インタビュー
台湾の課金者はガチャ以外にも払いたい!? Switchがガスコンロとセット販売!? 台湾のゲームメディア「Bahamut」に聞く近年のゲーム事情
4Gamerでも現地でイベント取材を行っているので「こちら」を見てもらえればと思うが,今回の台湾取材では,台北ゲームショウとは直接関係のないところにも足を運んでいる。それが本稿でお伝えする「Bahamut」(巴哈姆特:バハムート)でのインタビューだ。
「Bahamut」(巴哈姆特)
Bahamutについてかんたんに説明しておくと,もともとはゲームの情報交換を目的とした掲示板から始まり,そこから巨大化して台湾最大とも言えるゲームメディアとなった。現在も掲示板は一番人気のコンテンツで,そのほかにアニメや漫画のプラットフォームなども展開している。96年のサービスイン後,会社化した時期が4Gamerの立ち上げ時期と重なっており,付き合いも長かったりする。
2017年に副執行長(副社長)である陳 建仁氏(Carson Chen)が来日した際,4Gamerではインタビューを行っている(関連記事)。今回の台北ゲームショウはそこから5年が過ぎた台湾を訪れるタイミングであり,コロナ禍を始めゲーム業界でも本当にさまざまなことがあった。
今回の取材はBahamutのオフィスで行っているので,写真も紹介しておこう。台湾の中枢都市である台北市内,ビルのワンフロアにオフィスを構えている。日本でも見覚えのあるタイトルのポスターが,開発者や声優のサイン入りで所狭しと飾ってあり,フィギュアも大量に飾られている。皆さんがイメージする“ゲームメディアのオフィス”をそのまま現実に持ってきている雰囲気の中,台湾ゲーム業界の現在を聞いている。
4Gamer:
よろしくお願いします。
前回インタビューさせていただいた5年前と比べると,いろいろな面で環境が変わったと思いますが,昨今の台湾ゲーム業界について,いろいろうかがえればと思います。
陳 建仁氏(以下,Chen氏):
そうですね。台湾のというよりは世界のトレンドとして,ご存意の通り,ブロックチェーンやNFTを盛り上げようとしているメーカーが増えました。日本でも,スクウェア・エニックスなどが導入していますよね。
4Gamer:
はい。近年ではホットな話題です……って,あれ? そういえば台北ゲームショウの会場では,まったく見なかった気がするのですが。
Chen氏:
台湾ではあまり受け入れられていないと思います。日本や韓国のように,資本が投入されているわけではないですし,台湾で試している側も,面白いゲームを作ろうと思ってやっていない。我々が受け入れるには,もっと楽しいものになってくれないと。
4Gamer:
ゲーマーとしては,面白いゲームを遊びたいのであって,お金をどうこうしたいわけではないですからね。
Chen氏:
本当にそれです! 将来的な安全性も不安ですし。
4Gamer:
トレンドとしては,インディーズゲームの勢いも外せません。台北ゲームショウの会場でも,インディーズゲームコーナーはかなり大きく取られていましたし,台湾で開発されているタイトルの多さにも驚きました。
Chen氏:
台湾での開発も,ここ数年でかなり盛んになりました。優秀なツールを入手しやすくなり,開発環境が整ったのが,一番の理由だと思います。
おかげで,資金募集のプラットフォームも増えてきて,企業からのサポートも行われるようになってきましたし,以前はあまりなかった開発者同士の大きな交流会も増えました。
4Gamer:
台湾のインディーズゲームには何か特有な傾向のようなものはありますか?
Chen氏:
パブリッシャ経由で出るゲームが多いことでしょうか。台湾には,日本のような大きなゲームデベロッパがあるわけではありません。その代わり,もともと日本のゲームを輸入するパブリッシャがたくさんありますから,そこが受け持つ形でインディーズゲームを出せる環境ができているんです。
以前はモバイルゲームがほとんどでしたが,今はSteamに,だんだんと進出していますね。
4Gamer:
台湾のインディーズゲームで流行っているジャンルはなんでしょう。
Chen氏:
カード,アクション,パズルゲームなどありますが,最近はギャンブルとアダルトゲームが多いと思います(笑)。
4Gamer:
え!?
Chen氏:
単純に,開発費が安くて利益が高いので。最近は,AIを使ってイラストを用意しているゲームなんかもあります。
今年はないみたいですが,以前の台北ゲームショウには,アダルト専用コーナーもあったんですよ。
4Gamer:
けっこうオープンなんですね。それはそれで見てみたいです(笑)。
ギャンブルゲームも言われてみれば,こちらでふつうにテレビCMで流れているのを見ました。日本との違いを感じます。
4Gamer:
台湾はもともとPCゲーム人気が強いゲーム市場と思っていたのですが,台北ゲームショウでXboxやSwitchなど家庭用ゲーム機の出展も見られて,そこは少し意外でした。
Chen氏:
コンシューマゲーム機は,台湾ではXboxはあまり売れていません。Switchが一番強いですね。
4Gamer:
そのあたりは,日本と一緒なんですね。
Chen氏:
コロナ禍に入った直後は,入荷しなくてPS5もSwitchも入手困難になっていました。
4Gamer:
そこも日本と一緒です(笑)。
Chen氏:
でも,さすがに日本では,Switchとガスコンロのセットが売られたりはしなかったでしょう?
4Gamer:
ガスコンロですか?
在宅が多くなって子供にSwitchを買ってあげたい,でも入荷数が足りていない,という状況だったので,ガスコンロと一緒になら売ってあげるよみたいなお店が出てきたんですよ。あとは給湯器とか。
4Gamer:
ええ……日本でもソフトとセット販売はありますけど,さすがにそこまでは。
Chen氏:
最初はジョークだったと思うんですが,これに乗っかったセット販売が一時期流行していました。話題性を優先したもので,売り上げはそんなに良くなかったと思います。
4Gamer:
台湾でのSwitch人気は,主に子供ですか? それともゲーマーなのでしょうか。
Chen氏:
基本的にゲーマーです。台湾で強いのはモバイルゲームで,次いで……といってもプレイ人口としては半数以下になりますがPC。コンシューマゲームはそれ以下です。
PCはいろいろなことに使えるので普及していますが,ゲームしかできないコンシューマゲーム機は台湾であまり流行していません。
4Gamer:
台湾と言えば,スマホの普及率が高い印象がありますが,そのぶんモバイルゲームが遊ばれている,といったところでしょうか。
Chen氏:
はい。1人1台持っていますし,何より台湾人は世界でもとくに,ネットワークにつないでいる時間が非常に長いんです。それが,みんながモバイルゲームを遊んでいる一番の要因だと思います。
(Sensor Towerの調査によると) 2022年上半期の世界のモバイルゲームの売り上げは,台湾がドイツに代わって,世界5位の市場になっています。アメリカ,日本,中国,韓国の次です。
4Gamer:
人口を考えたら,凄まじい課金力ですね。
Chen氏:
台湾の課金者は,高価な課金を受け入れる人が多いのでしょう。そりゃあ,世界中のゲーム会社が参入したくなりますよね(笑)。
それと,台湾人はスマホだけでなく,PCでもエミュレータを使ってAndroidのゲームを遊びます。エミュレータの利用者数はいつも世界1位です。
4Gamer:
確かに台湾のモバイルゲームのサイトって,iOSやAndroidのストアのリンクだけでなく,APKのダウンロードもあるんですよね。日本ではまずないので,興味深く見ていました。
Chen氏:
先のギャンプルやアダルトゲームが審査に通らないから,という事情もありますけどね。
台湾では,もともとモバイル専用のゲームが多かったんですが,近年はPCでも同時展開してデータを共有するケースが増えてきています。
4Gamer:
5年前のインタビューで,「リーグ・オブ・レジェンド」の影響で人気ジャンルはMOBAというお話をされていましたが,今はどうなっているのでしょう?
Chen氏:
今も変わらず1番人気はMOBAですが,バトルロイヤル人気も上がってきています。立場上,あまり話すと宣伝のようになってしまうので具体名を挙げるのは控えておきますが,やはりeスポーツの人気が高いです。
4Gamer:
日本のゲームをローカライズして台湾市場に参入するにあたって,受け入れられる傾向や注意点があれば知りたいです。
Chen氏:
そうですね……まず近年の台湾は,中国や東南アジアに展開するための前線基地になっています。というのも,どこの文化ベースのものでも受け入れられる可能性が高いんです。日本の二次元キャラクターが好まれるのはよくご存知だと思いますが,韓国の髪や顔がキレイな感じも,アメリカの重厚なファンタジーも,なんでも受け入れます。これは,ゲームだけではなく,食べ物や芸能人もそうです。
4Gamer:
海外タイトルが成功しやすい地域なわけですね。
Chen氏:
ゲームで求められる傾向としては,一言で表してしまうと完成度でしょうか。以前なら,日本の声優を起用したゲームであれば,それだけで珍しかったのでウケました。しかし,今はそれだけでは足りません。
4Gamer:
それが当たり前になっているからでしょうね。台北ゲームショウの会場でも,日本のゲームのPVを日本語でそのまま流しているブースがたくさんありましたし。
Chen氏:
日本のゲームが好きな人は多いですけどね。でもそれは,キャラクターのビジュアルやグラフィックス,アート性や体験そのものが受け入れられているのであって,重要なのはゲームの質です。
4Gamer:
そこは日本も同じだと思いますよ。日本の中でさえ,さまざまなモバイルゲームが出ては消えていますから……。
Chen氏:
逆に好まれないのが,SFです。「スター・ウォーズ」でさえ,あまり受け入れられていません。
4Gamer:
オフィスのいたるところに,いろんなモビルスーツが飾ってありますけど,あれはセーフなんですか?
Chen氏:
ガンダムはセーフ!(笑)。ああいう日本の作品は大丈夫なんですけど,アメリカのリアルっぽいSFはちょっと,という感じです。
あと,これも台湾市場の特徴になりますが,リリースから1か月の広告がとくに大事。ほかの市場よりも,この傾向は強いです。
4Gamer:
じわじわと人気が出て,みたいな展開にはなりづらいんですか?
Chen氏:
まずないでしょうね。スタートでコケたらおしまいです。
あとは……これは台湾だけでなく,中国も似ている傾向があるんですけど,いろいろな課金スタイルが求められます。
4Gamer:
1つのタイトル内でですか?
Chen氏:
そうです。日本人は基本的にガチャですよね。でも台湾人は,ガチャに加えて月額やVip特典など,いろいろなところに払いたがります。
4Gamer:
では,ガチャでマネタイズが完結しているゲームをそのままローカライズして持っていくだけでは,「もっといろいろな課金をさせろ」と言われる可能性があるわけですか。面白いんですけど,どうやったら共感できるのか分からなくて困ります(笑)。
Chen氏:
台湾で課金している人の多くは,複数の課金プランを受け入れますね。
4Gamer:
良いゲームにはしっかりお金を出してくれる,と考えれば納得できそうな……。
最後に,今年度のChenさんの中で一番良かったゲームはなんですか? 「ファイアーエムブレム」シリーズがお好きなのは聞いているので,予想はつくんですけども。
Chen氏:
もちろん「ファイアーエムブレム エンゲージ」ですよ!
4Gamer:
ですよね(笑)。
まだまだ聞きたいことはありますが,我達もChenさんも会場に行かないといけませんから(※),本日はこれで。次は,ぜひ東京ゲームショウでお会いしましょうね。
※インタビューは2月3日,台北ゲームショウ開催中に行われている。
「Bahamut」(巴哈姆特)
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