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[CEDEC 2023]「スマホゲーム広告の『嘘』」レポート。数字に絡む思惑を認識し,“ユーザーに届ける”から逃げない大切さが語られた
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印刷2023/08/30 12:22

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[CEDEC 2023]「スマホゲーム広告の『嘘』」レポート。数字に絡む思惑を認識し,“ユーザーに届ける”から逃げない大切さが語られた

 広告費はそれなりにかけているのにインストールが伸びない。こうした現象の陰には,「ゲームの広告に関わる人間が,開発側になかなか言えないことがある」からだという。

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 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」で行われたセッション「【プロデューサー/ディレクター必見】スマホゲーム広告の『嘘』」では,アプリボットのマーケティングディレクター家門真明氏が登壇し,スマホゲームの広告とその数字に絡むアレコレが語られた。

アプリボット グローバルパートナー事業部 マーケティングディレクター 家門真明氏
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数字に絡む思惑を認識し,
ユーザーへ届けることから逃げない


 家門氏は,これまでさまざまな立場からスマホゲームの広告に関わってきた人物だ。もともとはゲームのプロデューサーとして開発側を経験しており,マーケティングに転身してからは「自分たちのゲームのマーケティング戦略立案」「パブリッシングパートナーのマーケティング戦略立案」「クライアントのゲームのインハウスマーケティング推進」「広告代理店」などで広告に携わっている。

 本講演のタイトルにある「嘘」は,「インターネット広告に対する『間違った認識』」のことで,氏はこうした認識を軽減したいと考えて本講演を企画したという。これをとおして,「広告代理店の人間が『おかしい』と,意志表示するという覚悟が伝わってほしい」と述べた。

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 スマホゲームの広告は,広告効果計測SDKを導入することで成果を数値として計測が可能だ。しかし,そこには各社が推進する広告形式の効果をアピールしたい「メディア側の正義」が存在する。SDKとの連携に対して「強いメディア」「弱いメディア」があり,それぞれ自社の成果が大きくなるような測定方法が取られている(ここで言う強い,弱いはメディアの力ではなく,SDKに対する“態度”が強気,弱気という意味だ)。

 一方,ゲームメーカー側にも正義があり,広告の費用対効果を計りつつ利用者を増やしたいと考えている。両者の正義は善悪の問題ではない。その中で,ゲームメーカーとして正確な効果を把握するためにはどうすればよいか,というのが本講演の概略だ。なお,講演で使われるデータは家門氏が実際に体験したものであるとのこと。

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 職業柄,さまざまなゲームのマーケティング担当者と関わる家門氏だが,現在は「真摯に向き合う人ほど疲弊している」状況であると指摘する。マーケティング担当者の中には「自分のKPI(重要業績評価指標)はユーザー獲得数だ」というスタンスの人もいるが,「広告が売上につながるか」「広告で自社ゲームの良さが広まるか」と考えている人ほど,前述した「嘘(間違った認識)」に疲弊させられるのだという。

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 数字の嘘とは言うが,メディアや広告代理店に尋ねれば,事前登録広告からの登録率を教えてもらうことが可能だ。定説としては,広告タップからの登録率は30%と知られており,家門氏がかつて問い合わせた時も同様の数字を教えられたという。

 しかしながら,ユーザーが広告をタップして登録を行っても,それをアプリストアからメディア側へフィードバックする手段が存在しない。疑問に思った氏がメディアに聞いてみたところ,「過去データの『概算』を各所からヒアリングしたものをまとめている」といった答えが返ってきたそうだ。

 つまり,定説とされている30%も正確な登録率を調べたものではないのである。もちろん,メディア側も悪意で情報を捏造しているのではなく,わざわざ広告代理店から情報を手に入れたうえで分析を行っているのだが,ファクトとしての一次情報ではないのだ。

 また,事前登録の広告にはデリートターゲティング(その広告を一度表示したユーザーに対して,同じ広告が表示されにくくするシステム)が効かないという事情も存在しているとのこと。

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 こうした状況に対し,家門氏は「自分たちのゲームなんだから,自分たちで情報を追うべき」だと指摘する。アプリボットで事前登録の広告を展開する際は,テストマーケティングを実施し,登録率の調査を行っているという。ここで出た登録率は10〜15%と,定説の30%とは大きな開きが存在している。単純に数値としてみるなら,CPA(顧客獲得単価)は3倍,獲得数は1/3という結果だ。

 こうした数字のマジックにより「広告費はかけたはずが,事前登録数が少ない」という状況が起こるのだそうだ。メディア側が悪いわけではなく,教えてくれたのが一次情報ではないことが多いという現状。マーケティングチームと開発チームがともに調べていくことで,正しいマーケティングができると氏は語った。

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 では,なぜ広告効果計測SDKというものがありながら,こうした誤解が起こるのだろうか? 現在は「インターネット広告」という言葉では一括りにできないほど種類があり,その特性もさまざまであるため,統一した評価指標を求めること自体が恐らく無理なのではないか,と家門氏は語る。

 その一方で開発側からは「成果を分かりやすくチェックしてほしい」という圧力があり,計測が難しいという事情をなかなか説明しづらいのが現状であるという。

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 こうした状況の問題として,スマホゲームの広告費用全体における,インターネット広告の割合が高すぎることが挙げられた。氏が掲示した,ユーザーが新しいスマホゲームを探す際に参考にするものは? というアンケート結果では,口コミが1位という結果が出ている。となれば,口コミを盛りあげるような施策が有効となりそうなものだ。

 しかし,そういった施策はCPI(ユーザー獲得単価)が高く算出されがちであり,数値を重視する現在の風潮では採択されづらい。結果として「ユーザーに届く」プランではなく,「説明しやすい」プラン,「成果が追いやすい」プランが選ばれるというわけだ。

 この「成果が追いやすい」という前提に,家門氏は疑問を提示する。先述した「強いメディア」が自分の成果を有利に見せるルール設定をすれば,「弱いメディア」も対抗して効果が大きく見える配信方式をとってしまう。インターネット広告はこの対立構造でできているため,CPIをはじめとするデータが追いづらいというのだ。

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 インターネット広告はSDKとの連携方法で,便宜上「API連携メディア」(SRN)「非API連携メディア」(ポストバック連携)に分類できる。

 前者は,GoogleやX(旧Twitter)が使っており,自分でルールを決めてSDKに成果を伝えられる。後者は,一般的なアドネットワークで用いられているもので,インストールや復帰のルールをSDK側で決められる。

 また,広告が成果を上げたとする基準を2種類に大別すると,広告をクリックした結果の成果とする「クリックスルー」(CT)と,“見た”結果の成果「ビュースルー」(VT)に分けられるという。数字を出すにしてもさまざまな基準があるわけだ。

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 そして,API連携メディアの中には,広告を“見ただけ”(ビュー)なのに,“クリック”した(クリックスルー)としてSDKに計上されたものが紛れ込んでいる。加えて,何秒見たら成果になるかの基準も,GoogleとX(Twitter)では異なるとのこと。

 その一方で,非API連携メディア側も,自社の成果が大きくなるような工夫を行っている。これらのメディアは,サイトを利用している際に,ブラウザ下部で動画広告が流れ続ける「細い下部バナー」への配信割合が高い。ここからのインストール数が全体の98%を占める……とする調査結果も存在するものの,これはとても信じられる数値ではないと家門氏は語る。

 つまり,API連携メディアは自分が有利になるようにSDKへデータを送り,非API連携メディアはこれに対抗してインストール数が多く(見える)方法を模索している。「正しい比較」はとてもできる状態ではない……というのが家門氏の考え方だ。

 とはいえ,SDK自体が不要かというとそうではない。一定のルールによって広告成果を振り分けるツールとしての使い方はできるため,自分たちで頑張る必要があるのだと,家門氏は語った。

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 アプリボットでは,こうした状況をクライアントにしっかりとした説明を行ったうえで,ともに評価方法を模索しているのだという。その中で,特定のAPI連携メディアやアドネットワークに対して,広告配信を一時的に停止するというテストも行われている。

 某API連携メディアへのテストでは,停止後7日間,ほぼ変わらないCV数が続いた。某アドネットワークへのテストでは,450程度のCV数(数値は詳細なものではないとのこと)があったメディアへの配信を停止したが,減少したのは100CV程度で,そのぶんオーガニック(自然流入)が増える結果が出たという。

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 各社が配信する広告の精査も行われている。アドネットワークは下部バナー(640×100pixel以下)の配信は原則禁止,誤クリックを誘発する広告枠に対しては指名して配信停止,何をもってビュースルーとするかのルールは,広告の「視聴完了」のみを推奨する,といったルールの厳格化を推進した。

 また,過度な広告表示数のデータが出た場合,原因となる配信面(広告を出す枠)やクリエイティブを特定して,停止するよう進言することもあるそうだ。

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 こうした取り組みの中,CPIについて基準となる数値も見えてきたという。「非API連携メディア(ポストバック連携メディア)のレクタングル面(600×500pixelの大きな広告)限定」「静止画の広告数値のみ」「多分『知名度No1』IPとのコラボクリエイティブ」という条件下におけるCPIは,なんと1200円。これは定説とされている額よりは,非常に安い結果が出たのだそうだ。

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 自社ゲームのブランド力をチェックする手段として家門氏は,Apple Search Ads(ASA)における「ブランドキャンペーン」プランを勧める。これは,検索されたワードが自社ゲームに関連したものである場合に,広告を出すというもの。インプレッション数(広告の表示回数)にインプレッションシェア(ここでは,広告が表示できる条件下で実際に広告が表示された回数)を掛けることで,実際に検索された回数が推定できる。

 なお,週間検索量の目安は,超有名IP(ストアランキング上位)で8〜10万件。非IPのRPGで広告費数千万だと7000〜1万件,広告費1000万円なら2000〜4000件,マーケティングをしていないレベルだと1000件以下くらいとのこと。

 また,LTV(顧客生涯価値)を自動で抽出するツールを,自社開発するといった取り組みも行われているという。最後に家門氏は,「スマホゲームマーケティングのデファクトスタンダードを作っていきたい」と意志表明を行い,講演を締めくくった。

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 取り組みの結果が数値として出ることで安心してしまいがちだが,実は数値の算出方法自体には,さまざまな立場にある人々の思惑が絡んでいる。こうした現状を認識したうえで,自分たちでユーザーに届く方法を考えていかなければならないというのが,本講演の主旨だ。

 印象的だったのは,氏が挙げた「『ユーザーに届ける』から逃げない」という言葉。現在のスマホゲームでは,ゲームとしてより良いものを目指すのはもちろんのこと,その魅力をいかに届けるかも,開発チームが関わったうえで考えなければならないのだ。

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