プレイレポート
[プレイレポ]超高難度,ゆえに超爽快。「タオパンク」系メトロイドヴァニア「ナインソール」は,あなたの挑戦を待っている
今回紹介する「九日ナインソール(以下ナインソール)」は,台湾のゲームデベロッパである「RedCandleGames」の作品だ。
RedCandleGamesは「返校」「還願」という2つのホラーゲームで知られ,特に一作目である「返校」は映画化/ドラマ化もされヒットするなど,非常に人気のある作品となっている。
「ナインソール」は2Dのアクションゲームで,俗に「メトロイドヴァニア」と呼ばれるジャンルの作品だ。
「メトロイドヴァニア」とは,よくある1ステージをクリアしていくようなアクションゲームと違い,プレイヤーキャラクターの能力を強化したうえで同じマップを何度も探索し,新しいルートや隠しアイテムを発見していくような「探索」要素のあるアクションゲームのことをいう。
「メトロイド」と「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」(「悪魔城ドラキュラ」シリーズは海外でのタイトルが「Castlevania(キャッスルヴァニア)」である)にちなんで名付けられたジャンルだ。
また,ストアページでも公言されているように,本作はフロム・ソフトウェアの高難度アクションゲーム「SEKIRO」に強く影響を受けており,いわゆる「死にゲー」的な難度の高さも併せ持っている。
「返校」は2Dのゲームであったし,「還願」にも2Dのゲームプレイパートがあったとはいえ,本作はRedCandleGamesの過去作とはジャンルが大きく異なっており,新境地だと言えるだろう。
魅力的なアートと世界観
プレイを開始すると,まずはアニメーションのムービーが流れる。主人公である羿(げい)が何らかの理由で大怪我を負い,谷底に突き落とされるというものだ。
可愛らしくデフォルメされたキャラクターデザインに美麗な背景,しかしそれとギャップを感じさせるようなハードかつグロテスクな描写が目を引くムービーで,とても興味をそそられる。
オープニングだけではなく全編を通して本作には残酷な描写が多く含まれているし,ストーリーも重々しくシリアス,かつ残酷なものだ。グロテスクなコンテンツがかなり得意な筆者であっても一瞬「ウッ」となるような強烈な描写もあったため,そういった描写や展開が苦手な人は注意してプレイしたほうがよい。
本作は,冒頭部では世界観がほぼ説明されず,ストーリーを進めていくと徐々に明らかになっていく作りになっている。今回はプレイレポート記事のため重大なネタバレになるような記述は控えるが,物語自体は終盤まで興味の持続が続く非常に面白いものとなっていた。
本作の世界観は,Steamのストアページによると「タオパンク」というジャンルであるとのこと。「タオパンク」とは道教(タオイズム)を意味する「タオ」と「サイバーパンク」のかばん語で,要は中華圏の神話や伝説の要素を取り入れたサイバーパンクっぽいSFを指す。
本作で描写される「タオパンク」の世界観は非常に魅力的で,(人によって感じ方に差はあるだろうが)なんといってもかっこいい。我々がイメージする「中華圏っぽい」意匠と,ハッキングなどが登場するサイバーな世界観が自然に融合しているし,背景美術も非常に美しく描写され,見ていて飽きることがない。
もしかしたら類似した作品やリファレンスがあるのかもしれないが,筆者としては初めて触れるジャンルだったので新鮮に感じられた。個人的に,こういった新たなジャンルや世界観を発見することは,国外制作のゲームを遊ぶことの醍醐味であると思う。
背景美術だけではなく,登場キャラクターも魅力的だ。特に,羿を兄と慕う少年「軒軒」は庇護欲をくすぐるキャラクターで,彼のためにいろいろ頑張ろうという気になるプレイヤーも多いはずだ。
また,敵ボスとなる「天道議会十王」の面々も非常に個性的で,全員が印象に残るように作られている。登場人物も中華圏の神話や伝説にモデルがいるため,調べながら遊んでみても面白いだろう。
ゲーム内で得た情報や登場人物の紹介はポーズ画面内の「データベース」でいつでも参照可能だ。元が中国語であるため,登場する固有名詞は筆者からすると難しく感じられるものが多かったが,この機能のおかげで混乱せずに遊べた。
ストーリーの各所で挿入されるウェブコミックっぽい描写や,ボス戦の演出などもクールで興奮させられるものだ。世界観や美術,演出は個人的には本作の最も優れた部分であり,RedCandleGamesの過去作とも通じる部分であった。
特に,ストーリー中盤部ではかなりホラー的な演出を含む展開が待ち受けており,極めて不気味だ。さすが名作ホラーゲームを手掛けてきたデベロッパの本領発揮といった感じで,非常に楽しめる部分となっていた。
もちろんホラーゲームほどは恐ろしくはないがショッキングではあり,(ジャンプスケアと言うほどのものではないが)驚かせるような部分もあったので,心臓の弱いプレイヤーはやや注意が必要だろう。
サウンドトラックも土着的なものとエレクトロサウンドが合流した魅力的なもので,映画「攻殻機動隊」「イノセンス」の川井憲次氏によるサウンドトラックをやや連想させられた。世界観とマッチしており,特にボス戦の音楽などはゲームをプレイしているときの感情を盛り上げてくれる。
Steamではサウンドトラックも購入できる。全72トラック,時間にしてなんと3時間以上の大ボリュームなのでかなりお得だ。
探索・戦闘など,超高難度の骨太なゲームプレイ
本作は,アクションゲームとしては「SEKIRO」からの影響を公言していることもあり,高難度だ。
戦闘面ではボス戦以外の道中で戦う雑魚敵がそもそも強く,一回でもミスするとかなりの痛手となるバランス。障害物に当たらないよう足場をジャンプして落ちないように渡っていく……というようなプラットフォーマー部分も決して簡単ではないので,何度も何度もトライ・アンド・エラーを重ねて敵の動きやステージを覚える必要がある。
また先述のように,本作は「メトロイドヴァニア」でもあるので,探索することで新たな場所やアイテムを発見していくのも大切だ。
探索には「玄蝶」というドローンを使ってまだ見ぬステージの先を伺えるほか,ステージギミックやドアの鍵のハッキングもできる。
入手したさまざまなアイテムを軒軒やほかの仲間たちにプレゼントできるシステムもあり,プレゼントするたびに特別なイベントが起こる。さらに羿の強化にも繋がるので,ステージはできるかぎり隅々まで探索したほうがゲームを有利に進められるだろう。
かつて行った場所にワープできる,いわゆる「ファストトラベル」機能もあるし,マップも便利なので,わりと方向音痴気味な筆者であっても最後まで迷わずにプレイできた。
本作のアクションを攻略するうえで最も重要になってくるのは,攻防一体の行動である「弾き」だ。「弾き」とは敵の攻撃にあわせて防御ボタンを押すと相手の攻撃を無力化できるというもので,ほかのゲームでいうところの「パリィ」に近い。
本作において相手の攻撃のリズムを把握し攻撃を弾くのは必須のアクションであり,甘えたプレイがほぼ許されず,非常に敷居が高い。
が,慣れてきて完璧に相手の攻撃を弾けるようになったときの爽快感はかなりのものだ(このあたりはかなり強く「SEKIRO」を意識した形跡がある)。また,弾きによって強力な攻撃を繰り出すために必要な「気力」ゲージを回復できる。
アクション面において本作の最大の難関となっているのは,先ほど演出面でも言及した「ボス戦」である。
ボスは当たると即死級の攻撃を繰り出してくるので,理想的には完全にタイミングを覚えて臨んだほうがよく,筆者の腕前だと1つのボスに数時間かかる場合もザラで,「難しすぎる」と感じるシーンも多かった。
ノーマルモードでプレイした場合,本作は超高難度のゲームであると言ってしまっていいだろう。特に中盤以降は敵が強くなるだけではなく,羿が取れる行動も増えるため,単純に押すボタンが多くなり,頭が混乱しがちになってしまった。格闘ゲームなど複雑な操作を習熟するのが得意なプレイヤーであれば,すんなり慣れて高い達成感を得られるかもしれない。
幸い,戦闘面は「ストーリーモード」を選択すれば難度を自由に調節できるので,「ちょっとアクションゲームは苦手」という人であっても大丈夫だ(恥ずかしながら筆者も途中から難度を下げてプレイした)。
ただ,足場をジャンプしていくような道中のプラットフォーマー的な仕掛けも決して簡単ではなく,その部分には難度設定の恩恵が及ばないため,本当にアクションが苦手なカジュアルプレイヤーにとっては難しい部分もあるかもしれない。
RedCandleGamesの過去作は決して高難度ではなかったし,せっかく素晴らしい世界観やストーリーを備えた作品であるので,もうちょっと間口が広ければいいのになと思わなくもない。だが,本作最大の山場であるボス戦の難度は顕著に下げられる。
総評
本作は魅力的な世界観と美術,そして強烈な難度と爽快感を備えた作品だ。多くは語らないがストーリーも心に残るものであり,RedCandleGamesの過去作との共通点も多く感じられた。
特にボス戦は演出,美術,キャラクター,音楽が渾然一体となった素晴らしいもので,上級プレイヤーであれば高難度ステージの克服による高い達成感を得られるだろう。
本作をおすすめできるのは,第一に高難度のアクションゲームを好むプレイヤーだ。逆にカジュアルなプレイヤーにとっては,(難度を下げてもなお)やや困難な体験となるかもしれない。個人的にはおすすめしたい作品ではあるので,ぜひ購入してみてほしい。
「Nine Sols」公式サイト
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Nine Sols
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