低い」とさらりとおっしゃってますが,高くないサービスは終わっちゃうし,日本にも来なくなるから困るんですよね……(笑)。
 
Zhai氏:
 そこは,ユーザー数を拡大すればある程度解決できますよ(笑)。
 
4Gamer:
 期待しております。
 ……って,ここまでさんざんelonaモバイルの話を聞いてきましたけど,そもそも日本でサービスする……んですよね?
 
Zhai氏:
 もちろんです。
 現時点ではまだ中国先行で出して,いろいろな調整を重ねています。なにしろElonaはもともと日本の素晴らしい作品ですから,日本でこれからモバイル版を出すときまでに,日本のユーザーさんに合わせてまたいろんな調整を行う必要もあるでしょう。

自宅! 街の中にあるわけではないので,帰るのがちょっとだけ面倒だけど,ないと困る
画像集 No.015のサムネイル画像 / 「あの」Elonaのモバイル版もついにサービスイン。コアゲームばかりを選んでローンチするライトニングゲームスは,どういう会社なのか

4Gamer:
 あれ,日本向けに調整し直すんですか?

Zhai氏:
 ええ。結果として,中国のユーザーが遊んでいるバージョンとまったく違うelonaモバイルになるかもしれません。
 
4Gamer:
 そこまでですか。
 
Zhai氏:
 elonaモバイルを日本で成功させることは,中国より難しいだろうと思っています。なにしろ日本のユーザーさんは,もしかしたら弊社よりElonaに対しての知識も愛情も深いわけですから。

4Gamer:
 なるほど。
 
Zhai氏:
 そのための日本支社でもあるわけですから,もっと日本の方にいろいろ関わってもらって,日本のユーザーさんに合わせて万全の調整をしたいと思っています。
 
4Gamer:
 スマホのUIはローグライクと意外と相性が悪いので,やりがいはありますよきっと。
 
Zhai氏:
 そうですね。弊社の運営メンバーもローグライク好きな人がとても多いので,いろんな人に,世界レベルで,ローグライクゲームの面白さを教えたいと思っています。弊社にとってローグライクは「大好きなジャンル」であるとともに会社の戦略方針でもあるので,ローグライクのドメインも登録させていただきました(笑)。 

4Gamer:
 ド,ドメイン?

画像集 No.016のサムネイル画像 / 「あの」Elonaのモバイル版もついにサービスイン。コアゲームばかりを選んでローンチするライトニングゲームスは,どういう会社なのか
Zhai氏:
 そうです。roguelike.comで弊社のサイトが出るはずです。

4Gamer:
 ホントだ……。
 いやそんなに気合い入れているローグライクの,超大作ともいえるelonaモバイルは,いつごろの予定になるんですか?

Zhai氏:
 こちらとしてもなるべく早く出したいと思っているんですけど,スケジュールなどはまだ決まっていません。中国での調整とか,日本市場向けのコンテンツ設計とか,まだ時間がかかると思います。

4Gamer:
 なるほど。ではライトニングゲームスの日本事業全体で言うと,今年何本ぐらい出す予定ですか?
 
Zhai氏:
 日本市場での話ですよね?
 
4Gamer:
 はい。
 
Zhai氏:
 いまデベロッパから預かっているタイトルには,グローバルでのライセンスをいただいているタイトルはけっこう多いです。でもやはり,日本市場に出すときは日本市場に合わせて,ローカライズだけでなくカルチャライズなど,コンテンツの設計とかいろいろやらないといけないですし……いまここで言えるのは,1年で4,5本ぐらい……かな? というところです。

4Gamer:
 あれ,けっこうありますね……。

Zhai氏:
 まず最初は「ボーダーレイン」です。SRPGなので日本のみなさんにも楽しんでいただけると思いますよ。


4Gamer:
 ではその最初の一本を成功させて日本での足がかりとして,elonaモバイルだけでなくほかのローグライクや,ボーダーレインに続くSRPGなど,いろんなコアなゲームが登場してくるのを期待しています。ありがとうございました!

Zhai氏:
 ありがとうございました。

―――2019年8月4日収録

「elonaモバイル」公式サイト(※中国語)

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