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[インタビュー]怒涛の時代を生き抜いた男たちが現世で蘇る。「新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―」開発スタッフ陣にこだわりを聞く
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印刷2024/08/30 12:00

インタビュー

[インタビュー]怒涛の時代を生き抜いた男たちが現世で蘇る。「新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―」開発スタッフ陣にこだわりを聞く

 アイディアファクトリーのブランド「ALTERGEAR(オルタギア)」の第2弾として,2024年8月9日にリリースされたNintendo Switch用ソフト新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―。本作は,新徴組や新撰組,海援隊,薩長の剣士たちが前世の記憶を思い出し,現世の新宿で再び剣を握るアドベンチャーゲームです。

画像集 No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]怒涛の時代を生き抜いた男たちが現世で蘇る。「新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―」開発スタッフ陣にこだわりを聞く

 4Gamerは今回,本作の開発を行った花梨エンターテイメントの風之宮そのえ氏(プロデューサー)と菜摘かんな氏(シナリオ&ディレクション)に,世界観やストーリー,キャラクターたちの魅力をうかがいました。すでにプレイされた人も気になっているという人も,本作の激重感情が飛び交うこだわりポイントをぜひチェックしましょう。

菜摘かんな氏(左),風之宮そのえ氏(右)
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 2024年8月8日に発売予定のSwitch専用ソフト「新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―」は,前世の記憶に目覚め,刀を振るう男たちの絆と友情を描く“現代に蘇る幕末転生奇譚ADV”だ。7月4日に配信が予定されている体験版に先駆けて,本稿では序盤の流れと戦闘に注目したプレイレポートをお届けする。

[2024/06/27 17:00]

My Nintendo Store「新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―」ページ



開発経緯やシナリオのこだわり


4Gamer:
 まずは「新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―」の開発経緯を教えてください。

菜摘かんな氏(以下,菜摘氏):
  スーツと刀を題材にした企画自体は,弊社のアプリゲーム「乙女剣武蔵」の企画段階より前からあったものです。それを数年越しで形にできたのはうれしいです。

画像集 No.009のサムネイル画像 / [インタビュー]怒涛の時代を生き抜いた男たちが現世で蘇る。「新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―」開発スタッフ陣にこだわりを聞く
風之宮そのえ氏(以下,そのえ氏):
 そうそう。「乙女剣武蔵」を作る前に,スーツ×日本刀を題材にしたゲームの企画会議を行いました。ただ,そのときは学ラン×日本刀で親しみやすい学園ものの乙女ゲーム,「乙女剣武蔵」の開発が始まりました。

 一方で,スーツ×日本刀のダークな企画もすごく気に入っていました。それで,僕が仕事と趣味を兼ねて撮っているショートムービーにしてみようと,演者さんと新宿の路地裏でスーツを着て刀を振るう「現代の仕事人」的な動画を作って。その後,たまたま企画を探しているという話が舞い込んだので,この企画を土台にファンタジー要素を取り入れた一般作のアドベンチャーゲームとして提案しました。

4Gamer:
 それがALTERGEARの第2弾タイトルとなったのですね。

そのえ氏:
 ええ。ちなみにショートムービーはYouTubeでも公開しています。「ビルとビルの隙間で常人には知られていない殺し合いが行われている」,という設定で制作しました。


4Gamer:
 ショートムービーのときから,すでに「新宿羅生門」で描いている雰囲気は完成されているんですね。細い路地で器用に殺陣をしている演者さんもすごいです。

そのえ氏:
 新宿を選んだ理由は撮りやすさもありますが,僕自身生まれ育ったのが新宿区であるということも大きいですね。こういう細い路地は京都っぽくもあって,刀の振りも大振りだと壁にぶつかるので,小さく振るう必要があります。それが新撰組の戦い方にも通じるのかなと撮影しながら思っていました。

 それに新宿都庁って,よく見ると鳥居を逆さにしたデザインに見えますよね。都庁を鳥居と羅生門に見立てて「新宿羅生門」につなげていきました。

4Gamer:
 なるほど。アイディアファクトリーさんからは,制作に関して提案などはあったのでしょうか。

そのえ氏:
 アイディアファクトリーさんからは「恋愛要素を一切なくしたものにしたい」というオーダーがありました。そのため主人公も男性,周りも男性で少年漫画のような方向性で進めることになりました。

菜摘氏:
 「新宿羅生門」は「スーツ×日本刀」の企画なので,時代ものの要素がありつつも,都会的でスタイリッシュな雰囲気を大切にしています。

4Gamer:
 確かにそうですね。本作は主人公の行動によって物語が変化するアドベンチャーゲームですが,キャラクターごとのエンディングもあるんですよね。

そのえ氏:
 はい,キャラクターエンドも用意してあります。

菜摘氏:
 プレイヤーが最初に触れる「邂逅編」では,主人公の沖田 洸がまだ学生で,インターンという形で新徴組に所属します。卒業を迎え,就職先として4つある組織のどこを選ぶのか……という展開になるので,そこが最初の分かれ道ですね。

そのえ氏:
 各組織には2人ずつメインキャラが所属していて,そのバディのもとに新メンバーとして主人公が加わります。洸が入ったことで,その2人の関係がより強固になったり,ぎくしゃくしたり,組織によって物語が変化していく。主人公はそのなかの1人と親しくなることも,両方と仲良くすることもできます。

菜摘氏:
 最終的に,各キャラクターに寄り添う「個別エンド」と,2人まとめて救済する組織エンドに分かれます。

4Gamer:
 救う相手を主人公(プレイヤー)が選べるんですね。正直なところ日本史に疎くて,主人公の沖田 洸の前世,沖田林太郎を存じ上げなかったのですが,主人公を彼にしたことや,新徴組を主軸にした決め手はなんだったのでしょうか。

そのえ氏:
 まず,ほかではやらないだろうっていうところです!

菜摘氏:
 新撰組はたくさん取り上げられていますからね。

4Gamer:
 被らないことが重要であると。

そのえ氏:
 もちろんそれだけではなく,新徴組は沖田総司の義理のお兄さんがいたり,女性の剣士がいたりとキャラクターが立っています。物語も江戸市中の見回りや戊辰戦争の引き金になった薩摩藩邸焼き討ち事件などがあり,これらを掘り下げていったら面白そうだと思い,主軸となる組織が新徴組に決まりました。

 ただ,主人公に関しては菜摘さんとちょっと揉めたんですよ(笑)。僕は最初,女性剣士である中沢 琴の覚醒者を主人公に考えていました。前世が女性で,現世が男性なので,前世で女性としてほのかな恋心があったうえで現世では男として生まれ変わる……そんな儚くむず痒い人間ドラマがあると書きやすいかな? と思ったんです。でも菜摘さんいわく,ものすごく難しいですと(笑)。

菜摘氏:
 「ALTERGEAR」ブランドは恋愛要素なしとのことなので。例えば前世が女性で,現世で主人公が男性だけど女装する展開の提案もあったのですが,それだと本作の主人公にはあいません。そう考えると,今の林太郎くらいのポジションがベストかなと。

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そのえ氏:
 ここは紆余曲折があって,沖田林太郎に落ち着いたという感じですね。結果,現世で中沢 琴の記憶を持つ中沢 颯は,主人公の面倒くさい上司になりました(笑)。

菜摘氏:
 時代的に女性の琴は前世で男性の上に立てなかったけど,現世では立てる……そういった前世と現世の立場や年齢の逆転も楽しめると思います。

 話が逸れましたが,新徴組が主人公組織になったのは現代の都会を描くのに新宿が分かりやすいこともあって,今回は京都を守った新撰組でなく江戸を守った新徴組を取り上げています。

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4Gamer:
 キャラクターたちの前世と現世,両方自分という状態はある種,二重人格のような複雑な状態ですよね。とくに覚醒したての洸の心境の移り変わりは描くのが難しそうだと思ったのですがいかがでしたか。

菜摘氏:
 そこはユーザーに自然に受け止められるか,かなり不安はありました。とくに主人公の沖田 洸は,前世の年齢とかなり開きがあります。でも,前世と現世の年齢間が大きいほうがエモいだろうとも思っていました。

そのえ氏:
 強気な人がずっと強気なのかっていうと,意外と家に帰ると弱気っていう人もいますし,感情の起伏が激しくなる場合もあると思うんです。そういう多面性もまた人間性なので。あと,本作の覚醒前後みたいな設定は転生ものが好きな人には,すんなり受け入れられると思います。

4Gamer:
 歴史上の人物をベースにした制作は調べることも多いかと思います。彼らに起きた出来事や性格,関係性など落とし込みで大切にしたことはありますか。

そのえ氏:
 代表的なエピソードは生かそうと思いましたね。そして,何よりそのキャラクターの死に方は被せたいと思いました。例えば西郷拓馬の前世である西郷隆盛は,西南戦争で新政府軍と争い,もうだめだとなったときに自害し,介錯を受けこの世を去っています。現世でも桂とぶつかって,最終的に悲劇的な結末を迎えるエンドもあります。

菜摘氏:
 現世に生きる彼らは史実を知ったうえで「次は失敗しない」という気持ちがある。分かっていても同じ過ちを犯すこともあれば,やり直して回避できる悲劇もあります。もしプレイヤーが知っていれば,「こうすれば回避できるかも」と思ったり,知らなかったとしても2周目プレイに生かせるので,そういう多重構造も楽しんでもらえたらうれしいです。

そのえ氏:
 実際の歴史でどれだけの人が顔を合わせているかは分からないですが,エンタメ作品として現世で覚醒している人たちがかつての敵と再会したとき,恨み辛みに飲まれることもあると思います。それでも手にかけることは許されない。昔は美談として語りつがれた仇討ちも,現代では犯罪ですから。あくまで自制心を持って,洸は新徴組隊士として取り締まる側に立つ,そういう表現を重んじています。

菜摘氏:
 幕末を舞台にした作品はたくさんありますが,現代で再び幕末が,刀の時代が始まったらどうなるのか。どうしたら大事な人を守れるのかなど,本作ならではの展開は大切に描いています。

4Gamer:
 シナリオを作るうえでとくに注意したところなどはありますか。

菜摘氏:
 一見,奇をてらった,ブッ飛んだ展開に見えて,「意外と王道」の物語にすることです。女性向けですが男性でも楽しめるような,胸アツな物語になるように注意を払いました。

 主人公が街を守り,帯刀した狼藉者を斬る。主人公の沖田 洸と,街を見廻る新徴組を主役組織とすることで,分かりやすくすること。でも実際,現代の街で刀を振りかざすのは非常識ですよね。それでも弱い人を守るため戦う,ここではそれが正義であることが伝わるよう,注意を払いました。

そのえ氏:
 新撰組や維新志士は,司馬遼太郎さんをはじめとする有名な書き手によって出来上がったキャラクター像があります。そこからズレてしまうと”コレジャナイ感”が出てしまう。逆にステレオタイプだからこそ書きやすい面もあるんです。しかし,新徴組は創作が少ないし大きなドラマも少ないのでキャラクターを作るのが大変でした。

菜摘氏:
 そのぶんオリジナル要素を入れられましたよね。新撰組だといろいろなタイトルが思い浮かぶだろうけど,新徴組となったらうちのタイトルを思い出してもらえたらなと。新撰組との関係性からイメージも広がると思います。

4Gamer:
 各組織でそれぞれバディがいるのも特徴ですよね。

菜摘氏:
 乙女ゲームのように「主人公対特定のキャラ」の構図を友情で表現するのが分かりやすいと思うのですが,私の中で男性キャラは2人ずつ,バディで登場してほしいという願望がありまして。なので関係性はかなり入り組んでます。そうすると逆に主人公がボッチになりやすいんですが,2人の喧嘩を仲裁したり,仲良しバディに挟まったり,「邪魔するな」って睨まれながらも彼らが抱える問題に寄り添ったり,そういう味わいがあるんですよね。

4Gamer:
 分かります。

菜摘氏:
 主人公にできることはある程度限られていて,みんなが一番大事な人と一緒になれるわけでもない。だから,ときに主人公はその仲間に入りきれないけど,幸せな2人を見守る切なさ,エモさを味わってもらえたらいいなと考えています。単純に誰かと仲良くなる,攻略するだけじゃない人間関係を楽しむというか。「2人のこと,ずっと見守ってるからね!」っていう気持ちでゲームされる方もきっといると思うので,そこを満たすゲームでもあるのかと。

4Gamer:
 確かに“壁になりたい願望”は,わりとメジャーな嗜好な気がしますね。ただ私,一方で操作する主人公にも肩入れしてしまうタイプでもあるんですが,ボッチになりやすい洸が幸せになる展開もあるんですよね……?

菜摘氏:
 もちろんです! 「邂逅編」をクリアすると,「新徴編」と「神誠編」が開放されます。このどちらかをクリアすると,「戒援編」と「薩長編」が開放され,全編クリアしたのちに「因果応報編」という真相エンディングまでプレイできます。そのあとに一人ひとりと契っていけるんですが,そこに至るまで街を守り,組織救済の職務がある。だから洸が特別な1人と幸せになるのは,そのあとでしょうか。

 やっぱり全員が生き残るのって難しいんですよ。今回は組織の対立を描く,二律背反の世界。誰かを救えば,引き換えに誰かが犠牲になる。全員を生き残らせるためには真相にたどり着かなくてはいけない。洸にはそこから得られる幸福を用意しています。

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主人公と4つの組織との関係


4Gamer:
 それを聞いて,とても安心しました! では,本作に登場する4つの組織「新徴組」「神誠プロダクション」「戒援隊」「薩長エージェンシー」の特徴や制作にあたってこだわったところを教えてください。

●新徴組
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そのえ氏:
 新徴組は「新宿羅生門」としての王道を描いたルートですね。まず中沢 颯ですが,彼の前世である中沢 琴は女性の剣士です。女性というだけで出世できず,軽く扱われていた経緯がありますが,現世では男性で,新徴組隊長を務めます。でも過去の琴も今の颯も同じ人間なので,常にモヤモヤしたものを抱えながら生きているんですよね。

 史実でも中沢 琴は「自分より強い男じゃないと結婚する気はない」と言っていた人でした。本作の設定だと,前世で琴は自分より強い林太郎にほのかな憧れを抱いていましたが,現世の彼はすごく弱いいじめられっ子になっていて(笑)。前世で憧れていたからこそのモヤモヤを抱きながら,厳しい上司になりました。

菜摘氏:
 史実でも中沢 琴は生涯独身で,子どもはいなかったそうです。本作の設定では前世で林太郎だった洸がまだ未熟な若者としてやってきたので,颯は彼を育てようという親心が芽生えます。そういう昔憧れていた人と親子のような関係になる展開もエモいかなと。恋愛要素がないぶん,ほかのあらゆるロマンを詰め込みました。

そのえ氏:
 次に勝 覚悟ですが,彼の前世は勝 海舟の父親,勝 小吉です。海舟自身は坂本龍馬らからすると親世代の人で,小吉はそのさらに上。世代も違うし,微妙に時代が重なっていないんです。でもキャラとしてすごく濃い人で,吉原の用心棒も引き受けた人情家。幕末の剣聖,男谷信友より腕が立つと言われていました。

 彼が本作の新徴組に入ったら,どんなにめちゃくちゃになるんだろうとワクワクしました。あと新宿歌舞伎町に似合う,チンピラ風のキャラも欲しくて。そういう立ち回りができるのが,覚悟さんかなと。

菜摘氏:
 江戸っ子枠ですよね。小吉さんは一世代前なので,明治維新のことは知らないんですよ。本当に将軍様大好き,江戸大好きな人で,そういう人が1人,洸の側にいると展開も盛り上がるだろうなと。それに花街に入り浸っていた人なので,現代の新宿歌舞伎町にもよく似合います。

 また,新徴組は前世が女性だった颯の存在があるので,若干男女間の名残があるルートになっています。覚悟は女性は守ってあげる存在と考えていますしね。颯と覚悟は主人公である洸の親がわりとなり,立派に育てようとする。彼らは決して洸を裏切らないし,そういう意味では安心して進められると思います。ただ,最後に新徴組という組織の怪しい一面も垣間見えるので……因果応報編までは,多くの課題が残るように感じるかもしれません。でも,新徴組が洸の味方であることは揺るぎません。

そのえ氏:
 それぞれのルートにその組織と敵対する組織があるんですが,それらも前世とのつながりから描いているので,注目してもらいたいところです。プレイしているときは気にせず楽しめますが,ふとしたときに調べてもらったりすると,「ああ,こんな感じなんだ」って深堀りして勉強できると思います。

●神誠プロダクション
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そのえ氏:
 新撰組はファッションにも華がありますよね。今の時代を考えるとアイドル集団は必要だろうというところで,彼らをアイドルにしようと決まりました。彼らは表向き,華やかな芸能人だけど,任務を受けて薩長に組する人間を暗殺する,裏の顔も持っています。

 沖田総司(蒼空の前世)は沖田林太郎(洸の前世)の義理の弟ですが,現世の洸と蒼空は本当の兄弟です。そして土方歳三(土方玲雄の前世)は,試衛館道場では林太郎の教え子でした。林太郎は土方歳三らに指南する側だったのに,現世では年下の新人。そこには颯と同じく,玲雄もモヤモヤしています(笑)。

菜摘氏:
 「神誠編」は,洸が内部調査のため神誠プロに送りこまれるところから始まります。弟と一緒に芸能活動ができる反面,裏では本来の目的であるスパイ活動,調査報告もしなくてはならない。神誠プロは危険な組織ですが,元をただせば新徴組とは兄弟組織。そんなグレーな部分を含めて,ある種の共犯関係が描かれます。

4Gamer:
 なかなかに複雑ですね。そういえば神誠プロに近藤 勇ではなく,芹沢 鴨の現世,芹沢朱鷺がいたのは意外でした。

そのえ氏:
 そうなんです。神誠にとって,近藤 勇は重要キーマンではありますが,登場はしていません。でも,芹沢みたいな癖の強いキャラクターがいると盛り上がりますよね。前世で土方たちが集団で闇討ちした新撰組元局長が現世での局長で,近藤勇が不在という。

菜摘氏:
 神誠プロダクションの設定は,舞台映えするパフォーマンスを盛り込む意図もありました。「邂逅編」で洸がステージに上がったシーンは,「実際に客席からステージに乱入すると盛り上がりそう!」と意識したシーンでもあります。

●戒援隊
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そのえ氏:
 覚醒者の取り締まりに同じ覚醒者を利用する……そんな意図もあって,新徴組を警察の管轄としていますが,そうなると軍隊も必要だろうと,自衛軍管轄の組織「戒援隊」が生まれました。勝 海舟は軍艦奉行並,戊辰では軍事総裁です。戒援隊は全寮制で,寮食を一緒に食べ,一緒に寝泊まりし風呂に入り共に戦う組織。新徴組は覚醒者を取り締まりますが,戒援隊は修羅と呼ばれる怪異と戦う,謎多き組織です。「戒援編」は最も真相に近い物語かもしれません。

菜摘氏:
 全体を理解するなら,新徴or神誠→薩長→戒援の順番で真相に行くのもオススメです。新徴と神誠が幕府側の視点なので,そこからだんだん視野が広がる感じになります。

そのえ氏:
 ここはバディ仲がとにかくよくて,岡田 零が坂本 旭には逆らわない!

菜摘氏:
 彼らは若くして命を落とした過去の悲劇を互いに知っていて,それを繰り返したくないんです。なので,岡田 零は幕府側から戒援隊にやってきた洸を「こいつが刺客なのか!?」と非常に警戒します。飄々とした坂本 旭も洸を監視していたり。一方で,背中を預け合う同志でもあり,運命を変えるキーマンとしての可能性も見出していて,互いに距離を図りまくります。

 信頼を得ていくうちに,2人から「岡田(坂本)のことを頼む」と言われて,洸も重い立場に追い込まれます。2人を助けるためには,洸の……つまりはユーザーのバランス感覚が鍵になります。

4Gamer:
 そんなに警戒心が強いんですね! 「邂逅編」では坂本はもともとフレンドリーだったし,岡田も距離はありつつも,ツンデレ波を感じたので,少し驚きです。

菜摘氏:
 洸が新徴組にいる限りは,刀を持っていても,「街を守っている」認識で済みます。でも帯刀して戒援隊に来ると話が違ってくる。洸は寮の同室で寝食を共にし,勝 聖舟から何故か優遇され目をかけられる……彼らも互いの生死がかかっているので,洸を認めたいけど,認めきれないジレンマを抱えてしまいます。

●薩長エージェンシー
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菜摘氏:
 薩長は再び始まった刀の時代に,真っ向から異論を唱え,街の正常化を目指しています。そのため洸たち幕府の覚醒者を敵視しており,薩長に向かった洸は,早々に拷問を受けてしまいます。

そのえ氏:
 薩長は沖田林太郎(洸)にとって,因縁の相手である西郷隆盛の覚醒者(西郷拓馬)がいる組織です。薩摩藩邸焼き討ち事件は,西郷が幕府と戦争を始めるために挑発した事件で,桂 紫苑(前世は桂 小五郎)は洸を利用するため洸の父親を利用します。父親の身柄を盾にされた洸が薩長に行くと,刀を奪われ,拷問が待っているという。

4Gamer:
 ひどい(笑)。花梨エンターテイメントさんの作風を知っているプレイヤーからすると,「あぁ!」という展開ですが,ほかのルートと比べ,スタートがグッと重くなっていますね。

菜摘氏:
 薩長はここではヒール(悪役)なので。過去でも薩摩が江戸を荒らしたことが戦いのきっかけになっています。桂は頭も良く挑発がうまいんですよね。

そのえ氏:
 でも薩長エージェンシーの内部に入ってみると,狂った覚醒者による刀の社会を終わらせなきゃいけないという理念で動いているので,我々のメンタリティーに一番近いんです。洸も影響を受けます。そして,桂 小五郎(新政府軍)と西郷隆盛は西南戦争で殺し合った者同士なので徐々に睨み合っていく。そんななかで,洸がどうするのかも注目ポイントです。

菜摘氏:
 拓馬は刀の時代への憧れが残っているんですよね。でも紫苑は政治やお金で世の中を動かしているので,基本的に刀を抜きたくないんです。この2人は微妙に違っていて,紫苑は私たちと同じ感覚なんですよ。斬りあいは嫌だし,本当は帯刀したくない。ヒールとして振る舞いつつ,むしろ感覚は私たちや,現代の一般的なものに近いです。

 洸も刀は置きたいんですが,目の前で誰かが斬られかけたら,やはり刀で守ってしまう。そこで折り合いをつけていく,正義の意味をあらためて考えるというのがテーマになっています。このルートは洸が薩長の2人を理解し,好意を抱けるようになるまでの長い物語です。

そのえ氏:
 西郷は因縁の相手ではあるけれど,現代に生きる西郷(拓馬)は仲間思いだし,いったん懐に入れた人間に対してはものすごく手厚いんですよ。そういう部分に洸も触れていくことになります。

菜摘氏:
 桂もあくどいことをする一方で,洸をほだすような面もあります。意外と教育ママ? であったりとか。例えば洸に「刀なんか振ってないで大学に行くべき」とか,彼なりの価値観で進路まで考えています。颯は刀の振り方を教えて育てますが,こちらは現代的な親心。ある意味,最も常識人かもしれません。

そのえ氏:
 これら4組織の組織エンドを見ると真相エンドの「因果応報編」が開かれ,羅生門でもある都庁でラスボスと戦うことになります。

菜摘氏:
 人間同士で斬り合うほうが話に深みは出るんですが,ダークファンタジーとして大きな怪異も倒したいし……詳しくはゲームで直接確かめてみてください。

そのえ氏:
 真相エンドでは洸の過去も掘り下げられ,すべての謎が集約されていきます。ラスボスに敗れた場合のバッドエンディングにも力を入れているので,時にはあえて失敗するのもオススメします。このバッドエンディングの描写が好きっていう方もいそうです。

菜摘氏:
 むしろあれが本当のダークファンタジーの開幕かと……闇が深いですね(笑)。


独特なバトルシステムや男性同士の激重感情に注目!


4Gamer:
 幕末作品は友情や因縁など,男性同士の激重感情も人気のポイントかと思います。本作の体験版でもすでに,すれ違う洸と蒼空の沖田兄弟や仲良しな坂本 旭と岡田 零などの気になるコンビなどが見られました。お二人が気に入っている,注目してほしいコンビやトリオはいますか。

そのえ氏:
 僕は担当していた新徴組の2人(中沢 楓と勝 覚悟)への思い入れが深いですね。「新徴編」は本作の基本となるオーソドックスなルートで,彼らの持つ片喰刀のルーツが描かれています。「邂逅編」でも軽く触れましたが,片喰刀には,とある新徴組隊士の魂が宿っています。彼らがなぜ刀に魂を宿したのか,なぜ限られた者だけが持てるのかなど,胸アツ展開が待っています。あと人工覚醒者とか……。

菜摘氏:
 戒援(坂本 旭と岡田 零)や薩長(桂 紫苑と西郷拓馬)のバディでしょうか。薩長は常に喧嘩しているし,戒援は仲良し感が分かりやすくかわいい。戒援はもともと若くして亡くなった2人なので,幸せになってほしいという感情が沸くんですよね。だから,アツアツ感なら戒援,複雑な感情を味わうなら薩長という感じです。

そのえ氏:
 戒援はバッドエンドもなかなかのバッドだよね。

菜摘氏:
 それを知ったうえで,今度こそは幸せにする! という気持ちを高めて組織救済に臨んでいただければ……。

4Gamer:
 すべてのルートをコンプリートしたくなりますね。コトダマを選ぶ戦闘や余命値,禊などバトルシステムについてのこだわりを教えてください。

菜摘氏:
 アプリ「乙女剣武蔵」に実装した,自分の指で画面をなぞって斬る戦闘を,本作にも実装したくて。Switchのゲームなので,もちろんボタンでもプレイできますが,できれば一度指で,スワイプやタップを試すと,自分で斬ったという実感を得やすいと思います。

 本作には3人で力をあわせる「三体奥義」や,戦局の変化や進行ターンで発動するボイスなども収録されています。戦闘が長引いたときのセリフや,追い詰められたときの恨み台詞等も楽しんでいただけたら。

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4Gamer:
 ちなみにコツなどはあるのでしょうか。

菜摘氏:
 戦闘によって問が決まっているので,覚えられる方は覚えて,指でパッと斬ってしまうのがいいかも。面(顔)や手を狙うとダメージが入りやすいです。どうしても勝てないときは,アイテムを使うのも1つの手だと思います。苦戦すると聞ける台詞や敗北時の短いシナリオもあるので,やり込み要素として掘り下げてもいいかもしれません。

4Gamer:
 分かりました! 余命値,禊などは本作からの要素ですね。

菜摘氏:
 「新宿羅生門」は独立した作品でもあり,コンシューマゲームのためゲームオーバーもあります。敗北すると時に「余命値」が下がりますが「禊」をすれば余命を補うことも可能です。組織結束度を上げることで,組織救済の可能性が上がります。

 パラメータは基本,こちらを立てればあちらが立たずというトレードオフです。自分の救済を優先すると相手の情報を得る機会を1つ失ったり,その逆もあります。でもパラメータ調整の難度はそこまで高くないかと思います。大きく間違えたり,戦闘でよっぽど敗北が続かない限りは,詰むケースは少ないです。

 負けても先に進める展開も多いですが,終盤になると一度の敗北が死につながることも。自分も生き残ったうえで,相手も救うバランスが大切になってきます。

4Gamer:
 戦闘のたびにセーブを推奨されるので,きっとストーリーが進むにつれて厳しい戦闘もあるんだろうと思いましたが,やっぱり1回でアウトな展開もあるんですね。

菜摘氏:
 戦闘に自信のない方は,戦闘前のセーブをおすすめします。戦闘前アラートが赤や紫のときは,とくに注意してください! 序盤は自分のペースで大丈夫かと思いますが,やはり終盤の強敵は「やっと勝てた!」という達成感,爽快感もほしいので強敵も存在します。セーブして保険をかけると安心です。

4Gamer:
 戦闘のやり応えもありそうですね。本作はどんな人におすすめしたいゲームでしょうか。

そのえ氏:
 歴史が好き,興味がある,和もの作品が好きな人でしょうか。あと,少年漫画が好きな方も楽しめると思いますね。

菜摘氏:
 男同士の友情を味わいたい,覗きたいプレイヤーに遊んでもらえたら。コンシューマならではのドラマを盛り込んでいますし,大胆なカタルシスやクライマックスの表現に向いているメディアなので,そういう世界で冒険したい人におすすめします。

 テーマは男性の友情ですが,女性が好きな,何より自分が好きな関係性を詰め込みました。プレイヤー(主人公)と特定の相手だけでなく,誰かを救うためにほかの人に近づいたり,牽制したり……,張り巡らせた関係性のるつぼの中心に主人公がいて,運命の鍵を握り続ける。そんな作品なので,ぜひプレイして男性同士の関係性に溺れてほしいです! 

4Gamer:
 最後に読者へのメッセージをお願いします。

菜摘氏:
 本作はアドベンチャーではありますが,ゲームとして自分でプレイする楽しみも追求しているので,ぜひご自身でプレイしてみてほしいです。相反する価値観が交錯する物語なので,価値観や関係性の変化も味わってみてください。ぜひ,感想やコメントをいただければうれしいです。

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そのえ氏:
 この作品はタイトルからして,難しそうなイメージを持つかもしれません。出演声優さんたちも歴史が好きな方や,歴史ものの舞台経験がある方が多かったようです。なので歴史に興味がない人からすると,どうしてもハードルが高いと感じてしまうのかもしれません。でも蓋を開けると現代モノだし,ほぼ少年漫画的な展開なので,多くの方が普通に楽しめるはずです。

 新撰組1つとっても,ほかの漫画やドラマとの解釈の違いも楽しめるかな。あと僕が生まれ育ったのが新宿区なので,新宿区民じゃないと分からない描写もあったりして(笑)。そこも探してもらえたら,楽しいかもしれないですね。

 今作のブランドはALTERGEARですが,内容は花梨らしい作品ですので,今までのユーザーさんにもぜひ楽しんでほしいです。クソデカ感情が渦巻く世界を愛する人には,絶対に刺さると思います! また今後の展開として,2025年1月18日から1月26日に東京のこくみん共済 coopホールで「舞台新宿羅生門」の続編公演が決定しました。今回,僕が舞台の脚本を書くことになりました。初回公演はゲームの発売前でしたが,今回は発売後なので,ゲームの内容を踏まえて楽しんでいただけるはずです。こちらもぜひ,期待していてください。

4Gamer:
 ありがとうございました。

――2024年8月6日収録


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    新宿羅生門 ―Rashomon of Shinjuku―

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