企画記事
正式リリースから1周年の「Vampire Survivors」は,今こうなっている。プレイヤーの声を受けて進化を続けるヴァンサバの軌跡
そこで本稿では1周年を期に,進化し続けている本作の姿を改めて紹介しよう。
基本的には時系列でアップデート内容などを説明していくが,現在の「Vampire Survivors」がどうなっているか,手っ取り早く知りたい人は,記事の最後にある「まとめ」に飛んでほしい。
ほぼ無名の存在から成り上がった「Vampire Survivors」
「Vampire Survivors」は,イギリスのインディーデベロッパであるponcleが開発している。開発者のLuca Galante氏が「2019年リリースの『Magic Survival』にインスパイアされた」と語る本作は,無数の敵を自動発射される武器でなぎ倒し,レベルアップのたびに提示されるパワーアップ方法を選んでキャラクターを強化して,さらに戦い続けるアクションゲームだ。
これだけ聞くとよくありそうなゲームにも思えるのだが,出現する敵の数とパワーアップのインフレ度合いが尋常ではなく,ゲームの終盤には「敵を倒していく」というより「敵の群衆を掘り抜いていく」感覚を味わえる。
武器が自動発射されるため,プレイヤーが行う主な操作はキャラクターの移動だけというシンプルさだが,ランダムに提示されるパワーアップを選び,即興のビルドを構築していく要素がゲームに彩りを添える。
基本的には,プレイ開始から30分が経過すると異常な強さの「死神」が来襲し,キャラクターを蹂躙して終わるため,区切りが付けやすいのも特徴だ。
これらの要素が合わさり,運によるプレイの揺らぎに一喜一憂しつつ「もう1回だけ……」と繰り返し遊んでしまう中毒性が,本作の魅力となっている。
前述したように,本作の正式リリースは2022年の10月なのだが,アーリーアクセスは2021年10月に開始された。それから3か月ほど経った頃,口コミで話題になり,300円(当時)という低価格も相まって人気が沸騰。“サバイバーライク”とでも呼ぶべきフォロワータイトルが多数発売されるようにもなった。このあたりの事情とサバイバーライクの注目作については,今年5月の記事で紹介しているので,興味のある人は読んでほしい。
「Vampire Survivors」の次は何だ? 増え続ける“サバイバーライク”ゲームの歴史とオススメの5タイトルを紹介
自身を強化しながら,無数の敵をぶっ飛ばす……2021年12月に早期アクセスを開始した「Vampire Survivors」のヒットをきっかけに,Steamでは同系列のゲームが多数リリースされている。本稿ではそんな“サバイバーライク”作品の中でオススメの5タイトルを紹介しつつ,ジャンルの起こりを振り返ってみたい。
それでは,本作のこれまでの歩みを時系列で紹介しよう。
●2019年 「Magic Survival」配信
「Vampire Survivors」を含む“サバイバーライク”の祖となるスマートフォン用ゲーム「Magic Survival」の配信が開始される。
●2020年 Galante氏が「Vampire Survivors」の開発を開始
イタリア生まれのGalante氏は,ゲームを開発したいという夢を叶えるためにイギリスへ移住。ファストフード店での勤務やオンラインカジノ向けソフト開発を経験した後に「Vampire Survivors」の開発に着手した。当初の開発費は1100ポンド(約20万円)だったという。
●2021年 「Vampire Survivors」アーリーアクセス開始
10月に「Vampire Survivors」がitch.ioにて公開され,12月17日にはSteamでのアーリーアクセスがスタート。当初はSteamでの同時プレイ数が100人にも満たない状態だった。
●2022年 大ブレイクし,この年を代表するタイトルに
年が明けた2022年1月,「Vampire Survivors」はゲーム実況を中心にバズり始めた。1月6日には,SplatterCat氏が行った配信(外部リンク)の影響か,同時プレイ数が8748人に急上昇。その勢いは衰えることなく,2月17日にはピークとなる7万7601人に達した。
Galante氏は,SplatterCat氏の配信がブレイクのきっかけになったとして,パッチノートでも謝意を表している(外部リンク)。
Galante氏は「モノポリー」のゲーム版を手がけるMarmaladeなどで働いていたが,この反響を受け,「Vampire Survivors」の開発に集中するため職を辞している。ここでの決断が後述する2022年の精力的なアップデートにつながったのだろう。もしも氏がパートタイムでの開発を選んでいたら,一時の流行で終わっていたかもしれない。
2022年には,新たなキャラクターや武器,追加要素など,ゲーム体験を向上させるアップデートが月に数度という高頻度で行われた。
例えば,現在プレイヤーが当たり前に使っているフルスクリーンモードやクラウドセーブ,日本語ユーザーインタフェースといった要素は,この年に追加されたものだ
10月20日にPatch 1.0(content completion)が実装され,ついに「Vampire Survivors」は正式版に。
ステージマップが逆さまになり,難度が上がる代わりにキャラクターの能力にボーナスが付く「INVERSE MODE」(反転モード),時間の制限なく遊べる「ENDLESS MODE」(エンドレスモード)などがこのタイミングで実装されている。
正式リリース直前にはティザー記事がほぼ日替わりで発表され,新要素が少しずつ明らかになっていった。この頃の本作は,注目を集める時の人ならぬ時のゲームとなっていたが,それにあぐらをかかず話題作りに励んでいたわけで,インディーゲームといえど広報的な部分がいかに大切であるかが分かる。
このプレイヤーの興味を引こうとする姿勢は,アップデートの前後に公開されるはロードマップやパッチノートに込められたユーモアからも分かる。
NFT(Non-Fungible Token,非代替性トークン)が話題になっている中,本作においても「NFTを追加する」というアナウンスが行われてプレイヤーを驚かせたが,NFTはNFTでも,「Nduja Fritta Tanto(ンドゥヤ・フリッタ)」の略で,キャラクターがこれを食べると火を吐き続けて敵を蹴散らせる激辛の揚げ物のことだった。ジョークが先かアイテムの発想が先かは不明だが,本作らしいセンスだ。
また,アップデート要素の随所にさまざまなゲームやアニメへのリスペクトが込められているのも面白い。
本作は「Vampire」を名乗るだけあって,弧を描く斧やブーメランのように戻ってくる十字架など,「悪魔城ドラキュラ」シリーズへのオマージュが込められているのだが,アップデートではその対象がさらに広がっている。
4丁拳銃を武器とする黒服の女性「Pugnala Provola」(プニャーラ プローヴォラ)は,BGMの曲調も相まって人気アクションゲームの主人公,ベヨネッタを思わせる。
「Toastie」(トースティー)は「特定の状況で下+[ENTER]を押す」と開放されるキャラクターで,こちらは名前と出現条件が「Mortal Kombat」を連想させる。
「Christine Davain」(クリスティーン・ダヴァン)のコスチュームと進化武器「Gorgeous Moon」(月の魔法陣)は「美少女戦士セーラームーン」風だ。
このように,新キャラクターや武器の元ネタを探すのもアップデートの楽しみとなった。
11月10日にはXbox Series X|S / Xbox One版,12月9日にはスマートフォン版の配信がスタートした。
特にスマホ版は無料配信(ゲーム内で広告が表示される)がプレイヤーに大きなインパクトを与えた。Galante氏はスマートフォン版の展開にあたってビジネスパートナーを探したが条件が合わず,そうしているうちに「Vampire Survivors」のコードやアセットを盗用したアプリが沢山出現し,早急なリリースが求められたため,無料配信を決断したという(外部リンク)。
そして,12月16日には本作初となるDLC「Legacy of the Moonspell」がリリースされた。8人の新キャラクターや13種の新武器,この時点で最大規模のステージ「ムーンスペル山」などが収録されている。和風の世界観になっているところも,日本のプレイヤーには見逃せないポイントだろう。
2022年には本作が日本の配信者に取り上げられることも多くなった。ルールや操作はシンプルだが,ゲーム展開は毎回異なったものとなり,無数の敵をなぎ倒したり,逆に飲み込まれてしまったりといった様子が配信映えする……ということで,ゲームマニアからライト層まで多くの配信者が本作を楽しんでおり,それを見てプレイを始める人も多いようだ。
●2023年 アニメ化やローカル協力プレイ実装など,勢いは衰えず
押しも押されもせぬ人気ゲームとなった「Vampire Survivors」は,後続のサバイバーライクタイトルとともに,1つのサブジャンルを築き上げるほどになった。
4月にはアニメの制作もアナウンスされた(関連記事)。「ソニック・ザ・ムービー」シリーズのプロデューサーと「ジョン・ウィック」シリーズのクリエイターが手がけることがアナウンスされており,続報が気になるところだ。
また,2本目のDLC「Tides of the Foscari」が4月14日に配信された。こちらは魔法学園モノの雰囲気となっており,1本目の「Legacy of the Moonspell」と同様に8人のキャラと13種の武器,新ステージ「フォスカリ湖」などを収録している。
8月17日にはNintendo Switch版がリリースされるとともに,Patch v1.6のアップデートが配信され,ローカル協力モードが登場した。最大4人のプレイヤーが協力してモンスターの群れに立ち向かうこのモードの特徴はレベルアップシステムにある。レベルが上がるごとにランダム選出されたパワーアップが提示されるのはシングルプレイと同様だが,選択権は順番に与えられる。全プレイヤーの武器1種をランダムで強化する「Friendship Amulet」(友情のアミュレット)も出現するため,自分を強化するか,友情を示すかを選ぶことになるのだ。
また,このv1.6では,ゲームエンジンが一新された。物理エンジンの挙動がリアル過ぎるなどの理由で多くの試行錯誤が行われたという。Galante氏によると「少し不格好な動きで迫ってくる敵が醍醐味の一つだった」と再確認させられたそうだ。フォントについても,これまでよりも視認性が上がりつつ「良すぎないもの」「洗練されすぎていないもの」を選んだそうで,単にリアルや高解像度を目指せばいいわけではない「Vampire Survivors」ならではの事情がうかがえる。
そして,正式リリースから1周年を祝うように,10月20日にアップデート「Whiteout」(Patch v1.7)が配信された。真っ白な極寒の地のボーナスステージ「ホワイトアウト」や,新キャラ「シームーン・イータ」,新武器「グラス・ファンダンゴ」などが実装されている。
「Vampire Survivors」のプレイを大きく変えた追加要素
ここでは,アップデートで実装された要素の中から,大きなものを詳しく説明しておこう。
●黄金の卵
2022年5月に配信されたPatch 0.6.1(The Weird One)で実装された新要素。ステージ上に出現する商人や一部のボスから,キャラクターのステータスがほんのわずかアップする「Golden Egg」(黄金の卵)が入手できる。
これは「Vampire Survivors」の開発姿勢を表す,重要なアップデートだ。この頃はアーリーアクセス版の配信開始から7か月が経って攻略法も確立され,「キャラクターも一通り出したし,やることがなくなった」「ゴールドの使い道もなくなった」というプレイヤーも出始めていたが,そんな状況を激変させたのが黄金の卵だった。
黄金の卵はそこそこの価格になっているうえ,どのステータスが上がるかはランダムで,上がり幅もわずか。しかし,延々と買い続けることでキャラクターはとんでもないパワーアップを遂げる。死神すら倒せる上級プレイヤーに向け,ゴールドを貯めまくって規格外の強さを手に入れるという新たなモチベーションを与えたのだ。300円(当時)のゲームだけに,7か月も楽しめれば十分だろうとも思えるが,Galante氏は「もっと『Vampire Survivors』を楽しみたい」というプレイヤーの声に応えた。同時に,さらなる開発を続けていくという意思表示でもあっただろう。
本作の要素をひと通り体験し尽くしたあたりから意味が出てくる「黄金の卵」。1万コインは簡単に稼げる額ではないが,これを大量に集めれば,規格外のパワーアップになる
●レリック
「Relic」(レリック)は,入手すると新たなモードや機能が開放されるアイテム。2022年3月3日のPatch 0.3.0で「Milky Way Map」(天の川マップ)が最初のレリックとして登場した。アイテムが置かれている方向を示す矢印が出るというもので,広大なマップを探索するのに役立つ。
その後も,死神が出るまでの制限時間が半分の「お急ぎモード」を開放する「Sorceress' Tears」(魔女の涙),プレイにさまざまな変化を与える「Arcanas」(アルカナ。詳細は後述)が使えるようになる「Randomazzo」(数奇のカード),BGMを変える「Magic Banger」(マジックバンガー)などのレリックが次々に登場した。
新たなレリックを手に入れるには特定の条件を満たす必要があるため,プレイに新たなモチベーションをもたらした。当初のロードマップでは,前述したものを含む6種が実装予定だったが,現在は20を超えている。
こちらが天の川マップ。正式リリース前の画像なので,レリックの訳が「遺物」となっている
●アルカナ
2022年4月13日のPatch 0.5 (The esoteric one)で登場した要素。前述したように,レリックである「数奇のカード」を入手することでアンロックされる。
アルカナはタロットカードのようなもので,ゲーム開始時に1枚選べるほか,ボスの宝箱からはランダムで提示される4枚から1枚をピックアップする。
アルカナの効果はいずれも一癖あるものばかり。特定武器の強化や回復量増加といったパワーアップだけでなく,所持武器が少ないほど火力アップ,死んで復活するたびに能力アップ,経験値が得られなくなる代わりに,敵が落とした「EXPジェム」が爆発するようになるなど,新たなプレイスタイルを提案してくれる。レリックや黄金の卵とあわせ,プレイの硬直化や飽きへの対策が急ピッチで行われていたことが分かる。アルカナもレリック同様にアップデートの目玉となって,現在は20種を超えている。
結局,「Vampire Survivors」って今どうなってるの?
というわけで,ここまで長々と説明してきたが,「結局,『Vampire Survivors』って今どうなってるの?」「自分が遊んでいた頃と比べて,どんな新しい遊びが楽しめるの?」と思っている人も多いと思うので,以下にまとめてみた。
●キャラクターや武器が大幅に増加
リリース当初は7人だったキャラクターは,DLCを含めると60人近くになっている。特殊な条件を満たして1体ずつ開放していく仕掛けは昔のゲームでよく見られたので,少し懐かしい面白さがある。武器も90種近くにまで増えており,新たなプレイ感を楽しめるはずだ。
●プレイヤーを飽きさせない要素が満載
キャラクターの武器や能力に影響を及ぼす「アルカナ」や,多彩なモードを開放する「レリック」で,プレイの幅はかなり広がっている。ずっと戦える「エンドレスモード」と,逆に半分の時間で終わる「お手軽モード」の両方が実装されているように,プレイヤーの要望に細かく応えているので,自分のスタイルや気分に合わせて楽しめるはずだ。
「ランダムイベント」で予期せぬ展開も楽しめるし,ひと通りの要素を遊び尽くしても,キャラクターを無限に強化できる「黄金の卵」などが待っている。
●本編とは異なる世界観を持った2本のDLC
DLCは「Legacy of the Moonspell」「Tides of the Foscari」の2本が配信中。それぞれ8人の新キャラクターと13種の新武器,新ステージを収録している。
「Legacy of the Moonspell」は和風世界,「Tides of the Foscari」では魔法学園が舞台となっており,「Vampire」からはかなり離れてしまっているような気もするが,その自由さも本作らしさだ。
●最大4人で遊べるローカル協力モード
ローカル協力モードは最大4人でプレイ可能。レベルアップ時のパワーアップ選択権は持ち回りで,自身のキャラを強化するアイテムを選ぶか,それともチームメンバー全員が何らかのパワーアップをする「友情のアミュレット」を取るかといった選択を迫られる。
●PC以外でもプレイできる。スマホ版は無料
PCに加えて,Xbox Series X|S / Xbox One / Nintendo Switch / iOS / Andoroid向けにも配信中。iOS / Andoroidは無料でプレイ可能だ(DLCは有料)。
そして今後はどうなる
今後も「Vampire Survivors」のアップデートは続いていくようだ。9月に公開された動画では,新たな無料コンテンツを開発中であることが明かされており,見たこともないキャラクターや武器が確認できる。また,オンライン協力プレイについてもGalante氏やプログラマーのDunk氏が可能性を探る旨の発言をしているので,今後の情報に注目だ。
たった1人のプロジェクトから急成長を遂げ,シンプルなゲーム性と開発への熱意が受け入れられた「Vampire Survivors」。個人的には,タイトル名に入っている「ヴァンパイア」がまだ登場していないことが気になるが,それだけに期待が高まり続けている。伝説はまだ続いていきそうだ。
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