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[CEDEC 2023]ゲーム実況の歴史や価値,業界に与える影響とは? さまざまな事例を通じて得られた「ゲーム実況の可能性」
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印刷2023/08/31 12:33

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[CEDEC 2023]ゲーム実況の歴史や価値,業界に与える影響とは? さまざまな事例を通じて得られた「ゲーム実況の可能性」

 2023年8月25日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」にて,セッション「この1時間でゲーム実況業界の全てがわかる!?ゲーム実況の過去・現在・未来【2023年版】〜大きいコミュニティと小さいコミュニティを作り分けろ!」が行われた。

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 本セッションには,ゲーム実況業界を独自に分析している中田朋成氏と,長年ゲーム実況の現場でプロとして活動しているスタジオNGCのえどさん”こと江戸清仁氏(以下,えどさん”)が登壇。ゲーム実況の歴史の振り返りや関連人物・組織紹介などを行いながら,さまざまな事例を通して得た「ゲーム実況の可能性」について,私見を交えつつ語られた。

左から中田朋成氏えどさん”こと江戸清仁氏
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ゲーム実況の歴史(抜粋)


 セッションの序盤では,中田氏がゲーム実況の歴史を振り返る。ゲームの実況というと,スポーツの実況同様にしゃべりながらゲームプレイの配信をするイメージがあるかもしれないが,元々インターネットにおける実況とは,動画コンテンツに対して視聴者が掲示板などに書き込む文化を指しており,ゲーム実況もその系譜にあるものだったという。それが次第に,プレイヤー自身がしゃべることもやる,という感じになっていったそうだ。

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 中田氏は,ゲーム実況の歴史の黎明期に,最も大きな存在だったのが「ゲームセンターCX」だったと語る。この番組のメインパーソナリティを務める有野課長(よゐこの有野晋哉さん)は,基本的にゲームがうまいわけではなく,むしろ視聴者に突っ込まれるようなプレイを披露するが,それがゲーム実況の価値を下げることはなく,むしろ上げることすらもあるというのが強みになっているとのこと。

 またこの番組では,タレントではない番組スタッフが出演し,たとえトークなどがたどたどしくても,そのキャラクターが愛されて人気になることもあった。中田氏は,「テクニックではなく,キャラ立ちや愛され度合いといった部分でコンテンツの中身が充実していったのがすごいところ。その価値観が,今でもそのまま生きている」と話していた。

 この時期のゲーム実況にはガイドラインのようなものはまったくなく,「ゲーム実況=(権利的に)グレー」という状態だったが,人気のあるゲーム実況者にはゲームメーカーからオファーが来て,公式にゲーム実況ができるようになっていく。そうした人達の中から,ゲーム実況で収入を得て生活しているプロのゲーム実況者が出てくるわけだが,その一人がえどさん”というわけである。

 ここで,えどさん”が代表を務めるスタジオNGCのこれまでが紹介された。えどさん”によると,2007年よりニコニコ動画にゲーム実況動画を投稿し始めたところ,視聴者数などの数字が高くなったことから,広告代理店やメディアから「動画を作らないか?」というオファーが来るようになったそうだ。

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 それをきっかけにゲームメーカーとの付き合いが増え,広報やプロモーションの担当者と話していくうちに,ゲーム実況をグレーなものでなく,“白”の状態で続けられるようにできないかと考えるようになったという。その結果,えどさん”はそれまで作った自身のゲーム実況動画をすべて凍結し,以降はすべてゲームメーカーの許可を得たゲームしか扱わないようになったとのこと。これが2008年のことである。そして2009年には,スタジオNGCの前身となるスタジオえどふみを個人で設立し,ゲームメーカーから依頼を受け,プロモーションとしてゲーム実況業務をこなすこととなった。

 そして2011年には,視聴者と一緒にゲームを遊ぶ番組作りを開始した。えどさん”は,「ゲーム実況者はゲームがなければ存在しない。ゲームは一番上にあって,私がいて,視聴者がコメントを投稿するという三位一体のコンテンツとして成立していた。だから自分が作っているというよりは,みんなで作ることを基本とした」と説明。

 ちなみに,そうしたアプローチを取っているスタジオNGCの番組の視聴者は,実際にゲームを購入してゲームをプレイする人が多いと中田氏は補足する。中には「このゲームを実況する」と予告しただけで,ゲームを買う人までいるそうだ。中田氏は,そうした人達が「えどさん”達と一緒に遊びたい」と考えているとし,「そういった状況を作り出すことこそが,ゲーム実況の本質である」と語った。

 2010年には,誰もが公認ゲーム実況をできる「×NGC」をスタート。これはニコニコ動画に投稿する動画に「×NGC」というタグを付ければ,誰でもゲーム実況ができるという仕組みである。しかしそののち世の中が大きく変わり,今ではそんな仕組みがなくても誰であれゲーム実況動画の投稿・配信ができるようになったのは,ご存じのとおりである。

 2013年には,ファンとの直接的な交流を開始し,コミュニティの強化に務めるように。また2015年からは演者を多様化させてTV局的な枠組みを構築し,並行してメインキャストであるえどさん”に依存する体制からの脱却を図ったそうだ。


 上記のとおり,今では多くの動画配信サービスが収益化システムを実装しており,ギャラが発生する仕事を業務としなくても,個人レベルでゲーム実況ができるようになっている。人気が出て,ゲーム実況動画の収益で生活できるようになれば,それはもう実質的なプロと言える。参考として,2023年8月23日時点の,任天堂がガイドラインに記載している収益化システムも紹介された。

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 こうした状況を中田氏は,「多方面から,ゲーム実況と共存していこうという流れができていった」と表現。具体的には,ゲームメーカーがゲーム実況のガイドラインを発表することで,そのゲームの実況をしていいのかどうかを明確にするスタンスが増加していった。その一番分かりやすい例として,中田氏はPlayStation 4に実装されたシェア機能を挙げ,「ネットにつないでSHAREボタンを押したら,もう実況できる。しかも,見せてはいけない禁止区域は自動的に隠してくれるから,こんなに楽なことはない」と述べ,ゲーム実況が格段にやりすくなったことを説明。さらに,今のゲーム実況が置かれている状況を,「ほぼ違法」から「適時適法」の時代になったと語った。

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 また,eスポーツとゲーム実況に関しては,リアルスポーツの実況と同じく,実況担当と解説担当がそれぞれいるというスタイルを踏襲できると中田氏は語る。実際,以前はスポーツ実況をしていたプロのアナウンサーが,eスポーツに特化した実況者の事務所を開設したという事例も紹介された。

 加えてeスポーツをプレイするプロゲーマーが選手兼ストリーマーとして活躍し,数千〜数万人規模のファンコミュニティを形成していることにも言及され,中田氏は「今やプロゲーマーはeスポーツ大会で賞金を得るだけでなく,ゲーム実況者的な形で収入を得ている」と語る。

 なお,VTuberのゲーム実況参入については,数字的な意味でも相当な影響力をもたらしたが,一番大きいのは横のつながり──すなわち,同じ事務所に所属するゲーム実況VTuberが,コラボレーション配信を行うようになったことだという。中田氏は,これを「ファミリー化」と表現し,「あるVTuberのファンが,そういったコラボ配信を見て,アイドル業界でいうところの“推しの推しは推し”という状態になり,次々にコラボ先のVTuberのファンになっていく状態が生まれた」と説明。
 こういったVTuberのファミリー化の相乗効果はかなり高く,大きなイベントを開催すれば即SNSでトレンド入りするため,ゲームメーカーやパブリッシャなどにとっても魅力的なのではないかと話していた。


 “法人”という概念が関与するようになったことも,ゲーム実況にとっては大きな変化であるそうだ。少し前まではゲーム実況者はほぼ個人で活動していたため,大きな問題になることはなかったが,企業の収益活動となると扱いが難しくなるとのこと。実際,公開されているゲーム実況のガイドラインの多くは個人が対象で,法人は対象外となっている。

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 それにもかかわらず,企業が申告せずにゲーム実況動画を公開してしまい,権利者が取り下げさせたという事例を中田氏が紹介。動画を公開した企業と権利者の間で別途契約することで解決したそうだが,権利をあまり意識せずに暮らしている人達からすると,「ゲーム実況動画が圧力で消された」という認識になりがちで,その動画でゲーム実況をしたキャストのファンが「なぜ推しの動画を消すのか」と権利者側に抗議することすらあったという。

 ただ最近では,ゲーム実況に対する権利意識も高まっており,過渡期的な状況にあるとのこと。その影響もあってか,ゲームメーカーと包括契約しているVTuberなどのゲーム実況者に対し,個人向けガイドラインを参照して「問題がある」と指摘する視聴者もいるそうだ。一般視聴者にとっては,そのゲーム実況者が個人でやっているのか,ゲームメーカーとの包括契約に基づいてやっているのか,あるいはその包括契約がどんな内容なのかは分からないため,こうしたトラブルは今後も発生し続けるだろうというのが,中田氏の見解である。

ゲーム実況に関して,任天堂と別途契約している法人も紹介された
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 ゲーム実況の切り抜きと,そのリスクについても言及された。ここでいう“切り抜き”は,長時間の生配信動画を,投稿者や関係者以外の他者が独自に編集して投稿するというYouTubeを中心とした文化で,ゲーム実況動画にもこの流れが来ているという。

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 ただ,元の生配信動画の投稿者と切り抜きを行った人物の間に,必ずしも編集に関するレギュレーションがあるわけではない。そのため,やっていいことと悪いことの基準が曖昧となり,元の配信とは関係のない画像が切り抜きのサムネイルに使われたりすることがあるそうだ。仮にそのサムネイルに権利的な問題があった場合,悪いのは当然切り抜きを行った人物だが,ベースとなっている元の配信動画の投稿者にも何らかのリスクが生じる可能性があるとのこと。これについて中田氏は「一般的な配信と違い,ゲームはコンテンツの塊。ヘタすると権利を侵害する恐れがあるので,一定の条件を満たした人だけに切り抜きを公認するゲーム実況者もいる」と説明していた。

 また,中田氏とえどさん”は,動画コンテンツの編集には手間や時間も含めたコストがかかるため,人任せにすることでうまく回るなら理想的だが,実際にはリスクも多く孕んでいるとと,ゲーム実況者に対して警鐘を鳴らしていた。


 龍が如くスタジオが,一定の条件を満たしたゲーム実況者を公認ストリーマーに認定した事例も紹介された。中田氏は,ゲーム実況を完全許諾制にした場合,何かをやろうとするたびに電話やメールで「これはOK」「これはダメ」といった確認をしなければならなくなってしまっては,誰もやりたがらなくなると指摘。そのため,ガイドラインを公開し,あとはゲーム実況者に任せるというやり方が主流となったが,これは基本的に待ちのスタンスであるため,ゲームメーカー側としては質と量のコントロールができなくなるという不安が残る。

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 そうした状況の中,龍が如くスタジオの試みは,ゲーム実況者を公認ストリーマーとしてある程度管理下に置ける点が画期的だと,中田氏は語る。そしてゲーム実況者は,ゲームメーカーから公認されることを名誉だと思ってほしいとも語っていた。
 この発言を受けてえどさん”は,かつてニコニコ動画全盛期時代には,ゲーム実況でお金を稼ぐことが毛嫌いされる文化があったことにも言及した。


ゲーム実況の「価値」


 ゲーム実況の価値については,三つの立場から言及された。一つは視聴者──つまり「見る側」が期待する価値で,そのゲームを買う買わないは別として単なる映像コンテンツとして楽しむというパターンと,ゲームの購入判断の参考にするというパターンがある。

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 二つめはゲーム実況者──つまり「遊ぶ側」が期待する価値で,まず動画数が増えることによる,チャンネルのコンテンツの増加である。それに伴って閲覧数やファンの増加も見込めるし,収益化が認められれば,収入も得られる。

 三つめは「売る側」「作る側」が期待する価値で,売上増加につながる宣伝広報活動や,消費財としてのゲームの寿命の延長,タイトル自体やメーカー,パブリッシャ,クリエイターの認知向上が期待できる。

 ただ,これらの価値はあくまでもすべて期待値に過ぎず,「やれば必ずもうかる」という話ではない。したがって,事例から学んでいくことに意味があると,中田氏は話していた。


ゲーム実況のメリット


 中田氏によると,ゲーム実況のメリットは,まず「ゲームやゲーム実況者との出会いを生む」ことにあるという。そのパターンは二つあり,一つは好きなゲームの動画を探していたら面白い実況者と出会うというもの。もう一つは,好きなゲーム実況者の動画を見ていたら,面白いゲームと出会うというものだ。

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 また中田氏は,えどさん”やスタジオNGCの動画を見ることによって,それまで「難しそうだ」と敬遠していた,いわゆる洋ゲーをプレイするようになったケースのエピソードを披露。そのように,自身の守備範囲外のことをやってくれるからこそ,ゲーム実況には価値があると語った。

 さらにゲーム実況には,ゲーム離れの抑止効果もあるとのこと。重要なのは,ゲーム実況から得られる「友達の家でゲームをしているような感覚」で,とくに社会人などはこの感覚を味わう機会が少なくなるため,徐々にゲームから離れていってしまいがちになるとコメント。中田氏は,ゲーム好きだった実兄が大人になってゲーム仲間がいなくなり,ゲーム離れしてしまったエピソードを披露しつつ,そうしたゲーム離れを起こさないためには,ゲーム実況を中心としたコミュニティを大きく,かつ長らえさせる必要があると語った。

ゲーム実況のメリットやデメリットの事例や,その対策も紹介された
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「ファミリー化」する出演者と「コミュニティ化」する視聴者


 中田氏は,先に触れたVTuberの横のつながりのように,ゲーム実況者はコラボなどでファミリー化するとチャンネルへの入り口が増えるため,どんどんファンが増えていくと説明。

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 その一方で,視聴者はコミュニティ化することで情報が集まり,仲間も増えていくとのこと。中田氏は,ゲーム実況をただ配信しているだけだと,その配信が終わったら視聴者は解散してしまうと語る。ただし,このときに並行してDiscordにコミュニティを作っておけば,参加している視聴者同士が配信終了後もそこに残り,交流が続くこともあるそうで,実際にスタジオNGCではそうした取り組みを行っているとのことだ。

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芸能人・芸能界のゲーム界隈への進出


 また,中田氏はゲーム関連の配信や動画などは,いずれ芸能界に飲み込まれると感じているそうだ。というのも,YouTuberが事務所を作るなど組織化していったのは芸能界の後追いに過ぎず,同じノウハウであれば,長く歴史を築いてきた“芸能界”のほうが有利であり,そう遠くない将来に取って代わられてもおかしくないという。

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 さらに中田氏は,ゲーム関連の配信や動画では,いわゆる“いじられキャラ”のほうが強いと指摘。たとえば狩野英孝さんのゲーム実況は,TVのバラエティ番組で見かける彼の姿とは少し異なり,見た人もまたいじりたくなるようなハードルの低さがあるとのこと。そうしたハードルの低さが,ゲーム関連の配信や動画にとって重要であると話していた。


ゲーム実況の「キャスティング」


 ゲーム実況のキャストに関しては,“ゲームの面白さ”をしっかり伝えられる人物であることが大前提とのこと。芸能人などをそろえて豪華キャストをうたった場合,ゲームよりも芸能人の話題ばかりになり,ゲームの宣伝にならない可能性すらあるそうだ。
 また,扱うゲームにキャストが詳しくない場合には,ゲームの魅力を十分に伝えられるサポート役の存在も重要だという。

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開発スタッフなど,いわゆる「中の人」がどう関わるべきかという中田氏の持論も提示された
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「ゲームコミュニティ」の理想的な配分


 セッションの最後,中田氏はあらためてゲームコミュニティに言及。中田氏は「友達の家で2〜3人でゲームをプレイしていても十分楽しい」とし,それはゲーム実況も同じで,大きいコミュニティになればなるほど楽しさが増幅するわけではないとする。

 その一方で情報共有の観点からは,「FINAL FANTASY XIV」(以下,FFXIV)のプロデューサーレターLIVEのように,何万人もの視聴者がいるコミュニティのほうが,情報を拡散しやすい。

 それらを踏まえて中田氏は,ゲームコミュニティの理想的なバランスを,FFXIVのプロデューサーレターLIVEのような一つの大きなコミュニティ(運営チームとファンによる大型イベント)と,多数の小さなコミュニティ(実況者と視聴者による動画配信)が存在する,“一大多小”の状態であるとの持論を展開して,セッションをまとめた。

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