インタビュー
[インタビュー]「FINAL FANTASY XVI」は,プレイヤー全員にエンディングを観てほしいと思える仕上がりに。開発のキーパーソン3名が語る,その魅力とは
2023年6月22日にリリースを控えた,スクウェア・エニックスのPlayStation 5向けアクションRPG「FINAL FANTASY XVI」(以下,FFXVI)。リリースまであと1か月ということで,今回はディレクターの髙井 浩氏とシナリオを手がける前廣和豊氏,そしてコンポーザーの祖堅正慶氏の3名に,本作の開発過程を振り返ってもらいつつ,あらためてゲームとしての魅力を語っていただいた。
「FINAL FANTASY XVI」公式サイト
人によって異なるFFのイメージを統一すべく
最初にストーリーラインを固めた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,ゲームの世界観やストーリーが,どのように組み上がっていったのかというところを,あらためて教えてください。
ダークファンタジーで,中世ヨーロッパ的な空気感については,最初から想定していました。そこから,ある程度年齢が高い層にも受け入れられるストーリーラインを一本柱として築きつつ,FF感は極力失わないようにしましょう,と。召喚獣をメインに据えることも最初から決まっていました。そこをベースに前廣がカンカンとトンカチを叩き始めたという感じですね。
前廣和豊氏(以下,前廣氏):
「ファイナルファンタジー」(以下,FF)シリーズのナンバリングは,開発規模が大きいこともあって,毎回前作から時間が空いてしまうんですよね……。そのため,ファンの皆さんの年齢も,新作が出るころには上がっているという事情があります。ですので,あらためて若い方に楽しんでいただくのはもちろんのこと,現実の厳しさや,嫌なこともたくさん経験してきている僕らぐらいの年代であっても,プレイヤーとして遊んだときに楽しめるお話を目指して書きました。
4Gamer:
確かにファミコン時代のFFシリーズから遊んでいるファンは,もういい年齢になっていますよね。そういうファンの中には,たとえゲームであっても“物語の深さ”みたいなものが感じられないと,満足できないという人も多いんじゃないかと思います。
前廣氏:
そのとおりです。それに加えて,お話ししたようにナンバリングの間がけっこう空いていますから,ファンの皆さんもFFに求めているものがそれぞれ違うとも感じています。
例えば僕らみたいにファミコンから触れてきた方もいらっしゃれば,PlayStationの「FINAL FANTASY VII」やPlayStation 2の「FINAL FANTASY X」から入った方もいらっしゃいます。あるいは「FINAL FANTASY XI」や「FINAL FANTASY XIV」のようなMMORPGから入った方もいらっしゃるぐらい,幅がすごく広いんです。だから「FFといえばコレ!」という一つのイメージがあるわけではないんです。
4Gamer:
確かにそうですね。
前廣氏:
ナンバリングごとにシステムも物語も毎回違うからこそ,人によって抱いているイメージがまったく違うものになるんです。実はこれ,作っている僕らにとってもそうなんです。
そういった状態で,FFとして物語をどこに落とすかと考えたときに,いい年齢になった僕ら自身の世代も楽しめる,むしろ僕らの年齢だからこそ楽しめるものを作りたいと考えました。僕らの世代が小中学生時代に感じたFFの雰囲気を,最新世代のPlayStation 5で再び味わえることができるんじゃないかと思います。
4Gamer:
人によってイメージが違うFFの最新作を作るにあたって,チーム内ではどのようにイメージを共有したんでしょうか。
前廣氏:
まず髙井や吉田(FFXVI プロデューサー 吉田直樹氏)と一緒に,コアとなる部分を最初に決めました。それで物語を先に固めて,「とりあえず,これ読んで」とチームに渡したんです。
4Gamer:
それを読むことで,自ずと意識も共有されていったと。
髙井氏:
ストーリーラインという意味で言うと,かなり早い時期に出来上がっていたんです。少なくともこれを読んでもらえば今回のお話は分かるという基礎部分がそろっていたので,必ず「最初に読んでね」と伝えていました。定期的に皆を集めて「こうだからね」みたいことをマメにやらなくてもいいくらい,ストーリーラインが固まっていましたね。
祖堅正慶氏(以下,祖堅氏):
細かい資料も,何か知らないけど凝っていて(笑)。
髙井氏:
全部読むのに数時間かかるからね(笑)。
前廣氏:
違う違う,細かいのを作らないと書けないんだよ(笑)。
祖堅氏:
何かさ,「こうなって,ああなって,相関図がこうなっていて,そこに紐づくストーリーはこうです」みたいな見やすい資料があって。「細かいことが書いてあるなぁ」って(笑)。
前廣氏:
お話からだと書けないので,地図から書くんです。「ここに山があって,こういう地形だとこのあたりに川があって」「森がここにあると,山の形から考えると風はこう流れるよね」「川がここにあるから,ここに村を作って,そこに人がいるから,国はこう形成されて」といった感じで。その地図から世界を全部作って,お話を書いていくんですけど,それを全部読んでいると「長い……」って話になる。
4Gamer:
地図を作ってストーリーを作る段階で,カッチリしたシナリオになっているんですか。
前廣氏:
最初に髙井と吉田と一緒に「これでいこう」と決めたシナリオからは,ほぼほぼ動いていないですね。高井の言ったとおり,シナリオは最初期に固まっていました。
髙井氏:
細かいNPCのセリフなどはザックリだったんですけど,主要のストーリーラインという意味ではセリフまで入った形で上がってきていたので,読めば「分からん」みたいなことにはならなかったです。
4Gamer:
そこまで明確にストーリーが出来上がっている状態からゲームを作り始めるというのは,よくあることなんですか?
前廣氏:
僕自身は,初めてでした。
髙井氏:
規模が大きい開発だと,そこが決まらないと動けないんですよね。例えばデザイナーなんかは,「何を作ればいいんだ?」となってしまうわけで。
4Gamer:
では,開発中に,「こういうお話を追加したい」みたいなことはありませんでした?
前廣氏:
もちろん開発を進めていく過程で,細かいところを「やっぱり,こうしよう」と変更することはありました。あとから出てきたゲームデザインをストーリー側に組み込んだり,シナリオを書き足したりも当然やっています。「このキャラクターの心情表現が少し足りなかったから,このカットシーンに付け足そう」といったことも,ちょこちょこやっていましたね。
髙井氏:
あとはスケジュールとコストの関係上,ザクッと削らざるを得なかったところもあります。「何とかならないのか」「ここはこれ以上できないよ,前廣君」みたいなやり取りもありましたね。
前廣氏:
そうやってメインから削られた部分は,例えばサイドクエストに落とし込んだりしたりと,ちょっと工夫しています。
髙井氏:
最後の最後まで,「大陸を一つ削ったほうがいいんじゃないか」ぐらいの議論をしていましたね。
4Gamer:
終盤で大陸を一つ削ったら,それまでに張ってきた伏線も台無しになってしまいそうです。
髙井氏:
ええ。結論としては「削るも地獄,進むも地獄だったら進むしかないだろう」と(笑)。
前廣氏:
もう作り切るしかないという状態でした。
髙井氏:
無事,大陸を削ることなくお届けできる形に仕上げましたので,そこはご安心ください。
前廣氏:
まあでも,地獄ですよね(笑)。
髙井氏:
ひどい進行でした(笑)。
祖堅氏:
ただの地獄だ(笑)。
前廣氏:
“ただの”って(笑)
ダークファンタジーとして
人間の身勝手さなど嫌な部分も逃げずに表現する
4Gamer:
設定上の細かい部分も教えてください。先日配信された「State of Play」の動画で,頬にクライヴと同じような印を付けられたキャラクターがいましたが,あれが「ベアラー」や「印付き」と呼ばれる存在なのでしょうか。
前廣氏:
そうです。ベアラーには,必ず印が付けられています。どうして印があるのかはゲーム内で語っているんですが,要は“奴隷の証”です。
髙井氏:
あの世界は,端から見てすぐ「あいつはベアラーだ」って分からないとダメなんです。
ベアラーは,ヴァリスゼアの世界では万国共通で身分が低いんです。「どこへ逃げてもベアラーはベアラー」なので,これが付いていると逃げられない。言わば首輪の代わりなんです。
4Gamer:
例えばゲームを進めていく途中で,新たに登場したキャラクターの頬に印が付いていたら,一目でベアラーだと分かるということですか?
前廣氏:
そういうことです。
4Gamer:
世界観を構築していくうえでの必然ということでしょうか。
前廣氏:
もちろんお話として,ベアラーという存在が必要でした。またゲームデザインとしても,皆さんがプレイしたときに「これは何なの?」とならないよう,シンボル的に印を付けているという側面もありますね。
4Gamer:
クライヴの少年期にはなかったのに,青年期になって印が付いているというのは,成長の過程で何かがあったということですか?
前廣氏:
それを説明すると,ネタバレになってしまいますね(苦笑)。でも,なぜ印を付けられたのかについては,わりとゲームの序盤で分かります。
髙井氏:
クライヴに関しては,2〜3時間プレイすれば分かるようになります。
4Gamer:
なるほど,ベアラーそれぞれに印を付けられた理由があるんですね。
髙井氏:
というか,一般的にはあの世界だと,本来はすぐに印を付けられてしまうんですよ。
前廣氏:
これも,ゲームの中で語っていることなのでネタバレしない程度でお話しすると,ベアラーは基本的には先天的なもので、多くは産まれた直後に分かるんです。人とは違う存在なので,もし自分の子だったとしても産まれた直後に国に届け出るような世界なんです。
髙井氏:
そのあたりを語る嫌なカットシーンも,確か3〜4時間のプレイで見られるはずです。
4Gamer:
ある意味,人間の身勝手さというか,その社会的なシステムってどうなの? というようなことも描かれているんですね。
プロデューサーの吉田もよく言ってましたけれど,「イヤな部分も逃げずに描いた」というのはそのとおりかなと思いますね。あとは最初の話に戻るかもしれないですが,「お話の中でご都合主義はとおらない」と自分は捉えているんです。
つまり,作り手が「これはこれでいいか」と逃げようとするとすぐバレるというか,大人に限らず子供でさえ見抜いてくる時代です。FFXVIでは,イヤな部分について,前廣が「それが何で,どうしてこうなる」「それをどうしたいのか」みたいなところを,しっかり正面から描いたなと思っています。
前廣氏:
生きていくうえでは,嬉しいこともいっぱいあるけど,イヤなこともいっぱいあります。その二つがあって,初めてゲームのストーリーにもリアリティが生まれると思っています。
もちろんそこはゲームですから,イヤなことばかりではなく,ホッとするエピソードもたくさんありますのでご安心ください。
4Gamer:
ゲームを進めると,どんどん気が重くなっていくような話ではない,と。
前廣氏:
むしろ,進めるほど気が晴れていくはずです。
祖堅氏:
本当かなあ?
前廣氏:
晴れる,晴れる。晴れないんだったら,ちょっと心が汚れてる。
祖堅氏:
おかしいな,汚れちゃったのか(笑)。
髙井氏:
ただまあ,問題は解決していくわりに世界全体が鬱々としていくので,なかなかカラッとした気分にはなれないんだろうね。
前廣氏:
確かに勧善懲悪的なお話ではないですね。
祖堅氏:
開発しているとずっとその世界の中にいるから全部分かっているけれど,第一印象ではどんな話になるのか,最後にどうなるかといったことがまったく分からない。こういう世界だと理解して,咀嚼するまでに半年かかったりするんですよ。開発中は絵も何もないから。
髙井氏:
今から半年前ぐらいでしょ。「あ,結局こうだったのね,このゲーム」と分かったのって。
祖堅氏:
さすがに1年前くらいじゃないかな(笑)。
髙井氏:
確かにそうじゃないと,作曲が間に合わないか。
祖堅氏:
そうね,間に合わない。分かんないと解釈できないから。
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