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ハンガリー産のボードゲーム「Saltlands」は,奪った乗り物で荒野を駆け回るのが楽しいポストアポカリプスもの
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印刷2016/11/15 15:11

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ハンガリー産のボードゲーム「Saltlands」は,奪った乗り物で荒野を駆け回るのが楽しいポストアポカリプスもの

 大災害などによって退行した人類を描く,いわゆるポストアポカリプスものは,ロストテクノロジー化した機械文明と古代・中世的な生活様式が混ざり合った世界観の魅力から,ゲームファンの間で根強い人気がある。ドイツ・エッセンで開催されたボードゲームのイベント「SPIEL’16」でもさまざまなポストアポカリプスもののゲームを発見し,そのブームを確認できた。

画像集 No.001のサムネイル画像 / ハンガリー産のボードゲーム「Saltlands」は,奪った乗り物で荒野を駆け回るのが楽しいポストアポカリプスもの

「Saltlands」公式サイト


 そうした新作の1つが,ハンガリーのデベロッパAntler Gamesが制作する「Saltlands」だ。「SPIEL’16」に出展されていたボードゲーム版「Dark Souls」関連記事)や「This War of Mine」関連記事)と同様,Kickstarterのクラウドファンディングを利用した本作。目標額の3万8000ユーロ(約441万円)を大幅に上回る8万3832ユーロ(約973万円)の資金調達に成功したことからも,ファンの期待の高さが伺える。エッセンの会場でそんな本作を試遊してきたので,紹介したい。


某世紀末映画のように,乾燥した荒野を旅しながら安息の地を目指せ


 「Saltlands」の舞台は,何らかの理由によって砂漠化が進み,文明も衰退した地球だ。生き残った人々は,この干上がった大地ソルトランドで,過去の機械や資源に頼りながら辛うじて生活している。そんな人々に,さまざまな車輌に乗ったレイダー(蛮族化した集団)が襲いかかる。果たして無事に襲撃から生き延び,安全な避難場所へと逃れられるのか……というのが,このゲームの大まかな背景だ。
 この設定を聞いて,2015年に大ヒットしたとある映画を連想する人も多いかもしれないが,実際,本作でプレイヤーがやることは,あの映画にかなり近い。

レイダーの各種車輌に四方を囲まれた,わりと危機的状況からゲームは始まる
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 ソルトランドを表現するのが,6角形の地形タイルで,盤面はこのタイルの組み合わせによって構成されている。ただし,スタート時点で表になっているのは一部のタイルだけであり,残りがどんな場所になっているのかは,ゲームが進むにつれて次第に明らかになっていく。こうした探検システムは,ボードゲーム版「Civilization」などでも使われているので,ご存じの人も多いだろう。

 ゴールとなる避難場所は赤,青,緑の駒で示されており,タイル上を探索し,それぞれの色に対応した必要アイテムを集めたうえで目的地に到達すれば,晴れてゲームクリアとなる。もちろん,所定のラウンド内に到達できなかったり,途中でレイダーにやられてしまった場合は敗北になる。

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最終目的地を示す赤,青,緑の駒。ゲームが進むにつれて盤上を移動するため,プレイヤーは振り回される
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 興味深いのは,プレイ中にドローする「うわさカード」によって最終的な目的地の場所が変動していくことだ。このため,スタート地点から遠くへ行くことが必ずしも勝利には結びつかず,先が読めない。ここが,試遊して非常に面白いと感じた点で,このシステムによってプレイヤーは,伝説の楽園を探して,方角も分からないまま荒野をさまよう雰囲気が味わえるのだ。

 また,プレイヤーが演じる6名のキャラクターは,それぞれが異なる特性を持っており,どのキャラクターを担当するかでプレイスタイルが大きく変化する。例えば,農夫放火犯のようなキャラクターは攻撃向きだし,少女スカウト治療師は移動にボーナスがある。さらに科学者は,車輌を修復する能力を持っている。

各プレイヤーのマット。それぞれのキャラクターカードに加えて,キャラクターが現在使用している「乗り物」,武器などの「アイテム」,キャラクター以外のクルーである「搭乗員」の各種カードをセットする
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 プレイヤーが所有するカードの中で本作の鍵となるのが,移動手段である各種の乗り物だ。「Saltlands」に用意された乗り物は,それぞれ移動力や通行可能な場所が異なっている。
 例えばスタート時の「帆車」は,岩場のような険しい場所は通行できないし,風の影響を強く受けるという設定のため,追い風なら速く進めるが,逆風になる方角へは進めない。このため,自分の思った場所に進むのはなかなか難しい。
 風向きに左右されない自動車へ乗り換えたほうが,ゲームを有利に進められるが,それを持っているのはプレイヤーを襲ってくるレイダーのみだ。なら,奪えばいいじゃない,ということで「Saltlands」ではレイダーから逃げ回るだけでなく,積極的に戦うことも必要になる。なければ奪え,とはいかにも世紀末的思考だ。

ブルドーザーからホバークラフトまで,個性的な車輌が揃っている
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砂漠といえば砂嵐がつきもの。「Saltlands」には風向きタイル(左)があり,プレイ中に「天候カード」(右)をドローすることで,風向きや風の強さが変化する
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質より量で攻めてくる敵をどうしのぐか。問われるのはプレイヤーの戦術眼


 レイダーと隣接したタイルに移動すれば,戦闘が始まる。本作では,自分の攻撃力が相手の守備力を上回れば敵を撃破でき,結果判定にダイスを振ることはない。
 これはまた,レイダーがプレイヤーを攻撃する場合にも適用されるが,治療のための技能やアイテムを持っていればダメージを軽減することが可能だ。さらに,プレイヤーのマットに置かれた搭乗員カードを捨てることでもプレイヤーの操るキャラクターを生き延びさせることできるが,このへんは,モブキャラの命がホコリよりも軽いポストアポカリプスものらしい。

武器によって,通常攻撃AP(装甲貫通)攻撃がある。攻撃は手元のアイテムカードから武器に相当するもので行うが,カード捨てることで,1回限りの強力な攻撃が可能になる
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 ゲームバランス的には,あらかじめアイテムを獲得していれば,プレイヤーキャラクターがレイダーを1対1で撃破するのは比較的簡単だ。レイダーを倒すと,車輌だけでなくさまざまなアイテムがドロップするため,積極的に攻撃をしかけたくなるかもしれない。だが,レイダーも意地を見せ,プレイヤーの前に立ちふさがる。

 つまり本作には,レイダーのモブキャラらしい戦いぶりがうまくゲームの中に組み込まれているのだ。とくに,1人のプレイヤーが行動を終えるたび,毎回レイダーのターンが回ってくるというルールの影響は大きく,このターンでは,盤上に存在する特定の車種のレイダーすべてが近くのキャラクターに向かって移動と(可能であれば)攻撃を行う。そして,そのあと,駒によって占領されていない,これまたすべてのスポーンポイントに同種のレイダーを置かなければならないのだ。
 このためゲームが進むにつれてレイダーの数はどんどん膨れ上がっていく。まさに,モブキャラ恐るべし,という雰囲気だ。

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 どの車のレイダーを動かすかは直前に行動を終えたプレイヤーが決定するため,なるべくプレイヤーキャラクターから遠いレイダーを選んで攻撃をかわしていくという作戦を立てることはできる。だが,圧倒的な量で襲い掛かってくる敵に対し,どこで戦いどこで回避するか判断をするのは,現実問題としてなかなかに難しく,個々のプレイヤーの戦術が問われることになる。それだけに,無事にゲームをクリアしたときの達成感はひとしおだ。


映画のような世紀末感をゲームとしてうまく表現した,繰り返し遊べる良作


ビジュアルコンセプトや舞台設定などもしっかりと考えられており,特別豪華版には,サイドストーリーを収録したグラフィックノベルが同梱されるとのこと
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 以上のように,この「Saltlands」は,砂漠化した世界と安息の土地,自動車や銃火器などの機械文明の遺産,敵の大群と戦う英雄的な主人公など,ポストアポカリプスものならではの要素が詰め込まれている。
 次々に沸いてくるレイダーを撃退し,さまざまな乗り物を乗りこなしながら,荒廃した世界の中で安息の地へ踏破していく本作の展開はきわめて映画的。各プレイヤーとレイダーのターンが次々と回ってくるため,盤上の駒は目まぐるしく動くが,そうしたテンポの良さとダイナミズムもこのゲームが映画的だと感じられる大きな理由だ。

 また,さまざまなゲームモードに対応していることも,大きな特徴だろう。1人〜6人までのプレイヤー数に応じて,ソロまたは多人数でのプレイが楽しめ,しかも難度を3種類から選べるという細かさだ。
 このうち,多人数プレイの場合は,初心者向けの「チュートリアルモード」,参加者全員で脱出を目指す「協力モード」,最低1人の脱出が勝利条件の「クラシックモード」,そしてプレイヤー間で生き残りをかけて競う「対戦モード」が楽しめる。さまざまな状況で何度も繰り返し遊べるというゲームデザインは,多くのプレイヤーにアピールしそうだ。

ブースで見せてもらった,日本語版ルールブックのpdfファイル。ざっと見た感じ,翻訳の質はかなり高そうだ
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 ゲームで必要な情報は,ほぼすべてシンボルを見れば分かるようになっており,言語依存性が非常に低い点も,日本人プレイヤーにとってはありがたい話だろう。ゲームを始めたばかりのときは,使用するシンボルの多さに少々とまどったが,ルールブックにはシンボルのリストが載っているため,それを参照しながらプレイをすれば,混乱することもないだろう。

 ルールブックそのものも,β版の段階ながら非常に丁寧に書かれているという印象を受けた。開発スタッフによると,日本語版のルールブックも用意されているとのことなので,日本でもヒットする条件は揃っていそうだ。2017年予定の発売が楽しみな作品といえるだろう。

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