企画記事
セガサターンや初代Xboxを今,遊びたい! とアップスケーラーで環境を構築した話。まさかケーブルが問題になるなんて……
しかし,今の環境でそれらを遊ぶには,いくつかのハードルを越える必要があり,実現には四苦八苦してしまった。この経験は誰かの参考になるかもしれないと考え,今回はその時のことをまとめてみた次第である。
まずは映像を映し出せるようにしたいね
レトロなゲーム機を現代の環境で遊ぼうとすると,問題になってくるのが映像関連だ。昨今のゲーム機やディスプレイは高精細で映像を出力するHDMI端子が搭載されているが,一昔前のゲーム機にそんなものはない。また,逆に最近のテレビだと,昔のゲーム機で使っていた映像ケーブルが挿せないこともある。そこで筆者は今回,レトロゲーム機をゲーマー向けディスプレイに出力して遊ぶために,その方法を探るところから始めた。
まずセガサターンの場合,映像出力は基本的にRFユニット,3色ケーブルのコンポジット,S端子出力,RGB(21ピン)という4種類になる。このうち,最も高画質で映像を出力できるのがRGBであり,どうせならこれを使いたい。
とはいえ,「レトロゲームを遊ぶ」というのは,ただ映ればいいというわけではない。RGBケーブルの信号を損なわずに,高精細かつ高解像度で,遅延を感じさせない表示をしてもらいたいわけだ。そんな方法がないかと探してみたところ,ベストな手段として見つかったのが,レトロゲーム向けのアップスケーラー(アップスキャンコンバータ)を用いることである。
というのも,ゲーム用途を主としたアップスケーラー以外だと作りが甘い製品が多く,アップスケールされる映像に遅延が生じたり,画質が悪く変に滲んだような絵面になるなど,問題が起きやすいのだ。
ゲーム用途に向けたアップスケーラーで,強くオススメされているのが「GBS-Control」(以下,GBS-C)と「RetroTINK-5X」(以下,RT5x)という2つの製品だった。
これらのアップスケーラーは,低解像度で出力されるゲーム機の映像を,画面比率を維持したまま1080PのフルHDで出力し,さらに解像度切り替え(後述)にも即対応してくれるというスグレモノだ。
今回は極力コストを抑えたいということで,GBS-Cを選んだ。こちらはだいたい7000〜9000円代で手に入るアップスケーラーで,AliExpressやAmazonで入手できるのだが,普通にゲームを遊ぶだけなら十分な機能と入力端子を備えている。
一方のRT5xはよりハイグレードな製品で,世界中から高い評価を得ているアップスケーラーなのだが,その価格は約5万円とお高め。今回は予算的にパスした。
「価格差ありすぎじゃない?」と思うかもしれないが,GBS-Cはオープンソース化されていて,いろいろなセラーが存在するものの,クオリティがまちまちでハズレを引く恐れがあり,サポートもほぼ受けられない……という,手放しで褒められない製品だったりする。だが,RT5xはハイクオリティなうえに,Discordをはじめとしたサポート体制がとられている。アップスケーラーを常用したいというのであれば,値段は高いがRT5xを選ぶほうが間違いは起きないだろう。でも高いんだよなぁ……。
アップスケーラーで重要な機能面も説明しておこう。まず押さえておきたいのが,解像度切り替えにしっかり対応しているかどうかだ。
これはRPGでの一例だが,フィールドを歩いているときの表示解像度と,アイテムメニューに画面を切り替えたときの表示解像度が異なるケースがある。アップスケーラーが古い仕様だったり安物だったりすると,この解像度の切り替え時にラグが生じ,画面が数秒間暗転。ゲームのスムーズな進行を妨げてしまうのだ。
この暗転がとくに致命的になるのが格闘ゲームである。具体的にタイトルを挙げると,セガサターン版「バーチャファイター2」だと,キャラクターセレクト画面,ロード画面,対戦画面と解像度が切り替わるたびに暗転が生じ,対戦スタートの掛け声に間に合わないなんてことになる。「ただ映ればいいというわけではない」というのは,こういうことだ。
GBS-CやRT5xのようなアップスケーラーであれば,解像度の切り替えにも素早く対応してくれて,暗転も一瞬で済む。完全にストレスフリーとまではいかないが,気になるほどでもないと言っていいだろう。
もう1つ,個人的に嬉しいのがどちらの機種もインターレース解除に対応している点だ。「インターレースとはなんぞや?」と思うかもしれないが,簡単に言えば画面表示で生じるズレのこと。このズレをアップスケーラー側がハードウェア上で補完し,解消してくれる。さらにインターレースの解除方式の中でも,「Motion Adaptive」という最も自然に見える評価の高い方式に対応している点も,注目に値するだろう。
なお,気になる表示の遅延については,どちらの製品も超低遅延で,ゲームを遊んでいて特に気になるようなことはない。ラグに超センシティブな人なら違う印象を持つかもしれないが,筆者としてはまったく気にならないレベルで表示されると感じている。
ちなみにGBS-Cでは,本体にあるツマミを操作することで,出力解像度をはじめとした設定を行うことができる。また,GBS-CはWifiを搭載しており,PCやスマートフォンなどで接続することでWebUIを利用し,より多くの設定項目を調整することも可能だ。
ケーブルという落とし穴
さて,筆者はとにかくセガサターンで遊びたくて辛抱たまらんといった状態なのだが,まだまだ揃えなければならないものがある。それはゲーム機からアップスケーラーへと接続するための出力を担うケーブルだ。
前述したように,筆者はセガサターンからの映像出力はRGBケーブルを用いようと思っていたのだが,いざ入手したGBS-Cの仕様を確認してみたところ,RGBケーブルではなくSCARTケーブルに対応と書かれている。
「なにそのケーブル?」と調べてみたのだが,どうやらコネクタの形状自体は日本でも使用されているRGBケーブルと同じなのだが,ピンアサインが異なっているため互換性がないという。ええ……。
それならばと,Amazonで適当にセガサターンで使えるSCARTケーブルを購入して接続してみたところ,かな〜り美麗に画面表示がされていて万歳三唱しそうになった。
しかし,喜ぶのはまだ早かった。サウンドノイズに気づいてしまったのだ。セガサターンの起動画面やゲームのロード中,本来は無音なはずなのに,ノイズが流れてくる。うーん,BGMやSEが流れているタイミングだと気にならないんだけど,一度気付いてしまうと大変にストレスだ。
とはいえ,原因はどこにあるのだろうか。最初は,本体内のキャパシタや,本体側のコネクタの問題なのかと思いいろいろやってみたのだが,まったく効果なし。ということは,購入したSCARTケーブルに何かあるのではないだろうか?
ほどなくして分かったのが,安物のケーブルはコストカットのためにノイズ抑制がほとんど考慮されていないということだ。これが高級品になると,ケーブル内の配線1本1本に絶縁処理が行われているとかなんとか。やっぱり犯人はお前か!
だったら,どこのケーブルが良いのかと探してみたところ,手頃な価格でよさそうなのを売っていたのが,イギリスのRetro Gaming Cablesの「NTSC RGB SCART PACKAPUNCH PRO CABLE」という製品だ。
送料コミコミになると,約32ポンド(6100円)ほどでやや高いが,背に腹は代えられないので注文してみた。
最初に購入した安物のSCARTケーブルがこちら |
こちらがイギリスから日本に届いたSCARTケーブルだ |
果たして,ケーブルに6000円も支払う価値が本当にあるのかはやや不安だが,試してみないと判断はつかない。「見せてもらおうか,英国製SCARTケーブルの性能とやらを」と思いながら諸々の接続を終えてセガサターンを起動してみたところ,あの不快だったノイズが完全に解消されたではないか。いやー,これだけでも6000円を出したかいがあった!
とはいえ,テキストだけだとどう違いがあるのか伝わらないので,比較用に動画を用意してみた。
これだけだと,「いやいや,ちょっと大袈裟じゃね?」と思うかもしれないが,昔のゲームはロード頻度がそれなりにあり,このノイズと何度も遭遇するとなると,結構キツイ。気にならない人なら6000円のケーブルは不要かもしれないが,筆者としてはゲームに集中できるようになって,小躍りしたいくらいだ。
といった感じで,筆者としてはセガサターンを遊ぶうえで納得のいく環境を構築できたと思うのだが,こうなると欲が出てくるわけで……。
初代Xboxも遊びたい
サターンの次に遊びたいと思ったのが,初代Xboxだ。実はXbox 360や以降のXbox one,Xbox Series X|S系統では,一部の初代Xboxタイトルと互換性があるのだが,筆者が遊びたい「スパイクアウト バトルストリート」をはじめとしたいくつかのタイトルは非対応だったり,パフォーマンスが落ちたりと,満足度は正直微妙と言わざるを得ない。となると実機を押入れから引っ張り出すしかないわけで。
最初は,アップスケーラーと接続するために,初代Xbox用のSCARTケーブルを購入したのだが,またもや出来の悪い安物を掴まされてしまい涙目に。また海外からケーブルを購入するのも,送料が高いのでどうしたものかと悩んでいたところ,ハイクオリティなコンポーネントケーブルを自作する方法があることを知った。
概要としては,初代XboxのケーブルとXbox 360のHDケーブルを組み合わせるというもので,その手順とダイヤグラムも細かく解説されていた。これなら改めて買うのはXbox 360のケーブルのみで済みそうということで,早速手配して取り組んでみた。気になる人は「OGxbox component DIY」といった感じのワードで検索してもらえれば,簡単にその方法が見つけられるだろう。
ちなみにXbox 360ケーブルを初代Xbox向けに改造したケーブルを売っている海外のサイトも見つけたのだが,そこでは70オーストラリアドル(約7000円)ほどだった。ケーブルを自作したほうが安上がりなので,初代Xboxユーザーは挑戦してみるのもよいかもしれない。
そんなわけで,自作したケーブルを初代Xboxに取り付けてみたところ,耳を悩ませていたノイズも解消され一安心。こちらも論より証拠ということで,安物SCARTケーブルと自作ケーブルでの比較動画を見てもらえればと思う。
おかげさまでクッキリハッキリとした映像に加えて,サウンドノイズも気にならないレベルに抑えられ,快適なゲームライフを満喫できそうな予感がする。購入したGBS-Cやケーブル類もろもろ込みで2万円以下と,価格的にも満足だ。とりあえず筆者が遊びたかったゲームでいくつか画面を撮影してみた。
レトロハードに力技でHDMI出力!?
ここまでは,筆者がアップスケーラーと高品質なケーブルを使用することで昔のゲーム機を楽しめるようになった流れを紹介してきたが,一部のハードには,これ以外の力技でHDMI出力をする方法が存在する。
簡単に説明すると,昔のゲーム機は最初にデジタル信号で映像が生成されるのだが,テレビに出力する過程でアナログに変換されてしまう。このアナログに変換される前の信号を直接取り出し,追加の基板を介してHDMI出力するという方法だ。
ゲーム機の基板にフレキシブルケーブルを直接ハンダ付けする必要があり,導入には覚悟が必要だ。実は筆者は,一度失敗してドリームキャストとHDMI化改造の基板をオシャカにしている。
そこで,代行を請け負っている人に依頼し,予備のドリームキャストとHDMI化キットを購入して取り付けてもらったのだが,トータル5万円ほどの痛い出費となった次第だ。
ただ,それだけの出費をしてでもHDMI化改造を施した結果,ドリームキャストのゲームを高画質で遊べるようになったのはかなり嬉しい。というか,アナログ変換前の信号なので,さすがに超キレイ。大満足。
同様のHDMI化キットは多数あり,初代Xboxをはじめとしてさまざまなハードに向けて製造・販売されている。だが,どれも導入にはハンダ付けの高いスキルが要求されるだけでなく,HDMI化キット自体が基本的に数万円するなど,ハードルは高め。それでも実機をいい環境で遊びたいという人は,挑んでみる価値はあるかもしれない。
ちなみに,前述したRetroTINK-5Xには,現在後継機となる4K解像度対応のRetroTINK-4Kというものが存在する。ファンの間では,ゲーム用途を主としたアップスケーラーで最強の製品だと言われており,数多くのレビューがブログやYouTubeなどに掲載されている。価格が750ドルもするが,ベストな環境で遊びたいという人はこちらも選択肢に挙がるだろう。
ぜひ皆さんも,快適なレトロゲームライフを!
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