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[レビュー]「パルワールド」はなぜ爆発的に流行したのか。今年最初の,そして(もしかしたら)最大の話題作を考える
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印刷2024/02/06 08:00

レビュー

[レビュー]「パルワールド」はなぜ爆発的に流行したのか。今年最初の,そして(もしかしたら)最大の話題作を考える

 1月19日。2024年が始まってからまだ間もないその日,おそらくは今年最大の話題作となるであろうタイトル「パルワールド」PC / Xbox Series X|S / Xbox One)のアーリーアクセスが開始された。

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 「パルワールド」はわずか6日足らずで800万本ものセールスを叩き出し,一時はXのトレンドワードも席巻することになった。「クラフトピア」などポケットペアの過去作はそれなりに高い人気を持っていたし,全くのノーマーク作品というわけではなかった。が,本作がここまでのヒットになるとは誰も,おそらくはデベロッパすらも予測していなかっただろう。なにせSteamの同時接続数としては「PUBG」に次ぐ歴代2位とのことで,これは国産のPCゲームとして快挙なのはもちろんのこと,Steam史,PCゲーム史にも残る出来事であった(ちなみに本作は現在Xbox Series X|Sでも遊ぶことが可能だ)。

 とはいえ本作が話題になっているのは,単に「作品の出来が良いから」という理由だけではない。本作は,Xなどで他の作品との,特に「ポケットモンスター」シリーズとのデザインの類似性において賛否両論となっており,誰からも絶賛されている作品というわけではないからだ。

 そんな毀誉褒貶ある「パルワールド」の遊びどころを探りながら,本作がここまでのヒット作になった理由を考察してみたい。本作に興味があってまだ手が出せてないプレイヤーは,ぜひ参考にしてみてほしい。

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 まず,本作はおおまかに「オープンワールドサバイバルクラフト」と呼ばれるジャンルのゲームだ。代表的な作品としては「Minecraft」「Rust」といった作品が挙げられるが,本作はなにより「ARK: Survival Evolved」(恐竜のいる世界で,捕獲した恐竜を利用しながら生き延びるサバイバルゲーム)にかなり直接的な影響を受けていると思われる。

 プレイヤーは木や石を組み合わせて道具を作るところから始め,徐々に食料を自給自足できるようにするなど,生活の安定を目指すことになる。木と石で斧やつるはしを作り,その道具でさらに木や石を集め,拠点となる家を建て……というゲームプレイのサイクルは,同ジャンルのプレイヤーであれば非常に馴染み深いものであるし,本作が始めて遊ぶ「オープンワールドサバイバルクラフト」となるプレイヤーにとっても,直感的に理解しやすいよう作られていると感じた。逆にいえばジャンルとしては目新しいとか,オリジナリティがある,というわけではない。
 
 本作最大の特徴は,タイトルにもある「パル」と呼ばれる生物だ。パルは外見上マスコットのようで可愛らしくもあるが,要は野生動物なので危険な存在でもある。パルを弱らせるなどしたのち,「パルスフィア」なる道具を投げつけると捕獲して仲間にできる。この「野生のモンスターを捕獲して仲間にする」という要素は「ポケットモンスター」シリーズに似ていると言われる一因だろう。また,捕獲せず単に倒すことも可能で,その場合は肉などを落とす。明確に「死亡した」と描かれるわけではない。

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 筆者は「ポケモン」シリーズにあまり詳しい方ではないが,「パルのデザインがポケモンに似ているかどうか」に関しては,率直に「まあ,どう見ても似てはいる」とは感じる。とはいえ直ちに著作権侵害的であるというほどであるとも思えないし,「Temtem」「NEXOMON」シリーズなど,世に「ポケモン」フォロワーゲームは溢れており,その中でデザインが類似しているものもあるように見えるので,その中で飛び抜けて問題になるほど似ているとは言えないだろう,というのが正直なところだ。曖昧な表現をしている理由は,「似ている」ことと「完全に同じ」ことは区別ができるが,「似ている」ことと「すごく似ている」ことを区別するのは非常に困難だからだ。

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 仲間にしたパルとは一緒に冒険して戦えるほか,拠点における労働を肩代わりしてもらうこともできる。この「パルによる拠点での資材集め/クラフトの自動化」は本作の非常に面白い点であり,白眉と言えるだろう。あれこれ難しい設定をせずとも,パルは勝手に身の回りに仕事を見つけ,その仕事に従事してくれる。パルは雇用主にとって,非常に都合のよい労働者として振る舞ってくれるというわけだ。

 パルの用途は前述のような木と石など素材収集のほか,物品の運搬,クラフトの手伝い,炉の火付け係などさまざまだ。パラメーターを確認することによって,そのパルがどの作業にどの程度適正があるのかを見ることもできる。拠点にどのような配分でパルを配置するかはプレイヤーの裁量によるものなので,効率よくプレイしようと思うとなかなか考えることが多くて楽しい。

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 クラフトはレベルアップ時に取得した「テクノロジーポイント」を用い,クラフトできるものを増やしていく,という仕組みになっている。このあたり非常に,前述の「ARK: Survival Evolved」に類似した仕組みとなっている。ゲーム序盤から最強のパルスフィアを作る……といったことはできず,よりレベルを上げて拠点を強化していくための動機づけになっている。

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 本作では不要になったパルを「解体」することができたり,過酷な労働を強いることができたり(働かせすぎたパルはうつ病や胃潰瘍になることもある),しまいにはパルを違法に売買する「闇商人」が登場するなど露悪的に見える要素が多く搭載されている。

 このあたりは賛否ある要素で,筆者個人としては近年よく目にするようになった「キュートアグレッション」(かわいらしいものを見ることによって呼び起される攻撃欲求)的なものを想起させられ,そういった無邪気な乱暴さを面白がり,乱雑に取り入れているように見えるという点はやや幼稚にも感じられた。

 ただ,筆者とは逆に,このような暴力性に対して「他ゲームでは誤魔化されて描かれなかった部分まで切り込んでいる」という評価を与えている人もいる。本作においてパルの取り扱いがやや悪趣味で暴力的なのは,人類の現在の動物に対しての扱いを反映しているからであって,それを描くことが(たとえば作中登場モンスターの食肉という問題を誤魔化すような態度より)倫理的である,と捉えて評価する人もいるのだ。もし本作を遊ぶのであれば,その点について考慮しながら遊んでみるのも面白いだろう。

 「ハードワークの強制」も「解体」も「闇商人」も,別に利用しなくともほぼ困ることなくゲームを進められるので,ゲーム要素としては些末だ。だがそれを不快に思うにしろ,愉快だと思うにしろ,どのみち目を引きやすいという部分でもある。こういった毒のあるユーモア(?)のようなものも,本作の知名度向上の一因となってはいるだろう。

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 拠点はときおり敵による襲撃を受けることがあるので,維持するのもなかなかスリリング。しかも,後半にいくにつれて拠点に建設しなければならない施設が多くなり,一つ一つが巨大化していくので,防衛と拡張性という2つの観点から,最初の拠点はできれば開けていて広いところに構えるのがおすすめだ。変に高低差がありゴツゴツしたところに拠点を構えると,非常に面倒くさいことになりかねない。

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 本作では基本的に「冒険してマップを広げ,新たなパルを捕まえる」ことと「拠点を拡張していく」ことを交互に行っていく。冒険の中でより強いパルと遭遇したら,より強いパルスフィアを作らなければならないし,より過酷な環境があればその環境に適応する装備を作らなければならない。こうした具合に,次から次へとやることが増えていくのが特徴だ。

 そんな冒険を快適にする要素の一つとして「ファストトラベル」は欠かせない。各所にあるファストトラベル地点を開放することで,拠点からすぐにワープできるようになるのだ。広く探索してファストトラベル地点を増やし,その付近の素材などを回収すれば拠点で制作できる施設も増えていく。

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 ゲーム中盤以降では「鉄」や「石炭」「硫黄」など,(プレイヤーによるだろうが)おそらく最初に作った拠点の近くにはあまり存在しないものが,多く必要になってくる。そのために新拠点を建設するのか,いちいちファストトラベルで持ち運ぶのかはプレイヤーの好みが分かれるところだろうが,効率的にプレイするなら二拠点式がおすすめだ。

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 移動範囲が広くなってくると,飛行するパルの重要度も高まってくる。パルに搭乗するためには「サドル」というアイテムが必要で,これはクラフトによって作成する(ここも「ARK: Survival Evolved」と類似している点だ)。乗れるパルが1種類ではなく,飛ぶものの中から選択できるというのは非常に嬉しい要素で,一緒に冒険するパルに愛着が湧きやすい仕組みになっていると感じた。

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 拠点の拡張と探索以外で,本作の大きい目標の一つとなっているのが「塔の攻略」,つまりボス戦だ。マップの各所に立つ巨大な塔にはボスキャラクターがいて,かなり強力なため,パルの強化や自身の装備の見直しなど,膨大な時間のかかる準備を行うことになる。ボスキャラクターは魅力的で,(どこかで見たようであるとはいえ)デザイン性もなかなか高い。

 ほかにもダンジョンの攻略や,決まった場所に出没するボス的な強いパルの捕獲など,気合を入れて準備しなければ攻略できないコンテンツが満載で,アーリーアクセスが始まりたてのゲームとしては「かなりやることがある」という評価はできるだろう。バグやアクセス過多によるサーバー不調はあれど,ゲーム単体としては現段階で充分すぎるほど「遊べる」出来だ。

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 というわけで,筆者は数十時間があっという間に感じられるほど本作を楽しめた。繰り返し書いてきたように,「ポケットモンスター」のようなかわいいキャラクターと一緒に冒険できる「ARK: Survival Evolved」とまとめることはできるのだが,それだけのゲームではない。むしろ,ファストトラベルやパルによる労働自動化など,「ARK: Survival Evolved」よりもカジュアルに遊びやすくなっている点が多く,それが本作の優れた点であろう。

 「ARK: Survival Evolved」「ポケモン」だけでなく,効果音や雰囲気は近年の「ゼルダの伝説」シリーズ2作を思い起こさせるし,ファストトラベルの性質などは(同じく「ゼルダ」に影響を受けているであろう)「原神」を感じさせるなど,本作はさまざまなものをミックスしたように見える。だが,そのミックスのバランスは非常に適切に感じられるし,結果的にかなり遊びやすい作品となっている。

 冒頭に述べたとおり,このゲームがなぜここまで流行したのか,筆者なりに考えながら遊んでみた。今からでは何を言っても結果論になるということは承知のうえだが,要は多くの人がどこかで「こういうゲームをやりたい」と思っていた,ということだったのだろう。
 特に「ポケットモンスター」シリーズは基本的にずっと携帯機,または据え置き機としても使えるが携帯モードも存在するNintendo Switchで展開されてきたわけなので,「最先端のゲームを遊べるPCやハイスペックが売りの据え置き機でリッチな手触りの『ポケットモンスター』のようなゲームを遊びたい」と考える潜在的な需要はかなり高かったのだと思われる。本作のセールスの半分以上は中国やアメリカなどの海外であり,日本ほど「本家『ポケモン』と比べて怒っているファン」というものが目立たない。「ポケモン」最新作である「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」は処理落ちやカクつきなどが多く報告されるゲームであったため,その点を批判し,「パルワールド」を称揚するようなコメントも散見される。

 また,「ARK: Survival Evolved」は非常に面白いゲームではあるが大きな容量とスペックを必要とし,また高難度のため,ソロでプレイするのはなかなか骨が折れる「ハードルが高い」作品だった。「ARK: Survival Evolved」は近年ストリーマーの間で(「VCR ARK」などのイベントに利用されるなど)よく遊ばれてきた作品であったので,「ARKみたいなゲームを遊んでみたい」というカジュアルなプレイヤーは相当数いたのではなかろうか。

 冒頭で言及したような,X上での賛否両論などの盛り上がりも本作の売上に一役買っているだろう。前述した少々「毒がある」と感じられるユーモアも,SNS上で衆目を集めるのにはなかなかうってつけだ。それが良いことか悪いことかは分からないが,本作は見た人やプレイした人が「なにか言いたくなる」作品であって,毒のある要素も含めて「それを狙って作られている」ように見える。

 議論が白熱すればするほど本作の知名度も増していき,それがセールスに貢献したのではなかろうか。現在は株式会社ポケモンによる(本作のことを指していると見られる)公式声明の発表もあり,「著作権に関する議論を非当事者が行うのは建設的でない」というトーンが支配的で,販売直後のかなり激しい議論はやや落ち着いてきている。

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 もちろん,そういった話題性が「ゲームのブーム」となりセールスに繋がったのは,根幹のゲームがしっかり遊べる出来だったからであろう。内容が凡庸であれば話題性がいくらあっても,ここまで注目されることがなかったはずだ。こういった規模が大きく見える作品は「トレイラー詐欺」と言われるような,期待を煽るだけ煽って実際にはやや不満が残るゲームプレイとなっていることがよく起こるのだが,本作は事前トレイラーの通りのことを(やや違いはあるが)ほぼ行える作品であり,発売を待っていたプレイヤーの期待に応える作品だった。このあたりはトレイラーで期待を集めながらも多くのプレイヤーにとって内容が伴っていなかったことから炎上状態になり,発売から数日でストアから姿を消した「The day before」と対比的に捉えると面白い。


 個人的にも,特に本作のビジュアルや毒気のあるユーモアに抵抗感がないなら,充分なスペックのPCやXbox Series X|Sを所持しているなら,そしてなにより,今話題になっているゲームをプレイしてみたいなら,基本的に「パルワールド」は非常におすすめできる作品だと思う。現状,PC(Steam)版とXbox版はクロスプレイできないという問題はあるが(後にアップデートされる予定あり),ひとまずXbox Game Passで触ってみる,ということもできるだろう。
 
 逆に言えば「かわいいパルと何も考えずに戯れたい」という心優しきプレイヤーが,本作をプレイする場合はやや注意が必要だ。前述したように,パルを解体したり売ったりハードワークさせたりという要素は使わなくてもよいわけだが,「パルを働かせる」という,ともすれば動物虐待的に見える要素を用いないでゲームを進めるのが困難なことには変わりないからだ。このあたりは「バトルをしなければストーリーを進められない」という「ポケモン」シリーズにも言えることではあるのだが。

「Palworld / パルワールド」公式サイト

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