お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2023/12/30 15:00

レビュー

2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

ラブムーさんのベストクィアゲーム

●ラブムー
東京生まれ。ポップカルチャーライター,ゲーム翻訳者,詩人。大学では古今東西の恋愛論を研究。出版社勤務後,都内で名曲喫茶を営む。翻訳した海外ゲームは「Milky Way Prince-The Vampire Star-」「Mediterranea Inferno」ほか。ゲームと文学,お酒,猫をこよなく愛する。

Milky Way Prince:The Vampire Star ミルキーウェイ・プリンス

価格 1700円
ジャンル ビジュアルノベル
メーカー Santa Ragione(発売)Eyeguys, Lorenzo Redaelli(開発)
公式サイト https://store.steampowered.com/app/1302050/Milky_Way_Prince__The_Vampire_Star/?l=japanese

 本作はイタリアの気弱な青年・ナキ(主人公)と銀河の闇王子(らしき青年)・スーンの短くも烈しい恋愛を描いた,個人制作のビジュアルノベルです。境界性パーソナリティ障がいと双極性障がいを抱えているスーンは不安定で,ナキに対する態度もだんだん変貌していきます。礼儀正しい時もあれば,薮から棒の時もあれば,情緒不安定になって怒鳴りつけてくる時もあります。 

画像集 No.014のサムネイル画像 / 2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

 「ミルキーウェイ・プリンス」は,クィアなゲームであると同時に,普遍的なビルドゥングス・ロマン(成長物語)と呼びたくなるような作品です。本作で一貫して描かれているのは,他者に恋することの根源的な困難とその度し難さ,恋愛主体に生じる激しい内的葛藤です。
 本作をプレイしながら,自分の内で消失したと思いこんでいた感覚,忘れてしまったことさえ忘れてしまっていた感情がまざまざと蘇ってくるのを感じました。それはけっして心地良い体験ではなかった。かさぶたのようになっていた傷が,乱暴に剥がれされたように感じた時もありました。でも,この「ミルキーウェイ・プリンス」というゲームと出会ったことは,わたしにとって内なるクィアに気づく大きなきっかけになったのです。
 「ゲイ同士の恋愛」を扱った本作ですが,バイであれ,レズビアンであれ,ヘテロセクシャル(異性愛者)であれ,ナキとスーンが過ごした限定的な恋愛からは,二人が己と向き合って成長していく,痛々しくも美しい姿を見出すことができます。二人の恋愛模様に,自分自身を重ねてしまう人もきっと少なくないでしょう。
 
 本作の改訳を手がけることは筆者の大きな目標でしたが,2023年7月,念願かなって拙訳版が公式日本語訳としてアップデートされました。Steamには無料デモ版もありますので,少しでも気になった方はぜひ触れてみてください。



Mediterranea Inferno メディテラネア・インフェルノ

価格 1700円
ジャンル ビジュアルノベル
メーカー Santa Ragione(発売)Eyeguys, Lorenzo Redaelli(開発)
公式サイト https://store.steampowered.com/app/2103680/Mediterranea_Inferno/

 「メディテラネア・インフェルノ」は,「ミルキーウェイ・プリンス」作者であるロレンツォ・レダエリ氏が,コロナ・パンデミック期に作り上げた2作目です。ロードムービー,コメディ,サスペンスといったジャンルを違和感なく取り込み,1本の長編として見事にまとめあげた作者の成長ぶりに驚かされました。 

画像集 No.009のサムネイル画像 / 2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

 パンデミック後の南イタリアで,3人のクィアたちがビーチやクラブや蚤の市で各々のさまざまなミラージュ(内面世界への旅)を通り抜け,自己を探求する――というのが本作のメインストーリーです。主題は「失恋」という個人的なものから,イタリアにおけるクィアたちの現状・心情,SNSが隆盛する時代における分断・孤立・自己表現の困難さなど,今日的なテーマも織り交ぜて展開していきます。
 また,本作はヨーロッパにおけるパンデミック下のクィアたちの生活の困難さに触れた作品でもあります(イタリアにおけるパンデミックの実態,LGBT法案が否決された日の登場人物の怒りも描かれます)。

画像集 No.015のサムネイル画像 / 2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

 本作の主人公である3人は,一見「パーティーピープル」のような華やかなルックスですが,それぞれに面倒な事情をたっぷり抱えています。両親への嫌悪と父の散財から逃れるように,祖父の過去に身を隠そうとするクラウディオ。SNSによって一躍ファッション・インフルエンサーとなったものの,クラウディオへの失恋から立ち直れずに復讐の機会を狙っているミダ。クラブ通いを人生のよりどころにしてきた,ダンスしている時しか生を実感できない,寂しがり屋のアンドレア
 そんな未熟で,不安定で,衝動的なクィア3人組による友情の「破壊と再生」が本作「メディテラネア・インフェルノ」の見どころです。12月19日に日本語訳版(拙訳)がSteamでリリースされたばかりの本作,ぜひプレイしてみてください。作者・ロレンツォ・レダエリ氏のインタビューもあわせてどうぞ。



「Butterfly Soup バタフライ・スープ」シリーズ

価格 無料
ジャンル ビジュアルノベル
メーカー Brianna Lei
公式サイト 1:https://brianna-lei.itch.io/butterfly-soup
2:https://brianna-lei.itch.io/butterfly-soup-2

◆Butterfly Soup

画像集 No.010のサムネイル画像 / 2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

 アジア系アメリカ人のゲーム作家ブリアナ・レイ氏が,2017年にitch.ioで無料リリースした「バタフライ・スープ」は,ビジュアルノベル・ファンやゲームメディアに大きな反響をもって迎えられました。「ビジュアルノベル」というジャンルが,クィアにとって重要な表現手段となっていることを近年ますます感じることが増えましたが,本作はその嚆矢だったと思います。ちなみに「Butterfly Soup」というタイトルは,蝶々と野球の「ナックルボール」をかけているのですが……それについては,本編で明かされるエピソードをお楽しみに。

 本作を初めてプレイしたとき,ゲーム後半のある場面で思わず「おめでとう!!!」と叫んでしまったことを覚えています。LGBTQ+におけるリアルなコミュニケーションをこれほどストレートに,切実に,ポップに描くことができるのか……と,「クィアとゲーム」のカップリングに大きな可能性を見た気がしました。
 レズビアンであることへの戸惑いと喜び,友情,学校や社会への違和感,多感なティーンエイジャーたちの葛藤をリアルに,魅力的に描いた「バタフライ・スープ」。もし,あなたがLGBTQ+やクィアについてもっと理解したい,もしくは自分の家族や友だちに理解してもらいたいと思ったとき,ぜひ本作をプレイして(してもらって)ください。WindowsでもMacでもできますし,そして何より……無料ですから! でももし楽しめたら(役に立ったら),作者への感謝としてitch.ioから少々ペイして頂けると本作のいちファンとして嬉しく思います。

画像集 No.013のサムネイル画像 / 2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

◆Butterfly Soup2
 かなり訊きづらい質問をさせてください。(意図せずに)相手に差別的な発言をしてしまい,「レイシスト(人種差別主義者)」と呼ばれたことはありますか?
 本作主人公の1人,ミン(コリアンのクィア)は,同じ野球クラブに所属しているチャイニーズとブラックのミックスである同級生・エステルをひょんな軽口から激怒させ,「あなたはレイシストよ」と糾弾されます。
 ミンは「これまで、さんざんアジア系差別を受けてきた自分がレイシスト? 悪気なんて1ミリもなかったのに!」と激しく動揺するのですが……。

 その他にも,友人女性に(タイミングを誤って)好意を告げ,気まずいムードになってしまったり,母親に自分がレズビアンであることを打ち明けられなかったり……と,本作「Butterfly Soup2」では,胸が「ぎゅっ」となるような,そして多くのクィア当事者が悩み,遭遇するかもしれないような出来事がたっぷり起こります。「Butterfly Soup2」は,彼女たちのリアルな日常生活,トラウマ,人種問題を前作以上に掘り下げ,昨年の国際的なインディーゲーム賞「IGFアワード」にて2023年度ファイナリスト作にノミネートされました。

 作者ブリアナ・レイ氏は次のように語っています。「LGBTQ+の経験をそれ以外の人に当然のものとして伝えることは,プレイヤーの心を開くきっかけになるでしょう。考え方が変わらない,変えない人々も存在しますが,それらの描写を理解して,受け入れる人々もまた存在します。」IGN Japanインタビューより)

画像集 No.012のサムネイル画像 / 2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

 「Butterfly Soup2」は,前作同様itch.ioというサイトから購入できます。自分が翻訳(共訳・光藤リナ)を進めております(2024年に日本語版アップデート予定)。

総括 

 最後に。今回「クィアなゲーム」を紹介させて頂くにあたって,わたし自身が「クィア」という概念について長いこと理解できていなかったことを書かせてください。現在,わたしはクィアなポップカルチャーに目がありません。でも,現実にはクィアについてまだ分かっていないこと,説明できないことがたくさん(本当にたくさん!)あることを日々痛感しています。
 「流動的な存在なのだから,分からないこと,戸惑うこともまた正しい在り方なのだ」。あるいはそう言うこともできるかもしれません。でもわたしはクィアを,自分が未だ知らない他者の在り方のことを,もっと精確に,深く知りたい。ここに挙げたゲームに出会ったことが大きなきっかけとなって,いっそうそう願うようになったのです。
 クィアなゲームは,わたしたちが「人」という一見似たような形をしているけれど,実はその内面はみなそれぞれに謎があり,不定形なのだと気づかせてくれます。そして知ること,対話すること,自分と他人の無知を認め,許すこと。それらは自分と他者を,誰かと誰かを分断させてしまう「分からなさ」を,少しでも共有できて,見えやすく,柔らかい「分からなさ」にしてくれるはず。

画像集 No.016のサムネイル画像 / 2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本

 ユニークで,ニッチで,プレイヤー1人ひとりにとって宝石になりうるような作品がたっぷりあることがゲームの強みです。そんな大海の中から,自分に気づきを与えてくれる,エンパワーしてくれるゲームと出会うことは,本当に,本当にうれしい体験です。多くのゲームとの出会いが,愉しみと癒やしをもたらし,わたしたちの内なる「多様性と謎」に気づかせてくれるよい機会になりますように。ゲームにはその力があると,わたしは強く信じています。

※編集部注:2024年1月9日14時頃,「コリアンのトランスジェンダー」を「コリアンのクィア」に修正いたしました。
  • 関連タイトル:

    メディテラネア・インフェルノ

  • 関連タイトル:

    Milky Way Prince:The Vampire Star

  • 関連タイトル:

    Butterfly Soup

  • 関連タイトル:

    Butterfly Soup2

  • 関連タイトル:

    マジック:ザ・ギャザリング アリーナ

  • 関連タイトル:

    マジック:ザ・ギャザリング アリーナ

  • 関連タイトル:

    マジック:ザ・ギャザリング アリーナ

  • 関連タイトル:

    Thirsty Suitors

  • 関連タイトル:

    彼は私の中の少女を犯し尽くした

  • 関連タイトル:

    Stray Gods: The Roleplaying Musical

  • 関連タイトル:

    Stray Gods: The Roleplaying Musical

  • 関連タイトル:

    Stray Gods: The Roleplaying Musical

  • 関連タイトル:

    Stray Gods: The Roleplaying Musical

  • 関連タイトル:

    Tchia

  • 関連タイトル:

    Tchia

  • 関連タイトル:

    Tchia

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:11月30日〜12月01日