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「違いを理解すること」と「理解した部分を中国向けに修正する」ことは全然別なこと――2年で急激な成長を遂げたHeitaoのやり方とは
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印刷2016/09/02 13:33

インタビュー

「違いを理解すること」と「理解した部分を中国向けに修正する」ことは全然別なこと――2年で急激な成長を遂げたHeitaoのやり方とは

2016年の7月28日から31日まで,上海で行われた「ChinaJoy 2016」の話題の中心は,なんといってもスマホとVR。コンシューマもいまから花開こうかというタイミングではあるが,まだまだマーケットとしては小さく,ChinaJoyで存在感を示すほどではない。

わざわざここで書くまでもないが,中国という国のゲームエンターテイメントの成長カーブは半端なく,PCとスマホ合わせたオンラインゲームの市場が,2015年時点ですでに2兆2000億円を超える。最新のデータである2016年Q1時点では,すでに約6500億円ほどになっていて(→こちら参照),成長はまだ続いている。ここにコンシューマとVRが参戦し,今後さらに伸びていくことになるのだろう。

さてそんな中国ゲームマーケットについて何か聞いてみようと思ったときには,誰に聞けばよいのだろうか。政府のお役人? プラットフォーマー? ……いや,やはり現場でゲームを開発して運営/経営している人に聞くのがよいだろう。彼らは肌感として,数字として,熱量として,マーケットに対峙しているのだから。

2兆2000億円という前述の数字の半分を叩き出すモバイルゲームの会社達は,現状と未来をどのように見ているのだろうか。それを聞いてみたく,何社かの会社にインタビューの打診をしてみた。そのインタビューの模様をお伝えしよう。


 2016年7月28日〜31日まで行われていたChinaJoyで,何社かに送ったインタビューオファーを,受けてくれた中の一社がShanghai Heitao Interactive Network Technology(黑桃互动)だ。

日本人の細やかなモノ作りと,中国人のエンジニアリングパワーは融合するべき―――DeNA Chinaの若き社長は,日本と中国のゲームマーケットをどう見ているのか

来たるべき時代のために,ゲームエンジンへの投資は今後も欠かさない――中国発,日本でも名高いゲームエンジン“Cocos2d-x”のChukongは,いまのゲーム業界をどう見ているのか

ゲーム業界がどんなに変わっても,我々が成すべきことは「良いゲーム」を作ることだけ――LINEの信用を得た中国のゲーム開発会社「Longtu」とは


 Heitao(Hei=黒,tao=桃)も,日本のプレイヤーにはピンと来ない会社の一つだろう。2014年創業という相当新しい会社ではあるが,「最強のIPブランディング」というキャッチコピーを掲げ,IPを軸にしたこだわりのゲーム化と,グループ内に抱えるほかのエンターテイメント事業(モバイルゲーム,ブラウザゲーム,ゲーム開発,映像配信,VRコンテンツ,タレントマネジメント,ライブ配信,など)との連携で,急激にのし上がってきた。設立2年目にも関わらず,すでに5億人民元(約80億円)もの出資を受けており,業界での注目度も高い。
 2014年という創業の年にはモバイルゲームを2タイトルしか出していないが,2015年に爆発,大作ばかり5タイトルのローンチを果たし,ちょうどChinaJoy 2016のタイミングで「新世紀エヴァンゲリオン」のゲームを,その1か月後には「犬夜叉」のゲームをローンチ予定で,このあとの進撃も止まらないようだ。台湾と香港に子会社があり,中国以外への進出も抜かりがない。

黑桃互动の公式サイトは,黒背景でちょっとアングラチック
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「黑桃互动」公式サイト


4Gamer:
 本日はお忙しい中,ありがとうございます。まずワンさんご自身のことについて教えてください。どのような経歴で,いま黒桃の経営をしていらっしゃるんでしょうか。

黑桃互动 CEO Wang Jinqiang氏:(以下,Wang氏)
 私は,ずっとインターネット界隈にいまして,もう13年になります。最初の10年は51.comという,SNSサービスなどで非常に有名な会社で働いていました。その後,2014年に現在の黒桃を立ち上げて,現在に至ります。

Tシャツに短パンというラフな格好で現れたWang Jinqiang氏。若いやり手の中国人独特の香りがする
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4Gamer:
 創業者社長ですか?

Wang氏:
 いえ,実はそういうわけではないんです。元々は51.comからの要請で子会社として設立したんですけど,なにせこの業界はご存じのように流れが速いですから,現在は黒桃が51.comを買収して子会社にしています。

4Gamer:
 相変わらず中国はダイナミックですね……。それにしても黒桃は2014年からということで,かなり新しい会社なわけですが,成長ぶりはなかなかのものだとお聞きしております。今までどのようなことをやってきて,どんな部分を強みとして持っているんでしょうか。

Wang氏:
 私達はモバイルゲームのパブリッシャとして活動していますが,主に扱っているゲームはIPものが多いです。中国国内では,小説や仏教小説などを原作にしたものを作っていて,海外IPものだと「新世紀エヴァンゲリオン」(以下,エヴァンゲリオン)や「犬夜叉」のゲームを展開しています。

4Gamer:
 いま例に出た二つはどちらも日本のIPですが,数ある海外IPの中で,エヴァンゲリオンと犬夜叉を選んだ理由ってなんでしょうか?

Wang氏:
 まずなにより,私自身が作品の大ファンだったということです(笑)。それと,運よく版元さんと繋がることができたということ。また,版元さんと私達に「ハイクオリティなゲームを作る」という共通の認識があり,両者の考え方がピッタリ合ったことも大きいです。

4Gamer:
 エヴァンゲリオンと犬夜叉って中国でも人気は高いんですね。

Wang氏:
 ほかの超有名IPと比べると,そこまでではないかとしれません。エヴァンゲリオン……はまだですが,とくに犬夜叉は既に完結している作品ですし,「ONE PIECE」など現在も続いている作品に比べると,新規開拓という意味でやや弱みはあります。
 ただ,どちらもとても長く続いている作品なので,とても人気はありますよ。特にエヴァンゲリオンに関してはご想像どおり中国でもコアなファンが多いので,ヒットするのではないかと考えています。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」が公開予定(公開日未定)

意図的に屋外に作られたHeitaoのブースは,エヴァンゲリオン一色。新作展示ブースというよりは,ファンが集う場所と化していた
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4Gamer:
 日本の版元は,中国の企業に対してIPを提供するのに凄く慎重になる傾向があると思うんです。今までのことを考えれば,それも致し方ないとは思うんですが,そういうところで何か苦労したりはしませんでしたか。

Wang氏:
 自分達の持っているIPを他社に委ねるときには,厳しく,いろいろなことに敏感になるのは当然だと思います。日本に限らず,アメリカの企業などもそうですし。
 先ほどの2タイトルの話ですが,まずエヴァンゲリオンは,原作者が庵野秀明さんということもあり,IPを提供していただくまでが非常に難しかったです。犬夜叉も,原作者の高橋留美子さんがゲーム化などの展開にあまりOKを出さない方なので,どちらも始めの交渉は非常に大変でした。

4Gamer:
 イメージどおりです。

Wang氏:
 ただ,お互いに「やりましょう」という話でまとまれば,その後の監修やチェックというものは一発で通っています。私たちはハイクオリティなプロダクトを開発していますから。最初にお互いをしっかり理解して信用し合えば,その後のやり取りは楽になるイメージがありますね。

4Gamer:
 確かに日本人的には,ひとたび信用できるとなれば,後は割とガッツリ……というのもちょっと分かる気はします。

Wang氏:
 まぁでも本来信用というのは,少しずつ築いていくものだと思っていますので,相手に信頼されることをキチンとやり続けて,さらに良い関係になっていけたらと考えています。

4Gamer:
 これは悪意のある質問ではないのでそのつもりでお聞きいただきたいのですが,つい数年前までの中国の企業というのは,「IPを勝手にコピーする」「契約書をちゃんと読まない/作らない」という,信用できない危険な相手というイメージが少なからずあったと思うんです。現在は,御社のような会社が中国にもたくさんある感じなんでしょうか。

龙珠激斗(七龙珠正版手游)
Tencent Mobile Games
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Wang氏:
 中国も,ゲームマーケットの立ち上がり当時は雨後の筍のごとくゲーム会社が出てきて,中にはおっしゃるように悪い会社もありました。現在はそういった時期も過ぎ,悪い会社が淘汰されてきている段階だと思っています。

4Gamer:
 そうなんですね。

Wang氏:
 日本のIP作品に関するリスペクトも大きく,「NARUTO -ナルト-」や「ドラゴンボール」などは版元の許可を得た正版ゲームをリリースする会社もありますし,さらにその中でしっかりとした売り上げを出せる会社も出てきています。

正版:著作権の問題をクリアした正規版という意味

4Gamer:
 なるほど。その中でも御社はモバイルゲームに注力しているだけでなく,IPタイトルを強く打ち出している会社なので,IPの提供先に凄く気を遣う日本の会社から見ると気になる相手だと思うんです。他社のIPを利用するときに,こういうところにとても気をつけていますという,売りのポイントはありますか。

Wang氏:
 まずなにより日本の皆さんに自信を持って言えるのは,IPを非常に尊重しているということです。例えば,エヴァンゲリオンのゲームは3年の開発期間で作っているんですが,完成したゲームが私達自身の満足できる出来ではなく,IPの魅力を生かせていないと判断したため,もう一度ゼロから作り直しました。

4Gamer:
 予算やローンチのタイミングなどではなく,ゲームのクオリティが最優先である,と。

Wang氏:
 ええ。エヴァンゲリオンについては,その作品のために24.8mの巨大フィギュアを展示予定です。たぶん明日……には会場に登場するかと。犬夜叉に関しても,日本に行って戦国時代の雰囲気を学んだりして,より原作に忠実な世界観のゲームを目指しました。私達は「IPを皆さんに知ってもらいたい」という強い思いを持って真摯にゲーム制作に取り組んでいるので,そういった部分には非常に手間とお金をかけています。そういった姿勢が,ほかの会社との大きな違いです。

これがご自慢の,24.8mの巨大フィギュア。インタビュー時点(会期2日目)では実はまだ完成しておらず,「いつ出来るんですか?」「さあ,いつなんだろう?」みたいなゆるい会話が繰り広げられた
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中国マーケットで「縦持ち」は流行らない?


4Gamer:
 しかし,それだけ真摯に制作されたゲームなのでしたら,ぜひとも中国から日本に逆輸入していただきたいところです。

Wang氏:
 それに関してはちょっと難しいと思うところが2点あります。
 一つは,日本の版元さんが海外のタイトルを逆輸入しないという風潮を持っているということです。ただ,この前DeNAさんがリリースした「圣斗士星矢:重生」については,日本でもリリースできるかもしれないという話になっているようで,この部分は信頼関係が築かれれば変わるのかもしれません。

4Gamer:
 もう一つの問題点はなんでしょう。

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Wang氏:
 中国のゲームが日本で流行するのか,という懸念です。日本市場はとても独特なところがあり,海外で人気のゲームが必ずしも流行るわけではありません。かといって,日本にあったゲームを作ろうとすると,それはそれで中国国内でそのゲームが売れるのかといった話になります。中国と日本のどちらでも人気の出るゲームを,改めて考えていく必要がありますね。

4Gamer:
 このインタビューを受けていただけたということは,ワンさん自身に,日本の市場への理解や興味がある程度はあるのだと思うんですが,中国よりも小さい市場規模である日本という国のマーケットについて,どのようにお考えでしょうか。

Wang氏:
 もちろん興味があります。確かに日本は人口が少ないですが,優良なユーザーがとても多いので,市場としては大きいと思っていますし。
 ただ,人気のゲームジャンルというのは,やはり違う部分もありますね。例えば「パズル&ドラゴンズ」「モンスターストライク」「白猫プロジェクト」というタイトルは,中国市場だとあまりうまくいっていませんし,逆に中国で人気のタイトルも,日本市場では成功していません。私自身日本は好きですし興味もあるんですが,マーケットに入っていくからには,日本に合った作品を作らなけばならないですし,どうやっていくのか考えなければならないと思います。

4Gamer:
 今,パズドラ,モンスト,白猫という御三家の名前が出たんですが,それが中国で大きく成功していない理由はどこにあると思いますか? 個人的な見解で結構です。

Wang氏:
 ゲームの内容そのものの話というよりは,まず真っ先に“違うな”と思うのは課金システムでしょうか。

4Gamer:
 お金の遣いどころが違う,というお話ですか?

Wang氏:
 そうです。
 中国のユーザーは,競争やPvPが好きです。自分の成績が上がるとか,キャラクターの見た目が変わるとか,「自分がどれだけ凄いのか」が目に見える形で現れるのが好きなんですね。日本のユーザーにそこまでの嗜好性はないと思いますし,やはり日本のユーザーがお金を落とす部分と中国のユーザーがお金を落とす部分の違いは,やはり大きなポイントだと思います。

4Gamer:
 “真っ先に”とおっしゃっていたので,きっとほかにもあるということですよね。

Wang氏:
 私は意外と重要だと思ってるんですが,スマホの縦持ち/横持ちの問題がそれです。日本はどちらかというと縦画面のゲームが多く,いかにも“ゲームやってます”という持ち方になる横画面のゲームはいま一つ高い評価を得られない気がしています。電車で遊ぶことが前提……なんですかね? それに対して,中国では横画面のゲームが主流ですので,その違いは大きいかなと。

4Gamer:
 編集部のスタッフとよくその話をしますよ。「やっぱり縦持ちがいいよね〜」と。

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日本でヒットするタイトルは,やはり縦持ち(上半分の3タイトル)が多い。一方で,欧米や中国の有名タイトルは横持ち(下2枚はHeitaoの2タイトル)が多く,なるほど,意外に重要な問題なのかもしれない
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Wang氏:
 やはり縦なんですね(笑)。
 しかしそういう理由はさておき日本に限った話ではなく,海外の有名なゲームも,中国で必ずしも大ヒットしているわけではありません。これは,海外の会社が中国市場を理解していない部分もあると思いますし,中国でも面白いゲームが出てきていることも要因として考えられます。

4Gamer:
 しかしずいぶん時間も経っていますし,私も含め,そろそろ中国マーケット……というか中国のユーザーの特性を,皆理解し始めたころだと思うんですが。

Wang氏:
 そうかもしれません。既に,中国でゲームをリリースしている日本の会社も存在しますし。ただ,「理解すること」と「理解した部分を中国向けに修正すること」は全然別なことですし,まだ問題を抱えていると思います。中国でヒット作を出している日本の会社が少ない理由は,こういった部分にあるのではないでしょうか。

4Gamer:
 日本の会社が中国マーケットに入っていくときに,いっそ御社のような場数を踏んでいる会社がコンサルティングをしてくれるとありがたいのでは。

Wang氏:
 お話をいただければ,中国のマーケットについて喜んでお教えしますよ。それによって私達が学ぶことも多いですし,相互学習の場は大事だと思っています。

4Gamer:
 御社は,ゲームだけでなくてエンターテイメント全般を取り扱っていますよね。なので,日本の会社が持つ強力なIPの提供先として,非常に相性がいいのでは,と思っているんです。

Wang氏:
 なるほど。おっしゃることは分かります。しかし,現在中国でIPを最も活用できるコンテンツというのがゲームであって,中国の会社は日本のIPを求め,日本の会社も,持っているIPを中国のゲームで活かしましょう,という流れが強いです。

4Gamer:
 アニメ関連はまだまだですか?

Wang氏:
 日本のIPという話で言うならラノベ原作のアニメなどがありますが,中国での展開は正直難しいと思います。ですので,IPをゲームに活用する,ゲーム会社がIPを探す,という流れになっているんだと感じています。

4Gamer:
 なるほど。まだエンタメ全般にまでは広がっていかないんですね。

コンシューママーケットは5年の“待ち”が必要


4Gamer:
 しかし御社がエンタメ全般に手を広げているというのは,何か最終的に大きな目標があってのことなんでしょうか。もしくは社長が好きなことを次々やってきただけとか(笑)。

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Wang氏:
 好きなことだけやっていられればいいんですけど(笑)。
 私達は,モバイルゲーム,ブラウザゲーム,インターネット映画,ライブチャット,VRなどさまざまな分野を手がけており,エンターテイメントコンテンツのプラットフォームを作っていくというのが,弊社の特徴だと思っています。

4Gamer:
 なるほど。プラットフォーム化しようということなんですね。

Wang氏:
 そのためには,人やチームというものが大事なポイントとなります。同僚であるとか,資金の繋がりのある提携会社であるとか,そういったコネクションを使ってコンテンツやインターネットのプラットフォームを作っていきたいと考えています。

4Gamer:
 その“大事なポイント”は,具体的にはどこにつながっていくんでしょうか。

Wang氏:
 こういった色々な会社や組織が一緒になることによって,横のつながりが出来て,さまざまな展開ができるようになるからです。例えば,ライブチャットで人気のある人が映画に参加したり,さらにその映画をゲームにしたり……といった感じです。市場としてはまだ「小さなネットエンターテイメント」という感じですが,将来必ず発展すると私達は考えています。

4Gamer:
 その雰囲気だと,今中国ゲーム業界でホットなトピックであるコンシューマゲーム機についてはあまり興味をお持ちではない?

Wang氏:
 コンシューマゲームというものは,現在のゲームの遊び方として最もコアなものに分類されると考えているので,重要視はしています。しかし中国のゲーム市場というのは,諸外国と比べるとまだ立ち上がったばかりなのです。
 ご存じのように中国では元々PCゲームが流行していて,今でもプレイ人口は相当多い市場だと思います。ただPCゲームは,やはりそれ用のPCを買ったりしなければならないので,ハードルが高かったんですね。そこにモバイルゲームが出てきて,誰でもすぐにゲームを遊べるようになりました。

4Gamer:
 モバイルゲームで新規に入ってきた人たちは,皆PCゲームから移行してきたわけではなく「ゲーム初心者」ということですか?

Wang氏:
 初心者というかなんというか……モバイルゲームからの新規ユーザーの遊び方や楽しみ方みたいなものは,30年前の日本みたいな感じだと思います。

4Gamer:
 そこまで成熟していない,という雰囲気ですか。

Wang氏:
 そうですね。ですから現在私たちは,ユーザーの遊び方に合わせてモバイルゲームという大きな市場を見ています。5年後に,ユーザーがゲームというものの遊び方に慣れてきたときに,コンシューマゲームやVR,またはARといったほかのゲームを求めるようにもなるだろうと思っています。

4Gamer:
 いまのお話を字義どおりに解釈するわけじゃないですが,5年経ったら技術は2周りくらいしてますよきっと。

Wang氏:
 おっしゃるとおりですね。5年後ともなると,もしかしたら主流のハードがPlayStation 4などではなくなっている可能性もあります。なので,PlayStation 4に興味がないとか,未来がないと思っているわけではないのですが,市場規模で見たときに「まだそこまで重要ではないな」という判断です。

4Gamer:
 その表現は,なるほど,理解できます。

Wang氏:
 また,もう1つ“時間”の問題があります。現在,中国人が日々の生活で抱えるストレスなどは非常に大きなものになっており,ひょっとすると日本人よりも大きいかもしれません。その中で,コンシューマゲームを遊ぶためにハードをテレビにつないで,ゲームのROMを入れて,起動して……という時間を取ってもらえるのかどうか,ということですね。

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4Gamer:
 より簡易な方法で遊べるのであれば,そっちに流れてしまう人も多いですよねきっと。

Wang氏:
 ええ。今重視されているのは,生活のすきま時間に向けていかにエンターテイメントを提供するかということなので,現状ではコンシューマゲームが大きな市場になるのは難しいと思います。
 私自身もそうなんですが,家に帰ってPCでゲームをやるかと言われるとそれはちょっと億劫で,結局iPadかスマホでゲームをするという風になってますし……。

4Gamer:
 すごく分かります……。
 コンシューマゲームで発展してきた日本と,つい最近までコンシューマゲームがなかった中国。ふたを開けてみればどちらも同じ状態になっているんですね。

Wang氏:
 確かにそうですね。

4Gamer:
 コンシューマゲームって,今となってはプレイを始めるまでの気合が必要で,一般の人がこの壁を越えられるかなぁ,と思います。リビングに行って,コーヒーを用意して,テレビをつけて,本体をつけて,ROMを入れて,パッドを握って,よしやるぞ! と。

Wang氏:
 欧米では相変わらずコンシューマは強いですから,もしかしたらアジア圏独特の問題なのかもしれませんね。

中国の市場規模は最大1300億ドルにまで達する!?


4Gamer:
 一方でVRは,御社も盛んに投資などをしているようですが,VRはこの先伸びていく,もしくは短期的に見て何かしらの大きなムーブメントが起きるとお考えですか。

割と広い場所がなければ楽しめないHTC Vive。4Gamerの若手エースYamachanが私物として買ったらしいが,Viveを展開する場所が家にあるということか……
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Wang氏:
 私はどちらかというとVRよりもARの方を重視しています。私もMicrosoftのHoloLensを持っていますが,非常に面白いと思っています。ただ,本格的なVRやARのコンテンツを遊ぼうと思うと,メガネや手や足のセンサーなど多くの設備が必要なうえ,ちょっとした広さの空間も必要ですよね。

4Gamer:
 HTCのViveなんかその最たるものですね。

Wang氏:
 そう考えると,遊ぶために必要な時間や設備,さらに気合いなど,コンシューマゲームよりさらにハードルが高くなってしまうので,今の段階ではあんまり現実的でないかな,と考えています。現在私たちが取り組んでいるのは,スマホ+VRメガネといった,より簡単にVR体験ができるようなものです。

4Gamer:
 Gear VR的な。

Wang氏:
 あと,VRのアダルトコンテンツは非常に熱いムーブメントになっていると思います。私たちも,VR技術を使った恋愛シミュレーションゲームなどの制作を考えているところですし。
 これからさらなる技術の進歩などがあれば,より手軽に本格的なVRを楽しめるようになると思いますが,現段階においては,そういった方向性が市場として現実的かなと思っています。

4Gamer:
 やはり恋愛ゲームやアダルトコンテンツといった方向にみなさん注目してるんですね(笑)。

Wang氏:
 皆さん大好きですから(笑)。

4Gamer:
 まぁ本能的な欲求に訴えかけますからね……。

Wang氏:
 ヨーロッパで数十億ドルの出資を受けた会社が,今VRのアダルトコンテンツを作ってますよ。月額の支払いで体験できるんですが,非常に凄かったです。

4Gamer:
 どんどんリアルになってどんどん普及したら,世界の人口増加に歯止めがかかりそうですね。

Wang氏:
 もしかしたらそうなるかもしれませんね(笑)。

4Gamer:
 日本なんか増やさなきゃいけないのに!
 そんなVRやARの話題もそうですが,中国という巨大マーケットでコンシューマ機が大々的に始まったり,モバイルゲームがさらなる過酷な競争に突入したり,トピックの多いここ最近のゲーム業界ですが,3年後に世界のゲームマーケットはどのようになっていると思われますか。

Wang氏:
 3年後の中国でも,日本や台湾,アメリカなどに比べるとユーザーのクオリティは低いままかもしれません。ただ,ゲームで遊ぶ人の比率は同じぐらいまで上がり,市場は極めて大きいものになっていると思います。映画などがそうだったようにゲームも,その最初の大きな発展段階の後には,作品のクオリティが上がっていったり,ユーザーの遊び方が成熟していったりという変化が起きるのではないかと思います。
 また,今たくさんあるゲーム会社については,ほとんどが淘汰されていき,3年後にはトップの20社ほどしか残らないと思います。そして,良い作品を出し続け生き残った会社が利益を享受するようになるのではないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。

Wang氏:
 少しお聞きしたいんですが,昨年の日本のゲームマーケットはどのぐらいの規模だったんでしょうか。

4Gamer:
 確か……全体で1兆2000億円くらいかと。

Wang氏:
 1兆2000億円を120億ドルとして計算すると,日本の人口が1.2億人なので……1人当たり1年間で100ドル使っていることになりますね。これを中国に当てはめて考えると,総額が1300億ドル(=13兆円)になります。もちろんそこまで上がらないかもしれないですが,現在の市場規模が100億ドルから200億ドル(1兆円から2兆円)の間なので,これから伸びていく余地は非常に高いと思います。

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4Gamer:
 ゲームマーケットがこれだけ立ち上がっても,中国でゲームに接したことのある人は,まだ一部ですもんね。

Wang氏:
 おっしゃる通り,まだゲームに接したことのない人もいますので,仮に3年後の市場規模が先ほど申し上げた650億ドルの半分,およそ325億ドルだとしても現在の2倍になるわけです。これは可能性として十分にあると思います。

4Gamer:
 そんな中,これから御社が注力していくことは何ですか?

Wang氏:
 いままで話してきたとおり,私たちはIPを重視しているので,世界中からIPを集めるということをこれからも行っていきます。
 さらに,自社の開発能力を上げていくことにも力を注いでいき,ひいてはプロモーションやサービスの質も高めていきます。市場の競争というものは公平だと思っていますので,とにかく努力して会社の能力を高めていきたいですね。
 今後数年で,実力がない会社は淘汰されていきます。トップ20の企業に入れるかどうかが,この先に生き残れるかどうかのラインだと思っていますので,そこに到達できるようにさまざまな努力を行っていきたいと考えています。

4Gamer:
 ありがとうございました。

―――2016年7月29日収録
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