インタビュー
[インタビュー]格ゲーストリーマーのミートたけしとは何者なのか? その中の人,ミュージシャンの川村 竜さんに聞いた
そこで今回,そもそも川村さんはゲームに対してどのようなスタンスで触れているのか,どんな思いで配信活動を行っているのかなどを,自己紹介のような感じで語ってもらったので,その模様をお届けする。
川村 竜さん公式サイト
「好きなものは好き」って
公言しておいたほうがいいんだな
4Gamer:
今日はよろしくお願いいたします。
川村さんに「4Gamerコラムニスト」として記事を書いていただく前に,川村さんとゲームとの距離感のようなものを軽く聞きにお邪魔しました。
はい,よろしくお願いします。
4Gamer:
まず,川村さんのゲーム歴を教えてください。
川村さん:
同年代(現在41歳)の人並みだと思います……って言っても,「人並み」の定義が難しいですよね(笑)。
長いこと,とくにRPGが好きだったんですけど,きっかけは,PCエンジンの「天外魔境II 卍MARU」から「天外魔境 風雲カブキ伝」の流れでした。CD-ROMでゲームが遊べるようになるって,こういうことなのか! という衝撃があって,久石 譲さん,田中公平さんの音楽も強烈に印象に残っています。音楽家としての基礎になっているのは,このあたりの作品かもしれないです。
4Gamer:
それが今では田中公平さんと一緒に音楽の仕事をしているというのも,すごい話ですね。
川村さん:
本当にラッキーなことですし,幸せなことだと思っています。
4Gamer:
ファミコンやスーファミのRPGはあまりやらなかったんですか?
川村さん:
ファミコンでは「スーパーチャイニーズ」なんかで遊んでいたんですけど,RPGに関しては兄がやっているのを後ろで見ている感じでした。ただ,スーファミのRPGは「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」とか「ファイナルファンタジーIV」あたりはやっていましたね。
その後も「クロノ・トリガー」やFFシリーズやDQシリーズのナンバリングをはじめ,PlayStationやセガサターン……と有名どころのRPGはだいたい遊んできたと思います。
そうそう,PlayStation 3では「ニーア レプリカント」にドハマリしたんですが,後に「NieR: Automata」のアレンジアルバム(「NieR: Automata Arranged & Unreleased Tracks」)に参加することにもなって,これも不思議なご縁を感じたものです。
4Gamer:
かつて好きだったものが,やがて仕事になるというのも特殊な経験だと思います。
川村さん:
あまりに運が良すぎますよね。運的にも体形的にも50代で死ぬんじゃないかな? っていうぐらい,関わる仕事がすべて趣味と実益を兼ねてしまっています。
4Gamer:
ゲーム音楽に関しては,レコーディングで参加されているケースも多いですよね。何かきっかけはあったんですか?
川村さん:
スタジオミュージシャンの世界って,ぶっちゃけて言うとコネクションというか,知り合いから呼ばれることが多いんですよ。そうなると,結局のところ「あの人にお願いしたい」って思ってもらうことが大事なわけです。
ただスタジオミュージシャンって,職人化していくと,自分が携わった作品一つ一つに愛着がないというか,何の録音をしたのか覚えていなかったりするんですよね。毎日のようにいろんな方面の仕事をこなしていると,そうなっちゃうのも仕方がないとは思うんです。
4Gamer:
まあ,そうですよね……。
川村さん:
でも僕はけっこう,「今日は何のレコーディングなんですか?」「あ,今日はこのゲームなんですね」「このアニメはいつ放送されるんですか?」みたいなことが普通に気になるんで,関係者に聞くんですよ。そして発売日が近くなったときにSNSなんかで「これに参加してまーす」って発信するんです。すると,皆さん喜んでくださいますし,「ああ,この人はゲームが好きなんだな。じゃあ次はこの人に弾いてもらいたいな」みたいに思ってもらえるようなんです。
別にそうやって仕事を取ってこようというわけでもなく,単に好きだから「好き」って言ってきただけなんですけど,そうやっていたらいつの間にかオファーが増えた感じはありますね。
4Gamer:
確かに依頼する側としても,「せっかくだから,ゲームが好きな人にお願いしよう」と思うことは少なくなさそうです。
川村さん:
そうなんですよ。なので,「好きなものは好き」って常に公言しておいたほうがいいんだなって,最近はとくに思いますね。
「ミートたけし」活動のきっかけは
たまたま暇だったお正月
4Gamer:
最近の川村さんは,ミュージシャンとしてのみならず,動画配信者の「ミートたけし」としての活動も活発ですが,何かきっかけがあったんでしょうか?
コロナ禍で家を出られないから配信を始めたという方は少なくないと思うんですが,僕の場合それとは全然関係なく,珍しく暇なお正月があったからなんです。
お正月って僕の場合,例年は曲を書かなきゃいけなかったり,ライブの準備をしなきゃいけなかったりで忙しいんですね。だけどたまたま,コロナ禍の1年前,2019年のお正月だけはたまたま暇でした。なので,だらだら家でゲームでもやって過ごそうと思っていたら,同じ事務所で一緒に働いているアシスタントから「どうせゲームやるんだったら,それを配信すればいいんじゃないですか?」と言われたんです。それがきっかけで。
4Gamer:
それが今では“格ゲーの人”と認知されるようになっているのも興味深いですね。RPG好きだった川村さんが,なぜ格ゲーの人になったんでしょう?
川村さん:
初めて配信したのがPlayStation 4版「ストリートファイターV」(以下,ストV)だったんです。配信を勧めてくれたアシスタントがストVを買ってきて,2人で遊び始めたんですが,僕だけがハマリ続けたっていう感じで。
4Gamer:
「ストリートファイター」シリーズ自体,以前の作品は遊ばれていたんですか?
川村さん:
いや,ストVが初めてです。そもそも,格ゲー自体,ストVが初めてでした。
4Gamer:
それがそこまでハマる要因は,どこにあったんでしょう?
川村さん:
自分でもなんでこんなにハマったのか,自己分析をしたことがあるんですよ。そのときに,明確な勝ち負けがあるからだなって結論づけました。
というのも,音楽って勝ち負けがないんですよ。売れたら勝ち,売れなかったら負けみたいな価値観もあるかもしれないですが,それ以外の基準で言うと逃げ道がいくらでもあって(笑)。
4Gamer:
えっ,それはどういうことですか?
川村さん:
例えば自分の音楽を誰かに否定されたとき,「あ,君には合わなかったんだね」「まだ君には分からなかったかぁ」って逃げ方ができるんですよ(笑)。
だけど,格闘ゲームをやっている人達,たぶんゲームだけじゃなく,格闘技であるとか,勝ち負けのあるスポーツに取り組んでいる人達って,その中で人生を学んでいくんだと思うんです。僕は元々負けん気が強いほうなんですが,当時37歳ぐらいで負ける経験,負ける屈辱というのをほぼ初めて経験したんですよ。それが新鮮で,ハマったんだと思います。
4Gamer:
なんとなく理解はできました。
ただ,PlayStation 4版のストVをオンラインで遊んでいるだけでは,ほかの格闘ゲーマー達とリアルで交流する機会はなかなかないですよね。ゲームセンターなどには以前から通われていたんですか?
川村さん:
中学か高校の頃,「電脳戦機バーチャロン」をやりに行っていたことはありますが,ほぼほぼゲーセン文化とは無縁でしたね。当時はまだヤンチャなお兄さん達が大勢いる環境だったので,それを傍観しているぐらいで。
そうそう,小柄な男の子が「マーヴル・スーパーヒーローズ VS. ストリートファイター」で,永久コンボを駆使してヤンチャなお兄さんを完封したらどっかに連れて行かれて,きっちりお灸を据えられたあと,また戻ってきてゲームをやっていたんですよ。それを見て「格好いいなぁ」なんて思ったりはしましたけど,ああいうムーブメントの内側に入ったことはありませんでした。
4Gamer:
そんな川村さんが,何をきっかけに格ゲーマー達と交流するようになったのか,ますます分かりません!(笑)
川村さん:
それもまた単純な話で,件のアシスタントが「ネット対戦もいいけど,手っ取り早く強くなるにはオフライン対戦だ」と言って,中野のRed Bull Gaming Sphere Tokyoに連れて行ってくれたんです。そこで最初に声をかけてくれたのが,プロゲーマーのマゴさんでした。マゴさんは常軌を逸したコミュニケーション能力の持ち主で,僕の関わった作品も聴いていてくれていて,最初から話も合ったんです。そうしたらいろいろな人を紹介してくれて,気付いたらこんな感じになっていました。
4Gamer:
マゴさんをきっかけに,数珠つなぎ的にさまざまな登場人物が現れるような。
川村さん:
本当にそうですね。実は僕,音楽の世界では友人関係とか交友関係とか,そういうのがほとんどないんですよ。
4Gamer:
えっ,そうなんですか? 意外です。
川村さん:
もちろん田中公平さんのように可愛がってくださって,僕自身も尊敬しているという方はいらっしゃいますし,ミュージシャンとして毎回のようにお仕事を依頼している方もいますが,別に休みの日に遊びに行こうという間柄ではないんですよ。音楽の世界の人間関係は,友達というよりはビジネスパートナーみたいな感じで,ほぼ成立しているんです。
そういう意味で,格ゲーの仲間っていうのは,初めてできた純粋な友達なのかもしれません。
4Gamer:
ああ,なんとなく分かります。仕事での利害関係を超えた,ただ遊ぶだけの仲間。
川村さん:
そういう感じです。そういう友達ができたのが嬉しくて……。この数年間,僕はゲームにいろいろ助けられているんですよねぇ。
仕事関係の人から遊びに誘われたときって,「今忙しいんだけど,これを断ると次の仕事にマイナスの影響が出るのでは?」みたいなことを考えちゃうこともあるんですけど,格ゲーマーの彼らにはそういう配慮を一切しなくていいんですよ。向こうは向こうで,こちらがどういう仕事をしているのかとか関係なく絡んでくるし,罵ってくるし(笑)。これが心地いいんです。
4Gamer:
割りとストレートな物言いの界隈というか,ハードヒットなコミュニケーションで成り立つ世界というイメージはありますけど,むしろそれが良い,と。
川村さん:
まあ,そうですね(笑)。僕は格ゲーコミュニティの中でやってきたので,ああいう絡み方を楽しんでいます。ただ……以前,FPSの大会にゲストで呼ばれたとき,そのノリの絡み方をしたらえらく浮きました。
「Apex Legends」(PC / PlayStation 5 / Xbox Series X|S / PlayStation 4 / Xbox One / Nintendo Switch)の大会で,「ひと言お願いします」と言われたときなんですけど,「俺と目が合ったヤツから殺してやる」と言っても誰も笑わないし何の反応もなくて(笑)。コミュニティごとにカルチャーが違うことを学びました。
4Gamer:
そこで「あ,違う!」と気付けるのも大事ですから……。
Apexもずっとプレイされているんですか?
川村さん:
ストVとApexは二本柱でずっとやってきましたね。格ゲーの仲間達がやっていたから始めたんですけど,彼らは彼らで飽きっぽいので,気付いたら周りでは誰も続けていないんですよ。
でもプレイヤーの人口的にはFPSのほうが多いなっていう実感はあって,格ゲー以外のコミュニティとのコミュニケーションツールとして,Apexっていいなって思って続けています。
ApexやストVと比べたら
ベースのほうが簡単
4Gamer:
先ほどからのお話で,勝ち負けがあるゲームに川村さんがハマる理由は何となく理解できたんですが……。ストVもApexも難しくないですか?
川村さん:
難しいですね。ベースのほうが簡単です。難度に順位を付けるなら,Apex>ストV>ベースです。
4Gamer:
そこまでベースが簡単だと言う方と初めてお目にかかりました。
川村さん:
いや、簡単ですね。あれ。勝ち負けもないし(笑)。
ストVはそれなりに強いところまで成長できた実感はあるんですけど,Apexに関してはいまだにまったく胸を張れる状態にまで成長できていないです。
4Gamer:
先ほどからちらほら話題に出る,田中公平さんもApexはプレイされているそうで。
川村さん:
そうなんですよ。Apexに関しては公平さんにマウントを取れますね。公平さんから「竜ちゃん,私がどこどこのランク帯になったら一緒にやろう」みたいに言われているんですが,返り討ちにしてやります(笑)。
4Gamer:
これを読まれませんように……。
いわゆるゲーム配信者って,次々と新しいゲームの配信をする方も多いですが,川村さんは割りと固定のゲームを続けるタイプなんですか?
川村さん:
配信者としては,旬なものに取り組むというのも大事だと思うんですけど,僕はそれができないんですよ。本当にハマったゲームでしか配信したくないというか,ハマってないゲームを配信したときにアーカイブを見返したら,明らかに自分のテンションが低かったんです。
4Gamer:
ああ(笑)。
川村さん:
というのもあって,プロモーションのためにこのゲームの配信をしてください,というようなお仕事の話もいただいても,基本的にはお断りするようにしています。お金をいただいているのにハマれなくてあのテンションの配信をしてしまったら,マイナスプロモーションになりかねないですし。
4Gamer:
「この人つまらなそうに配信してるなぁ」と思った視聴者が,そのゲームに興味を持つのは難しいでしょうし,そのゲームが好きな人からは無駄に嫌われることになりかねないですし。
川村さん:
そうなんですよ。そこは気を付けています。ゲーム自体が好きっていうのもありますから。
4Gamer:
ゲームや配信に対して,1日にどれぐらいの時間を割いているんですか?
川村さん:
……8時間。
4Gamer:
1日の法定労働時間じゃないですか。
そうですね。多分,ベーシストも毎日8時間弾けばプロになれるんじゃないかと思います。
4Gamer:
では音楽とゲームや配信の割合は,どれぐらいなんでしょう?
川村さん:
できるだけ,音楽が50%,ゲームや配信が50%という形は目指してますね。
ただ,この先は分からないです。僕はアウトプットすることが好きで,自分から発信した何かで誰かをハッピーにできるのが一番嬉しいんですよ。自分のトークだったりゲーム配信だったりで喜んでもらえるんだったら,そっちの割合を増やしていってもいいのかな? とひそかに思っていて。
4Gamer:
なんと……。
川村さん:
ただ,とくに日本って,どういう人間が配信しているのか,どういう人間がゲームをやっているのかというバックボーンが,視聴者としては重要ではあるんですよね。
その点,「ミュージシャン・川村 竜さん」って,僕にとって助けになっているというか,便利な方です。他人事みたいですけど,最近は電車の中や街中で「ミートさんですよね?」って声をかけられることが,「川村さんですよね?」より多くて,実はそれが嬉しいんです。
4Gamer:
そうなんですか?
川村さん:
というのも,音楽の仕事の場合,例えばロマンチックな曲を書くとロマンチストだと思われたり,繊細な曲を書くと繊細な人だと思われちゃうんです。でも,僕はこんななんですよ。だから幻滅されることが多くて。
でも配信とかゲームをやっているときの僕は完全に“素”なので,それを好きになってくれる人に対しては,ありがとうの気持ちしかないんですよ。ちょっとおかしなことを言ったりやったりしても幻滅されませんし(笑)。
4Gamer:
ああ,それはなんとなく分かります。
ちなみにミート歴って,どれぐらいですか?
川村さん:
ミート歴って初めて言われました(笑)。ストVを始めたときからなので,4年半ぐらいですね。
4Gamer:
そういう意味だと,配信者としてはまだまだ若手と見られることもあるかと思うんですが,それでもあちこちで評判になる配信をされていますよね。そのポイントはどこにあるとお考えですか?
川村さん:
自分で言うのもおこがましいですが,それは自分のタレンティックな部分だと思います。人とコミュニケーションを取ることが昔から……ひょっとしたら一番得意なことかもしれないんですよね。
ミュージシャンである以上,作曲家である以上は,いい演奏をしたりいい曲を作ったりするのは当たり前にできなきゃいけないことです。だけどやっぱり作曲家やミュージシャンって,1人では生きていけないんです。いろんな人達が働いて作った土壌があるからこそ活動できるという自覚は,常に持っていないといけないんですよ。となるとやはり,演奏能力や作曲能力以外が求められる局面もあって,自分の場合はそこでコミュニケーション能力を駆使してやってきたという感じですから。
4Gamer:
音楽を生業にしている方って,何となく外野からは取っ付きにくいイメージもあるんですが,川村さんはその真逆ですよね。
川村さん:
うちの事務所にも偏屈でとっつきにくいタイプのミュージシャンはいます(笑)。でも,彼らに自分のようなコミュニケーション能力を求めてもしょうがないと思うんですよ。そこは得意な自分が担当するんで,ほかのできることを頑張って! って。そうやって,お互いにできることを分け合っていければいいという信念があります。
4Gamer:
できないことで無理をさせるよりも,できることを持ち寄るようなイメージですよね。でもそれもやはり,川村さんのコミュニケーション能力がハブとして機能するから成立することのような気はします。
川村さん:
そうかもしれないです(笑)。
コミュニケーション能力という意味では,格ゲーマーのこく兄さんという方もすごくて,イベントや配信に出るようになったのも彼が「ミートさんは面白いから大丈夫だよ」と声をかけてくれたのが大きいです。でも,格ゲーマーとしても配信者としてもペーペーの存在だったので,恐れ多くて最初のうちは断り続けていたんですよ。
でも,こく兄さんが「アンチなんか絶対にできないから。絶対面白いから」と言ってくれて……。で,アンチばっかりできるという(笑)。だまされた! とも思ったんですけど,今ではそれすら心地良いぐらいの心境になっています。元々,芸歴は長いんでアンチ耐性はあったし,叩かれてなんぼみたいなところもあるので(笑)。
4Gamer:
叩かれたところで「まだ君には分からなかったかぁ」って。
川村さん:
そうそう(笑)。別に炎上狙いというわけではないんですけど,アンチとフォロワーってやっぱり相対的なもので成り立っているし,どっちかだけにはならないんですよね。メンタルの強さには自信がありますし,何より必要としてくれるのであればそのニーズには応えたいという気持ちで,やってきています。
ミートたけし活動の活発化により
音楽活動を捨てている?
4Gamer:
ここまでのお話でも,個性の強い方の多い格ゲーマーのコミュニティに,川村さんがすっかり馴染んでいる理由が垣間見えた気がします。
川村さん:
みんな濃いですからね。格ゲー以外で普段何をして暮らしているのかとかは,聞かないようにしているんですけど,会社員は無理だろうなぁ……なんて勝手に想像しています(笑)。
そういえば別件で,若手のゲーマーから話を聞かせてほしいというオファーがあって,聞いてみると「オリジナリティはどうやれば出せるのか?」みたいな話なんですよ。
4Gamer:
ああ……。
川村さん:
音楽の話にも通じるんですけど,その道でやっていくとなれば,音楽はできて当たり前,ゲームはできて当たり前,だけどそれ以外に何が重要なのか? と考えていくと,やっぱり悩んでしまう子達が多いようなんです。でもそういうのって,考えて作り出せるようなものでもないんですよね。たぶん勝手に出てくるもので。
4Gamer:
確かに個性やオリジナリティって,狙って出そうとしても難しくて,自然に出ちゃうものだと思うんですよね。それこそ,音楽なら音楽以外,ゲームならゲーム以外の部分で培われてきた何かであったり。
川村さん:
そうなんですよね,意識しなくてもほとばしっちゃうのがオリジナリティ。
例えば,おとなしい子にオリジナリティがないのかと言ったらそうではなくて,自分みたいなのからしたら,そのおとなしさこそ真似のできないオリジナリティですし。
何が武器になって,どう人に伝わっていくかっていうのは,正直,何が正解なのかは分からないんですよね。寡黙な方と話していても,相づちの打ち方一つで,「ああ,本当に分かってくれているんだな」と思うこともあれば,「適当に聞き流してるな」って伝わってくることもあるしで(笑)。そういうことから伝わってくるものって,良くも悪くもオリジナリティなんですよ。それを自覚できる機会があるかどうかで。
4Gamer:
川村さんの場合は,例えば日本のジャズ界に対する一見すると過激な発言なども,ご自身のオリジナリティの一つをヒール的なものに設定しているのかな? と感じているんですが,普段から思っていることを言っているだけではあるんですよね?
川村さん:
ええ。普段から考えていることです。僕はちょっと性格の悪いところがあるんで,過激な言い方,見出しの付け方にはなりますけど,本質的には「ジャズをはやらせるためには,どうしたらいいのか?」という問題提起なんです。
ぱっと見の印象だけで「ジャズをばかにしてる」とか「お前なんかにジャズの何が分かるんだ」と怒られたりするんですけど,ただ「なるほど」と言われるぐらいだったら,怒っている人達とコミュニケーションしながら一緒にどうするべきか,考えていきたいというのが根底にあって。
4Gamer:
川村さんご自身にとって,ジャズが大きな存在だからこそ,ですよね。
ジャズって自分のライフワークですし,一番深い部分にある音楽なので,価値を高めていきたいという気持ちはあるんです。でも,そのためには現状ジャズがはやっていない,求められていないということを認めないと先に進めないんですよ。
そのうえで,より良い答えを視聴者と共に生み出していきたいというのが,自分のYouTubeのスタイルです。たまに「もっと言い方を考えたほうがみんなに好かれますよ」なんてアドバイスをいただくこともあるんですけど,思いが伝わる人,コミュニケーションをしていて楽しい人達にフォローしてもらえれば,それが一番いいなって思っていて。
4Gamer:
ジャズの話以外でも,音楽著作権についての一連の配信も非常に興味深かったです。いわゆるカラオケ配信に物申してみたりとか。
川村さん:
とにかく厳密に法律を守れと言いたいわけじゃないんですよ。それを言い出したらコミケなんかのカルチャーだって難しいところがあるわけで。要は「せめて申し訳ないと思いながらやってくれ」ということなんですよね。
4Gamer:
やや黒寄りのグレーゾーンであることを自覚しつつ,後ろめたさを覚えながら楽しんでほしい,という微妙なニュアンスですよね(笑)。
川村さん:
視聴者が喜んでいるし,宣伝にもなるからいいことをしてるでしょ? みたいな感じを出されると,「いや,宣伝とか大きなお世話なんで」という気持ちになります。でも「ギリ違法なのは分かっているけど,やらせてもらってます」みたいな気持ちが見えると,「おっ,可愛いな」って思えるんですよ。法律がどうこうというよりも,みんながハッピーになるやり方を考えようよ,というだけの話で。
……でも,伝わらない人には何も伝わらないんだな,という学びもありました(笑)。
4Gamer:
ゲーム配信でもそういった部分はいろいろと議論されてきましたが,川村さんのスタンスとしては……?
川村さん:
配信でストVをやらせていただけるのも,Apexをやらせていただけるのも,本当にありがたいことだと思っています。メーカーとプレイヤーの関係って,どちらが上とか下とかではなく,持ちつ持たれつという気持ちでいたほうがいいと思うんですよね。
先ほども話した権利の問題に関しても,ゲーム実況を配信する側が「いいものを広めようとしているだけなのに,何が悪いんだ!」みたいな気持ちを表に出しすぎてしまっては,バランスがいびつになってしまいますし。それこそメーカー側が「ネタバレ以外はOK」という形で許諾していても,それを守らない人達が増えてしまうと「実況配信は全面NG。守らなかったら訴訟!」みたいなギスギスしたことになりかねません。
4Gamer:
その塩梅って,昨今とくに難しいですよね。
川村さん:
YouTubeなりで個人が他人の著作物を取り扱うのが普通になるまでの歴史というか,流れを知らないと,グレーゾーンの認識すら生まれなかったりしますからね。
ただやっぱり,ゲームというものに幸せを与えてもらっている側からしたら,感謝とリスペクトは絶対に忘れるべきではないと思っています。ゲームを作った人達がいること自体が当たり前のことではないんだという意識があれば,おのずと感謝とリスペクトは生まれるでしょうし,それはきっと作り手にも伝わると思うんです。
4Gamer:
そこは川村さんがクリエイターでありプレイヤーでもあるという,独特の立ち位置だからこそ強く感じる部分なのかもしれないですね。
川村さん:
本当にそうだと思います。どっちの立場も分かるから,お互いにハッピーになるためにどういうスタンスで臨むべきかは,常に考えていますから。
4Gamer:
感謝とリスペクトと,少々の後ろめたさを抱えつつ,自由に誰かの著作物を使って楽しみましょう,と。
川村さん:
そうそうそう。「すいません,ありがとうございます」って言いながらやらせてもらうのが,きっと大事なんじゃないかなって思いますね。
4Gamer:
ところで,ミートたけし活動が活発化していることについて,音楽業界からはどのような反応がありますか?
川村さん:
「川村 竜は今,音楽を捨てている」みたいな話もたまに聞きます(笑)。でも僕としては活動の根源,根幹の部分はあまり変わっていなくて,配信者ゲーマーとしての活動が音楽に役立つときもあるし,その逆もあると思っています。まあ,それが分からないなら分からないでいいんで,好きに言ってくださいって感じですね。
ただ,僕は常に楽しい人生を歩んできているつもりなんですけど,ここ数年はとくに楽しいということだけは胸を張って言いたいです。
4Gamer:
ゲーム実況をするようになって,世界が広がったからこそ,ですね。
川村さん:
本当にゲームが人生を豊かにしてくれたんですよ。
4Gamer:
素敵なことだと思います。
……ということを踏まえて,今後,川村さんには「4Gamerコラムニスト」の一員として,ゲームの話題を中心に川村さんが考えていることなどを執筆していただこうと思います。よろしくお願いいたします。
川村さん:
こちらこそ,よろしくお願いします!
川村 竜さん公式サイト
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