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レトロンバーガー Order 52:「マリオ」や「ゼル伝」のゲームが出たあのハードが30周年!? その専用タイトルがSteamでも売ってるらしいぜ編
あの任天堂ハードが30周年ですね。というわけで2020年最後の本コーナーがフィーチャーするのは,みんなが大好きだった,あのハード!
そう,対応ハード第1号が北米で発売されてから2021年で30周年を迎える,CD-iマシンです。
語弊があるかもしれないので補足しますが,冒頭の「任天堂ハード」とは「任天堂(の)ハード」という意味ではなく,「任天堂(が擁するIPのゲームがリリースされた)ハード」の意味です。えっ? 「そんなこと言い出したらPC-8001もX1も任天堂ハードになってしまうじゃないか」って? まあ……そうなるかな?(※)
※個人の見解です。
世の中には「スーパーなんちゃらが今年で30周年!」とか言ってる人もいますが,PCエンジン スーパーグラフィックスなら今年で31周年だったのに何を言っているのでしょうか。あるいは画像を拡大/縮小・回転できて素晴らしいハードの話なら,描画計算してメガドライブのVRAMに転送してくれるメガCDが来年で30周年です。サテラビューを接続して「伊集院光の怪電波発信基地」を聴くためのラジオ的なマシンが30周年な気はしなくもないですが,65C816の3.58MHz駆動という低クロックはいかがなものでしょう。いかがと言えばイカリッスンにタコサンプルですが,表現力が豊かなPCMと言ったってソニーのNeWSで「かんきちくん」使うのは辛かったと複数の人から聞いています。SEGAロゴ画面で2P側のスタートボタンを押しっぱなしにしてやろうか(バトルマニア)! ところで先日「ねこたこ」をやっと買えました!
一般常識的な話はさておき,最近知って驚いたのですが,CD-i向けにリリースされたゲームが,ちょいちょいSteamにも出てるみたいなんですよ。実際のところ「CD-iに移植されたDOSソフトのWindows 10対応版」みたいなのが多かったりするみたいですが,集めたら「CD-i的な雰囲気」は味わえるのではないでしょうか。そんなわけでディグってみましょう。
今日も冷たい雨が降る
いちおうCD-iについて簡単に説明しますと,主にオランダのPhilipsが開発(規格開発にソニー,ハード用IC製造に松下電器が協力)した,CD-DA(音楽CD)およびCD-ROMの拡張規格です。1991年に北米で発売された冒頭のCD-i 910をはじめ,複数の会社からさまざまなマシンがリリースされました(TV一体型やカーナビ版など。なお業務用機器は1990年に発売)。
規格発表時は注目を集めたそうですが,開発遅延やコンテンツ不足などで商業的には大苦戦。敗色濃厚となったころにテコ入れで投入された「マリオ」や「ゼルダの伝説」の任天堂IPを使ったタイトルがひどいクオリティで状況を悪化させたことが有名だったり,ソニーが開発していた「スーパーファミコン用外付けCD-ROMドライブ(あるいはCD-ROMドライブ一体型スーパーファミコン)のPlayStation」に関連して言及されたりするので,「名前だけは知っている」という人は実際多いでしょう。ただ日本でのセールスは,日本国内に限るとおそらくピピン@にすら及ばないレベル(ピピン@総販売台数のうち7〜8割が国内需要)なので,「触ったことがある」という人は極めて少ないかと思います。
Voyeur
「Voyeur」は,そんなCD-i規格で1993年にリリースされたタイトルです。1994年にMS-DOS/MACへの移植版もリリースされていて,Steamで販売されているのは「DOS移植版の移植版」のようですね。本作の主人公は私立探偵で,アメリカ大統領選に出馬する大企業CEOのリチャード・ホークが持つ腐敗した一面を暴くべく,ホーク邸を定点カメラを通して監視します。設定や目的などは異なりますが,近年Nintendo SwitchやPC(Steam)に移植された「ナイトトラップ」と似たカテゴリのゲームです。「セクシー要素が多め」という点も含めて。
本作はFMV(フルモーションビデオ)を取り入れたゲームのうち最初期のもので,その意味で歴史的なタイトルと言えます。好評を得たらしく「Voyeur II」という続編も作られましたが,そちらはSteamには未登場です。
Mystic Midway: Rest in Pieces
「Mystic Midway: Rest in Pieces」は,1992年にリリースされたCD-i規格タイトル。こちらも後にリリースされたDOS移植版をベースにしたものがSteamで販売されています。ゲーム内容は「ホラー調のスペースインベーダー変形版」といったところで,左右にのみ動ける砲台を使って,障害物を避けながらターゲットを撃ち,ハイスコアを目指します。こちらも「Mystic Midway: Phantom Express」という続編が存在し,Steam未登場です。
Steam版の「Voyeur」や「Mystic Midway: Rest in Pieces」,それらと同じく“CD-iでもリリースされたタイトル”の「International Tennis Open」を販売しているのは,イギリスのレトロゲーム復古スタジオ・Pixel Games UK。同社はDOSに限らずさまざまなレトロゲームをSteamやGoogle Playで配信しているので,調べるとマニアはちょっと幸せになれるかもしれません。
私の敵は私です
CD-iは(当時としては)ハイクオリティなムービーが使用できることを特徴としていました。そのため,映像にあわせて適切なアクションを行うことでゲームを進行させていく,いわゆる「LDゲーム」が多く移植されています。
Dragon's Lairシリーズ
LDゲームの代表作と言えるのが,剣士・ダークがダフネ姫を救うため冒険する「Dragon's Lair」シリーズ。近年も「Dragon's Lair」「Dragon's Lair II: Time Warp」「Space Ace」をセットにした「Dragon's Lair Trilogy」(PS4/Xbox One/PC/Nintendo Switch。PC版はバンドル製品)が,カナダのレトロゲーム復古スタジオ・Digital Leisureから発売されていて,日本語字幕版も先日発表されたりしていますが(関連記事),これら3タイトルはCD-iに移植されていました。ファミコン版「Dragon's Lair」やスーパーファミコン版「Space Ace」はアクションゲームにアレンジされていましたが,CD-i版は画質こそ劣るもののアーケード準拠のゲームプレイを楽しめます。すごいぞCD-i!
Mad Dog McCreeシリーズ
「Dragon's Lair」シリーズの Cinematronicsはアニメーションをフィーチャーしていましたが,それに対抗してか実写映像をフィーチャーしたのがAmerican Laser Games。国内ではカプコンが販売したs「Mad Dog McCree」シリーズも,「Mad Dog McCree」「Mad Dog II: The Lost Gold」「The Last Bounty Hunter」といった全タイトルがCD-iで展開されました。ちなみに同シリーズもDigital LeisureがPS3移植版を海外PlayStation Storeで販売していたのですが,権利関係の都合か数年前に販売終了。今は海外のニンテンドーeショップで販売されているニンテンドー3DS版「Mad Dog McCree」(単品)か,中古市場に流れているWii用ソフト「Mad Dog McCree Gunslinger Pack」(3作セット)くらいしか,新規購入の手段がありません。今では入手難なタイトルが揃っていたなんて,やっぱりすごいぞCD-i!
そのほかAmerican Laser Gamesタイトルは,日本ではナムコ(当時)が発売した「Crime Patrol」や,その続編「Crime Patrol 2: Drug Wars」,「Who Shot Johnny Rock?」もCD-iに移植されていました。これらはメガCDや3DOなどにも移植されているのですが,据え置きゲーム機のなかで比較すればCD-i版のグラフィックスは出色の出来栄え。この「ムービーだけはべらぼうに強い」という特性を活用できていたら,CD-iはもっと輝いていたかもしれません。
闘わない奴等が笑うだろう
ちょっと寄り道的な話になりますが,「Burn Cycle」というサイバーパンクを題材としたポイントクリック式のアドベンチャーゲームは発売前から注目を集め,アメリカのゲーム雑誌・Electronic Gaming Monthlyでは“Best CD-i Game of 1994”を受賞したとか。トランステイストのサウンドトラックも痺れる出来で,リマスター版が2017年にBandcampでリリースされていたりもします。
「Burn Cycle」はWindows 3.1に移植されており,それを現在のWindows環境でプレイ可能したものが,Zomb's Lairというレトロゲーム復古の有志プロジェクトによってInternet Archiveで公開されています。また,Internet ArchiveではDOS用のゲームも多数公開されていて,その中には“CD-iでもリリースされたタイトル”である「Inca」や「Rise of the Robots」,先述の「Voyeur II」などが含まれています。
Internet Archive上のコンテンツは,ざっくりまとめれば「文化や歴史遺産の保存を目的として収集されている,奨学金や研究目的において利用が許可されるもの」なので,プレイするにしても私的使用に限られますが,これもまたマニアは調べるとちょっと幸せになれるかもしれません。
旅はまだ終わらない
アドベンチャーゲームやLDゲームばかり,しかも日本人にはあまり馴染みのない海外メーカーばかりですが,ナムコ(当時)が名作ゲームを移植していたりもしました。
Pac-Panic
「Pac-Panic」は,日本ではゲームボーイ用ソフト「パックパニック」として知られている,落ちモノ系パズルゲームです。移植やタイトル変遷の経緯はだいぶややこしいので割愛しますが,Super NES/Genesis版をベースにグラフィックスが全面ブラッシュアップされていて,グラフィックスが全面差し替えされていたiOS版「Pac-Attack」(配信終了)を除けば,「最も美しいグラフィックスでPac-Panic/Pac-Attackを楽しめるのはCD-i!」と言えます。
Arcade Classics
「Arcade Classics」は,ナムコの「ギャラクシアン」「ギャラガ」「ミズ・パックマン」を収録したアンソロジーソフト。「ギャラクシアン」はファミコン版の移植らしいですが,いろいろと資料をあたると「ギャラガ」と「ミズ・パックマン」はアーケード版や他機種移植版とは微妙に違う,本エディション特有のグラフィックスとなっていて,なかなか新鮮です。これまたレアですよレア!
そんな時代もあったねと
といった感じでCD-i向けにリリースされたタイトルの一端を見てきましたが,アドベンチャーやLDゲームと,8bit機でプレイできるレベルのゲームばかりのハードなんて,そりゃあスベりますよね。そのほかテーブルゲームをデジタル化したものがゴロゴロあったり,オリジナルのFPSが1作だけあったりもしますが,何もかもが焼け石に水としか思えません。まして1990年代前半は,アーケードゲームなら格ゲー,家庭用ならRPG,映像はローエンドならVHS,ハイエンドならレーザーディスクという時代でしたし。
関係者が語るところでは,日本国内ではアトリエドゥーブルが開発した「斉藤由貴 Anniversary」が一時期トップセールスだったそうですが,そのセールスというのも300枚ほどだったとか。シリーズ展開の予定だったのか,命名パターンが似ている「中島みゆき Record」というソフトも発売予定タイトルにラインナップされていたそうですが,そちらは発売中止となっている模様です。今なら「そんな時代もあったね」と話せますが(中島みゆきだけに),相当しんどい市場だったことが察せられます。
PC-FXや末期のセガサターンはギャルゲーで粘りましたが,1990年代前半のギャルゲー / アダルトゲーム / ビジュアルノベルなどはまだまだ発展途上。バンダイのプレイディアはアニメIPの活用で奮闘しましたが,PhilipsにアニメIPはありません。中国ではビデオCD規格が流行ったので,それに対応可能なCD-iにもワンチャンあったかもしれませんが,当時の中国では同国内で生産した製品しか流通させられなかったとか。そして「映像中心のゲーム」と言えばDVDプレイヤーズゲームというカテゴリもありますが,それが出てくるのは名前の通りDVDが世に出てから。
「ムービーだけはべらぼうに強い」という強みを持っていたCD-iでしたが,それが活躍しうる時代にもコンテンツにも恵まれなかったわけです。銃が何丁あっても弾が無ければ戦争はできないし,支給された弾が「Hotel Mario」や「Link: The Faces of Evil」ならなんともはや。「MYST」が移植されていたりするので,潜在能力は高いと思うんですけどね……。
CD-iは「光学メディア専用ゲーム機」として先駆者でしたが,踏み入った土地を耕すことも肥やすこともままならず消えていきました。ですが,CD-iの後にゲーム機の標準メディアが光学ドライブとなったように,他の例を挙げればOUYAが惨敗した後にPlayStation/Xboxの最新モデルがデジタル専用のバリエーションを展開しているように,「失敗した先駆者」は数年先のトレンドを占うものでもあります。その意味でCD-iは重要な規格だったと言えるでしょう。そして,現在の先駆者から占える将来のトレンドは……。
……料理か!?
ジョークにしてしまおう
※序文省略箇所の続き。
(あとCD-i版「テトリス」のサウンドトラックがアナログレコードで2月に発売されていたというのも最近知ったのですが,プレス数が500枚しかなく,当然もう売り切れで今後の入手もおおよそ絶望的なため,でんぐり返っている今日このごろです。CD-i版「テトリス」のBGMはFMサウンドをメインとしたアンビエント寄りのテクノミュージックで,今風に言えばChillwave系Synthwaveのテイストなのですが),現代から見ればCD-i規格自体にSynthwaveが持つテーマの1つである「過去への憧憬と現代的な絶望」というミームにもリンクするテイストがあり,ましてそれをアナログレコードで聴くとなると,そのエクスペリエンスには音楽体験以上のアトモスフィアを感じられることでしょう。CD-i用ソフトのFMサウンドをアナログレコードにプレスしたものが一定のニーズを持つことを不思議に思う人は少なくないかと思いますが,このようなシチュエーションが発生するのは,端的に言えば現代がエルゴノミクスな時代であるがゆえです。近年はマイノリティやヴァルネラブル保護の社会風潮が強くなっていて,エルゴノミクスなコンセプトが制度からアートまでさまざまな面で求められていますが,社会上の物事は本質的にゼロサムゲーム上のトレードオフな概念ですので,エルゴノミクス指向ゆえの息苦しさというのも発生しているわけです。例えば,喫煙環境の封殺などはそれを代表するものの1つと言えるでしょう。そういった,ある種の社会主義リアリズムにも通じる概念に端を発する息苦しさへのアンチテーゼを,かつて無機質で非人間的とされた概念に求める現代的デカダンスというのがSynthwaveの本質です。決して「マイノリティ保護を軽視しろ。副流煙を問題視するな。駅にタンツボがあった昭和に戻れ」などと謳うつもりはありませんが,近年の社会に析出した「清潔の加害性」によって苛まれている人は少なくないはずです。と言うよりか,介護需要の増加と低賃金問題に目を向ければ,顕在的なマイノリティ/ヴァルネラブル保護のために非顕在的なマイノリティ/ヴァルネラブルがよりニッチに追い込まれるという傾向も見て取れます。そういった社会風潮の中において求められるSynthwaveというのは,まず加害性を持たないことが求められます。要は「安心を得られる音楽」のテイストですが,そこにある安心というのはデストルドー=タナトス的なもの。死者が動いて他人を害することが無いように,死は安心に通じます。SynthwaveもしくはVaporwaveはショッピングモールと関連付けられることが多くあり,直接的にショッピングモールをモチーフとしたサブジャンルのMall Softという概念も提唱されたりしています。ここでピックアップされているショッピングモールとは,現代的繁栄の象徴ではなく,1990年前後の「かつての繁栄」と,その後の瓦解を象徴するもの。言うなればSynthwaveやVaporwaveでフィーチャーされるショッピングモールとは「ショッピングモールの死骸」を意味しています。その意味において「壊滅的な失敗プラットフォーム」であるCD-iや前時代的なFMサウンドはSynthwave的であるわけです。ただし,Synthwaveは「過去を振り返ること」で成立するジャンルであり,「過去そのもののサルベージ」では成り立ちません。そこで取られる手法というのがアナログ媒体,LPレコードやカセットテープなどです。古いものに古いものを封じ込めることで,これまでに存在しなかった新しいものを作る。後ろ向きになって後ずさりすることで前進するようなパラドクスですが,それゆえにSynthwaveは懐古性と新規性を両立しえます。この回帰性でなく新規性を必要とする部分が,デカダンスながらSynthwaveが1960年代のヒッピーカルチャーなどと一線を画する点です。Synthwaveカルチャーに親しむということはメインカルチャーからのスピンアウトではなく,あくまで傍流なのです。それにしても,こんなところまでちゃんと読んじゃってる人ってどれだけいるんでしょうか。現代ではサブカルチャーとメインカルチャーの境目が曖昧であり,典型的なオタク文脈の延長線上にある美少女アプリゲームの広告がゴールデンタイムのTVCMで流れたり,分類的には「ゴア要素の多い伝記ホラー」という相当なマイナージャンルであるところのアニメ/漫画である「鬼滅の刃」が大規模なムーブメントになったりしています。また,ヴィレッジヴァンガードをモチーフとした映画「リトル・サブカル・ウォーズ ヴィレヴァン!の逆襲」が作られたように,“サブカル”という概念自体が消費的=通俗的=一般的なコンテンツとして扱われたりするほどです。ところで,こういう無駄なテキストを延々書き連ねていく行為自体,1990年代の雑誌に用いられていた枠外コメントや,アニメの1コマに小ネタを入れたりといった,そういうやつの延長線上にあると自分の中では位置づけているんですけど,どうっすかね。継続的なメインストリームでなく消費的コンテンツであるという点でメインカルチャーと“サブカル”は分離されていると言えますが,“サブカル”にカウンターカルチャーとして機能する側面はすっかり喪失していると感じられます。しかしSynthwaveはデストルドーをベースに持つところからして根本的にメインカルチャーに対するカウンターとなり得ます。こういうジョークって受け取る側にもクレイジーさが求められるので,マス向けのプロダクトだと基本的にやれなくなりましたよね。Synthwaveは過去であり,カウンターであり,死であり,それらを内包した現代的(あるいは対・現代的と呼ぶべきか)な優しさを持つわけです。ただSynthwaveは,アンチテーゼやカウンターカルチャーである以上は現代があってこそ成立するものなので,メインカルチャーに応じて変化し,やがて懐古自体が古びれるでしょう。
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