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「がんばれ森川君2号」の森川幸人氏と,「シーマン」の斎藤由多加氏,先駆的なAIゲームを手がけた2人が語るAIの未来とは
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印刷2023/07/22 15:30

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「がんばれ森川君2号」の森川幸人氏と,「シーマン」の斎藤由多加氏,先駆的なAIゲームを手がけた2人が語るAIの未来とは

 インディーゲームイベント「BitSummit Let's Go!!」で,「がんばれ森川君2号」を手がけた森川幸人氏と,「シーマン 〜禁断のペット〜」の作者である斎藤由多加氏による,「AIとゲーム」と題された対談が行われた。いち早くAIをゲームに役立てた2人が語り合うAIの未来とは,どういったものなのだろうか? 対談の内容をお届けしたい。

画像集 No.002のサムネイル画像 / 「がんばれ森川君2号」の森川幸人氏と,「シーマン」の斎藤由多加氏,先駆的なAIゲームを手がけた2人が語るAIの未来とは


対照的だった「森川君」と「シーマン」


 対談に出席した森川氏と斎藤氏については,4Gamer読者なら説明の必要はなさそうだ。森川氏が1997年にPS1向けに発表した「がんばれ森川君2号」は,「PiT」というロボットに行動の成否を伝えることで学習させ,さまざまなワールドを冒険させていくという作品。2年後の1999年には,斎藤氏の「シーマン 〜禁断のペット〜」がドリームキャスト向けにリリースされ,言葉を理解する人面魚「シーマン」に,マイクデバイスで話しかけてコミュニケーションを取るという風変わりな内容が話題を集めた。

 「AIとゲーム」は,初対面の森川氏と斎藤氏がトークすることだけが決まっており,内容についてはまったくノープランだという。「カフェで雑談をしている感じ」(斎藤氏)でいこうということで対談は進んだが,結果として,AIの弱点やゲーム開発に役立てる難しさを指摘するシリアスな内容になった。

がんばれ森川君2号」を手がけた森川幸人氏(左),「シーマン」の作者である斎藤由多加氏(右)
画像集 No.003のサムネイル画像 / 「がんばれ森川君2号」の森川幸人氏と,「シーマン」の斎藤由多加氏,先駆的なAIゲームを手がけた2人が語るAIの未来とは

 AIゲームの嚆矢とも呼べる「がんばれ森川君2号」と「シーマン 〜禁断のペット〜」だが,この日語られた両作品の成り立ちは対照的だった。

 「がんばれ森川君2号」を企画する以前,森川氏はCG業界で仕事をしており,とくにゲームを作りたいと思っていなかったが,伝説的な番組「ウゴウゴルーガ」のCGを制作した際,ゲーム業界から声がかかった。AIの知識はなかったものの,A41枚の手書き企画書を作ったところ,そのまま制作が決定。書店にあったAI関連の書籍をすべて買って猛勉強した末に,「がんばれ森川君2号」を完成させたという。
 使われている手法は,当時最新のニューラルネットワークで,あまりに計算量が多くメモリを消費するため,森川氏は「あんなのをPS1で使っちゃだめ」と自戒した。それでも使用したのは,書籍に最新の手法しか解説されていなかったからだったという。

 「シーマン 〜禁断のペット〜」は,森川氏が本格的なAIをベースに考えたのとは対照的に「一番手っ取り早く人を喜ばせる方法を考えてやった」と斎藤氏は語る。AIにこだわりすぎると開発が終わらないと判断したからで,「がんばれ森川君2号」との方向性の違いが興味深い。
 本作では上記のとおりマイクデバイスが使われているが,急遽決まったものだったため,コントローラにどう取り付けるかに苦労した。また,周辺機器の担当者は本作が売れるとは思っていなかったのか,製造数を絞ったが,作品は予想を覆す人気を獲得し,加えて,発売後に発生した台湾地震で半導体不足が起きたため,長らく品不足が続いたという。

 シーマンのキャラクターについては「辛辣である」と指摘がされることが多い。しかし,それはシーマンが理解できない言葉を聞いたとき,「おまえ何言ってるか分かんない」と相手のせいにするからそう見えるだけであり,理解できることについては優しい言葉をかけてくる。
 「かっこいいテクノロジーではなく,力任せにやった」と斎藤氏が語るように,シーマンのセリフは斎藤氏が1人で執筆し,例えばシーマンがプレイヤーの職業について質問した場合,職業ごとに大量のリアクションが用意されているという。
 それらのセリフは基本的にプレイヤーを労ってくれるのだが,職業がゲームクリエイターと受験生のときだけは,呆れたり,たしなめたりする。クリエイターである斎藤氏の個性が盛り込まれているわけで,これは近年,可能性が注目されているAIの自動生成では出せない作家性だ。

 当時のアンケートでは,シーマンのセリフに感動したという声も寄せられたという。ある主婦プレイヤーは,シーマンの問いかけに「主婦」と答え,シーマンが去り際に残した「主婦の仕事 がんばれよ」という言葉に深く感動した。大変な主婦業も家族からは仕事と見なされず,さびしい思いをしていたが,シーマンの励ましをもらったと感じたのだ。
 斎藤氏によれば,このセリフも「[職業名] がんばれよ」という定型句だった。しかし,このプレイヤーはイマジネーションを働かせて特別な意味を見出しており,斎藤氏は人間のすごさに感銘を受けたと述べた。


エンターテインメントに求められるAIとは


画像集 No.004のサムネイル画像 / 「がんばれ森川君2号」の森川幸人氏と,「シーマン」の斎藤由多加氏,先駆的なAIゲームを手がけた2人が語るAIの未来とは

 現在,「ChatGPT」が注目を集めているだけに,斎藤氏のもとには「ChatGPTを使ってまたシーマンを作らないか」という打診が多いという。しかし斎藤氏は「ChatGPTにシーマンのCGを付ければシーマンになるかというと,そうではない。それではエンターテインメントにならない」と指摘した。
 ChatGPTはネットからありとあらゆる情報を収集するが,シーマンなど,エンターテインメントのキャラクターはそうではない。ChatGPTを使うのなら,そのキャラクターが持っているはずのない知識を削ることが重要になるが,これはAIの哲学とは逆の作業だという。

 ここで斎藤氏が例として挙げたのは,徳川家康をモデルにした架空のキャラクター「バーチャル徳川家康」だ。戦国時代の人物であるため,PCに関する知識などは持っておらず,ユーザーから質問されても「何じゃそりゃ?」と困惑するのが,キャラクターとしては正しい姿になる。
 しかしChatGPTを使うと,ネットの知識を使い,家康的な哲学で「Macもいいけど,オレならWindowsだよ」などと答えかねない。これでは戦国時代のキャラクターとして成り立たないし,世界観もブチ壊しだ。そうさせないためには,家康が持たない知識についてChatGPTに制限を加えなければならないが,それはあらゆる情報や知識を収集・活用して人間の役に立つというAIの理念には逆行することになってしまう。

 こうしたことから,主人公をAIでどう扱うかは,ゲーム業界の大きな命題だと斎藤氏は語る。また森川氏も,「自由な会話ができるという理由だけでChatGPTを使うと,世界観を壊しかねない。悩ましい機能」だと同意した。
 一方で森川氏は,AIによる自動生成マーダーミステリー「Red Ram(仮称)」を会場に出展している(関連記事)。人手に頼ることなくマーダーミステリーのストーリーや会話,イラストまでをAIが作り出すという先進的なゲームだが,これは「一度,思い切ったことをやらないと,AIと人間の丁度良い住み分け比率が分からない」と考えたからだという。両氏の意見として共通するのは,AIのゲーム活用は課題が多く,かつ発展途上だということで,そうした認識のうえで模索が必要になる。

 したがって,AIがゲーム開発に使えないかというと,そうではない。森川氏は2年前の「BitSummit THE 8th BIT」で,「AIは貧者のツールである」と述べ,マンパワーが不足するインディーデベロッパーも,AIを使えば,人間がアイデアに集中できると講演している(外部リンク)。また大手メーカーでは,キャラクターの会話にAIを用いることについて,問題ある会話を生成する可能性を危惧した法務部からNGが出るケースもあるという。フットワークの違いもさることながら,開発ツールとしてAIを使うことと,ゲームの中に直接AIを用いることには違いがあり,それぞれの特性を理解したうえでの取り組みが必要になる。

 現在のAIについて森川氏は,情報を集めて正しい判断をするツールとしての性能が追求されており,主観的な面白さを生み出すようなAIはなおざりにされていると語る。例えば,何か質問したとしても,かつては奇妙な答えが返ってくることもあったが,今はそつない答えばかりになったという。実用的ではあるが,エンターテインメントではないというわけだ。
 斎藤氏は,エンターテインメントの面白さを「無色透明ではなく,その人の性格やエゴが感じ取れたりするもの」であると定義する。お行儀の良いAIは無色透明であり,エンターテインメントに求められる性格やエゴとはほど遠い。人を楽しませるAIは現在とはまったく異なる文脈から出てくるべきで,こうしたAIを作るのはゲーム業界の仕事ではないか,と斎藤氏は語った。

 現在はChatGPTをはじめとしたAIが持つ,ツールとしての実用性に注目が集まっているが,人を楽しませるという用途については,ツールであるAIがそのまま使えるものではない。人を楽しませるAIが必要であり,それはゲーム業界も含めて,開発を進めなければならないという。

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AIゲームを手がけた2人が語るAIの未来


 講演の最後では,両氏の今後の展望について語られた。
 斎藤氏は現在「シーマン人工知能研究所」で,相づちを打ったり,分かったふりをするスピーカーロボを制作中だ。咳やくしゃみをすると気づかってくれるという,受け身のAIにはない機能を目指しており,これらの認識が現在の課題だという。AIが受け身であることについて斎藤氏は,ChatGPTなど,ネットに存在するAIには身体がないため,生存(存在の継続)に必要な条件を満たす欲望も持たないからではないか,と指摘しており,今後作る予定のAIは,ボディなどの身体性を持つものになりそうだ。
 斎藤氏は,「現在の自分は,ゲームを作るストレスから解放されている」と感慨深げに語った。それまでは,制作中のゲームと似たアイデアの作品があったらモチベーションが落ちるため,他人のゲームを正視できなかったそうで,これは大きな変化だ。

 一方の森川氏は,人工生命に興味があるという。基本に立ち返って生態系を作りたいと考えているそうで,ゲームにはならない可能性もあるが,興味深い取り組みだ。

 森川氏は「斎藤さんを丸写ししたデジタルクローンを作りたい」とラブコールを送り,斎藤氏も「相談させてほしい」と乗り気だった。デジタルクローンとは,AIゲームを先駆けたクリエイターらしい発想であり,森川君とシーマンの姿をしたデジタルクローンが語り合う,そうした未来にも期待できるかもしれない。

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