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印刷2023/08/24 00:00

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[CEDEC 2023]探索型フルモーションADV「IMMORTALITY」のゲームデザインはいかに作られたのか。サム・バーロウ氏が開発過程を解説した

 2023年8月23日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」にて,「Inventing “Open World Movies” and the Creation of IMMORTALITY/「オープンワールド映画」の発明と『イモータリティ』の創作」と題したセッションが行われた。

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 このセッションには,「サイレントヒル シャッタードメモリーズ」などの開発に関わったのち,独立して「Her Story」や「Telling Lies」を手がけたHalf Mermaid Productionsのサム・バーロウ氏が登壇し,2022年にリリースした探索型フルモーションアドベンチャー「IMMORTALITY」PC / Xbox Series X|S)のゲームデザインや開発過程について解説した。

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ゲームをデザインするときの4つの柱


 バーロウ氏は,現在を「ストーリーテリング技術の大転換期」──20世紀のストーリーテリングから,21世紀のそれへとへジャンプしている最中だと定義する。20世紀のストーリーテリングは「放送の世紀」,すなわちラジオやテレビ,映画が中心となっており,こうした放送が登場したことによって,コンテンツが何千万人という人にリーチするようになった。

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 その一方で,放送という技術には制約があり,たとえば各コンテンツの内容は固定化され,全員が同じテレビドラマや映画,同じエピソードを観ることになった。また映画は,映画館の椅子に座って,前にあるスクリーンにフォーカスして,90分間程度にわたって観るものといったように,フォーマットが決まっていた。

 かたや21世紀のストーリーテリングは,「デジタルの世紀」と呼べるものであり,放送以上に多くの人にリーチするようになった。その内容はインタラクティブなものとなり,さらにスマートフォンなどの台頭で,より人々の生活に密接なものだ。

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 しかしバーロウ氏によると,そうしたデジタルテクノロジーはまだ十分に活用されていない。とくに映画やテレビドラマの領域では,Netflixの登場により人々が映画を見つける手段や鑑賞方法が変わり,視聴体験のパーソナル化が発生した。だが,90分の映画を観る,テレビ番組をエピソード順に観るといった面では,20世紀からあまり変化はない。
 バーロウ氏は「デジタルストーリーの可能性について考えた際に,ゲームこそがそれを推し進めるポテンシャルを持っている」との見解を述べた。

 バーロウ氏はデジタルストーリーの可能性を追求するにあたり,「ストーリーをいかに探索可能にするか」に着目したとのこと。従来型のゲーム──たとえば「バイオショック」はゲーム内を自由に探索できる一方で,メインストーリーは1本道だった。このようにゲームプレイとストーリーがまるで水と油のような関係だったが,たとえば音声ログを探索できるようにならないか,「スーパーマリオブラザーズ」のプレイ体験をストーリーに落とし込んだらどうなるかといったことを考えたそうだ。

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 また「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は,プレイヤーが気になるところを見つけて探索すると,そこには必ず何かが隠されており,好奇心が報われる構造になっている。バーロウ氏は「そうした構造をストーリーに落とし込むことで,まったく新しいゲームを作れるのではないかと考えた」と語る。

 続いて,自身のゲームをデザインするときの4つの柱が紹介された。
 1つめの柱は「チャレンジ」だ。たとえば「Her Story」では,最初に「容疑者の女性が,被害者の男性を本当に殺したのか?」という疑惑がプレイヤーに投げかけられるが,プレイしているうちに,さまざまな疑問が出てくる構造となっている。

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 そして,バーロウ氏は「ほかのナラティブなゲームには,『スキルの向上』という要素が欠けている」と指摘する。「IMMORTALITY」では最も簡単なスキルは「What?(何が)」であり,「プレイしていると,カール・グリーンウッドに何が起こったかという疑問が生まれる。その答えは,1つのビデオクリップを見つけるだけで出てくる」と説明した。

 次のステップは「How?(どうやって)」である。バーロウ氏は「どうしてカール・グリーンウッドが死んだのかを調べるためには,複数のビデオクリップを見つける必要がある」としたうえで,「ビデオクリップに収められたイベントの順序を,あたかもパズルを組み合わせるように前後させることによって答えが見つかる」と説明した。先ほどより高度なスキルが要求されるというわけだ。

 最後のステップは,「Why?(なぜか)」。カール・グリーンウッドに何が起きて,どのように死亡したかが分かったが,それは「なぜか」。その答えはゲーム内では示されていないので,プレイヤーはカール・グリーンウッドという人物やストーリーの背景を深く理解して答えを得るしかない。バーロウ氏は「その答えに到達するのは最も難しい半面,最も満足を得られる体験」と解説し,自身のゲームではそうしたチャレンジをしていると語った。

 2つめの柱は「探索」である。バーロウ氏は「自身のゲームを動かすためのエンジンであり,プレイヤーの好奇心や注意を惹きつけるために必要なもの」と説明した。
 探索型のゲームをデザインするためには,行ける場所の選択肢を常に複数提供する必要があり,同時に階層型の選択肢を用意する必要があるとのこと。バーロウ氏は「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の「次は寺院に行かなければならないが,決まった道を辿る必要はなく,まったく別の目的地にも行ける」ことを例に挙げて,「探索型のゲームがなぜ面白いかと言うと,自分が行きたい場所を決めて,その意図を持って目的地に向かう自由度が提供されるから」と話していた。

 3つめの柱,「表現」は最も重要なものだという。インタラクティブな体験のできるゲームでは,プレイする人によって体験が変わる──つまりプレイヤーの個性が体験に反映されることから,「純粋なビデオゲームは,プレイヤーが表現できるものでなくてはならない。それは選択肢に関係する」と指摘した。
 たとえば「Her Story」は,ゲーム内でテキストを入力することにより,さまざまなデータベースを検索できる。登場人物が話している姿を見て,何か怪しいと感じたら,それについて検索できるわけだ。さらにバーロウ氏は,たとえば夫婦で一緒にプレイしているときに「次は何を入力すべきか」といった会話が生まれるように,ゲームとのパーソナルな関係性を築けると語った。

 また,「自分のペースでゲームを進められること」「美しいという理由で選択できること」も,「表現」という柱の中では重視したとのこと。バーロウ氏は「機械的なレベルで表現するだけでなく,大きな経験上の表現もプレイヤー自身が選択できるようにしている」と話していた。

 4つめの柱は「シミュレーション」だったが,これは「大半のゲームにとってベースとなるもの」だという。たとえばシューターでは弾道が,レースゲームではクルマの挙動がそれぞれシミュレートされている。
 しかし,バーロウ氏は今回のセッションのスライドにある,シミュレーションの項目に取り消し線を引いている。これは「Her Story」を作り始めたときに,以前の経験からシミュレーションに頼りすぎていると感じたから。シミュレーションは没入感を高めるものであるからこそ,それを捨てて純粋なストーリーテリングのアイデアにフォーカスしたいと考えたそうだ。

 またストーリーメインのゲームの場合,シミュレーションを採用するとシステムが非常に単純な作りになって,プレイヤーが満足できない仕上がりになったり,逆にシステムを複雑にすると,ストーリーに集中できなくなる恐れがあったりすることも指摘した。「ストーリーがあり,そこにゲームのメカニクスが一体化されている。つまり,プレイヤーのエネルギーすべてがストーリーにフォーカスされていく。そうすることでキャラクターが本物と感じられ,没入感のあるゲームができると考えている」と持論を示した。

 ストーリーの作り方にも言及している。バーロウ氏によると映画などのストーリーは3幕構成,テレビドラマは5幕構成になっているとのこと。ゲームのストーリーもその枠組みに則り,3幕構成になっているという。
 そうした中,バーロウ氏は新たなストーリーの枠組みとして,「アイデア」「エモーション」「メタファー」という3つのDNAによるシステムを紹介した。まず,アイデアは「テーマが何であるのか,何を追求しようとしているのか」を指す。「IMMORTALITY」のアイデアは「なぜ人間が物語を語るのか,これは死と向き合う方法なのか,あるいは人間として死とどう向き合っていくのか」であり,その中で3つの提案をしていると明かした。

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 1つめの提案は「宗教」。宗教や儀式を通じて,死後の世界との触れ合いを描いている。2つめは「今の時間に集中する」ということで,食や踊りなどの楽しみに没頭することで死を忘れられる。そして,3つめの「人間として,ものを作る」は映画やゲーム,あるいは建物を作って死後にそれを残すことである。
 バーロウ氏は「『IMMORTALITY』のすべての要素は,このアイデアを追求している」と話していた。

 2つめのDNAである「エモーション」は,「プレイヤーに特定の感情を抱いてもらう」ことを指す。その感情は「IMMORTALITY」の開発者が実際に体験したものであり,具体的には「完璧なアートを作ることに挑み,そして失敗したときにどう感じるのか」だという。バーロウ氏は「アーティストは常に完璧を求め,必ず失敗し,そして再度試みる」と説明した。

 3つめのDNA,「メタファー」は簡単なプレゼンテーションになったり,チュートリアルになったり,ゲームメカニクスになったりする非常に重要な存在とのこと。言い換えれば「コンセプト」にあたり,「誰もが理解できるもの」「ゲームプレイを研ぎ澄ますもの」となる。
 たとえば「Her Story」のメタファーは「警察のデータベースを使って,手がかりを見つける」であり,警察ドラマを見たことがあれば,容易にイメージできるというわけだ。その一方,パトカーを走らせる,あるいは銃を使うといったメタファーにそぐわない要素は排除している。
 ちなみに,「Telling Lies」のメタファーは「人々のプライベートなWebカメラの監視」,「IMMORTALITY」のメタファーは「映画の編集者が,Moviolaという編集機器を使って,失われた映像を見つけていく」であると紹介された。

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創作


 前述の全体像を踏まえて,バーロウ氏らは実際にストーリーをデザインしていくわけだが,それはゲームのレベルデザインや彫刻に似ているという。たとえば,ある人物を描くときはその生涯をスプレッドシート上に大きな全体像として打ち出し,最小単位まで詳細を作り込んでいく。それによって,些細な部分に至るまでさまざまな可能性を見出し,それらを整理していろいろな方向性を作っていけるそうだ。

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 たとえば「IMMORTALITY」では,ストーリーをさまざまな観点から見られる。時系列にもできれば,「この時間とこの時間との間に何が起こったのか」ということを順番を変えて見ることも可能だ。カール・グリーンウッドに興味がある人は,フィルタリングによって彼に関わるものだけを選べる。

 そうしたスプレッドシートが狙いどおりに機能しているかどうかをチェックするために,「ホログラム法」を用いているとのこと。この手法により,プレイヤーがフィルムのさまざまなピースを組み合わせた結果,最終的に意味のあるストーリーを見出せるようになる。たとえば,カール・グリーンウッドが出てくるシーンを組み合わせて,ストーリーをマッピングしていくなどで関連性を見出せるようにしている。

 また,「IMMORTALITY」では登場するものが,あたかも本物であるように見せることもしている。ゲーム内には3本の映画が出てくるが,いずれも巨匠が監督したかのような設定を作り込んでいる。たとえば,監督の1人は「台本にちょっとした落書きを描く」といった設定を持たせたという。

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 さらに,背景のレイヤーも増やしている。個々のシーンを詳細まで見ていくと,「このシーンを撮影しているとき,何が起こったのか。何がその撮影中に問題となったのか」ということまで,ホログラム法から見出せるそうだ。これらのテキストによるプロトタイプの作成とテストプレイも行われている。

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「ビデオクリップを逆回ししたらどうなるのか」といった選択肢も,時間を使ってしっかりテストしているとのことだ
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実装


 「IMMORTALITY」にはマッチカット(時間も場所も異なる,連続していない2つのシーンを共通の動作や被写体の類似性でつなぐ映像編集技法)が多用されているが,バーロウ氏は「プレイヤーにマジカルなものを提供して,それがうまくいく」という点において,スロットマシンのような要素だと解説する。
 つまり,ゲームデザイナーやシナリオライターがコントロールを手放し,プレイヤーに自由度を提供する一方で,プレイヤーは意外なところに連れて行かれるということだ。ある意味,一部の自由を放棄することになるのだが,それが本作においては重要だ語る。

紅茶のシーンとウイスキーのシーンのマッチカット
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 こうしたマッチカットについて,バーロウ氏らは「非暴力的なシューター」として開発していたという。ジャストなフレームワークとタイミングで何かをクリックすることは,シューターにおけるヘッドショットのようなものと位置付けた。
 また,単にクリックするだけでなく,スナイパー視点やレンズを通したことによる歪んだ視点など,特別な視点でクリックすることにより,特殊な効果を持たせたりもしている。

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 そうした効果を実装するには,かなり強引な手法も用いている。具体的には,画面上のすべてのオブジェクトを追跡したそうだ。専属のチームを結成し,AfterEffectを筆頭にさまざまなツールを駆使したとのこと。それらのデータは膨大な容量になるので,圧縮も必要となる。それでもプレイヤーがクリックしたいと思うところは,すべてクリックしたときに何かが起こるようにしたとのことだ。

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 その一方で,マッチカットに意味や文脈がきちんと生じるようにルールを定めている。たとえばリンゴとオレンジは似ているので,マッチカットが発生する。当初,すべての飲み物がマッチカットする仕様だったが,あまりにも種類が多くて面白くないので,ワイングラスをクリックすると別のワイングラスに,コーヒーカップであれば別のコーヒーカップに……という形にした。
 そのほか,絵に描かれたフラニーからはモデルとなった本人にマッチカットし,そのフラニー本人からは彼女を演じたマリッサにマッチカットする。ただし,マリッサからは絵のフラニーにはマッチカットしないといった例が示された。

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 こうしたマッチカットのアルゴリズムを,「プレイヤーとゲーム自体によるパーティゲームのようなもの」とバーロウ氏は表現する。すなわち,「プレイヤーがどんな行動をとったのか,何をクリックしたのか」によって,ゲームが楽しさや面白さを作っていくというわけである。
 また,プレイヤーが知らないところに連れて行かれるという心拍数が上がるような要素であり,プレイヤーが長時間のプレイの中で見ていないビデオクリップがあれば,そちらに誘導するような仕様になっているそうだ。

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マッチカットがどのような方向性で行われるか,を決定するアルゴリズムのコードの一部
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マッチカットするシーンのフレームワークやオブジェクトのサイズ,会話中のタイミングにもこだわったという
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結論


 セッションの最後に,バーロウ氏は「IMMORTALITY」のアプローチを幅広く適用できると考えていると語った。「ストーリーをレベルデザインに落とし込むことで,豊かなレイヤーのあるストーリーコンテンツを作る」「プレイヤーを意味のある形でナビゲートできるツールを実現する」「表現力は,入力の豊かさとプレイヤー自身が方向性を決める」「ストーリーの探索には『What?』『How?』『Why?』というスキルの向上が必要」といったセッションの内容を総括し,「これらがシステム的なゲームプレイの備わった3Dゲームに活用できるかどうか,皆さんと考えていきたい」と聴講者に投げかけていた。

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